「彼女は芸術という物を理解できていない」
「あえて完成させないことで、その先の神秘性や異常性を当人に補完させる作品も存在しなくはないが………それらを意図せずに中途半端に終わらせてしまったら、それは最早ただの失敗作だ」
「ユスティナ聖徒会を〝複製〟するためとはいえ………あまり気が乗らない」
「歌う為ではなく、祝う為でもなく、讃える為でもない………ただ敵を排除する為に行動する」
「その為に歌や本を捨て、代わりに銃を持たせる………つまらない事をする」
「…………やはり彼女の取引に応じるべきではなかったか、未完成のまま解放するなど……」
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「正面突破しますっ!」
無数の銃弾が飛び交う中、ミネが盾を持って大きく跳ぶ
敵の集まっている中心部へ着地すると同時にその衝撃で敵が吹き飛ぶ
が、その穴を埋める様にすぐに敵戦力が補充される
しかし敵の増援が来るルートを分かっていたサオリがシスターフッドと共に集中砲火を浴びせる
「……今のうちに進みましょう、後からやって来る此方側の援軍が突入しやすい様に敵を減らしながら」
「……ああ」
先頭に立って進むミネとサクラコ、サオリは敵だった者達と己の支配者を倒しに行くことに複雑な思いを抱きながらその二人の後をついていく
「……リーダー、本当にやるの?」
「……彼女達に敗北した時点で私達に拒否権は無い、それなら少しでも希望が残る選択を────」
「うわああああん!マダムに逆らうなんてもう終わりですううう!きっと全員捕まって苦しい事をされるんですううう!」
うるせえ!近くで叫ぶんじゃねえ!
「────……何をやってるんだ」
突然後ろから泣き声が聞こえたことで全員が後ろを振り向く
アリウススクワッドのメンバーからすれば慣れたことだが、他の者達は全員困惑していた
「うぅ……やっぱり止めましょうよ、こんな事……姫ちゃんも無事ですしこのまま全員でトリニティに捕まった方がまだ安全ですよ……」
……駄目だ、アンタらには絶対に協力してもらう
「それならせめて他の人達が着いてからでも……」
アリウス自治区への侵入ルートが謎の力で毎回変わってしまう以上、ゆっくりと待ってる時間は無い
それに最初から大人数で攻め込んだら、いくら計画のサブプランである錠前サオリがいたとしてもそのまま逃げられる可能性だってある
「うぅぅぅぅ……まさかこんな事になるなんてぇ……もう駄目です……辛いです苦しいです帰りたいです……」
ああもう……ほら、このハンカチで顔拭け
「ありがどうございまず……ズビーッ!」
誰が鼻を擤めっつったよ!?
「………本当にさっきまでのアイツと同一人物なの?」
「………」
先程まで怒りを滲ませていた表情をすっかり潜ませてヒヨリと会話している酒泉を見て、サオリとミサキは困惑する
喋り方や態度にはまだ少し棘があるものの、それ以外は基本的に知り合いと軽く話す様な感覚で接してくる
「えへへ……すみません……」
えへへじゃねーよ……ったく、それはアンタにやるよ
「………酒泉さん、少し気を抜きすぎですよ」
あ……すいません……
「……ここからはこの中の誰よりも優れた眼を持つ貴方に先頭に立ってもらいます」
そう言うとミネは酒泉の腕を掴んでズカズカと歩き出す
「………」
「……サクラコ様は行かなくてよろしいのですか?」
「はい?」
「だって酒泉さんとサクラコ様はお付き合いしているのですよね?」
「…………………はい!?」
突拍子もない事を言われて動揺するサクラコ、しかしシスターフッドの生徒達は容赦なく追撃を仕掛ける
「ど、どうしてそのような話になるのですか!?」
「だってサクラコ様、前に酒泉さんとデートしてましたよね?」
「なっ!?」
「え?それって本当?」
「うん、スイーツ店でサクラコ様が酒泉君にケーキを食べさせようと〝あーん〟してるの見たことあるけど……」
「サクラコ様ってそんなに大胆だったんだ……」
「ち、違います!あれは……その……注文した物を二人でシェアしようと……!」
「……あれ?それなら別の自分のフォークで取らせれば良いのでは……?」
「や、やはりそういう事なのでしょうか?」
「間接キス……!?」
「い、いや……あれは……」
「私、噂で聞いた事があります!サクラコ様が殿方とモモトークで楽しそうに会話していたとかなんとか……」
「あ、私それ見てました!スマホの画面を眺めて頬を染めながら笑顔になってました!」
「二人だけでわっぴ~したんだ……」
「ち、違うんです!あれは……あれは……!」
必死に言葉を絞り出そうと苦悶の表情で考え込むサクラコ
「…………無駄話してないで先に進みますよ!」
その結果、彼女が選んだのは逃走だった
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何ていうか……思ってたより簡単にアリウス自治区に侵入できた
理由としては蒼森さんや歌住さんが来てくれたのと、秤アツコが捕まっていないからタイムリミットを気にせずに進めるからだろう
いや……それだけじゃないな、ここに着くまでにあの亡霊共……ユスティナ聖徒会と一度も出会していない
あれってそもそもエデン条約を乗っ取った時のデータを使ってマエストロに〝複製〟されたんだっけ……?
