(あーチョコミルクうめー)
現実逃避気味にストローでチョコミルクを吸い続ける少年
彼は目の前の少女とあまり目を合わせようとはせず、チラチラと様子を伺う程度の視線しか向けようとはしなかった
「でさーそしたらナギちゃんが───」
目の前で親友の話をしている少女の名は聖園ミカ、一週間程前に酒泉に告白して振られた女である
酒泉は困惑している、確かに自分は〝これからもお友達でいましょう〟的な発言をしたがそれをすぐに有言実行しに来るものなのかと
それはそれとしてミカからの呼び出しに応じなかったら振った事を意識しているように思われて不服だからと素直に応じた酒泉も酒泉でおかしいが
(……まあ、向こうが気にしてないならこっちも必要以上に意識する必要はないか)
ミカの方から以前の距離感で接してくれるならありがたい、これで自分も気負わずに済む
思考を切り替え、酒泉も以前と同じ距離感で接する事に決めた
「ちょっとー?聞いてるのー?」
「はいはい聞いてますよー、桐藤さんがどうのこうのって話でしょ?」
「あっ!?さては適当に聞き流してたでしょ!?」
考え事をしていたせいでミカとの会話に集中できていなかった酒泉は言葉を詰まらせて視線を逸らす
その態度自体が指摘を認めているようなもので、適当に話を流されたミカはジト目で酒泉を睨みながら恨み言を吐く
「こんな可愛い女の子を前にして別のこと考えてたんだ……ふーん……?」
「自分で可愛いとか言わないでくださいよ痛々しい……まあ、そこは認めますけど」
聖園ミカという少女は折川酒泉の目から見ても美少女だ
なんだかんだで喧嘩相手止まりの存在だったとしても改めて言われればそれを意識する程度には可愛いと思っている
だからこそ、今の酒泉の本心から出た言葉にミカは引っ掛かってしまった
「……そんな酒泉君も〝可愛い〟って認めてるような女の子の告白を蹴った男がいるらしいけどね」
「ごふっ!ごほっ、けほっけほっ!」
突然の奇襲にむせる酒泉
彼は完全に油断していた、聖園ミカはとっくに告白の件など吹っ切れていたとそう思い込んでいた
しかし全然そうではなかった、ならば必然的に気まずい空気も戻ってきてしまう
「……い、今のはズルくないですか?」
「…………」
ミカは酒泉の言葉に答える事なくただ見つめ返すのみ、それを受けた酒泉は一度呼吸を整えてから状況を整理する
まず、目の前の少女は未だに告白の件を引きずっている。それなら何故自分に会おうと思った?気まずくなるのが嫌じゃないのか?
「……本当は〝勿体無いことしたなー〟って思ってたり?」
「んな訳……つーか相手が聖園さんだったとしても女性からの告白を〝勿体無い〟扱いで済ませるほど俺の性根は腐っちゃいませんよ」
折川酒泉は義理堅い、相手が美少女だったとしてもそれだけが理由で告白を受け入れるような軽い男ではない
実際にミカや正義実現委員会の生徒の告白を断っているのがその証拠である……が、ミカはそれを知っていても尚話を進める
「嘘だー、本当はちょっとくらい思ってたんでしょ?」
「だから思ってないって────」
「そ、その……今なら撤回してもまだ遅くないけど?」
「……はい?」
「だ、だから!告白を断ったこと……やっぱナシにしてもいいけど……」
少しずつ小さくなる声量、それでも酒泉は最後まで聞き取る事ができた
彼の無いに等しいクソボケたざこざこゴミカス脳味噌にしては珍しく、彼女はまだ自分の事を諦めていないであろう事を悟らせた
「……いや、今更取り消したりしませんよ」
が、それはそれとしてしっかりと断る
相手がそれを認めていようと、彼は自分自身が認めない限り決断を覆したりはしない
女性関係に対してだけは妙に律儀な男である、ただし糖分が絡むと手のひらが某絶対殺すスタンド並に回転する可能性もあるが
