「酒泉、貴方に桐藤ナギサとの接触禁止令を出すわ」
席について仕事に取り掛かろうとした俺の机に置かれたのは〝以下の行為を禁止する〟と書かれた紙だった
どれどれ?〝政治的観点から以下の行為を禁止する〟?
・ティーパーティーとの個人的な密会、または個人的な通話
・上層部、または直属の上司からの許可を得ずに公の場でティーパーティーと接触すること
・万が一ティーパーティーと接触した場合、その時の会話を全て包み隠さず風紀委員会に報告すること
……ほーん?成る程ねぇ?
────別に構いませんよ
「嫌だと言っても駄目だから、これは風紀委員会全体で決まった……え?」
────どうしました?
「……いや、その……随分すんなり受け入れたなって思って」
俺が首を縦に振るとは思っていなかったのか空崎さんの表情は困惑で染まっていた
よくよく辺りを見渡してみれば俺に視線を集めていた火宮さんや銀鏡さん、天雨さんまで意外そうな反応をしていた
「その……よろしいのですか?これで酒泉君は自分から彼女と接触する事ができなくなってしまいますが……」
────火宮さん、俺と桐藤さんは元々他人みたいなもんなんだ。それが元の関係に戻るだけだよ
「……それにしては距離感が近すぎな気もしましたけど」
「……あんなにベタベタしてたくせに」
ジト目で見られながら横から銀鏡さんがボソッと呟く
あれはほら……別に俺からベタベタしてた訳じゃないから……まあ、確かに色々とお世話になったりご馳走になったりめっちゃいいにおいしたりお尻ちょっと重かったり────駄目だまだ若干引きずってる
「抱きつかれても大して抵抗してなかったじゃん、それなのに今更クール気取ってんの?」
────な、なんか当たり強くないっすか……?
「別に……気のせいでしょ」
「酒泉……貴方……」
ついには現場を直接見たわけでもない天雨さんにまで冷たい視線を送られてしまう
だが待ってほしい、抱きつかれたといっても俺は頑張っていやらしい事を考えないように努めていたのだからむしろ褒められるべきでは?
「なーに〝俺は悪くない〟みたいな顔をしてるんですか、どうせ口では抵抗しつつ本当は女性の身体の感触をたっぷりと味わっていたのでしょう?」
────違います!俺は本当にそんなこと尻ませ……知りません!
「なぜ言い直す必要が……?」
ウォールアルコールは最後まで頑張ってくれた、あの壁が無かったら俺の理性はとっくに打ち崩されていたかもしれない
まあ、途中から壁としての機能を失って瓦礫を踏みつけられてる状態だった気がしないでもないけど
────とにかく、今後は空崎さんに言われた通り桐藤さんとは接触しませんよ……まあ、つっても向こうだって俺とは二度と会いたくないでしょうけど
「……何かあったの?」
────こっぴどく振ったんですよ……嫌われてもおかしくないぐらい酷く、ね
「え……?」
空崎さんは目を見開いて驚愕する、そりゃあんだけ目の前でベタベタされておきながらあんな美少女を振るなんてびっくりするだろう
俺だってそんな奴がいたら余程の事情がない限りは〝お前本当に男か?〟って聞いてしまう自信がある、ちなみに俺はその余程の事情があったパターンなので許してほしい
しかし桐藤さんの事を泣かしたという事実は残っているので恐らくあの日あの瞬間にキヴォトスで一番最低な男ランキングが更新されただろう、多分俺はゲマトリアかカイザーの誰かしらと同率一位になっている
────……あーあ、普通の恋愛ができると思ってたんだけどなー
依存心に気づかないフリなんて幾らでもできた、そのまま桐藤さんと良い関係にもなれただろう
でも自分に嘘は吐けなかった、どうしても折川酒泉の呪いを解いてあげたかった
────……これが偽善の末路か、くっだらねえ
やはり原作通り進ませておくべきだったか、大した力も覚悟も持ち合わせちゃいない人間が首を突っ込むべきではなかった
調印式の流れだけ変えてそこで満足してりゃよかったのに、無理して自分の手より大きいものを救おうとした罰がこれか
自業自得の四文字、これに尽きる
「……数回だけ」
────……はい?
「一月に数回程度なら特別に桐藤ナギサとの接触を許してあげなくも……ないけど……」
────……気を遣ってくれてありがとうございます、でもさっきも言いましたけど向こうは俺の顔なんて見たくないでしょうから……
「……それでいいの?」
────はい
「…………本当に?」
空崎さんの言葉に無言で頷く
自分に恋愛感情はないと気づけばもう関わってくる事もないだろうし、それならそれで此方から連絡する必要もない
ティーパーティーは仲直り!俺の日常も帰ってきた!めでたしめでたし!ここからまた俺の青春がスタートするのだ!
