〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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酒泉「どちら様ですか?」セイア「えっ」

 

 

 

「んっ……ふぁ……」

 

 

誰も居ない部屋でもしっかりと口元を手で覆いながら欠伸をすると、セイアは両の手を組んで真っ直ぐに腕を伸ばした

 

瞼を軽く擦ってからうっすらと目を開ければ日の光が微かに差し込み、窓を開ければ住み慣れぬ部屋に新鮮な空気が───

 

 

「……うん?」

 

 

違和感に気付き、周囲を見渡す

 

その住み慣れぬ部屋を最後に使用したのはミカがクーデターを起こす少し前……つまり自分が死人として姿を眩ましていた時の筈

 

あれ以来泊まった覚えのないこの隠れ家でどうして自分が眠っていたのか、その事に困惑しながらもセイアは昨夜の出来事を思い出そうとする

 

確か昨日はティーパーティーが所有するプライベートビーチで一緒に泳がないかと酒泉を誘い、その後はバカンスに必要な道具を揃えたいから買い物に付き合ってほしいと次の日買い物(という名のデート)をする約束をして────

 

 

「───そうだ、今は何時だ」

 

 

買い物の約束をしたのは午後から、外の明るさ的にまだ昼にもなっていないが念のためにとセイアはスマホで時間を確認した

 

時刻は6:43、これならもう少しゆったり過ごしても問題無さそうだと判断して再びベッドに腰掛ける

 

 

「……うん?」

 

 

ついでに今日の天気を確認しようとニュースサイトを開こうとするが、その前にセイアはスマホに表示されている時刻の隣の文字に注目した

 

 

「おや……設定が狂ってしまったのか」

 

 

スマホの日付設定が数ヵ月前にまで遡ってしまっているのをみるとすぐに本日の日付に設定し直し、今度こそとお天気サイトの予報を確認した

 

表示されているのは午後からの雨マーク、確か昨日確認した時は一日中晴れになっていた筈だとセイアは首を傾げる

 

 

「まあいい、余程の豪雨でもなければ彼だって付き合ってくれるだろうさ────と、言いたいところだが……生憎今日のデートは中止だな」

 

 

肩を落としながら溜め息を吐くセイア、その指はモモトークのアプリアイコンをタッチしていた

 

 

「これがリアリティ溢れる夢の中でない限り、私がこの隠れ家で眠っている事など有り得ない。それ以外の可能性を考えるならば何者かが私をここに運んだか、もしくは……悲しい事にこの年齢から既に私の記憶力が低下しており、私自身が覚えていないだけで昨夜は自らここに足を運んだか、だ」

 

 

ミカ辺りの悪戯である事を願いながらも酒泉にデート中止の旨を伝えようとする───が、セイアの指は酒泉とのトーク画面に辿り着く前に静止してしまった

 

 

「……酒泉の名前がない?」

 

 

モモトークは一番最後にメッセージを送ってきた人が一番上の欄に来るシステム、セイアが最後に会話したのは酒泉であるため友達リストの一番上には当然酒泉の名前が来るはず

 

なのに酒泉の名前が───否、それ以外にも何人かモモトークから名前が消えている

 

エデン条約の一件から何人か増えた友が、その繋がりが、突如として

 

 

「……やはり何か起きているな」

 

 

明確な事件の気配を感じ取りながらモモトークを閉じ、通常のダイヤルで酒泉の電話番号を入力するセイア

 

数秒、十数秒、コール音を聞きながら電話主が出るのを待ち続けていたセイアの耳に〝もしもし〟という少年の声が聞こえてきた

 

 

『はーい、折川でーす』

 

「やあ酒泉、私だ。先ずはおはよう、そしてすまない……突然で悪いが今日のデートは中止だ」

 

『……』

 

「私の身の回りで不可解な出来事が起こっていてね、事件の可能性があるんだ」

 

『…………』

 

「これが私個人を狙った犯行だとしたら君を巻き込む訳には───『あの……どちら様ですか?』───何?」

 

 

酒泉から投げ掛けられた純粋な疑問、セイアはそれに少しだけショックを受けていた

 

 

「おや、まさか私の声も忘れてしまったのかい?確かに最初に名乗らずいきなり本題に移ったのは私の落ち度だが……」

 

『いや、そもそも貴女の声なんて聞いたことありませんし……マジで誰です?』

 

「……おいおい、流石に冗談が過ぎるぞ。今まで何度も電話越しに話した事があるし直接会話した事すらあるだろう?まさか急に記憶が抜け落ちた訳ではあるまいね」

 

『んな事言われても……すんません、ちょっと名前教えてもらっていいですか?』

 

「……百合園セイアだ、その様子だとどうやら本当に気付かなかったみたいだな」

 

 

少々不貞腐れた表情で答えるセイア、電話越しの不機嫌な声色に気付いて罪悪感を覚えてしまえばいいと若干の恨みを籠めながら酒泉からの返事を待つ

 

しかし返ってきたのは〝は?〟という短い一言だけ、声色的に本当に困惑していそうな様子だった

 

 

『……すみません、成り済ましはやめてくれませんか。ティーパーティーのトップがこんな他校の一般生徒に電話掛けてくるわけないでしょ』

 

「君の方こそ悪ふざけはやめてくれ、電話帳を確認すれば本物の百合園セイアから掛かってきていると分かるはず───」

 

『───つーか、百合園セイアって確か入院中でしょ?赤の他人であるゲヘナ生に電話する為だけに身体に鞭打ってるんすか?それこそ有り得ないでしょ』

 

「……は?」

 

 

百合園セイアは入院中、確かにそう扱われている時期はあった

 

しかしそれはあくまで表向きの話、本当は彼女を狙う危険から身を隠していただけだし、そもそも真実はとっくにトリニティ全体に知れ渡っている

 

というより自分と同じく未来の出来事を知っていた君なら私が無事だという事も知っている筈だろう、人をからかうにしても趣味が悪すぎるぞ

 

 

『とにかくもう二度と掛けてこないでくださいね、悪戯電話に付き合ってる暇はないんで』

 

「なっ……待っ───」

 

 

そんな文句を言おうとした矢先に一方的に通話を切ろうとする酒泉、セイアが〝待ってくれ〟を言い切るより早くツーツーと通話終了の合図が流れる

 

酒泉は意味もなく他人を本気で不快にさせるような発言をする男ではない、だとしたら本当に私の事を覚えていないのか

 

様々な可能性が脳裏を過る中、セイアは先程の会話を再び頭の中で繰り返した

 

 

(〝百合園セイアは入院中〟……この話が広まったままという事はまさか……)

 

 

先程、スマホを確認した際に発見した日付の設定ミス

 

 

(今日の日付を何ヵ月も前の日付に設定されていたあの画面、アレは設定ミスなんかじゃなく本当に───)

 

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