通常モンスター
レベル4/光属性/天使族/攻1200/守2100
(裸で目覚めた私、隣で眠っている裸の酒泉さん……つまり、昨日の出来事は夢ではないと………………あ……ああああああああ!?どうしましょうどうしましょう!?私、昨日は欲に負けてあんな事を……あんな……こと……を……キャー!?キャー!?)
(何が〝二人だけになれる所でもう少し語り合いませんか?〟ですか!?しかも始めは〝痛い痛い〟と騒いでおきながら最後の方にはアイドル衣装に着替えて〝貴方だけのアイドルですよ♡〟だなんて……は、はしたないですよ歌住サクラコ!)
(うぅ……あの衣装は告白に成功した後で初めて出会ったあの日のライブを再現する為に持ってきていた物なのに……これでは酒泉さんに失望されて……で、でも酒泉さんも受け入れてくれましたし……合意と受け取ってもよろしいんですよね……?)
(後は組織の長として周りには報告しておかなければ……で、ですが……あうぅ……マリー達になんとお伝えすればいいのやら……)
(まさか陸八魔さんに一杯食わされる日が……なんて、昔は負けてばっかだったし今更そんな珍しい話でもないか)
先日の出来事を想起しながらベッドの上でダラける酒泉
明日は万魔殿主催のパーティー当日だというのに何もしていないのは、先日の出来事の後他の風紀委員達から直々に〝明日は休め〟と命じられたからである
その場にヒナは居なかったものの、既に事情は連絡済みだった
(あー……こんなゆっくり休めたのは久し振りだなー)
直後に〝身体は〟と付け足す酒泉
肉体的な疲労は半ば強制的に休まされた事によってある程度回復している、しかし精神的な疲労に関しては依然変わらず
(……くそっ!なんで俺があの人の事なんかでこんなに悩まなくちゃならないんだよ……!)
聖園ミカが折川酒泉を好きだと認めなかったように、折川酒泉も聖園ミカの心配をしていると自分で認めようとはしない
互いに複雑な感情を抱いている二人は未だその件を引きずり続けていた
(あーあ、明日は折角のパーティーなのになぁ…………聖園さんの件がなけりゃ素直に楽しめるのに)
万魔殿の開くパーティーなんて信用できない、空崎さんにピアノの担当を押し付けた事も気に入らない……が、それはそれとして酒泉にとって祭り事は楽しみでもあった
憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれるかもしれないほど盛大なパーティー、その前日だからか酒泉は憂鬱な気分と楽しみな気分の双方を抱えているというぐちゃぐちゃに入り交じった心情をしていた
「……全部聖園さんのせいだ」
恨み言を女々しく吐き捨てると、酒泉は自身の顔を隠す様に近くのぬいぐるみに自分の顔を埋める
いつだかゲームセンターでとある少女の為に乱獲したスカルマンのぬいぐるみ、この部屋で折川酒泉の弱音を聞いているのは彼(或いは彼女)のみだ
「そうだ、ゲヘナが嫌いなら俺のことだって嫌いに決まってる。それを何度も目の前で言われてきたんだしやっぱり俺は何も悪くない」
責任の全てを相手に押し付け、自分には一切の非が無いと切り捨てようとする
しかしそれが出来れば最初から悩んでいる筈もなく、冷徹に成り切れない自分自身を酒泉はただ恨む事しかできなかった
「…………だあああああもうっ!なんであんな回りくどいムーブばっかしてたんだよあの人はぁ!あの子みたいに最初から素直に告白してくれたらこっちだって素直に信用できたのに!」
拗らせた感情を正常に戻すのは難しい、特にゲヘナ嫌いをずっと公言してきたミカにとってそれはほぼ不可能に近かっただろう
むしろあの一瞬だけでも素直に〝好き〟だと伝える事ができたのは奇跡にも等しいはず……その奇跡を自力で起こそうとするのが遅すぎはしたが
「……つーか、仮に俺が告白を受け入れていたとしても周りの連中はどうすんだよ。トリニティの元トップ……しかもゲヘナ嫌いのあの人がゲヘナの一般生徒と付き合うなんて話が広まったらこれまで以上に厳しい目を向けられるだろ」
トリニティの生徒達から裏切り者の魔女扱いされている彼女がゲヘナ生と付き合う事になった場合、当然の様に反感を買うことになるだろう
今ですらトリニティ内での彼女に対する当たりは強いというのに、それが理解できないほど聖園ミカも馬鹿ではないはず
