〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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ド ル 藤 ナ ギ サ

 

 

 

 

青と白で構成されたタータンチェックの半袖ワンピース

 

白いニーソに黒シューズ、頭部につけられたピンク色のリボン

 

笑顔絶やさず汗水流し、明るいベージュの長髪を揺らし、歓声とスポットライトに包まれながらふりっふりの衣装で踊っている

 

あの完璧で究極で強靭無敵なアイドルの名前は桐藤ナギサ、なんやかんやあって尻あった……ん゛ん゛!知り合ったトリニティのトップである

 

そんな彼女を最前列という特別な場所から眺めているのはこの俺、折川酒泉!見ての通りただのモブさ!

 

 

「何を呆けているんだい?せっかくナギサが直々に最前列のチケットをプレゼントしてくれたというのに」

 

「ライブを見逃したせいでナギちゃんの厚意を無駄にするくらいなら最初からその眼必要無いよね☆」

 

「うわでた」

 

「見なよ……」

 

「私達のナギちゃんを……」

 

 

そしてドヤ顔で親指を桐藤さんの方に向けて後方理解者面しているこの二人はトリニティピンクゴリラとトリニティコエナシギツネ

 

俺と桐藤さんが接触する度に姑みたいなムーブをかましてくる暇人コンビである……なんか日に日にこの人達の桐藤さんすきすきメーターが高まってるような気がする

 

 

「まさか桐藤さんが単独ライブなんてねぇ」

 

「今日の謝肉祭に備えてずっと練習し続けてきたんだよ?」

 

「……ティーパーティー全員でデビューとかはしなかったんすね」

 

「おや?まさか私達のアイドル衣装まで拝みたかったのかい?」

 

「それは駄目だよ、貴方が見ていいのはナギちゃんだけなんだから」

 

 

別に桐藤さん側は俺に見せる為だけに踊ってる訳じゃないと思うのだが、この二人の言葉に歯向かうと更に面倒な小言を貰いそうなので大人しくライブに集中する

アンティーク・セラフィムに続いてまさかの桐藤さんまでデビューか……今トリニティでは空前のアイドルブームが起きているのかも───いや、アビドスの人達までアイドルになってたしキヴォトス全域がアイドルブームに巻き込まれているのかもしれない

 

だとしても桐藤さんがこういうのに乗り気だったのは少し……いや、かなり意外だった。あの人の性格的に恥ずかしがって辞退してもおかしくなかったと思うのだが……あ、ウィンクした

 

 

「ほらほら、ナギちゃんが大サービスしてくれたよ?」

 

「何か言うことがあるだろう?」

 

「いや、あれ多分会場のお客さん全員に向けたウィンクだと思うんすけど」

 

「やれやれ……これだからクソボケは……」

 

「だからクソボケ君は酒泉なんだよ」

 

 

どう考えてもファンサービス的なアレだろうにこの二人は何を言っているのやら……

 

生憎俺は〝今のウィンクは俺だけに向けてくれたんだ!〟と勝手に勘違いして好意を拗らせる厄介オタクに成り下がるつもりはない、自重大事

 

……あ、今度は投げキッスだ、でもこれもファン全員に向けたやつなんだろうな

 

 

「でも、なんで急にアイドルデビューしたんすかね桐藤さん」

 

「それはまあぶっちゃけ私達が焚き付けたからなんだけど」

 

「〝折川酒泉も喜んでくれるだろう〟と言ったら一発だったぞ」

 

「ここで問題です!ナギちゃんはどうして酒泉君の為にアイドルデビューしてくれたのでしょうか!答えられなかったら私のデコピンが待ってるからね☆」

 

急に始まってしまった命懸けのデスゲーム、俺はただ桐藤さんのプリティーでチャーミーな姿を見にきただけなのにどうしてこんな事に巻き込まれなければならないのか

 

落ち着けよ折川酒泉……冷静に考えろ……ここで答えを間違えたら首より上が吹き飛ばされる……!

 

桐藤さんが俺の為に行動してくれた理由、普通の男ならここは〝桐藤さんは俺に気があるから〟とか〝俺の事が好きだから〟と答えるはず……しかし俺はそんじょそこらの男とは違う!

