〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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ここだけミカが告白に成功した世界線~その8~

 

 

 

「棗イロハ、アンタも大変だよな。上司の立てた下らない計画や無茶振りに振り回されてきたんだから」

 

「それは……」

 

 

ここで答えを間違えてはいけない、目の前に座っている男はいつでも自分達を殲滅できる男だ

 

イロハの脳はその思考で一杯一杯だった、しかしここで問答から逃げ出す訳にはいかない

 

 

「……確かに最初に突拍子も無い事を言い出すのは大体マコト先輩からです、ですが……それを見て見ぬ振りをしてきた私達がどうこう言える問題ではありませんから」

 

「そうか……その皺寄せを食らっている俺達を見てアンタはどう思ってたんだ?」

 

「〝お気の毒に〟やら〝可哀想に〟だとか思ってましたよ……他人事のように」

 

「罪悪感は?」

 

「……あまり湧きませんでした、私本人が仕事を押し付けていた訳ではなかったので」

 

いつもの様に風紀委員会にあらゆる苦を押し付ける己の先輩、それをイロハはどんな目で見ていたか

 

きっと、そこには同情程度の感情しか込められていなかったはず

 

 

「まあ、それもそうか。アンタはただ仕事をサボったりするだけで、直接俺達に迷惑を掛けてたわけじゃないもんな」

 

「……すみませ───「いい」……っ」

 

「さっきも言ったが謝罪は必要無い、俺は鳴き声を聞きたいんじゃなくて話し合いがしたいだけだ」

 

 

今まで一度として万魔殿から謝罪された事がない……という訳ではない

 

謝罪をされたこと自体はある、ただそれによって自体が解決した事も好転した事もないというだけの話

 

故に、酒泉にとって彼女達の〝ごめんなさい〟や〝すみません〟は大して反省するつもりも横暴な上司を止めるつもりもない〝鳴き声〟でしかない

 

 

「なあ、どうだった?」

 

「……何がですか」

 

「風紀委員が汗水流しながら働いて、血を流しながら戦ってる時に知らん顔して好き勝手して……楽しかったか?」

 

 

ここで〝はい〟などと頷けば何をされるか分かったものではない

 

しかし、今のイロハには嘘を吐くという行為は思い浮かばなかった……否、その選択があっても選ぶ気にはなれなかった

 

彼の目は────それすら見抜いてしまうだろうから、そう思って

 

 

「……はい、楽しかったです。そういった時は風紀委員会の事も考えず素直に休んでましたから」

 

「やっぱそうか、多分アンタらは風紀委員の事なんか考えもせずイブキさんの笑顔に癒されてたり下らない催眠ごっこで遊んでたんだろうな」

 

「……はい」

 

「イブキさんも気の毒だよな、信じてた先輩が……羽沼マコトが、まさか風紀委員に嫌がらせしてばかりの最低人間だったなんて、そして取り巻き達もそれを知らんぷりと」

 

「……イブキは……あの子は何も知りませんから」

 

「そうだな、あの子は巡航ミサイルの事も何も知らないもんな」

 

「────っ」

 

「教えてくれ、アンタらの愚かな上司は血で染まった手でイブキさんの頭を撫でるつもりだったのか?」

 

 

アリウスと繋がっていた事を、巡航ミサイルの手引きを、幼き少女は何一つ知らされていない

 

自分の先輩はこんなにも優しくて格好いいのだと、ただ真っ直ぐに信頼を向けている

 

 

「ああ、それともあれか。自分が直接ミサイルを落とした訳じゃないから問題無いってか?」

 

「マコト先輩は……その辺りの事を考えられない程度には馬鹿ですから、それかイブキにバレなければ問題無いと考えていたのでしょう」

 

「そうだな、馬鹿だ……けど、下手すればただの馬鹿じゃ済まなかった、あと少しでただの〝人殺し〟に成り下がるところだった」

 

「……人殺し」

 