(……それか、そんな事とかどうでもいいくらい俺の事が好きだったとか────いやいやいや、あの人に限ってそんな……)
その可能性は十分にあり得る……というよりも実際に告白されているのだからそう考えるのが妥当だろう
だというのにその考えが思い浮かばない、酒泉の思考回路は未だ聖園ミカに自身のイメージを押し付けていた
「…………もう駄目だ、何も分からん」
最終編対策の会議の時と同じくらいか、下手すればそれ以上に頭を悩ませる問題
正義実現委員会の生徒に告白されるまで恋愛とは無関係だった酒泉にとって今回の件はかなりの難問だった
……まあ、恋愛とは無関係と言っても酒泉に想いを抱いていながら告白できていなかった女の子は彼の前世にも居ただろうが
「……でも、このままじゃ駄目だよなぁ」
振った事は後悔していない、傷付けるような振り方をしたのはやり過ぎた
その点を反省した酒泉は未だ心の中で言い訳を並べながらも何をすべきか悩み────
「ん?…………うげっ」
ぽこっ、と軽い音が鳴るスマホ
思わず零れてしまった引くような声
画面に映ったのは────聖園ミカからのモモトークでのメッセージ
「なんで、こう……都合良く……」
望んでいた展開を会いたくない人物からもたらされた、その事実に酒泉は不安と歓喜の両方の感情を抱いた
場所と時間が書かれているそのメッセージだが、日付は今日を示していた
「……相変わらず自分勝手な」
〝いやだ〟と、たった三文字のメッセージを打ち込み、そのまま送信しようとする酒泉
「……っ」
だが、その指は直前で止まり気付けば無意識の内に削除ボタンを押していた
そして今度は〝わかりました〟の六文字を簡潔に打ち込み、一旦深呼吸をしてから送信した
「……やっば、送っちまった」
それから僅か数秒後に押し寄せる後悔、この〝後悔〟の二文字をあの告白から彼は何度思い描いたことか
それでも進まなければなるまいと酒泉は軽い手荷物と銃を持って立ち上がると、気乗りしない心とあまり進もうとしない自らの脚を奮い立たせる為に自身の頬を叩いた
「……よし、行くか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ぅ」
自然と零れてくる涙を拭いながら酒泉君と一緒にコスメを買いにいったあの日の出来事を何度も思い出す
勇気を出して、告白して、振られて……
「……あそこで諦めておけばよかったのかな」
そうすれば少なくともあれ以上辛い思いをすることはなかったのに、そんな後悔が今更溢れてくる
一線を越える選択をしたのは私自身、その選択すらも間違いだった
何度も何度も間違いを積み重ね、そして最後に────酒泉君に失望された
「……あはっ……それか、最初から失望されていたのかも」
私が気付いていないだけで、酒泉君からしたら私なんか興味ないどころか大嫌いな相手だったのかもしれない
今まで何度も会ってくれていたのは酒泉君の優しさから来る同情心ってだけで、本当は私なんかとは一秒も話したくなかったのかも
そんな相手に散々罵られては余計に嫌ってしまうのも無理はないだろう
「……これ以上しつこく付き纏っても、もっと関係が悪化するだけだよね」
だけど、今ならまだ間に合う
酒泉君は私なんかに会いたくないかもしれないけど……それどころか失望しちゃってるだろうけど、今から手を引けばこれ以上憎まれたり嫌われたりする事はないから
……それでも〝次〟振られたら諦めようと考えてしまっているのは……未だ私が希望を捨て切れていない未練がましい女だからか
「……あと一回……本当にこれで最後……だから」
どうせ次も拒絶されるのだろう
恋心を疑われて、失望の眼差しを向けられて……でも、ここまで好感度が落ちてしまえば今更何かを恐れる必要もない
「…………ううん、やっぱり怖いなぁ」
嘘だ、本当は現実を突きつけられるのが怖くてたまらない
モモトークに表示される、数時間前に私が送ったメッセージ
〝会ってくれるか〟という旨に対して酒泉君は〝わかりました〟と返してくれた
まだ完全に見捨てられてはいなかった事への嬉しさと再び拒絶される事への怖さ、その両方がぐちゃぐちゃに混ざって私を苦しめる
「……ここで突き放してくれてた方が楽だったかな」