はーっはっはっはっはっはー!
……でも、まあ……恋愛絡みの青春は当分の間お預けでいいかな、今はゆっくり心を休めたいし
「はい……分かりました、今すぐそちらに援軍を……ええ、貴女達は適度に距離を保ちつつ彼女達を逃がさないように包囲網を」
「……アコ?どうしたの?」
「委員長、つい先程便利屋がブラックマーケットから出て来て問題を起こしたそうで────」
────あ!はいはい!俺行く!俺援護に行きまーす!
「と、突然元気になりましたね……?まあ、どのみち頼むつもりではありましたが……って待ちなさい!?まだ全ての状況説明を終えて────」
────続きは移動しながらでお願いしまーす!
天雨さんのストップ!を無視して廊下を走る
周囲の地形も部隊の被害も何も聞かずにとにかく現場に一直線、それらの話は聞きながら移動すればいい
今はともかくこの気持ちを振り払う為に仕事に専念しよう
やはり俺の恋人は仕事だけだ、アイラブお仕事……それにしても丁度タイミングよく鬱憤を晴らせる相手が来てくれたな
俺が桐藤さんに依存されたのもこんなネガティブな気分になったのも全部お前らのせいだぞ
────ってことで責任取ってくれや陸八魔さんよぉ
「なんですってええええええええええ!!?」
この後めちゃくちゃ(弾を)ぶち込んだ
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それからの話をしよう……といっても特に何も進展はなかったけど
あの件以降桐藤さんと会うことはなく、それどころかティーパーティーの誰とも会うことなく俺は風紀委員としての本業に専念した
暴れる問題児をしばいて陸八魔さんをしばいて温泉開発部をしばいて陸八魔さんをしばいて美食研究会をしばいて依頼失敗しまくったせいで金欠になった陸八魔さんにお好み焼き奢って次の週また陸八魔さんをしばいて……今月はやけに依頼入りまくってますね陸八魔さん
まあ、それは置いといて……意外にも俺の心はそこまで桐藤さんの事を引きずることなく数週間後にはすっかり元のメンタルに戻っていた
つーか気にする余裕がなかった、何故ならミレニアムの事件に巻き込まれたから
天童アリスという少女との出会い、調月さんとの契約、そしてケイの覚醒、あとついでに俺の怪我
様々な事件は数週間という月日など一瞬で経たせるのに十分で、季節の変わり目どころか月の変化にすら気づけぬほど時間はあっという間に流れていった
────パヴァーヌ終わって……んで、次が最終編か
自宅で一人呟きながらこの後の流れを整理する
途中で寄り道しすぎたがついに辿り着いた……辿り着いてしまった最終編
もし失敗したらこの世界が終わる超大型レイドイベント、あまねくなんちゃらかんちゃら
勿論負ける気はない……が、原作知識ありでも確実に勝てるかどうかと言われるとめちゃくちゃ怪しい相手
ウトナピシュティムを奪ってそれを直して……いや、その前に虚妄のサンクトゥムの対策も……なんて、あーだこーだ考えてもこれ等は別に俺が何とかできる訳ではない
この辺りの問題は先生や調月さん、そしてミレニアムが誇る超天才……全知さんに任せよう
────……まあ、そんなすぐに始まるわけじゃないけどな
今は言うなれば準備期間、戦士の休息的なあれだ
こーしてソファでダラダラしてモモチューブ見ながら出前で注文したLサイズピザを一人で食ってるのも俺がだらしないからじゃなくて身体を休める為なんだ
だからこの後深夜までひたすらオンラインゲームで遊ぶ予定を立ててるのも仕方ないことなんだ、これも休息だからな
久しぶりの纏まった休み、ここで存分に楽しま……休息をとって最終決戦に備えねば
────さーて、明日はどうすっか……ん?
ぽこん、とモモトークの音がなる
はて、誰だろうか。空崎さんからの仕事関連の連絡?それとも調月さんか先生のどっちかが俺の原作知識を頼りにきたか?
だーれだーろな────
それは、接触禁止令なんてすっかり忘れていた頃に突然送られてきた
来週のブルアカは
・奇跡的にミカが告白に成功した世界線
・何かに目覚めそうになった女装アイドル先生VS折川酒泉
・戦闘狂ホシノ
の三本でお送りします(大嘘)