まあ、此方にとってはありがたい事だしそんな考え込まなくてもいいか………今の万全な状態のトリニティの警備ならヒエロニムスも呼び起こされないだろうしな
………っと、待ってください、何か来ます
「……皆さん、隠れてください」
遠くから何かが近付いて来るのを視認した俺は咄嗟に周りに注意を促す
各々が瓦礫や物陰等に隠れる中、俺はほんの少しだけ顔を覗かせて敵の姿を確認しようとする
……ん?なんだあれ?
あんな奴、ゲーム本編にいたか?
遠くから近付いて来るのは暗い青色のローブを身に纏った顔の無い怪物だった
彼等(?)は手にアサルトライフルを持っているが、明らかにその容姿と似合っていない
例えるなら………魔法使いが一切魔法を使わず近代兵器で戦うみたいな……
………あれ?でもよくよく見るとどこか見覚えのあるような……
……駄目だ、思い出せん
必死に思い出そうと頭を抱える────瞬間、奴等の銃口が此方を向く………は!?
奴等はそのまま俺から少し離れた場所に銃弾を撃ち込む
「ひいい!?」
そこに隠れていた槌永さんが堪らず飛び出して……………
そのバカデカいケースとリュックのせいじゃねーか!!?
「うわああああん!見つかってしまいましたあああ!」
「こうなったら正面から突っ込むぞ!」
慌てふためく槌永さんの横を錠前さんが走り去って敵に突っ込んでいく
ちなみに槌永さんはクソデカケースとリュックを置いている………今更おせーよ
「あ……しゅ、酒泉さん、この雑誌の束だけ持っててもらってもいいですか……?」
厚かましっ
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「えっと……酒泉さんが言ってた場所はこの辺だと思います……カタコンベについて調べていましたので……」
「なるほど……この画像に見覚えはありますか、ミカさん?」
「………うん、私も実際に行ったことあるし、ウイちゃんの調べ通りで間違いないよ」
正義実現委員会の作戦会議室に各組織のリーダー達や今回の作戦に協力してくれる者達が集まっている
「酒泉さん……待っててくださいね、絶対に助けますから。そしたら……えへ、えへへへへ………うひっ」
「……彼女は大丈夫なのかい?」
「あら?私はとても美しい恋心だと思いますよ?純愛ですよ♡」
「二人で好きな本を読んで……あっ、その時にお膝を借りたりしちゃって………うぇへへへへ……」
「………心配なんだが」
それぞれが作戦の準備をする中、ミカだけが複雑そうな表情を浮かべている
……それも当然だろう、死んだと思っていた者が生きていた、それ自体は喜ばしい事だ
しかしそもそもの話、そのような事態に陥ったのはミカ自身のせいなのだから
「……ミカ、今更悔いても過去に戻ることはできないよ」
「うん、分かってるよ…………その、セイアちゃんとナギちゃんは怒ってないの?」
「それは何に対してですか?馬鹿げた計画を立てた事に対して?それともトリニティを混乱に陥れた事に対して?」
「うっ………」
ナギサのキツい物言いに思わず呻いてしまうが、全て自分が悪いことを自覚しているためミカは言い訳すら出てこない
「……ミカさん、私は悔しいんです」
「……え?」
「ミカさんが心の奥に秘めていた思いに気づくことができなかった事、それを打ち明けられる様な存在に私がなれなかった事、そして………ミカさんが罪を犯す前に止めることができなかった事」
「ナギちゃん……」
ミカを責めるどころかまるで自分の罪を告白するかの様に語り出すナギサを見て、ミカは再び後悔した
「ごめんね………ナギちゃん、セイアちゃん……私、バカだからこんな事になるなんて思いもしなくて……」
「ミカ……」
「本当は……二人のこと大好きだったのに……っ、自分のくだらない意地を優先しちゃって……っ!」
「大丈夫ですよ、私達は分かってますから」
「ごめんなさい……!本当にごめんなさい……っ!」