自分からメッセージを送っておきながらなんて都合の良い考えをしているのだろう……こんな自分勝手だから振られたんだよね、きっと
でも……もう大丈夫だよ、酒泉君。貴方の嫌いな女はもう貴方の前に現れないから
今日で最後、全部終わりにしよう。振られて、一人で泣いて、後悔を抱えながらもそれに耐えて頑張って生きていこう
酒泉君が他の女の子と一緒にいるところを目撃しちゃう時もあるかもしれないけど、その度に〝最初から素直になっていれば私があの子の代わりに立っていたかもしれないのに〟と枕を濡らすだろうけど
これも全部私自身の行動が招いた結果、だから────
「────残念だけど、貴方は酒泉には会えないわ」
人の覚悟を踏みにじるように、冷たい声が上から降り注いだ
「貴女は……」
「久しぶりね、聖園ミカ」
「……うん、久しぶりだね……私は会いたくなかったけどね、風紀委員長さん?」
「奇遇ね、私もよ」
近道の為に通った落書きだらけの無人街、トリニティとは正反対の風景で空崎ヒナと出会った
……まあ、外見最悪のゲヘナと違ってトリニティは内側が腐ってるけどね
「それで?どうして貴女がここにいるのかな?私、貴女に構ってる暇はないんだけど?」
「それは酒泉に会うという約束があるからかしら」
「……どこでそれを?」
「大した事はしていないわ、酒泉の様子に違和感を覚えたからここ最近の彼の行動を徹底的に調べあげただけよ」
「わーお、ストーカーってやつ?」
「いつの間に危険な事件に首を突っ込んでいた……なんて事もあるから」
どうやら酒泉君に対する認識は私もあの子も似たようなものらしい……ただし、酒泉からの認識は全く違うだろうけど
酒泉君に嫌われてる私、酒泉君に好かれているあの子、そこには大きな壁が確かに存在していた
「酒泉の様子がおかしくなり始めたのは貴女が酒泉と接触した日から……しかも、ここ最近は何度も酒泉と二人きりで会ってる」
「難癖?それだけで私が原因だって決めつけないでくれる?」
「勿論、私だって他の原因がないか探ってたりしたわ。例えば……万魔殿が酒泉に嫌がらせをしてる可能性を考慮して、それに気づかない振りをして後から集めた証拠を突きつけてあのタヌキ達を一気に潰してやろうとか」
「……ゲヘナは相変わらずだね」
万魔殿の議長、羽沼マコト
私が言えた義理じゃないけど、あの女は味方からも嫌われているらしい
「丁度それを画策していた時にマコトから〝聖園ミカが折川酒泉と接触しようとしている〟って連絡が来たの……ご丁寧に居場所付きで」
「……なんかカメラ多いなって思ったらそういう事だったんだ」
別に監視カメラを気にして無人街まで移動してきた訳じゃない、本当になんとなくそう思っただけ
言われてみると改めて気になって周囲を見渡してみる……が、黙視で確認できたのは全て〝壊された後の〟監視カメラだけだった
「……貴女がこれをやったの?」
「ええ」
「なんで?後ろめたい事でもするつもりなの?」
「あのタヌキの事だもの、貴女と会ってる場面を撮られたら後からどんな難癖をつけられるか……例えば〝万魔殿と犬猿の仲である風紀委員会のトップがゲヘナ嫌いの元ティーパーティーと密会して何かを企んでいる〟とか」
「……自分達でカメラ仕掛けてまでやる事なの?それ」
「やるわ、馬鹿だもの」
「そっか、馬鹿なら仕方ないね」
考えの浅い人間は逆に何をやらかすか分からない……私みたいに
「……で?万魔殿の仕掛けたカメラを破壊してまで私と二人きりで話したい事って何なのかな?悪いけど告白なら受けられないよ?私、そっちの気はないし」
「気色の悪い事を言わないで、私はただ酒泉と貴女の間に何があったのか聞きにきただけよ。何も無いのならそれはそれで構わないわ」
「何かあったとしても、それを貴女に話す意味は?」
「もし本当に貴女が原因だったのなら酒泉に会わせるわけにはいかないわ」
「そっか……じゃあここまで正直に答えてくれたお礼に私も正直に答えてあげる、多分貴女の推理は合ってるよ」
「……」
「酒泉君の様子がおかしいのは、多分私が告白したせいだから」
「……は?」
二言目には酒泉、酒泉、そして私が告白したと伝えた途端に今の反応
良かったね酒泉君。貴方と風紀委員長、相思相愛みたいだよ?……私なんかと違って
まあ、それも酒泉君側に恋愛感情があった場合の話だけどね……それでも、酒泉君の中では風紀委員長が一番の存在である事に変わりないけど