「ほ、本当に?今ならまだ間に合うよ?特別にお試しキャンペーンとかでもいいけど?」
「しつこいですって……てかお試しキャンペーンって何ですか、もっと自分の身体を大切にしてくださいよ」
「……わ、分かってるって……他の人には言わないもん」
本日の〝お前が言うな〟発言を平然と吐き捨てる酒泉、それに対してミカは若干の落ち込みを見せながら答える
彼は気付いていない、ミカのその言葉には〝貴方になら構わない〟という思いが込められているという事を
「……あの、この際ハッキリ言っておきますけど俺が聖園さんの事を恋愛対象として見られるようになる確率はかなり低いと思いますよ?」
「わ……私に魅力がないから……?」
「いや、魅力は全然感じてますし滅茶苦茶可愛いとも思ってますけど……でも、やっぱどこまで行っても好感度が友愛を越える事はないというか……そういうビジョンが見えないというか……」
「……喧嘩相手とか悪友とか、そんな風にしか感じないってこと?」
酒泉が無言で頷くとミカは悔しそうに膝の上で拳を握った
それはもっと早く素直になろうとしなかった過去の自分自身への怒り、それと未だに完全には素直になりきれていない現在の自分自身への怒り
自覚していても改善するのは難しい、だってずっとそうやって接してきたのだから
「あ、それと話は逸れるんですけど……暫く俺のことを呼び出すのは控えてもらえませんか?」
「……え!?な、なんで!?もしかしてしつこくしすぎて会うのが嫌になっちゃったとか────」
「違います、今更そんな事は思ったりしません」
不安げな表情でミカが立ち上がりかけるが、酒泉は即座にミカの言葉を否定して再び座らせた
「ウチの議長からの命令なんすよ、ティーパーティーの元トップと関わってると色々疑われるからもう少し控えろって……ったく、テメェみたいなカスタヌキと違ってこっちは何も企んじゃいないってのに」
「……私がぶん殴ってこよっか?」
「それやったら本格的に戦争が起きますよ……それにもし本気でぶん殴りたくなったら俺が自分の手で顔の形が変わるまでぶん殴りますから」
頭の中に大嫌いな上司の顔を思い浮かべながらげんなりする酒泉
そろそろ偶然を装って角でもへし折ってやろうかと思っているのは秘密である
漢折川、相手が上司だろうと女だろうと敵ならば容赦はしない性格である
「まっ、そういう訳で暫く互いに距離を置きましょうよ……そっちだって心を整理する時間は欲しいでしょう?」
〝それに下手に逆らって目をつけられたくないし〟と付け加える
近々ゲヘナでは自校の生徒達や他の権力者達を集めたパーティーが開かれる予定がある
そんな忙しい時期に酒泉が問題を起こしてしまえば責任は風紀委員会の方に押し付けられ、何故かパーティーでピアノを弾くことになったヒナの練習を妨げてしまう事にも繋がるだろう
「……分かった、じゃあ……そっちの都合が良くなるまでは我慢してあげる」
「助かります……っと、じゃあ俺はそろそろ仕事の時間なんで帰りますね」
「あ、うん……ね、ねえ!私が支払い済ませとこっか?」
「別にこんぐらい自分で払いますよ……」
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「酒泉ってもしかしてピアノ弾けたりする?」
「なんで?」
「いや、この前音楽室で鍵盤ハーモニカ使って遊んでたから」
聖園さんと解散した次の日、自分のクラスでスマホ弄りながらぐったりしてると隣の席の子が話し掛けてきた
「本格的なのは無理だぞ、長い間練習してないし」
「へー、じゃあ練習したら弾けるんだ」
「……弾かんぞ」
なんとなく……空崎さんの練習に役立ちそうな物を探してたら偶々見つけたから本当になんとなく吹いてみただけだ、高校にも鍵盤ハーモニカって置いてあるんだな
