聖園ミカは負けヒロインになりたくない~その1~
負けヒロイン、言葉通りヒロインレースに負けた少女達
その子達の大半は最初から素直に想いを伝えれば勝てたかもしれないのにそのチャンスを自ら手放してしまった馬鹿な子だったりする
それでもいつかは結ばれるだろうと、いつかは主人公も私の気持ちに気付いてくれるだろうと都合の良い妄想にも似た希望に縋り続ける
……そして、他のヒロインに主人公を盗られて〝もっと早く告白すればよかった〟って後悔する
「本当、馬鹿だよねー。恋愛なんて早い者勝ちに決まってるのにね……面倒な女ムーブするくらいならさっさと告白すればいいのに」
「ミカ、実は最近素敵なデザインの手鏡を買ったのだが使ってみるかい?」
「ミカさん、もしかして最近ブーメラン投げの練習でもしていらっしゃるのでしょうか?」
「二人とも私のこと負けヒロインだと思ってる?」
最近ハマってる恋愛漫画の雑談してたらナギちゃんとセイアちゃんが呆れた目を向けてきた
私が負けヒロイン?ないない!そもそも好きな人すらいないのにヒロインなんて……
「面倒な女ムーブなんて君がしょっちゅう酒泉にぶつけているだろう?」
「まさか自覚が無いのですか……?」
「はぁ?……何それ?その言い方だとまるで私が酒泉君の事を好いているみたいじゃん」
「……違うんですか?」
「違うよ?私、別に酒泉君の事なんて好きでもなんでもないよ?むしろ酒泉君側が私のこと大好きなんじゃないかなぁ?」
「……会う度に口喧嘩しているのに?」
「あれはほら……多分好きな人にちょっかい掛けたくなるみたいなやつじゃないかな?だから仕方なく私が構ってあげてるんだよね☆」
別に私は酒泉君なんてどうでもいいけど、でも話しかけてあげないと酒泉君側が寂しそうにしてくるから本当に仕方なくだもん
いや本当だからね?酒泉君なんて本当に興味ないからね?だから私が偶然トリニティで酒泉君を見掛けた時に声をかけるのも、新発売のスイーツで酒泉君を釣るのも、全部酒泉君の為であってだというのに酒泉君本人はあの風紀委員長にずっと夢中で────
「……そういえば先週、酒泉と二人きりで食事に行ったのだが……」
「奇遇ですね、実は私も先々週二人で……」
「は?」
「早い、反応が早すぎるぞミカ」
「なにそれ……どういうこと?私、そんな話酒泉君から聞かされてないんだけど?それになんでナギちゃんが酒泉君と二人きりで会ってるの?」
「落ち着いてください、私のはミカさんの反応を確かめる為だけの冗談ですから……まあ、先々週ではないですけど二人で会ったこと自体は事実ですが」
「……え?な、なんでよりによってそこだけ本当なの?ナギちゃんはなんで私に内緒で酒泉君に会いにいったの!?」
「ふふっ……さあ、何故だと思います?」
くすくすと妖しい笑みを浮かべながらナギちゃんは目を細めた
嘘……まさか、そういう事なの?ナギちゃんも酒泉君のことが?そんな……いつの間にそんな関係に────
「ミカさんがやらかした事件の謝罪を直接伝えに行っただけですよ」
「それは本当にごめんなさい」
それ言われると何も言えなくなっちゃうじゃんね……でも、よかったぁ
いや、ナギちゃんに迷惑掛けてる事は何もよくないんだけど、でもナギちゃんが酒泉君とそういう関係になってなくて心底安心した
……正直、ナギちゃんと酒泉君が仲良くなるのは危ないと思うんだよね。酒泉君の〝立場のある女性キラー〟の性質がナギちゃんと噛み合わさったらナギちゃんってばどっぷりハマりそうだから……
具体的にはホストに貢ぐ駄目女みたいになりそう、だからこれは私の周りの人達を守るって意味でもより酒泉君を他の人に近づけさせないようにしないと……!
……そうだ!酒泉君の意識をもっと私に向けさせればいいんじゃないかな?それなら皆を守れるし、さっきセイアちゃんとナギちゃんが言ってた私が負けヒロインだって評価も覆せるし!
