思えば事は精神が不安定な時期の桐藤さんに俺が優しくしてしまった時から全てが始まっていたんだ……まずは百合園セイアの死亡からだ、聖園ミカに次いで最も親しく近くにいた存在を失った時点で桐藤さんの心は酷く消耗していたはずだ
それでもこれ以上失うまいと桐藤さんはトリニティ内部の裏切り者を炙り出そうとした
自分が殺されるかもしれない、幼馴染みが殺されるかもしれない、エデン条約が台無しにされるかもしれない、トリニティが崩壊するかもしれない、あれが、これが、それが
不安、恐怖、焦燥、様々な感情を抱えながら必死に動き続け…………最悪な事にそこへ聖園ミカの裏切りが重なってしまった
……でも、言い方は悪くなるがそれだけなら別に何の問題もなかった。それだけなら原作通り桐藤さんは酷く心が傷付いた状態でも少しずつ立ち直っていけただろう
そう……〝原作通り〟なら、その原作に余計な介入した馬鹿な男がいた
幼馴染みに裏切られ、友は自分を置いて一人身を隠し、そんな限界寸前の状態だった彼女に無責任に優しくしてしまった男がいた……それが俺だ
最初はただの信頼だったはずだ、真相が全て発覚した後は俺の言葉を全て信じられるようになったのだろう
でも、時間が経てば経つほどその〝信頼〟は〝依存〟へと変化していった
百合園セイアの失踪、聖園ミカの裏切り、アリウスからの刺客
そんな状況下でも向けられるシフターフッドや救護騎士団、そして正義実現委員会の一部生徒からの疑惑の眼差し
裏切り者を庇うティーパーティーを糾弾する一般の生徒、混乱と疑惑が入り交じり互いに睨み合う組織達
……トリニティ内に桐藤ナギサという少女の味方は存在しなかった
勿論〝桐藤さんは何も悪くない〟とまで言うつもりはない、彼女の行動にだって多少の問題はあるだろう
しかしその責の全てを非難されるほど彼女は悪事を働いたのだろうか?答えは否だ。だが下の人間達はそんな事情などお構い無しに上の人間を責め立てる、だって彼女はトリニティのトップなのだから
……そこで差し伸べられたトリニティ〝外〟からの手、恐らくこれが彼女を依存させてしまった一番の要因だろう
俺は何も知らないフリをして彼女を見捨てるべきだった、彼女のことはそのまま補習授業部に任せて此方はゲヘナで起こる事件だけを気にかけていればよかったんだ
桐藤ナギサがどれだけ傷付こうとどれだけ心が病もうと、最終的に立ち直れるのならその過程を全て無視して同情心なんて切り捨てればよかった
後悔しても時間は戻らない、ならば俺がやるべきことは
彼女の目を覚ましてやることだ
「……これが、恋ではない?」
桐藤さんは一瞬固まるが、即座に普段の笑顔を取り繕って俺の言葉を否定する
「ふふっ、突然何を言うのかと思えば……私が自分自身の感情を理解できないとでも?」
────ええ、理解していません。貴女のそれは〝恋〟ではなく〝依存〟です
「依存……」
これが俺の答え、明らかに様子のおかしい桐藤さんを観察して導き出した答えだ
俺の知る桐藤ナギサとは性格が大きく異なっているその理由は依存心が原因だった
────本当は貴女に抱きつかれた時点でさっさと気づくべきだったんだ、貴女の本当の感情に
「……それこそ酒泉さんの勘違いでは?そもそも好きでもない殿方に尽くすほど私は軽い女性ではありませんよ?」
────そうですね、確かに桐藤さんは俺に尽くしてくれてましたね……違和感を覚えるくらいに
「……何が言いたいのですか?」
────逆ですよ桐藤さん、貴女は〝尽くしすぎていた〟……俺が疑念を抱いてしまうほどに
俺の心を射止めようとしていたのは本当なのだろう、しかしそれも純粋な恋心ではない
俺に捨てられたくないから、もしくは俺の日常の一部になろうと……まあ、簡単に言うと俺のことも依存させようとしていたからだろう
「……では、酒泉さんは私がただの依存心で貴方に口付けをしたと?」
普段から俺の事を第一に考えてくれていた桐藤さんも今の言葉には流石に思うところがあったのか、眉間に皺を寄せて俺を強く睨んできた
しかしこの程度で狼狽えはしない、言いたいことは全部言わせてもらおう……例え嫌われたとしても
────ええ、そうです。貴女はただの依存心で俺にキスをしました、そこに恋愛感情はなかったでしょう
「……それ以上言うのなら酒泉さんが相手でも流石に怒りますよ」
────今になって冷静に考えてみればあれは色仕掛けと似たような行為でした、政治でも相手を丸め込む為に使える手段です
「やめなさい」
────貴女は初手で俺を懐に入れようとあんな大胆な行動に出たんです。全ては俺を依存先に仕立て上げて自分の全てを受け入れてもらう為に
「……やめて」
────だってトリニティ生は信用できませんもんね、皆桐藤さんを責めたり裏切ったりしますし。でもトリニティの外……ゲヘナの人間なら信用できる、何の裏心も無しに自分を救ってくれた他校の生徒なら……
「やめてくださいっ!!!」
俯きながら叫ぶ桐藤さん、その肩は僅かに震えている
……自分が最低な事をしているのは分かっている、しかし追及の手を緩める気はない
「どうして……どうしてそんな酷い事を言うのですか!?私は酒泉さんのことを心の底から愛しているというのに!」
────それは本当に愛情なんですか?自分の心が傷つくのを恐れるあまり他者に依存するのは愛ではないですよ
「違います!私は確かにあの日、貴方に救われた瞬間からずっと恋い焦がれて……ずっと貴方の事だけを考えてきました!」
────それこそ絶対に有り得ない、俺は……幼馴染みの言葉を無視してまで尽くしたいというのが貴女の本心だとは思えない
「……っ」
原作では最後まで聖園さんの事を信じていた桐藤さんが、裏切られても尚聖園さんの事を諦めなかった桐藤さんがそう簡単に聖園さんを捨てるはずがない
聖園さんと百合園さんの前で当て付けるように密着してきたのも二人に対して当たりが強かったのも、もしかしたら中途半端に残っていた二人を信じる気持ちを切り捨てようとしていたのかもしれない
「……違う、違います!私は貴方の事が好きです!好きでいたいんです!」
────好きでいたい……その言い方だと〝自分が折川酒泉の事を愛していると信じたい〟って風にも捉えられますけど?