「信じられないよな、アリウスのようにそれを強要されてるって訳でもないのに自分から人殺しの道を歩もうとするなんてさ……勿論、どんな理由があろうと殺しが肯定されていい理由にはならないけどな。ともかく、嫌がらせの為だけに手を汚そうとする愚か者なんて羽沼マコトくらいしか思い浮かばないよ」

 

 

キヴォトスの生徒達は一般市民と比べると〝死〟から少々遠い存在である

 

その頑丈な身体は簡単には鉛弾を通さず、不慮の事故に巻き込まれた場合も生存できる確率が高い

 

故に────鉛弾もミサイルも人を殺せる道具だと改めて認識できる機会は中々訪れない

 

 

「んで、アンタはどうやってそんな女のストッパーになるつもりなんだ?」

 

「……っ」

 

 

ついに来た、この瞬間が

 

ここで信用を得られなければ全てが終わる、そんな予感がイロハに走る

 

 

「これからは私がマコト先輩の嫌がらせを止めて」「羽沼マコトの計画に強く反対もせず散々サボり続けてきたアンタに止められるのか?」

 

「……私と他の部下達でマコト先輩の行動を常に監視して」「羽沼マコトと同じ甘い汁を啜ってきた奴等を信用しろと?」

 

「………風紀委員会との連携をより強固な物とし、片方だけに仕事が偏らないように調整を」「それは当然の話だ」

 

「………ごめんなさ」「鳴き声はもういい」

 

「……………どうすれば、私達を信じ」「それを探すのがアンタの仕事だ」

 

 

酒泉は取り合う気がない……という訳ではない、彼はただ万魔殿の口から直接約束の言葉を吐き出させたいだけだった

 

命令ではなく、何が原因でどうしてこうなったのかを自分達でハッキリと理解させる為に

 

 

「棗イロハ、俺はアンタをただのサボり魔だとは思っちゃいない。全部が全部仕事を放置してたってわけじゃなく、キッチリ自分の仕事を終わらせてある程度責務を果たしてから怠惰に溺れようとしたんだろうな」

 

「……ええ、これでも万魔殿のメンバーですから」

 

「そうだ、アンタはただ〝見て見ぬ振り〟をしてきただけだ。そんなアンタがどうして今更動いた?どうしてこの瞬間だけ〝見て見ぬ振り〟をやめた?今まで通り知らぬ存ぜぬで通せばよかっただろ?」

 

「……マコト先輩は、一応万魔殿のトップですので」

 

「つまり風紀委員会に対する暴挙は目を瞑れる程度の問題でしかないが、万魔殿絡みの問題だとそうもいかない……と?」

 

「……はい」

 

「そうか、つまり自分達の日常さえ守られていれば自分達のリーダーが他者を苦しめていようが別にどうでもよかったって事なんだな」

「っ……は、い」

 

「……そんな奴の口約束を俺が素直に信じられると?どうせまた羽沼マコトがやらかしても〝知らなかった〟とか〝気付かなかった〟とか見て見ぬ振りをするんだろ?」

 

「────っ、待ってください、それはつまり私の言葉を初めから信用するつもりがなかったと────」

 

「ああ」

 

 

イロハの言葉をあっさりと肯定する酒泉、それは彼女にとって絶望に近い答えだった

 

初めから信用するつもりがない、それはつまり何を言われても相手を許す気がないとも受け取れる────

 

 

「万魔殿の事を信用するつもりはない……そんなマイナススタートからでも俺を説得してみせろ」

 

「なっ……」

 

「そんぐらい心を動かされなきゃ、俺はアンタらを許せそうにない」

 

 

敵意を向けられているだけなら多少はマシだった、何故なら敵意を向けてくる〝原因〟さえ見つけて改善すれば和解の道が見えてくるのだから

 

だが、イロハの前に座る少年の目からは失意の眼差ししか感じ取れなかった

 

 