「まあまあ、そう怖い顔せずに……安心しなよ、私は振られちゃったからさ」
「……本当に?本当に振られたの?」
「そんなに気になるんだったら本人に聞いてみたら?それともトリニティの魔女はそんなに信用できないって?」
「……そういう事じゃないわ。私はただ、振られた後も普通に接しようとしている貴女が信じられないだけ」
ああ、そういう事か。そりゃ普通は気まずくなって会いにいけなくなったりするもんね
でも、私にはどうしても会わなくちゃいけない理由がある
「うん、だって私────もう一回酒泉君に告白するつもりだもん」
「……一度振られているのに?」
「別にいいじゃん、酒泉君に振られた正実のあの子だってずっとアタック続けてるんだし」
「そうね……でも、貴女があの子と同じ考えだと私には到底思えないわ」
「……どうして?」
「だって貴女────どこか諦めたような目をしてるもの」
……あはは、やっぱり学園のトップともなると洞察力もかなりの物なんだなぁ
そうやって見透かしたような目で見られるの────凄いムカつく
「……うん、正解だよ。私はもう諦めてる、どうせ酒泉君は受け入れてくれないだろうって理解していながら、それでも諦め切れず最後の告白をして、それで……キッパリ振られようと思ってる」
「そう……最初から負け戦のつもりってわけね」
「そゆこと……だからさ、そこ退いてくれない?私はさっさと酒泉君に振られたいんだけど?」
「断るわ」
「……なんで?競争相手が一人脱落するんだよ?貴女にとってはメリットだらけじゃん」
理解できない、一度告白に失敗した女の二度目の告白が成功するとでも思っているのだろうか
正実のあの子ですら未だ酒泉君を堕とせていないというのに何をそんなに心配して────
「だって貴女、自分が楽になる為だけに酒泉を利用するつもりでしょう?」
「────は?」
利用?私が?酒泉君を?
「……面白い冗談を言うね」
「酒泉が貴女の告白を断ったというのは恐らく本当の話……でも、その事に関して酒泉が何も感じてないはずがない」
「……うるさいなぁ」
「酒泉にとって貴女は恋愛対象ではないのだろうけど、それでも人の好意を拒絶して何も思わないほど冷たい人間なんかじゃない」
「……黙ってよ」
「今でも酒泉は貴女の告白を断った事を引きずっているはずよ、だって初めて酒泉に告白した子の事まで未だに引きずっているのだから────」
「黙れ!!!」
ムカつく、ムカつくムカつくムカつく、本当にムカつく
酒泉君の事を完璧に理解しているような口振りが、酒泉君と通じ合っているようなその顔が
私と違って好かれてる貴女のその余裕が、私を馬鹿にしてるようなその態度が
気に入らない、目の前のこの女が気に入らない
「ねえ、そこ退いてよ」
「退かない、ただでさえ思い悩んでいる酒泉を貴女の我儘で苦しませる訳にはいかないわ」
「私が用があるのは酒泉君だけなの」
「私には関係ないわ」
「……力ずくで退かすよ?」
「〝今の貴女〟にそれができるのかしら?……自ら負け犬であることを受け入れてしまっている貴女に」
……ああ、そう、そっか
私の考えは間違いではなかった、やっぱりこの子は────
「そっか、じゃあ折るね」
「折れてるのは貴女の方でしょう?」
────私を馬鹿にしてるんだ
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「キキキッ!そこを動くなよ!折川酒泉!」
「はーいできるだけ抵抗しないでくださいねー……仕事増やしたくないんで」
どうしよう、面倒事を解決する為に動いていたらもっと面倒な奴に絡まれた
俺の視線の先に立っているのはスカポンタヌキと虎丸に乗ってるゲヘナアカモップ、そして大勢の万魔殿の生徒達
その中心に立っているタヌキは何故かドヤ顔で俺に指差してきた、人に指差すなお前の目に指突き刺すぞ
「貴様には反逆罪の容疑が掛かっている!よって大人しく拘束されてもらおうかぁ!」
「……はぁ?反逆罪?」
「おや?以前〝聖園ミカに接触するな〟と命じた筈だが?それを破って聖園ミカと接触を計ろうとするとはなぁ……懲りない男だな貴様も!」
懲りない云々に関してはコイツだけには言われたくない……てかなんでこのタイミングで捕まえにきた?
