「ですからっ!何度も言ってるでしょう!?告白した事が問題なのではありませんっ!」
電話越しの幼馴染みに叫び散らすティーパーティーの一人、桐藤ナギサ
彼女を怒らせている原因は今ではキヴォトス中に広がってしまった〝あの噂〟だった
「告白するにしてもわざわざゲヘナ前で叫ばなくても……!あれではまるで宣戦布告じゃないですか!?」
『うん、そうだけど?』
「ミカァ!!!」
トリニティとゲヘナ、関係が険悪な二校の生徒が恋愛関係に発展する。それだけなら一見とても去り際でロマンティクスな光景に見えるだろう
しかし実態は〝ゲヘナの生徒に媚び売ってんじゃねー!〟や〝トリニティの魔女に靡いてんじゃねー!〟等の罵声も混じっている状況
「あんな盛大にやらかすのならせめて私には先に伝えておいてください!情報操作とか色々大変だったんですよ!?もう手遅れな段階まで広がってましたけどね!?」
『ごめんね?迷惑掛けちゃって……でも抑えきれなかった☆』
「帰ってきたらロールケーキぶちこみますからね」
『ええ!?』
「ええ!?じゃないです!当然でしょう!?」
ミカが誰かを好きになるのは構わない、その人と結ばれて幸せになるのも構わない、むしろ幼馴染みとしてはとても喜ばしい出来事だ
しかし、せめてもう少し穏便に事を済ませられなかったのか。少し会わぬ間にいつの間にか恋愛強者と化していた幼馴染みに対する悩みが尽きない
「まあ落ち着けナギサ、ミカも素直になりすぎて感情のリミッターが外れてしまっただけだ。このまま放出させ続ければそのうち勢いも収まるさ」
「セイアさん……セイアさんはそれでよろしいのですか?」
「何の事だい?……ああ、ミカが酒泉に告白した事か?別に構わないさ、私がモタモタしている間にミカが勝負を仕掛けただけの話だからね。非があるのは今の関係に甘んじて行動に移ろうとしなかった私の方さ、それに告白したといっても別に了承された訳じゃないんだろう?つまりここから私がかっさらう展開も普通にあり得ると思わないかい?それに私のデータが正しければ以前も話したように彼の好みは小さな女性だしミカではそれを覆すことなどどどどどどどどど」
「セイアさん、中の紅茶全て溢れてますよ」
ティーカップを持ったまま身体を小刻みに震わせているセイア、足元のカーペットはとっくにびちょびちょになっている
シマエナガはそんな主の手のひらから抜け出し、まるで負けヒロインを煽るかのように頭を突っついている
「ええい!卑怯だぞミカ!暫く連絡がないと思ったらあんな事をしていたとは!酒泉と何処まで行った!?」
『……さあ?どこまでやったんだろうねー?』
「こいつら交尾したんだ!!!」
『いずれその予定ではあります!……でへへ』
「このッ……裏切りもんがああああああ!!!」
酒泉の(一方的に決めつけられた)性癖からミカと付き合う可能性は限りなく低いだろうと余裕綽々としていたセイアだが今回の件を得て流石にそうも言ってられなくなる
恋愛弱者として名を轟かせていたよわよわミカはどこへやら、今ではすっかり正実ちゃんと肩を並べる恋愛強者へ
『ていうかさー、そんなに悔しいならセイアちゃんも告白すればいいじゃん。私にはそれを止める権利なんて────あっ……ご、ごめんね……?』
「悪かったなぁ!!!どうせCVが付いてない私が告白したところでフルフルのBGM試聴会にしかならないだろうねぇ!!?」
『だ、大丈夫だって!次の周年こそはきっと実装されるから!ね!?』
「お、お二人とも何の話を……?」
謎の電波を感じた二人の謎の会話に首を傾げるナギサ、話を戻そうと軽く咳払いをする
しかしナギサが声を出すよりも先にミカ以外の声がスマホから聞こえてくる
それは年若い少年の声、それともう一つは聞き慣れない少女の声
「……?あの、ミカさんは今誰かと一緒に居られるのですか?」
『うん!酒泉君達と一緒に居るよ!……あ、パフェ届いたからそろそろ切るねー!』
「え?いや、待ってください。ミカさんは誰と────あ……」
酒泉君〝達〟ということは他にも友達が来ているのだろうか、だとしたら告白の件を気にしない人物……争いの火種にならないような人物が相手ならいいのだが
そんな心配をしながらもナギサは一方的に通話を切られたスマホの画面を見つめ続ける