「……わ、私は……!」
────自分の中にある俺への恋心にも疑惑の念がある、それはもう自分でも分かっているでしょう?
「私は酒泉さんの事を愛しています!だって、こんなにも尽くしたくて……こんなにも必要としているんですから……!」
────必要だから愛する、か……
「そ、そうですよね?これは間違いなく愛ですよね?ですから酒泉さんも否定せず、どうか……!」
桐藤さんは無理して作った笑顔のまま俺の両肩を揺さぶりながら必死に同意を求めようとしている……が、悪いけど首を縦に振ってあげる事はできない
たとえ縋られようと、求められようと、俺の答えは依然変わらず
────悪いけど、俺は桐藤さんの想いに応えることはできない
「ぁ…え…?」
これで、終わりだ
「……嘘、ですよね?」
────……
「酒泉さんは……私にそんなこと言いませんよね……?」
────……桐藤さん
「だって、他人だった私に……酒泉さんの日常とは無関係だった私にあんなに優しくしてくれた酒泉さんが……私を傷付けるような言葉を吐くなんて……」
────桐藤さん
「ねえ、なんとか言ってくださいよ……お願いですから、あの時みたいにまた優しく────」
────……ごめんなさい
「ぁ……」
声を震わし、瞳を濡らし、未だに俺に助けを求めてくる彼女をそっと離す
か細く漏れた声に罪悪感を覚えながらも決して慰めの言葉はかけない、また中途半端に優しさを振り撒いてしまえば全て台無しになってしまうから
「……っ!」
だから、俺は桐藤さんを助けない
背中を向けて逃げるように走り出した桐藤さんを追いかけはしない
その役目は────あの人達の役目だからだ
────あー……もしもし?俺っすけど……番号を知ってる理由?〝万が一が起きた時の為に〟って桐藤さんから聞いといたんですよ
────そう怒らないでくださいよ……つーか今は大人しく俺の言葉聞いた方がいいと思いますけど
────なんでって……そりゃ、おたくらのお嬢様こっぴどく振ったからですけど?
────はい?……ええ、泣かせましたよ、それが何か?
────……俺にキレてる暇あったらさっさと追った方がいいっすよ?後で幾らでも殴られてあげますんで……ほら、今そっちに位置情報送りましたから
────いつ仕掛けたか?……それは別にいいでしょ、さっさと追ってくださいよ。言っときますけど俺はもう二度と桐藤さんを助けませんからね
────ええ、見捨てます……はいはい、好きなだけ罵ってくださいよ。じゃあもう切りますねー
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「…………」
失意の底に落とされた少女、その目の周りには痛々しい泣き跡が残されていた
本来二人で歩く筈だった帰路を走り抜け、途中で見つけた誰もいない小さな公園で一人俯く
「……ぅ……ひっぐ」
悲しみ、怯え、怒り、困惑
トリニティのトップに立ってからはなるべく出さないように抑えていた感情が涙となって次々と零れ落ちる
「なん、で……あんなに、愛した……のに……!」
否、自分でも分かっている
自分の中で〝愛〟だと決めつけたそれの中身が純粋な好意だけで構成されている訳ではないと
幼馴染みを切ってまで強引に迫ろうとした自分らしくない自分から目を逸らしていたことを
「……私は……本当に……」
彼を依存先にしようとしていた、だって部外者の彼はトリニティの誰よりも信頼できるから
それをずっと誤魔化していたのはきっと後ろめたさから、周りの人間の声を切り捨ててでも進もうとする自分の汚さや幼馴染みや親友に100%の信頼を向ける事ができなくなった自分の心の弱さを認めたくなかったから
これは恋だ、だから彼だけに意識を向けるのは仕方ない
これは恋だ、だから彼の言葉だけを聞くのは仕方ない
これは恋だ、だから彼以外を疎かにするのは仕方ない
そんな考えがナギサの中で何度も何度も繰り返される
(もう……酒泉さんに……会えない……?)
捨てられても仕方ない(嫌だ)
嫌われても仕方ない(離れたくない)
縁を切られても仕方ない(また会いたい)
自らの心の脆さを指摘された挙げ句ハッキリと拒絶された、ナギサの心はその事実だけで絶望に染まっていく
「……ま、まだです……もし、私が自分の弱さを認めた上で彼にもう一度チャンスを貰えば……」
また一緒に居られるかもしれない、そんな希望に縋ろうとするナギサ
……大人しくミカやセイアの元に帰るという選択肢が出てこないのが、彼女の依存心の証明でもあるのだろう
再び酒泉の元へ向かおうと立ち上がるナギサ、彼女はモモトークを開いて酒泉の居場所を聞こうとし────
「ナギちゃん!」
「ナギサ!」
嘗て信じて〝いた〟友に出会った
ちっちゃい〝アレ〟が生えちゃったふた○りヒナちゃが酒泉君に過酷のやり方を教わるR18を思い付きましたけど人を選びすぎるのでやめときました