相変わらず訳の分からない事を考える目の前のタヌキに困惑してしまうが、コイツの事だしどうせ下らない理由で動いてんだろうな
「……つーか、さっきからちらほら視線感じてましたけどやっぱアンタらの差し金だったんですね」
「人だけじゃないぞ、この辺り一帯の監視カメラもだ!」
「……そっすか」
監視の目を避ける為にわざと人気の少ない道を選んで聖園さんの指定した場所に向かおうとしたが……それを読んで事前に色んな道に監視カメラを仕掛けておいたのか
住宅街でゴタゴタを起こして注目を浴びたくない、そんな理由で使われなくなった撤去予定の旧・銃器類製造工場を抜けようとしたのが間違いだったか(ちなみに新しく建てる予定だった工場は建築中に温泉開発部に破壊されていた)
……そこまでして俺を監視する理由ってのは?〝聖園ミカに接触するな〟ってのは単に疑われるような真似はするなってだけの注意喚起だった筈では?そもそもどっから聖園さんと会おうとした事がバレた?
「ふふふっ……貴様が今考えている事は分かっているぞ、大方〝何故自分の動きがバレた〟と言いたいのだろう?答えは簡単だ!ゲヘナ中に仕掛けた監視カメラの映像を常に万魔殿でチェックし、聖園ミカと貴様が同じ時間帯に外に出たタイミングを狙って待ち構えていただけだ!」
「……それさ、もし聖園さんが偶々ゲヘナに用があっただけで俺も偶々買い物に行こうとしたってだけだったらどうするつもりなんだ?」
「その心配はない、貴様ら二人の向かう方向が同じである程度距離が近付けばそれだけで容疑者扱いするつもりだったからな」
「冤罪ふっかける気満々じゃねえか、上層部がごりごりの犯罪してんじゃねえよ」
「その犯罪を咎められる人間がこの場にいるか?」
「……なるほど?」
具体的な証拠なんか無くても最初からちょっと近付いただけで捕まえるつもりだった……って訳か
横暴だ何だと喚いたところでコイツは(一応)ゲヘナのトップ、揉み消すも知らんぷりするも自由自在だ
……相変わらずめちゃくちゃな奴だなぁ
「そんで?俺を捕らえてどうするつもりなんですか?元より従うつもりはありませんけど……聖園さんとの待ち合わせまでまだ時間は残ってるんで暇潰し程度に聞いてあげますよ」
「聖園ミカとの待ち合わせ、か……キキキッ!安心しろ、その約束はすぐにでも無かった事になる」
「はあ?」
「何故なら────ヒナが奴を止めに向かってるからな」
「……は?空崎さんが?」
コイツ、本当に何を考えてるんだ?空崎さんを使ってまで聖園さんを止めようとするなんて……まさか、本当に俺が聖園さんと共謀してると疑ってるのか?
……いや、だとしたら接触禁止令なんて生易しい命令を下さずにもっと厳しい制約を俺に強いてくる筈だ
「ヒナは貴様が他校の生徒と深く関わろうとする事を良く思っていないだろうからな……止めに行くのも当然だろう」
「……あの人がそれだけで引き受けるはずないだろ、どうせ他にも何か吹き込んだんだろ?」
「さて、どうだったか……ああ、確か〝これ以上折川酒泉が聖園ミカと関わろうとするなら此方も監視を強化しなければならない〟と伝えたような気がするな。部下の潔白を証明する為に密会相手を止めに行くとは……部下思いの良い上司じゃないか!」
なるほど、つまり空崎さんの優しさを利用したと
正直、この一点だけで死刑に値する罪だが……空崎さんの行動にしては若干疑問に思う部分がある
それは俺に対して何も言ってこなかった事だ
俺は仕事が忙しかったり空崎さんはピアノの練習があったりと最近は一緒に居られる時間があまり無かったが、それ抜きに考えても俺になんの注意もしてこないのは……なんというか……空崎さんらしくない
一時期なんて俺がプライベートで他校の生徒に会おうとしただけで根掘り葉掘り質問してくるほど用心深かったというのに……そんなあの人が俺に直接尋ねる事もせず素直にタヌキの言葉を信じるのか?
