〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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ルート分岐条件

・折川酒泉が桐藤ナギサを突き放さなかった場合、または突き放すのが遅れた場合

・桐藤ナギサがトリニティを最後まで信じられなかった場合

・ティーパーティーとの和解イベントが発生しなかった場合


病 み 藤 ナ ギ サ

 

 

 

 

 

「あ……お、おはようございます」

 

 

最悪だ、できれば見たくなかった人の顔を朝一から見てしまった

 

……いや、見たくないと言っても嫌いとかそういう意味ではない。どう考えても俺に非があって会うのすら気まずいから見たくないという意味だ

 

 

「も、もう朝食などはお済みでしょうか?まだでしたら────」

 

────帰ってください

 

「……っ」

 

 

最初はある程度構っておけば依存心も少しずつ鳴りを潜めていくだろうと考えていた、だが彼女の心は一向に俺から離れる気配がなかった

 

これ以上月日が経つとマズイ────そう思った俺は桐藤さんを即座に突き放す計画を立てた

 

彼女が内に秘めていた感情を指摘して自覚させ、ティーパーティーにも俺が桐藤さんを振ったことを伝えた

 

予想通り桐藤さんを心配した百合園セイアと聖園ミカは桐藤さんに接触し、彼女を慰めながら話し合いを始めた

 

……結果から言おう、俺の計画は恐らく失敗したのだろう

 

こうして振った後も何度も俺に会いに来ているのが計画失敗の……聖園ミカと百合園セイアの言葉が響かなかったことの証明か

 

 

「そ、その……家事などは……」

 

────帰ってきたら自分でやります

 

「……お仕事は」

 

────今日の仕事に関しては桐藤さんが来たところで足手まといになるだけです

 

「っ……何か……私に何かできることは……!」

 

────……じゃあ、前にも言いましたけど二度と俺に関わらないでください

 

「ぁ……」

 

 

桐藤さんの手を振り払ってそのまま家を出る、中に居座られても困るので鍵もしっかりと掛ける

 

俺はもうこの人に優しくするつもりはない、どれだけ罵られようと今度こそ見捨てるつもりだ

 

 

「ま……待って……くださ───」

 

────さっさとどっか行ってください、玄関前に居座られると邪魔なんで

 

 

縋るように再び手を伸ばしてくる桐藤さんを無視して足を進める

 

視線が背に突き刺さるような感覚を覚えるが振り向くつもりはない……たとえ後ろからすすり泣く声が聞こえてこようとも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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トリニティのお偉いさんに何があろうとゲヘナでの生活が変わるわけじゃない

 

普段通り授業を受けて普段通り昼食をとって普段通りまた授業を受けて、放課後は風紀委員としての仕事をこなして

 

 

 

「ひっ!?やめっ……がっ!?」

 

「な、なんだよアイツ!?なんでいつにも増してあんな荒々しいんだよ!?」

 

「わ、悪かった!もう悪さしないから───ぐぁ!?」

 

 

 

全部、全部全部変わらない、昨日みたいな晴れだろうと今日みたいな雨だろうと、何もかも普段通りだ

 

ゲヘナの治安も、問題児の多さも、そのせいで生まれる仕事の量も

 

唯一違うのは────この、何とも言えない胸糞悪さだけだ

 

 

 

────……制圧完了です、キツめにやっといたんで暫くは起きないかと

 

「あ、ああ……助かるよ……直帰中なのに駆り出しちゃって悪かったな」

 

────いえ、気にしないでください……それじゃ

 

雨が降り注ぐ中、白目を剥いて呑気に眠っている不良達を風紀委員の先輩達に任せてその場を立ち去る

 

元々仕事終わりで帰宅中だったのだが、俺の担当外のエリアで無駄に抵抗する馬鹿共が現れやがったせいでそっちの制圧に向かう事になってしまった

 

先輩達に非は一切無い、いつの時代も悪いのは悪さする奴等だけだ

 

 

────……なんて、決めつけられないよなぁ

 

 