(こんな人間をどうやって説得すれば────違う、説得する機会は……こうなる事を未然に阻止するチャンスは幾らでもあったはず)

 

 

そのチャンスを無駄にし続けてきたのは────自分達

 

無茶を押し付けられる風紀委員会に可哀想だと同情しながら助けようとはせず、横暴な命令を下す長に呆れながら止めようとはせず

 

一体何人の万魔殿が風紀委員の怒りから目を逸らしてきたか……しかしそれで構わなかった、何故なら怒りを表に出してぶつけてくるような人物は風紀委員会の中にはいなかったから

 

────折川酒泉が現れるまでは

 

 

(考えなさい、棗イロハ……折川酒泉が求めているものを)

 

 

 

無茶な仕事を割り振らない────先程も言われたがこれは当然だ

 

横暴を許さない────これが出来なかったから現在進行形で信用を失っている

 

どうすれば、何をすれば、折川酒泉の信用を得られる

 

 

(マコト先輩本人に誓約書の様な物を書かせる……それこそあり得ませんね。そもそもあの人は自分が痛め付けられた程度で風紀委員に素直に従う筈が────〝自分が〟?)

 

 

見つけた、一筋の希望

 

可能性は限りなく低い、場合によっては機嫌を損ねるかもしれない

 

 

「私の……」

 

 

だが、このまま黙りしていても事態は好転しない。棗イロハは喉奥を鳴らし、そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の身体を差し上げます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────一つの賭けに出た

 

 

「……何?」

 

「マコト先輩は自分がどれだけ痛め付けられようと決して反省する事はないでしょう。ですが、親しい人が傷付けられて何も思わないほど冷徹な人間ではありません」

 

「……」

 

「マコト先輩がまた悪さをする度に私の身体を使ってください。罵る、唾を吐き捨てる、殴る、絞める、蹴る、踏みつける、嬲る、それ以外の事でももっと過激な事でも何でも構わないので私の身体を好きなように使ってください」

 

「……本気で言ってるのか?」

 

「本気です」

 

 

それは今の酒泉ですら思わず目を見開いてしまうほど滅茶苦茶な提案、しかしイロハはこうでもしなければ折川酒泉は止まらないと判断して話を進める

 

 

「自分が働いた悪事の代償は部下が払う……それを理解すれば流石の先輩も学習する筈です」

 

「……その女の為にそこまでしてやる価値があるのか?」

 

「無いと思ってたらこんな提案しませんよ」

 

 

どんな拷問にも屈しない強い精神の持ち主が居たとしても、その人物の家族や友人が人質に取られたとなれば話は別

 

例え自分が痛みに耐えられたとしても愛する者達が痛め付けられる姿には耐えられない、恐らく羽沼マコトも同じタイプなのだろう

 

 

「どうです?今ならゼロ円で便利なサンドバッグ手に入っちゃいますよ?仕事だってそれなりにこなせますし……ああ、ついでに酒泉好みの小さい身体でもありますね。中々悪くない買い物だと思いませんか?」

 

「おい、俺は真面目に聞いて────っ」

 

「……私は、真面目ですよ」

 

 

イロハは隠しているつもりでも、酒泉の眼に〝それ〟はハッキリと映った────身体を震わせながら、ヘラヘラといつもの笑みを崩さないように取り繕っているイロハの姿を

 

そもそも圧倒的な〝暴〟を目の前で見せつけられておきながら余裕でいられる筈もなく、更にその〝暴〟によって自身の先輩が壊されかけている状況

 

彼女は恐怖心と戦いながらも必死にマコトを助け出す策を考えていた……そして、頑張って絞り出した策が先程の発言であった

 

 

「お願いします、誠意を信じてもらえないのなら私にはこの身体を使って直接信用を勝ち得る以外の方法は残されていません」

 

「……おい」

 

「お願いします」

「頭を上げてくれ」

 

「お願いします、お願いします」

 

 

他の仲間を売る訳にはいかない、マコト本人を人質にさせたとしても肝心のマコト自身が悪事を諦めないだろう

 