 

互いの関係が深まるような出来事……というか事件はあったが、あれは桐藤さん的には間違いなくマイナス方向の思い出になっているはず!

 

依存心によって好きでもない男にベッタリくっつき、キスまでして!しかもこっぴどいフラれ方まで!しかもその件で謝罪までしてきて!

 

救えよ世界答えよ正解!真実はいつも一つ!

 

 

「ズバリ!桐藤さんは罪悪感で────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐藤さん、ライブお疲れ様でした!」

 

「酒泉さん?どうして控え室に……いえ、それより額の絆創膏は一体……?」

 

「気にしないでください、野生のゴリラに襲われかけただけですから」

 

 

桐藤さんはどうして俺の為にアイドルデビューした?なんであんな楽しそうに踊ってたんだ!答えろ!答えてみろルドガー!

 

結局デコピンを食らわされる事になった俺はせめて小指で頼むと懇願し、今度百合園さんと聖園さんに適当なスイーツを奢る事と引き替えに手加減してもらった

 

……適当なスイーツとは言うが、糖分マスターと呼ばれるこの俺が他人に勧めるスイーツを妥協する訳にはいかないのでちゃんとバチクソ美味い店に連れていくつもりだ

 

 

「ところで、酒泉さんはどうしてここに?」

 

「いや、俺もモモトークでライブの感想送ろうとしたんすけどそしたら聖園さんと百合園さんが〝直接言ってこい〟って」

 

「なっ……まったく、あの二人は……申し訳ありません、酒泉さん。二人には後でキツく言っておきますから……」

 

「ああいや、気にしないでください。別に嫌な訳じゃないんで、それに久しぶりに桐藤さんと直接話せて嬉しいし」

 

「……そ、そうですか」

 

 

キヴォトス仮面騒動の一件を得て桐藤さんと縁が出来た訳だが、かと言って別にしょっちゅう会ったりモモトークしてる訳ではない

 

トリニティを治めている桐藤さんは俺以上に多忙の身、そもそも学園自体異なるのもあって案外休みが被るのは少なかったりする

 

 

「そ、それで……どうでしたか?私の……その……歌、といいますか……衣装とか……」

 

「そりゃあさいっこうでしたよ!躍りは完璧でしたし歌だってこう……なんていうか……清純派って感じで!すっげー透き通ってました!」

 

「そこまで褒められると少々照れが来てしまいますね……そ、それで……あの……」

 

「衣装もめちゃくちゃ似合ってました!普段の様な厳格……というか真面目そうな雰囲気とは正反対にふりっふりで可愛くて!それに笑顔とかも素敵で……その……」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

こういう時、女性を喜ばせられるくらい気の利いた言葉の一つでも言えればいいのだが、残念な事に俺の脳内辞書にそんな言葉は存在しなかったので自分が感じた事を素直に伝える事にした

 

ちくしょう、俺は頭が悪いのでこ、これ以上説明できないのだ……これでは酒泉にボキャブラリーを求めるなど絶望的だ!

 

見ろよ桐藤さんのこの姿をよぉ!俺の語彙が糞すぎて俯いちまったじゃねえか!

 

 

「な、なんかすいません。月並みの……いや、それ以下の言葉しか言えなくて……」

 

「……え?い、いえ!私は───」

 

「もう少しカッケー奴ならもっと良い褒め方できたんでしょうけどね……はは……」

 

 

前世の後輩ちゃんよ、お前が言ってた〝少しは乙女心の勉強でもしたらどうですか〟という言葉……正しかったよ

 

こういう状況で女の子をガッカリさせない為に必要な勉強だったんだな、なんで義務教育の内に入れといてくれなかったんだ日本よ

 

 

「……そんな事はありません」

 

「え?」

 

 

そんな後悔の念と少しのモテ男への憧れを抱きながら心の中で涙を流していると、桐藤さんがちょっとだけムスッとした顔で俺を睨み、両手で俺の右手をぎゅっと包んできた

 

 

「酒泉さんは……か、カッコイイです」

 

「は、はい?」

 

「赤の他人だった私の為に戦ってくれて、私が内に秘めていた想いにも気付いてくれて……それに、私に嫌われる覚悟で私の依存心を指摘してくれました」

 