少なくとも桐藤さんがあんな状態になったのは裏切った聖園さんや調印式を台無しにしようとしたアリウスだけじゃなく、さっさと切り離さなかった俺のせいでもあるのだろう

 

普通なら一瞬で嫌悪感がマックスになってもおかしくない別れ方をしたというのに未だに俺を求めようとしてくるあたり、桐藤さんの中に相当強い依存心が芽生えているという予想は間違いではなかったようだ

 

やらない善よりやる偽善……なんて言葉は時と場合によるのかもしれない

 

 

 

────……いや、俺のは偽善ですらないな

 

 

 

ただの自己満足、それに桐藤さんを巻き込んだだけだ

 

中途半端に助けて中途半端に付き合い、最後に酷い事を言って突き放した

 

……今回の件で二つ知れた事がある、まず一つは折川酒泉という人間の醜さだ

 

そして二つ目は……折川酒泉に人助けは向いていないという事だ

 

 

 

────……うわ、最悪だ

 

 

 

俺の気分と同調するかの様に雨の勢いが強まり、折り畳み傘にぶつかる雨音が大きくなる

 

天気予報ではここまで酷くなるなんて書いてなかった筈だが、まあアレだって百パーセント当たる予報って訳じゃないし仕方ない

 

しかしよりによって今日大雨になるとは、ただでさえ気分的に最悪なのに勘弁してほしい……あ、そういえば自宅の洗濯機の乾燥スイッチ押してたっけ

 

雨予報が出た時点で家の中に取り込んだはいいものの、その後洗濯機に放ったままで何も操作していなかったかもしれない

 

そうだ、桐藤さんにお願いしてスイッチを……あ

 

 

────……自分で突き放したんだろうが

 

 

あんな酷い突き放し方をしておきながら困った時だけ頼ろうとするなんてあまりにも最低すぎる、俺は桐藤さんの事を都合の良い道具とでも思っているのだろうか

 

それか単純に情が湧きすぎて一緒に居る事が当たり前だと思うようになってしまったのか……やはり突き放したのは正解だろう。依存とまでは行かなくとも、危うく俺まで桐藤さんにどっぷり浸かるところだった

 

まあ、どんな選択を取ろうにも折川酒泉は中途半端なクソ野郎って事実は覆らないだろうけどな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洗濯の為に急いで帰宅したというのに、俺の脚は走るどころか玄関の前で止まってしまう

 

手の力も抜け落ち、握っていた傘の持ち手を離して唖然と佇んでしまった

 

 

「あっ……酒泉、さん……」

 

────っ、桐藤さん!

 

 

雨に濡れた身体で、両膝を抱えたまま桐藤さんが座り込んでいる

 

馬鹿な────どうしてまだそこにいるんだ

 

「帰ってきて……くれたん、ですね」

 

────なんで……なんでこんな所に……!

 

「……酒泉さんの居る所が……私の帰るべき場所……ですから」

 

 

咄嗟に駆け寄れば雨で体温も体力も奪われているであろう桐藤さんは恨み言を吐くどころか嬉しそうに笑いかけ、その両手を俺の腰の後ろに回して抱きついてきた

 

髪も、肌も、服も、濡れていない場所が一切存在しない。雨の勢いが強く、向きも斜めに降り注いでいた事から玄関前の屋根で雨宿りしていたとしてもかなり長時間の間雨に打たれていた筈だ

 

なのに、ずっとここで待っていたのか?トリニティに戻らず、ずっと俺の帰りを……いや、今は考え事をしている場合じゃない、すぐに桐藤さんを休ませないと────

 

 

「酒泉さん」

 

────桐藤さん、離してください。話なら後で聞きますから……

 

「酒泉さん、愛してます」

 

 

すぐにでも風呂を沸かしに行こうと玄関の鍵を探していると、桐藤さんは俺に抱きついたまま何度目かの告白をしてきた

 

聞き慣れた……とまではいかないものの、それでも今までの告白と違ってどこか薄暗い雰囲気を感じさせるその声色に手を止めてしまった

 