溜め込んでいた感情を吐き出して子供の様に泣きじゃくるミカ
ナギサはミカの頭を撫でて慰め、それを見つめるセイアは────
「ああ、気にしないでくれ。私も酒泉もニヤニヤしながら状況を見守っていたからね」
────突然ミカを煽り出した
「………え?」
「いやぁ……人間というのは極限まで追い詰められると本心が出るものだね、焦りに焦っていた君の姿はとても面白かったよ」
「は……はあ?なにそれ!?私、本当にセイアちゃんにも申し訳無いと思ってるんだけど!?」
「おや、君にそんな感情があったとは……いつもの図太さはどうしたんだい?」
「あんな事が起きたら私だって流石に落ち込むよ!それなのにセイアちゃんは……!」
「あ、ちなみに酒泉は『ギャハハハハ!あのゴリラ、俺が死んだって本気で騙されてやがる!』って腹を抱えながら笑っていたよ」
「…………………………へえ?」
「失礼します……セイア様、ナギサ様、そろそろ護衛に……え?」
「失礼します!トリニティのスーパースターこと宇沢……何ですかこの空気は!?」
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「そう……だったんだ、だから酒泉は……」
「………ごめん、コハル」
別の部屋にて、そこではアズサが酒泉が偽装死した日の事をコハルに話していた
「でも良かったです、生きていて」
「まったく……心配掛けすぎっすよ……」
安心した様な表情でホッと息を吐くマシロとイチカ
しかしコハルだけ何の反応もしない
「……コハル?」
それが気になったアズサは俯いているコハルの顔を覗き込む
「何よ………何よそれ、何で他の人達には作戦の事を話したのに私には何も言ってくれなかったのよ………酒泉は私のことを信じてくれてたんじゃないの?あの言葉は嘘だったの?私はずっと酒泉が帰ってくるのを待っていたのに………酒泉が選んだ人達と私の違いってなんなのよ……それさえ教えてくれたら酒泉が望む私になるのに……ま、まさか、酒泉が選んだ人達の中に好きな人が?そんなのは駄目!しゅ、酒泉がエッチなことする前に私が管理しないと……そう、これは酒泉が他の組織の人達に手を出して迷惑を掛けないようにするためだから………」
「ど、どうしたんだ!?」
普段のコハルの様子と全く違う事に驚いたアズサは思わず声を上げてしまう
それが届いたのかハッ!としたコハルが「何でもないから!」と誤魔化すが、時既に遅い
「その……私のせいでコハルを傷付ける事になってしまって、ごめんなさい」
「別に良いのよ、アズサのせいじゃないし……その、私の方こそごめん……皆に冷たい態度を取っちゃって……」
「良いんだ、こうしてコハルが立ち直ってくれただけでも私は嬉しい」
「……ありがと」
酒泉の生存を知って心に余裕が出来たのか、以前よりも態度が柔らかくなったコハルが礼を言う
それを奥で見ていたハスミが微笑みながら見つめていると、隣のツルギが口を開く
「………すまなかった」
「……酒泉の事ですか?良いんですよ、それが今回の事件を解決するのに必要な事だったんですよね?」
「……ああ」
ハスミにも黙っていた事を謝罪するツルギ、だがハスミも敵を欺く為に必要な事だったと理解していた故にツルギを責めることはしなかった
「ですが、彼とは少しお話をしなければなりませんね………皆をこんなに悲しませるなんて」
「…………」
「……ツルギ?」
「………ああ」
ただ静かに答えるツルギ、不気味な程に大人しい彼女は一体何を考え────
(久しぶりに会える………だ、だけどどうしよう……髪型とか変じゃないかな?服装とか崩れてないかな!?あ……でも戦闘が始まったら結局台無しになっちゃうよね……うぅ、折角の再会がこんな形になっちゃうなんて……せめて少しでもお洒落して……でも私には似合わないだろうし……で、でも酒泉君なら可愛いって言ってくれるかな……?)