他に方法は思い浮かばなかった、今のイロハに出来る事は恥も外聞も捨ててひたすら許しを乞う事だけ

 

「だから、頭を上げろって────っ、」

 

 

頭を下げて謝罪を繰り返すイロハ

 

そして再び頭を上げた瞬間、酒泉はイロハと目があった

 

 

「……ぁ」

 

 

許しを乞うような不安気な表情と相手に媚びるような歪な笑顔、この顔を折川酒泉は何処かで見た記憶があった

 

それは未だ頭に焼き付いている一人の少女との記憶、自分の価値や人権を投げ捨ててでも関係を迫ろうとしてきたあの────聖園ミカの

 

 

 

(何をやってるんだ、俺は)

 

 

あの時の後悔が甦る、彼女の頬を叩いた手の感触と共に

 

感情に身を任せて人を傷付け、そんな行動を取った己自身を嫌悪した

 

 

(また、この顔をさせた)

 

 

もう二度と見たくなかった表情を再び目の当たりにした

 

それも、ただ偶然見掛けたわけではなく

 

 

(俺は、あの時も暴力でこんな顔を)

 

 

ミカの時も、イロハの時も、この表情を生み出した原因は自分の振るった暴力

 

何一つ成長していない、今も変わらず身体が感情に支配されたまま

 

 

(……これを、俺が?)

 

 

頭が冷えていく、それと同時に改めて酒泉の視界に現状が飛び込む

 

破壊された戦車、倒れ付している万魔殿の生徒達……これだけなら問題無い、ゲヘナで戦っていればよく見掛ける光景

 

一番の問題は────口と鼻から血を流し、胃液混じりの吐瀉物の近くで倒れている万魔殿の議長の姿

 

 

(……そう、か)

 

 

エデン条約から始まり、それ以降も続いた万魔殿からの手出し

 

それらによって引き起こされた激情は、酒泉にとっては前世を含めても始めての感情だった

 

 

「は、はは……そうか、俺ってこんな人間だったんだな」

 

「……酒泉?」

 

「何だよ、自分の事すら理解できてないのに……どんな面して聖園さんに理想を押し付けてたんだよ、俺は」

 

 

自分を優しいなどと本気で思った事は一度も無い、それでもこの光景を自分が生み出したと信じられなかった

 

何がいけなかったのか、自分がもっと賢ければ、自分がもっと本能を抑えられるほど冷静だったら、自分がもっと万魔殿をコントロールできていれば、自分がもっと上手く脅せていれば

 

権威があれば、知能が足りていれば、繋がりがあれば、信頼を得ていれば

 

 

「……ああ、そうか」

 

「っ、待ってください!まだ話は────」

 

「話は終わりだ……もういい、羽沼さんの事は好きにしてくれ」

 

「……え?」

 

「もう、俺は何も干渉しないから……ああ、その代わり責任は俺一人に押し付けてくれ、退学でも何でもいいから頼むから風紀委員会は巻き込まないでくれ」

 

 

イロハの方を振り向く事もなく立ち去る酒泉

答えは出た、何が悪かったのか

 

 

(きっと、俺が〝折川酒泉〟なのがいけなかったんだ)

 

 

この事件に巻き込まれたのが空崎ヒナの様な責任感ある人間なら、調月リオの様な頭の良い人間なら、錠前サオリの様な耐え忍ぶ心があれば、先生の様に理性が強ければ

 

ここに居るのが〝折川酒泉〟じゃなければこんな事にはならなかっただろう

 

そして、聖園ミカとの一件も告白されたのが〝折川酒泉〟じゃなければここまで話を拗らせる事なく穏便に終わらせる事ができただろう

 

だから

 

 

(会いに行かないと)

 

 

ちゃんと言葉にする為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(〝貴女は折川酒泉を好きになるべきじゃなかった〟って伝えるために)

 

 

 

 

 

 

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