「大丈夫でしょうか……あんな事があった後ですし、酒泉さんを好いている方々と問題を起こさなければいいのですが……」
まず真っ先に思い浮かべるのはゲヘナ学園最強の風紀委員長、空崎ヒナ
実力立場共にトップクラスの彼女の怒りを買ってしまうと何が起きるか予測できない、なんならその部下達までバッチバチになっている可能性も
他にはETOの名の元に保護観察しているアリウススクワッド、その中でも湿度たっぷりのじめじめ少女がミカと出会した場合まず間違いなく口論になるだろう
問題はそれだけではない、当事者達の所属校であるゲヘナやトリニティ以外にミレニアムにも酒泉を想う生徒はいるし厄災の狐という名前通りの厄ネタも今回の騒動はとっくに耳にしているだろうし最近酒泉の同居人になった少女も────
「ミカさん……流石に敵を作りすぎですよ……」
「ぐっ……こ、こうなったらセクシーセイアのもっとセクシーすぎる衣装で迫るしか……!」
せめて少しずつ交際を匂わせる形にしてくれたら、そんな事を思っても時は既に遅く、ナギサは目の前の更に服の露出を増やそうとしているセクシーフォックスマークナインを止めることしかできなかった
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「よし、電話終わりっと……って、ああ!?ズルい!?先に食べさせてるし!?」
「貴女が長々と話してるのが悪いんでしょ……はい、あーん」
「い、いや……俺は自分で食べ────もがぁ!?」
とある洋食店の外に設置されている席、そこから少し離れた場所で立ち電話を終えたミカが席に戻るとヒナがパフェを勢いよく酒泉の口に突っ込んでいた
彼に自分で食べるという権利は存在せず、スプーンを持つのも口に食べ物を入れるのも全て二人の少女によって管理されている
「それに貴女には隣の席を譲ってあげたじゃない」
「それは私がじゃんけんで勝ったからじゃん!パフェだってじゃんけんで決めれば────ああー!?また食べさせたー!?」
「もごごごご……」
「むぅ……ずるい!私も!」
「も゛っ゛」
「はい酒泉、あーん」
「も゛っ゛も゛っ゛」
無理矢理突っ込まれたスプーンのせいで未だ口の中のパフェを消化できていない酒泉、そんな彼の口に追加でスプーンが突っ込まれる
力加減と突っ込む位置を間違えるとキヴォトス人特有の腕力でスプーンを歯にぶち当てられる、一見羨ましく見えるようで世界一嬉しくない美少女二人からのあーんが酒泉を襲う
「うわずるっ!?そっちだけ一回多く食べさせてるし!」
「早い者勝ちよ」
「じゃあ私だって────パフェがなくなってる!?私が食べようとしてた分までないし!?」
ギャーギャーと言い争うミカとヒナ、しかしその空間に酒泉が感じていた以前のような居心地の悪さはなく、本気の言い争いにも関わらずどこか仲の良さを感じさせるような喧嘩を繰り広げていた
ただ、それとは別にゲヘナとトリニティのトップが騒いでいれば嫌でも注目を浴びる訳で、二人の喧嘩をパシャリとスマホのカメラに収める者達がちらほらと現れはじめる
まあ、二人もそれに気づいていながら周囲の目を気にも留めていないが
「お、お待たせしましたー……ストロベリーミルクでーす……」
「あ、はーい」
遠慮がちに商品を持ってきてごゆっくりどうぞーと遠慮がちに去っていく店員、パフェの次にテーブルに届いたのは少々大きめのコップに入ったドリンクだった
……そう、ハート型のストローがついた何のその変哲もないドリンク
「え゛……あ、あの……これって……」
「何を驚いてるの?ただのストロベリーミルクよ?」
「あ、この呼び方じゃ分からない?要するに言い方を変えただけの苺牛乳だよ?」
「い、いや……それは知ってますけど……このストローって……まさかこれ使って飲むんです?」
「ええ、そうよ」
「何か問題でもある?」
「さ、流石にありますね……こんなところ誰かに見られたらお二人が誤解されると言いますか……」
「わ、わわわわわわわたしは誤解されても構わないけど?」
「そうだった、俺告白されてるんだった……てか未だに照れはするんですね、そんなんだったら注文しなきゃよかったのに」
「し、仕方ないじゃん!……酒泉君と一緒に飲んでみたかったんだもん」
────瞬間、折川酒泉の脳が僅かにだが揺れる
(あっるぇー?聖園さんってこんな可愛かったっけー?)