 

「セイアさんも、ミカさんも、親しかった人達は皆裏切り、姿を眩まし、私を置いていってしまった。でも赤の他人だった筈の貴方だけは傍に居てくれました」

 

「トリニティを守ろうとする私を、ゲヘナの貴方が守ってくれました。私から疑義の眼差しを向けられても、貴方はずっと私を優しい眼で見守ってくれました」

 

「そんな貴方が、ずっと私を守ってくれた貴方が大好きです」

 

 

俺の身体を支えにしてふらふらの身体で立ち上がると、桐藤さんは俺の眼を真っ直ぐと見据えてきた

 

普段の清楚さを感じさせるような可憐な笑みも、どこか暗さを感じるような歪な笑みへと変化していた

 

 

「お願いします酒泉さん、私を貰ってください」

 

「私の愛を、心を、身体を、知恵を、財産を、全部差し上げます。酒泉さんは私に何も渡さなくていいです、愛してほしいなんて我儘も言いません」

 

「召使でも、道具でも、日々の心労や怒りをぶつける為の矛先でも構いません。ただ、お傍に置いていただけるなら私はそれだけで幸せですから」

 

「……私には酒泉さんしか居ないんです、唯一信じられる貴方しか」

 

 

初めて桐藤さんを拒絶したあの時と似たような状況、それならあの時の様にまた拒絶すればいい

 

突き放すのは簡単だった、腕にちょっと力を籠めれば今のふらふらな状態の桐藤さんを押し返してさっさと家の中に入れるだろう、その後はまた鍵を閉めて無視を決め込めばいいだけだ

 

……それを理解していながらも俺は桐藤さんを突き放すどころか、その光が消えた瞳に吸い込まれるように意識を奪われていた

 

 

「酒泉さん」

 

 

ごめんなさい、聖園さん、百合園さん

 

ごめんなさい、桐藤さん

 

俺の下らない偽善のせいで原作の流れが崩壊し、その被害を受けてしまった人達への謝罪を心の中で浮かべながら、俺は近づいてくる唇を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……酒泉、こんな所に居たんですね」

 

「……ナギサ」

 

「もう……〝お出掛けする際は必ず声をかけてからにしてください〟とお伝えしたのに……」

 

「……悪い、不安にさせちまったか?」

 

「はい……でも、私を置いていく筈はないと信じてもいましたよ」

 

「……当たり前だろ」

 

「……今、何を考えていたのか当ててみましょうか?恐らく私達が恋仲になる前の事ですよね?」

 

「…………」

 

「……後悔、してますか?」

 

「……ああ、後悔してるよ。両校からの恨みを買った事も、学園間の溝をより深めた事も、最後まで空崎さんを説得できなかった事も、聖園さんと百合園さんの心に傷を負わせる結果になった事も、桐藤さんを連れてそのまま逃げるように姿を消しちまった事も」

 

「……」

 

「でも、桐藤さんとこうして繋がれた事は後悔してない」

 

「……ありがとうございます」

 

「帰ろう、そろそろ日が沈む頃だ……あ、そういや今日の夕飯は?」

 

「今日は新鮮な人参とじゃがいもが採れたのでシチューでも作ろうかと、デザートに貴方の大好きなロールケーキも用意してありますよ」

 

「おお、サンキュー……そうだな、じゃあ俺はちょいと畑の様子でも見てくるかな、育ち具合からして明日くらいにはキャベツが収穫出来そうなんだ」

 

「では、その間に準備しておきますね……ああ、それと……」

 

「?」

 

「その……お食事の時に酒泉に報告したい事がありまして……」

 

「報告?どんな?」

 

「……〝良い知らせ〟とだけお答えしておきます」

 

「ええー……なんかお預けくらった気分なんだけど……」

 

「ふふっ……では私達は先に戻ってますね?」

 

「ああ、俺もすぐに……ん?私達?」

 

「……♡」






みたいなルートを辿る可能性もあったんですよね、こうならなくてよかったー
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