……タヌキに命じられるまでもなく、空崎さんの方も個人的に聖園さんと会いたい理由があった……とか?
……まあ、今はそんな事を考えていても仕方な────
「欲を言えばそのまま戦闘にでも発展して適当に暴れてくれると有難いのだが……」
「……どういう意味だ?」
何となく呟いただけであろうタヌキの独り言が気になって尋ねてみる
するとタヌキは耳障りな笑い声をあげながらアホ面で自らの計画を語り出した
「もし奴がトリニティの生徒と争ってくれれば此方は〝他校との関係が悪化する様な事件を起こした〟とヒナの事も適当な理由でついでに拘束できるのだからな」
「……そうなったら困るのはアンタらでしょ、空崎さんピアノ弾けなくなるんですから」
「心配するな、拘束するのはパーティーの直前までだ……最も、拘束されていてはろくに演奏の練習も出来ないだろうしパーティー当日には恥をかく事になるだろうがな!」
「やっぱりそんな下らない理由で────あん?」
今のタヌキの言葉である可能性が浮かび上がる
……いや、まさかな?流石のゲヘナバカマコトでもその可能性はあり得ないよな?
「あの、ここ最近風紀委員会に仕事を押し付けていたのももしかして……空崎さんの練習時間を削ってパーティーで恥をかかせる為だったりします?」
「その通りだ!」
「……全部?全部その為だけに?」
「ああ!」
マジかコイツ、なんでこんな自信満々に答えてるんだ
本当に嫌がらせの為だけに全てを懸けてるような人間なんだなコイツ
「……じゃあ、俺に冤罪を掛けようとしてたのは?今こうして俺を捕まえようとしてるのは?」
「私がヒナに手を出そうとすれば貴様は必ず邪魔をしてくるだろう?……だが!逆に言えば貴様自身に対する嫌がらせに関しては貴様はあまり気にしないだろう!つまり折川酒泉に気取られないように空崎ヒナの練習時間を奪うなら貴様を中心に嫌がらせを仕掛ければ良いだけの話よ!キキキッ!」
「……」
「貴様は仲間に心配掛けさせまいと自身の内に悩み事を隠してしまうタイプの人間だからな!」
つまりなんだ、あれか?俺への嫌がらせを隠れ蓑に本来の目的である空崎さんへの妨害も行おうって?
駄目だ、頭が痛くなってきた、なんでこう、コイツは、反省できない
「ヒナが聖園ミカとの戦闘行為に発展しなかったとしても、それはそれで適当に〝風紀委員長が元ティーパーティーと接触して何かを企んでいる〟とそれっぽい理由で拘束すればいいだけだからな」
「アンタが空崎さんに〝聖園ミカを止めろ〟って直接命令した以上、その理由は使えないだろ」
「何を勘違いしている?私は命令などしていない」
「……は?」
「私はただ〝折川酒泉が風紀委員会や万魔殿の目を掻い潜って聖園ミカと接触しているらしい〟と伝えただけ、つまりあの女の元へ向かったのはヒナ自身の意思だ」
コイツ……さっきから下らない屁理屈ばかりペラペラと……ここまで言われ放題だと流石に頭に血が上ってしまう
どうする?一度本気で────いや、落ち着け。ここで暴れたらそれこそ奴の思う壺だ
「ふふふっ……これも全て貴様のせいだぞ、折川酒泉」
「……今度はどんなトンデモ理論を出すつもりだ?」
「最近の貴様は常に私の事を舐め腐っていた……そこで私はこう思った!〝そろそろ折川酒泉に一泡吹かせてやろう〟とな!つまり折川酒泉!貴様が私の事を馬鹿にしたりしなければこの様な事態は避けられたのだ!」
「……アンタ、そんなに棚の上に物を置くのが好きなのか?」
相手がまともな人間ならこっちだってまともな対応をするさ、だがコイツはいつまで経っても考えを改めようとしない人間だった
別に改心しろとまではいかない、ただほんのちょっと自分の言動や行動に問題は無いか考えてくれるだけでもよかった
……それすらしないなら敬う必要も無いだろう
「さあ!話は終わりだ!ここは大人しく拘束されてもらおうか、折川酒泉!」
「……馬鹿馬鹿しい、俺は勝手に行かせてもらいますよ────」
「大人しくしろと言ったはずだが?」