今まで全く意識しなかった訳ではないが、それでもミカ自身のアンチゲヘナな性格も相まって異性として認識はプラマイゼロに留まっていた
しかしミカは正直になった、正直になってしまった。今の聖園ミカはくっそ面倒なヘイトスピーチゴリラではなく、照れながらも必死に異性にアピールを仕掛ける恋する美少女でしかない
「……はいはい、お喋りはもういいでしょ。それより今は……」
「……うん、そうだね。今は───」
「「どっちが酒泉(君)とこれを飲むのか決めよっか」」
酒泉の感情を何となく察知したのか、ヒナは話を中断させてドリンクのストローを指差す
ハート型のストロー、明らかにラブラブカップルが飲むような形状
どちらがこれを飲むべきか口論を重ねるミカとヒナ、二人を見つめる酒泉の目は何かを考え込んでいるようだった
ここで突然話が変わるが、酒泉には最近出来た悩みがある。それは────
(……空崎さんも、俺の事が───)
先程から繰り返される〝あーん〟に加え、カップル用のドリンクを飲もうとミカに決して譲ろうとしないその態度
それはまるで好きな異性に対してアプローチを仕掛けている様であり、更には今まで散々酒泉の行動に対して過保護気味だった事の理由付けにもなる
……聖園ミカ告白によって……というよりも過去二回に渡り女性からの告白を受けたことで折川酒泉の中に一つの変化が生じる
それは────なんと、クソボケの改善の兆しである
それぞれ別々の女性から好意を伝えられれば流石の酒泉も少しは女性から自身に向けられる感情に機敏になったらしく、その効果はあのオーマクソボケであった酒泉に〝あれ?この人俺のことが好きなのでは?〟と気付かせる程度に大きかった
(────いやいやいや、まさかなー。なに自惚れてんだか……あー恥ずかしい恥ずかしい)
が、確信に至らせるほどの効果はギリギリで発揮できなかったらしい
だがそれに関しては酒泉に非はあまりない、この年頃の少年の場合だと〝俺ってナルシストみたいじゃん〟となるパターンの方が大抵だろう
……これは余談だが、近い将来クソボケの女誑し力はカンストをぶち抜く事になる
元より人から好かれていた少年が多少とはいえクソボケを改善すれば、それはもはやただの優しくて女心に気づきやすい好青年でしかなくなるのだから当然の話だろう
「────じゃあ決まりね、まずは私が先に飲んで」
「次に私が飲む……これの繰り返しだね!」
そんな自分の将来など全く知りもせず、酒泉はいつの間に話が固まっていた二人の女性をぼーっと見つめていた
恐らくこの二人はいつまでも折川酒泉を取り合い続けるだろう
百鬼夜行の祭りに参加しにいった時に偶々巻き込まれた事件中でも、列車砲を破壊しにきた少女をどちらが先に倒して酒泉に褒めてもらうか競い合いながら、灼熱の地に現れた巨大変形船をスクラップにしながら
如何なる時も、勝利の美酒に酔いしれる為にあらゆる手段を使って戦い続ける
なおクソボケの対応が一歩でも間違えれば二人揃って仲良くいただきにくる可能性が高い模様
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オマケ・アカモップの目覚め
「くそ!風紀委員共めぇ!今に見てろぉ……!」
あの一件以来、下手に風紀委員会にちょっかいをかけられずにいる先輩を呆れた目で見つめる
どうやらこの人はあんな目に遭ったにも関わらず全く懲りていないらしい
「あ、あの……議長?まさかまだ諦めていないので?」
「流石にやめた方がいいのでは……」
「ええい!風紀委員ごときに臆してどうする!?貴様らそれでも万魔殿かぁ!」
あの惨状を直接現場で味わった部下達は先輩に余計な事はしない方がいいと忠告しますが、先輩は自身のプライドがそれを許さないのか素直に諦めようとはしません
……あの日、私が身体を差し出してまで止めようとした事を伝えれば止めてくれますかね
それをしていないのは私自身が変に気遣われたくないというのと、もしかしたら頭を冷やして今までの行動を考え直してくれるかもしれないと思ったから
「こうなったらバレない程度に地味な嫌がらせを仕掛けてやる!まずは風紀委員会の金でこのマコト様像を立てるぞ!」
「またですか!?議長!」
「余裕でバレますって!?今度こそ皆殺しにされますよ!?」
しかしまあ、そんな淡い期待も全て無意味でしたね。この人がただの暴力に屈する筈がありませんから……はあ、仕方無いですね
「やめてくださいよマコト先輩、せっかく私が自分の身体を張って彼を止めたというのに全部無駄になっちゃうじゃないですか」
「……なに?そんな話、初めて聞いたぞ?」
「そりゃ報告してませんでしたから……私が自分から提案したんですよ、私の身体を好きにしていいから許してくれって」
「……それで奴は了承したのか?」
「いえ、結果的には何も求めず無条件で許してくれましたけど……」
「……そうか」
そういえば彼は途中から人が変わったように混乱していた気がする
人を痛め付けた罪悪感かそれとも頭に血が上りすぎていただけで後から冷静になったのか、どちらかは分からないがよくもまあ許してくれたなとは思います
私なら金銭か何かを要求していましたね……まあ、それか単純に私の身体が彼好みでなかったという可能性もありますが
「……すまない、イロハ。余計な負担を掛けてしまったな」
「本当ですよ……まあ、私も先輩を責められる立場ではありませんが」
ともかく、折角許してもらえたのですからこれ以上藪をつつくような真似は「それはそうとでかしたぞ!イロハ!」……?