「な、なんすか急に!?」

 

「モモトークだって少し遅い時間に送っても毎回律儀に返してくれますし、今日だってお忙しい中時間を作ってまでライブの応援に来てくれました」

 

 

唐突な褒め殺しを食らい少し後退ってしまう、ここまで正面から褒められると嬉しいより困惑や気恥ずかしさが勝ってくる

 

 

「私は酒泉さんの素敵なところを沢山知っています、ですから御自身を卑下なさらないでください」

 

「は、はい……すみません……?」

 

「分かってくださればそれでいいです」

 

 

何故か誇らしげな顔で一仕事終えた後の様に溜め息を吐く桐藤さん、一方で俺はどうして褒められているのに謝っているのだろうと未だ頭が困惑していた

 

しかし後々になって自分のした事が恥ずかしくなってきたのか、桐藤さんは誇らしげな表情を維持したまま少しずつ汗を垂らし、顔も徐々に徐々に真っ赤に染まっていった

 

 

「……」

 

「……」

 

「…………い、いや~!今日はなんか暑いっすね~!」

 

「そ……そうですね!ライブ後の熱気が残っているからでしょうか!?」

 

 

手で顔を扇ぎながら互いに作り笑いを浮かべて気まずい空気を誤魔化す

 

この謎の暑さはきっと桐藤さんの言ってた通りライブ会場の熱気によるものだろう、控え室の鏡に写ってる自分の顔が少々赤くなっているような気もするがそれは気のせいだろう

 

 

「えっと……じゃ、じゃあ俺はそろそろこの辺で……ライブ、最高に楽しかったです!」

 

「ぁ……」

 

 

そろそろ顔の赤さを誤魔化せなくなってきた俺は不自然なくらい強引に話を切り上げて控え室から出ようとする

 

この空気から会話を広げられる程のトーク力を持たない俺はただ背を向けて逃げる事しかできない

 

すまない桐藤さん……非力な私を許してくれ───

 

 

「まっ……待ってください!」

 

「───っ!?」

 

 

張り上げられた声、立ち上がる桐藤さん、掴まれた俺の腕

 

咄嗟の事でつい力みすぎてしまったからか、桐藤さんに掴まれた腕に少しの痛みが走って声が溢れそうになるが、桐藤さんのどこか怯えや緊張が混じってそうな表情を見て此方も咄嗟に口を閉ざした

 

一目見ただけでも何かを伝えようとしている事が見て取れ、そこから更に桐藤さんの身体の震えを見て伝えようとしている内容が重大な事であると判断した

 

数秒、数十秒、桐藤さんに腕を掴まれたままの状態で時間が経ち、僅かに痕が残ってしまいそうな程握力が強くなってきたところで漸く桐藤さんが一言目の言葉を発した

 

 

「も、もう少しだけ……お話しませんか……?出来れば、どこかでお食事でもしながら……」

 

「……え?お、俺と……ですか?二人だけで?」

 

「……はい」

 

 

勇気を出して踏み込んだ一歩、その足は俺に向けられたものだった

 

どうして俺なんかと、これも桐藤さんなりの〝お礼〟のつもりなのか?だが、礼ならライブのチケットで十分にしてもらって────

 

 

 

 

《ここで問題です!ナギちゃんはどうして酒泉君の為にアイドルデビューしてくれたのでしょうか!》

 

 

 

 

────待て、まさか……〝そういう事〟なのか?

 

桐藤さんは俺を……そんなに俺と……

 

 

「駄目……でしょうか……?」

 

「────っ、い……いえ!全然大丈夫です!今日は暇なんで!」

 

 

ある可能性が浮かび上がり、その事を必死に考えていると桐藤さんが不安そうに此方の顔色を窺ってきた

 

心配させない為に咄嗟に暇人アピールをすると桐藤さんはパァッと表情を光らせながら頭を下げてきたあとめっちゃいいにおいする

 

 

「あ、ありがとうございます!すぐに着替えてきますので少々お待ちを!」

 

「はい!……あ、でもどうやって会場から出ます?ここに来る前にチラッと覗いただけでもかなりの人達が会場出口に集まってましたけど……多分あれ全部桐藤さん目当てっすよ」