ガチャ、と音を立てながら万魔殿の生徒達の銃口が此方へ向けられる
この場に羽沼さんに対して意見する者は誰一人として存在しない、棗さんですら面倒そうにしているだけだ
「安心しろ、パーティーの前日に風紀委員長が捕まったとなれば学園が混乱に陥るかもしれないからな……一般の生徒達には〝空崎ヒナが演奏から逃げ出した〟と伝えておいてやろう!」
駄目だ、まともに話せる相手じゃない
俺が精神的に疲れているというのもあるが、それ以上に今回のタヌキは本当に頭が狂ってる
「そして折川酒泉!これに懲りたら貴様もこれからは態度を改めるんだなぁ!さもないと貴様のお仲間も今回の様に被害を被る事になるかもしれんぞ?」
俺一人なら別に構わなかった、だけどコイツは空崎さんを利用してまで俺に嫌がらせを仕掛けやがった
どうして風紀委員会はこんなふざけた輩に従わないといけないんだ?こんな奴、本当はすぐにでも力ずくで排除してやりたいのに
「さあ、連れていけイロハァ!奴には私に散々な物言いをしてきた事を牢の中でたっぷり後悔してもらわないとなぁ!その後は謝罪でも求めようか!安心しろ、反省文を書く紙は大量に用意してやる!」
「えぇ……私がやるんですか?風紀委員長の恨みを買うような真似はしたくないんですけど……」
話し合いの余地があるなら話し合ってるさ、でもコイツは風紀委員会への……空崎さんへの恨み妬みだけで行動している、そんな奴と話し合ったところで落としどころなんて見つけられるのか?
俺の仲間は、友達は、こんな奴の下らない考えのせいでいつも疲弊させられている
だったら俺だって容赦せずコイツらを……いや、駄目だ、ストレスが高まりすぎて思考がすぐに暴力的な方へと向かってしまう
落ち着け、苛立つな、力を抑えろ、すぐに暴力に頼ろうとするな、言葉を放棄すればそれはもうただの畜生以下の「しかしまあ、あの魔女も中々に役立ってくれたな」存在でしか……………………?
「権力を無くした女に興味など微塵も湧きはしなかったが……まさかこんな使い道が残っていたとはな、どんな残り物でも上手く調理すればそれなりにはなるな!」
「マコト先輩?ゲヘナのトップがその発言は流石に不味いのでは?」
「何を恐れる必要がある!この場にティーパーティーが立ち会っている訳でもあるまいし……いや、ここまで来たら最早聞かれていようと構うものか!」
「……私は止めましたからね?うっかり公の場で溢してしまっても知りませんよ?」
「キキキッ!折川酒泉!貴様も運が無いなぁ!?あの魔女に関わってしまったばかりにこうも呆気なく私の策に掛かるとは!」
「……って、聞いてないし……」
「おっと!私の事は恨むなよ?恨みたいのなら私ではなくトリニティに被害をもたらすだけでは飽き足らず貴様にまで迷惑を掛けたあの魔女を「お前さ、もう黙れよ」恨……め……………何だと?」
「…………」
「……折川酒泉、それはまさか私に対しての発言か?」
「……はぁ」
言葉を放棄したら畜生以下、しかし言葉を傷付ける事にしか使えない奴だってそれと同レベルだろう
少なくとも俺は目の前のコイツを立派な人間だとは思えない、手足があって喋る事ができるだけの〝ナニカ〟だ
「俺さぁ、漫画とかアニメで外道なキャラが味方になる展開って結構好きなんだよ」
「……は?」
「汚い手を使うキャラが活躍したり、散々非道な事をしてきたキャラがその性格のまま利害の一致で味方になったり……アニメ漫画に限らず特撮とかでもそういうのいるんだよ」
「……どうした?ストレスの溜まりすぎで気でも狂ったか?」
「でもさ、やっぱそういうのって二次元の向こう側の世界だけなんだなーって思ったよ」
不快、その二文字に尽きる
そういう外道なキャラが現実世界で味方サイドにいたとして、俺はそいつを好きにはなれない、この〝羽沼マコト〟という女が良い例だろう
悪のカリスマだとかダークヒーローだとか、そんなもんが通じるのはフィクションだから