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「うわああん!私が頑張って集めた雑誌があああ!」
道中で襲ってきた正体不明の敵を倒し終えた俺達はバシリカまで来ていた
何かあんまり強くなかったなあいつら、正直アリウス生の方が強かった
………それにしても、やっぱりどこかで見たことあるんだよなぁ……さっきの奴等
「うぅ……これから私は何を生き甲斐にしていけば……」
なんて事を考えていると未だに落ち込んでいる槌永さんの泣き言が聞こえてくる
ああもう……ほら、全部終わったら好きなの買ってやるから……だからもっと死ぬ気で頑張れ
「……本当ですか?」
ああ、本当だ
「えへへ……ありがとうございます……こんな世界でも幸せってあるんですね……」
まっ、生き残れたらだけどな
「どうしてそんな不穏な事を言うんですかあ!?」
「……酒泉さん、そろそろ本拠地が近付いてきたようなので気を引き締めてください」
そんなやり取りをしていたら歌住さんに怒られてしまった、ごめんなさい
……っと、その前に……錠前さん
「……何だ」
分かってると思いますけど、マダムの言う事に心を縛られたり折られたりしないでくださいね
ここで〝大人〟に抗えないと何も変えられませんから
「……ああ、分かっている」
それと戒野さんは……
「まずトリニティに帰ったら真っ先にその傷痕を見せてもらいます」
「……別に必要無い」
「駄目です、怪我人を放っておく訳にはいきませんから」
「だから必要無いって言ってるでしょ、分かったら早く腕放して────ちょっと待って、折れる、折れるから、分かったから、ちゃんと治療受けるから放して本当に折れるから痛い痛い痛い」
……よし、関わらんとこ
「それと酒泉さんも来て下さい、貴方も一人で無茶しすぎです」
やっべ
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ゆっくりと進んで行くと、広い空間に出た
奥にはなにやらステンドグラスの様な物が設置されており、それはどこか神々しくも不気味な様に感じた
……まあ、それよりも一番目に付いたのは────
「よく来ましたね、愚かな子供達よ」
────目の前のババアだけどな
「……貴女がマダムですか」
「貴女の計画もここまでです、大人しく拘束されてください」
蒼森さんと歌住さんが前に立つと、それに続く様にシスターフッドの生徒達も銃を構える
しかしそれを意に介さず、マダムの視線はその後ろにいる錠前さん達……アリウススクワッドを捉える
「サオリ、これはどういうつもりですか………といっても、事情はとっくに把握済みですが」
「………マダム、私は───」
「言い訳は不要です………貴女には〝再教育〟が必要みたいですね」
「……っ!」
〝再教育〟という言葉を聞いた瞬間、錠前さんがビクッと怯える様に一瞬だけ震える
しかし自らの肩を掴んで無理やり恐怖を押し殺す
「私は……私達はアツコを失いたくない」
「それなら───」
「だが、ずっと痛みと恐怖に支配されたままなのも御免だ!」
「………」
そう言い放つ錠前さんを呆れた様に見つめるマダム
溜め息を深く吐いてから顔を上げると、全員に殺気を飛ばしてきた
「仕方ありませんね……少々面倒ですが一度貴女達を始末してからスクワッドとゆっくり話すとしましょう」
「……一人で我々を倒せると?」
「勿論それも可能ですが───残念ながら私一人だけではありませんよ?」
直後、マダムの背後の地面にヒビが入る
「……っ!?これは……?」
「……皆さん、警戒してください」
バシリカ全体を揺らしながらそこから巨大な何かが出てくる
見上げてみると、そいつは道中で出会った怪物と同じように暗い青色のローブを纏い、顔が────
………そうだ、思い出した
あの怪物達が持っていた物がゲーム本編と違っていたし、容姿も若干異なっていたからすぐに気づくことができなかった
あいつらは聖歌隊だったんだ、だけど本来なら奴等が持っていた物は何かしらの本………決してアサルトライフルなんて近代兵器で攻撃してくる存在なんかじゃなかった
そして何より、この時点では……エデン条約編ではまだ完成していないはずだ
〝奴〟の紹介をする時、製作者のマエストロはボロボロの状態だった……つまり完成したのは最終編の後だ
それらが導き出す答えは………
あのババア、未完成の〝グレゴリオ〟を持ち出してきやがった……!