 

学園のトップがアイドル衣装を着て踊ったという事実だけでも人目を引くには十分すぎるが、それ抜きにしてもフィリウス分派や桐藤ナギサを支持する一般の生徒達の大半は純粋な好意で会いに来ているのだろう

 

いや、それだけじゃない。桐藤ナギサという存在そのものが魅力の塊である事を考えると今回で新たにファンになった人達も存在するのだろう

 

だって考えてみてくれよ、頼れる学園のトップで政治が出来て頭が良くて気品溢れていて料理が上手くて優しくて可愛くて美人で声がめっちゃ良くてお尻が重たくてめっちゃいいにおいする人とかあとめっちゃいいにおいする

 

……はっ!?いかんいかん、また脳内が煩悩で埋め尽くされるところだった

 

 

「ご心配なく、こんな時の為に事前に対策を用意してありますから」

 

「……対策?いや、それより〝事前に〟って────」

 

「これを使います!」

 

俺が疑問を言い終えるより早く、桐藤さんが控え室の机の上に置かれていた紙袋を持ち上げる

 

中には恐らく女性物であろう衣類が何着か入っていた

 

 

「……それは?」

 

「これは私が用意した変装用の服です、ちゃんとサングラスも用意してますよ?」

 

 

探偵が被ってそうな茶色い帽子、茶色系統を基本にしたチェック柄のコート、桐藤さんに似合わなそうなサングラス

 

〝変装と言えばこれ!〟と自己主張してくるコッテコテのシンプルな変装セット、桐藤さんはそれをドヤ顔でテーブルに広げてきた、これがドヤ藤ナギサちゃんですか

 

 

「……なんか、やけに準備良いっすね。さっきも〝事前に〟とか言ってたし、もしかして最初から抜け出すつもりだったんじゃ……」

 

 

なーんて、まさか桐藤さんが最初から俺と二人で抜け出す事を考えてたなんてそのパターンこそあり得ないだろ

 

そう思いながら冗談のつもりで吐いた言葉、しかしそれを聞いた桐藤さんは恥ずかしそうにもじもじした後、俯きながらポツリと呟いた

 

 

「その……一度体験してみたかったんですよね、お忍びデート」

 

 

あ、すき

 

何この人すっげー可愛い、もしかして桐藤さんって正統派美少女なのか?あとめっちゃいいにおいする

 

俺と遊びに行くだけなのにそれをデート扱いしちゃっていいの?めっちゃいいにおいする、将来恋人が出来た時に初デートじゃなくなっちゃいますよ?めっちゃいいにおいする、俺は尻ませ……知りませんからね?

 

助けて空崎さん、俺このままじゃトリニティのトップとスキャンダル起こしちゃいそうだよ

 

 

「で、ではすぐ着替えてきますね!」

 

 

照れ隠ししたいからか〝ぴゅーん!〟と脱兎の如く去っていくめっちゃいいにおいする桐藤さん、もう少しめっちゃいいにおいするアイドル衣装を拝みめっちゃいいにおいするたかったがそれは流石にめっちゃいいにおいする我儘というものかめっちゃいいにおいする

 

……さて

 

 

「これはもうほぼ確定、だよな……?それでいいんだよな……?」

 

 

桐藤さんが居なくなった部屋で自分に言い聞かせるように何度も呟く

 

さっき過った〝ある可能性〟について、今の桐藤さんを見て確証を持てた

 

……いくら桐藤さんが義理堅い人間だったとしても、お礼やお詫びの為だけにアイドルデビューするとは考えられない

 

つまり、あの人は間違いなく俺を……俺と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と友達になりたいって事でいいんだよな……!?」

 

 

 

 

 






───熱愛報道!現ティーパーティーホスト代理・桐藤ナギサ、ゲヘナの一般生徒とお忍びデート!?

───大人気アイドルのプライベートは彼だけのアイドル!?


《レストランで食事中の二人の写真》《二人でカラオケ店に入っていく瞬間の写真》《手を繋いで歩いている二人の写真》


「クロノスとトリニティを潰す、あとついでに便利屋も潰すわ」
「委員長!?」


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