「だからこれは仕方ない……うん……仕方ない……皆の為だもん……私は嫌だけど本当に仕方ない……私がやらなきゃ他の子が犠牲になっちゃうから……」
「ミカさんが何やらぶつぶつと独り言を……」
「気にするな、どうせ彼絡みだろう」
〝明日空いてる?空いてるよね?じゃあトリニティの校門前で待っててね!〟
そんな一方的すぎるモモトークを送られた酒泉は急すぎるとミカに文句を言う為にモモトークを返信したが、それら全てのメッセージを無視されてしまった
電話もぶつぎり、一切のやり取りを拒絶するかの様なミカの態度に怒りつつも、偶々次の日が休みだったこともあって本当に仕方なく待ち合わせ場所に来ていた
「酒泉くーん!」
「やっと来たか……つーか一方的に呼び出しておきながら待たせてんじゃねえ!先に立っとけ!」
そんな彼の耳に飛び込んできた聞き慣れた少女の声、酒泉が文句を言いながら振り向くと視界の奥からミカが小走りで駆け寄ってきていた
しかしその格好は見慣れたひらひらの制服でもボランティア中のジャージ姿でもなかった
遠目から見たら白だと錯覚してしまいそうなほど薄いピンクのブラウス、普段の白系統とは正反対な足首近くまで覆っている黒色のスカート
髪の毛は特に変わってはいないが、顔の方は細かく化粧が施されているであろう事を酒泉の目は見抜いた
「で?用事は?」
「……え?」
────が、酒泉は特にそれに触れることもなく普通に要件を尋ねた
忘れてはいけない、この男はクソボケであると
何やら気合いを入れているように感じるコーデも、化粧によって更に魅力を増した顔も、このクソボケにとって特別気にする事でもないのだ
その事を思い出し、若干額に青筋が浮かびかけるミカ。しかしここで怒ってはいつもと同じパターンになってしまう、このままだと目の前の少年の心を射止める事ができなくなってしまう
(……あくまで他の女の子達を守る為だけどね!あと私の負けヒロイン評価を取り消させる為!)
負けヒロインの弱点、それは自分の心を正直に伝えられないこと
その弱点さえ理解していれば後は簡単、このまま〝ただ酒泉君をデートに誘っただけだけど?〟と平静を保ちながら伝えればいいだけだ
勝ったッ!真・エデン条約編完!
「……………………お、お買い物するから荷物持ちさせようと思って呼んだだけだけど?」
我々は忘れていた……この少女が恋愛クソザコであることを……
もし酒泉の頭に少しでも恋愛の〝れ〟の文字が詰まっていれば頬を赤らめながらそっぽを向くという彼女のムーブが照れ隠しである事に気づけたかもしれない、しかし残念な事に彼の頭に詰められているのはGNクソボケ粒子である
通常の三倍は鈍感な彼の脳は普通のラブコメムーブで射止める事など不可能、キスして正面から告白するぐらいの勢いでなければ一切気づくことはないだろう
君達がクソボケだからっ!
「はあ!?結局パシりかよ!?」
「べ、別にいいでしょ!?ここに来てくれたって事はどうせ暇なんだろうし!」
「はあ!?それが人にものを頼む態度かよ!?」
「あーもう!うるさいなぁ!ちゃんと報酬だって用意してるから!はいこれ!私の行きつけの店のスイーツ割引券!」
「どこまでもお供します、ご主人様」
割引券を五枚手渡された瞬間、酒泉は自らの片膝をついた
この男、驚くほど単純である
「うわっ……現金すぎる……」
「へへっ……今日はいつにも増してオシャレっすね聖園さん……」
「……てい」
「ひぃん!?」
自身の格好を褒められた瞬間、ミカのデコピンが酒泉の額に直撃する
こんな形で褒められたくなかったという乙女心によって生み出された怒りの一撃は折川酒泉に十分すぎる程のダメージを与えた
「な、なんで……褒めたのに……」
「……しーらない」
ぷいっと顔を逸らしてつかつかと歩き出すミカ、酒泉はその後を額を押さえながらついていった
(んだよ……冗談抜きで可愛いって思ったから褒めてやったのに……)
……負けヒロイン払拭のチャンスを逃したことに気付かぬまま