前世では俺の中で比較的好ましい部類に入ってた便利屋68や美食研究会も、今世で直接問題を起こされる立場になってからは……まあ……嫌いとまではいかなくとも〝頼むから休ませてくれ〟という気持ちで一杯だ
〝学生だから仕方ない〟〝青春の物語だから仕方ない〟……どれだけ言い訳を並べても被害者や当事者からしたら関係無い話だ
透き通った世界観を言い訳に好き放題楽しんでる連中もいれば、透き通った世界観の裏でその皺寄せを押し付けられてる人達もいる
「喜べよ、羽沼マコト。お前の嫌がらせは大成功だ、現にお前のせいでここ最近の俺は全く休めていなかったからな」
「そうだろうそうだろう!私の作戦が完璧だったろう!?」
「ああ、完璧だ……完璧すぎて参っちまうよ」
思えば、俺はコイツに何かを期待していたのかもしれない
風紀委員会を憎んでいてもキヴォトスの危機にはなんだかんだで手を貸してくれるから、もしかしたら適度にあしらいつつ上手く付き合っていけるのかもしれないと
けど、その考えが間違っていた。画面の外から見た羽沼マコトは〝嫌な奴だけど非常時には頼れるカリスマキャラ〟だと思っていた、この世界で直接会って話してみたら実際にはただのクソ女だった
「なあ、お前本当にすげえよ。なんの罪悪感も責任感も湧かずここまで好き勝手できる奴なんて世界中探してもそういねえよ」
「ほう……急に褒め出すとは、今更私の偉大さに気づいたか?」
「……待ってください先輩、彼の様子が……なんか……」
「アリウススクワッドもケイさんもシロコさんも皆何かの被害者だった、でもお前だけは違った」
そうだ、全員何かに強いられて誰かを傷付ける道を選ばされてしまった……目の前のコイツを除いて
俺の認識が甘かった、互いの妥協点を見つけるとか譲歩できるところは譲歩するとか、そんな事を考える必要は無かった
コイツはアリウスと繋がっていた……だが、俺はコイツを裏切り者として考えるべきではなかった
だって────最初から〝敵〟だったのだから
「なあ、羽沼マコト。今からでもそこを通してくれないか?」
「断る!ここまで来て未だにそんな希望を抱いているのか?」
「知ってるさ、一応聞いてみただけだ」
そうだ、本当に〝一応〟だ
俺の中で答えは決まり切っている
「棗さん、羽沼マコトを説得してくれ」
「いやーそうしたいのは山々なんですが……こうなった先輩は私には止められないので……」
「じゃあ他の人達でいい、誰でもいいから羽沼マコトを止めてくれないか?」
棗さんはいつものように面倒臭そうな反応をするだけ、他の万魔殿メンバーに関しては俺に銃口を向けたまま反応すらしてくれない
それもそうか……そうなるに決まってるよな
「……まあ、今回は大人しく受け入れてもらって……先輩に代わって後で私の方から風紀委員会に謝罪「いい」しておきます……ので……はい?」
「いいよ別に、謝ってほしいわけじゃないし」
今までも何度か棗さんに謝罪された事はあったけどそれでも羽沼マコトの態度が改善された事はなかった、他の万魔殿のメンバーに関しちゃそもそも謝罪すらなかったりした
多分、この人達は羽沼マコトを本気で咎めるような真似はしないのだろう。何故なら俺達風紀委員には絶対に理解できないような謎の信頼関係があるのだから
だからどんな下らない嫌がらせも、どんな下らない計画も、口と態度では面倒そうにしておきながら最後には付き合うのだろう
俺達が勤しんでいる間に、俺達に苦が押し付けられている間に、キキキと不快な笑い声をあげながら、良い奴面しながら何も知らないイブキさんと遊んでいるのだろう
「多分、貴女達の〝ごめんなさい〟や〝すいません〟は全部〝鳴き声〟だから」
本気で申し訳ないと思っている訳じゃない、その謝罪に意味はない
だから、聞く必要はない
「羽沼マコト、本当に手を引くつもりはないんだな?」
「何度も同じ事を言わせるな!貴様が大人しく捕まればいいだけの話だ!」
「棗さん、虎丸の中にイブキさんは入っているか?」
「……い、いえ……この場にはいませんが……」
「そうですか」
「よかった」