「……はい?」
「よくぞ奴の弱点を見つけた!お陰で次の計画が立てやすくなったぞ!キキキッ!」
「……あの、弱点とは?」
「折川酒泉は最終的にお前には……いや、他の万魔殿メンバーには手を出せなかったのだろう?つまり!奴の甘さが残り続ける限り我々が殲滅される危険性はないという事だ!」
「……は?」
この人は何を言っているのでしょうか
「奴の怒りの線引きを探りつつ細かい嫌がらせを仕掛ければ安全に風紀委員会の活動を妨害できる!次こそは奴の屈辱に歪んだ顔を……!」
……いやいやいや、違うでしょ。仲間を必要以上に痛め付けられる心配が無くなったからってその行動はおかしいでしょ
〝被害に遭うのが私だけなら次も好き放題出来る〟じゃなくて、そこは〝次からは怒らせないように行動を改めよう〟って反省するところでしょ
何一丁前に仲間の心配してるんですか、ていうかそんなに私達を大切に思ってくれてるなら普段から下らない無茶振りをしないでくださいよ
「さあ!早速次の計画を立てるぞ!イロハ、サツキ達を呼べぇ!」
駄目だ、この人の言葉が何一つ理解できない
これは私が疲れているからでしょうか、この人は本当に言語を発しているのでしょうか
「やられっぱなしで終わると思うなよ!?折川酒泉!この報いは必ずや……キッキッキ!」
ほら、やっぱり反省してない、それでどうせまた無茶振りに付き合わされる
その無茶振りを風紀委員会に伝えにいく役目もきっと私達なんでしょうね
「どうした!早く行動に移すぞ!」
ああ、今更酒泉の気持ちが分かった気がする、これは救えない
今にして思えば彼はよくこんな人を許そうとしたなと思ってしまう……いや、あれは私に免じてとかだったのだろうか
「今!この瞬間から!再びマコト様伝説が幕を開けるのだ!」
〝アンタも大変だよな、上司の立てた下らない計画や無茶振りに振り回されてきたんだから〟
〝俺はアンタをただのサボり魔だとは思っちゃいない〟
そういえば彼だけは冷酷な時でも私の気苦労を正しく理解してくれていた気がする、彼の立場を考えれば私も先輩と同じぐらいには恨まれていてもおかしくはない筈なのに
ああ、彼はなんてジヒブカイヒトナノダロウカ
「キキキッ!キキキキ───」
ソレニクラベテ、ナンダコノオンナハ
「……すいません、ちょっとそのショットガン貸してもらえます?」
「え?な、何を……」
「いいから」
「ひっ……は、はい!」
部下の一人から背負っているショットガンを借り、それを救いようのない〝コイツ〟の後頭部に押し付ける
「むっ?なんだ、イロハ───ぐえっ!?」
そして、引き金を引く
「えっ」
「えっ」
「……これマジ?」
「適当に運んどいてください」
唖然と立ち尽くす部下達に私の目の前に倒れている〝これ〟を連れていくように命じておく
よかった、これで平和は保たれた、風紀委員に恨まれることもない
「……見ててくださいね、酒泉」
あの時の約束、果たしますから
「これからはマコト先輩が暴れようとする度に私が止めますから」
これからはちゃんと────
「アナタノヤクニタチマスカラ」
だから、私達を許してくださいね
「……あ」
「どうしたの?酒泉」
「いや、そういえばまだ棗さんに謝ってなかったなって……」
「……そんな酷いことしたの?」
「まあ、その……結構……すんません、ちょっと万魔殿行ってきます。昼休憩終わる前には戻るんで」
トリニティ総合学園シスターフッド・歌住サクラコ~新たなる命~
通常モンスター
レベル4/光属性/天使族/攻1200/守2100
二人の関係を各組織に告白してから多くの出来事があった
トリニティの内乱、他校とのアルコール争奪戦、どさくさに紛れて酒泉を奪おうとする七囚人共、それらの件は何とか鎮火し、キヴォトスはすっかり平和に戻った……訳だが、少女には別の戦いが待っていた
それは己自身の心との……不安との戦い、〝あの事〟を伝えたら彼はどんな表情をするのだろうか
喜ぶ?驚く?不安になる?それでもきっと……いや、絶対に嫌そうな顔や困った顔はしないだろう、だって彼は優しい方だから
だから、勇気を出して伝えよう
〝その……で、デキてた……ようでして///〟
なお名前はまだ決まっていない模様