指は意外と動いた、まだ記憶に残ってる曲ならなんとか弾けなくもないってレベルだけど
……まあ、当日ピアノを弾くのは空崎さんだし俺は練習する必要ないか
「なに?さては影のある男属性の次は音楽属性でも身に付けようとしてんの?」
「モテる為に必死だねー」
「そんなんじゃなっ……何だよ影のある男属性って」
「知らんの?最近酒泉君よく思い詰めたような顔するようになったじゃん、だから一部では〝またクソボケが事件に巻き込まれた〟とか〝またクソボケが女の子を堕とした〟とか言われてるんだよ?」
いつの間にか隣の席の奴の友人達が集まってきていた
思い詰めた顔……ああ、あれか、聖園さんに告白された辺りの事か
あの後も自分なりに色々と考えてみたが、やはり聖園さんの俺に対する想いが本気だとはどうにも思えなかった
昨日の様子を見る限り恐らく本気なんだろうけど……今までの付き合い方が煽り合いばっかだったせいで〝あの聖園さんが俺を?ないない〟という先入観が先に来てしまう
「……いや待て、誰だ俺の事をクソボケ呼ばわりした連中は」
「私だ」
「私もだ」
「あと私も」
「じゃあ私も」
「お前達だったのか」
「暇を持て余した」
「神々の────じゃねえわボケ、あと最後〝じゃあ〟ってなんだ〝じゃあ〟って」
「クソボケにボケって言われた……」
「最低だぞクソボケ!」
「終わってるぞクソボケ!」
「暇だぞ構えクソボケ!」
「女の子に暴言を吐くんじゃないクソボケ!」
寄って集って個を叩く、少数派が押し潰されるのはいつの世も同じか
しかし俺は諦めない、例えクラス中や風紀委員会全体からクソボケ扱いされようとも俺が認めない限り俺はクソボケじゃない
どっかのバナナも負けを認めなければ負けじゃないみたいなこと言ってたし
「暇ならババ抜きでもやるー?」
「さんせーい……あ、でもババ抜きだと酒泉無双が始まっちゃうから却下」
「細かい表情の変化とかでもバレちゃうもんね……人の顔をジロジロと見て」
「えっち!」
「すけこまし!」
「変態!」
「おーおー好き勝手言いなさる……つーか俺も参加すること前提なのかよ」
「じゃあ代わりにUNO配るねー」
「「「はーい」」」
「人の机で勝手にUNO始めんな帰れ」
学校あるある・席を女子に占領されて座れなくなる
しかし俺の場合は俺が居てもお構い無しに机を占領されるという酷い仕打ちを受けている、多分訴えたら勝てる
「ほら解散解散、遊ぶなら俺以外の席で遊べー」
「えー?だって汚していい席ってここしかないしー」
「お?喧嘩か?喧嘩だな?よし表に出ろ」
「まあまあそう怒らずに……私達だって酒泉が心配で声を掛けてあげたんだよー?」
「……心配?」
「そーそー!最近の酒泉、話しかけてもどこか上の空なんだもん」
……そうか、俺は自分で思っていた以上に聖園さんからの告白の件を真剣に考えていたんだな
自分だけじゃ気付けない事に気付けた、やはり友達は大事だ
「ありがとな、皆……せっかくだし遊ぶついでに一つ相談事してもいいか?」
「まっかせなさい!」
「仕方ないなぁ……」
「なになに?酒泉が私達に相談なんて珍しいじゃん」
「内容と対価による」
「最後の奴以外ありがとな……じゃあ早速だけど皆は今までずっと友達とか腐れ縁だと思ってた相手に告白されたらどう思う?あ、ちなみにこの話は間違ってもお前らの事ではないから安心して答えてく────」
「「「「ウノォ!!!」」」」
全員からカードを顔面に叩きつけられた、解せぬ
トリニティ総合学園シスターフッド・歌住サクラコ~握手会~
通常モンスター
レベル4/光属性/天使族/攻1200/守2100
恐ろしさのあまり誰も近寄ろうとしない待機列、そこに一番最初に並んだのはあのゲヘナの少年だった
その瞬間、彼女の笑顔は花の様に咲き、それに釣られて一人また一人とファンが並び始めたとか