既に修正済みです、文章もあまり変化はありません
いつぞや百合園さんと二人で行った個室付きの天ぷら屋さん、しかしあの時とは違って雰囲気は真剣そのものだった
「……えっと……その……つまり?百合園さんはアリウスの刺客から身を守る為に入院したフリをして姿を眩ましたと?」
「ああ、私が持っている記憶はその直後までだ。何故狙われている身でありながら私は呑気に外を出歩いていたのかも、何故あの生徒達は私があの場に居た事に驚かなかったのかのかも、全てが不明だ」
百合園さんの記憶がエデン条約編開始前まで戻っている、百合園さんから聞いた話を要約するとこんな感じだった
記憶喪失というより記憶退行と言うべきか、つまり〝この〟百合園さんにとってはある日突然未来の世界に飛ばされたような状況という訳か
なるほど、それなら俺に対して他人行儀だったのも頷ける……え?記憶が巻き戻ってる事を簡単に信じるのかだって?まあここキヴォトスやし……
「なるほど、事情は理解しました」
「……随分あっさりと信じるんだな」
「信じますよ、百合園さんの話ですもん」
「そうかい、信頼を寄せていただけて光栄だよ。もっとも、その信頼を積み重ねてきたのは恐らく〝未来の〟百合園セイアだろうけどね」
この百合園さんからすれば初対面なのに妙に好感度が高いという状況なのだろうが、此方からすればどの時期の百合園さんだろうと俺の知ってる百合園さんだという事に変わりない
……俺のこと忘れられてるってのは結構寂しいけど
「さて、次は君の話を聞かせてもらいたい。先ず、私と君はどの様な関係だ?私が倒れていた時、何故君が近くに居た?あの時の会話から私達は知り合いみたいだが」
「いいっすよ、まず……俺の名前は折川酒泉です。そんで俺達がどんな関係かと言うと……うーん……」
友達……か?いや、それよりも同胞とか理解者って言葉が相応しいか
……抱き締められながら慰められた話はしなくていいか
「……まあ、未来知ってる同盟って感じっすかね」
「未来知ってる同盟?…………まさか君も私と同じ力を?」
「俺の場合は予知夢とかじゃないしこっから先の未来はもう知る術がないんで厳密には百合園さんとは違うんすけどね……ああいや、未来を知れなくなったって点も百合園さんと同じっちゃ同じか」
「───待て、未来を知れなくなっただと?それはつまり……」
「こっちの世界だと予知夢消えてますよ、百合園さん」
「なっ……!?」
百合園さんは衝撃の新事実を前に目を見開いて驚愕するが、オーバーリアクションとは言えないだろう
予知夢という能力は百合園セイアという少女を語る上で欠かせない程に大きな要素の一つだったのだから
「まあ、その代わり予知夢と引き換えにかなり精度の良い〝勘〟を手に入れてましたけどね。それに予知夢が消えた事が関係してるのかは知りませんけど体調もちょっとだけ回復してるっぽいですよ」
「確かに妙に身体が軽いとは思っていたが……そうか、未来ではそんな事が起きていたのか」
「そっすね、他に説明する事と言えば……うーん……あんま無いっすかね」
「私自身の事でなくともトリニティの情勢とかでも構わないよ」
「つってもねぇ……アリウススクワッドがトリニティに保護されたり聖園さんの悪事がバレて一時的に権限停止されてたとかそんなもんしか無いっすよ?」
「めちゃくちゃ重要じゃないか」
パッと思い浮かんだ出来事を上げてみれば百合園さんは呆れたようにジト目を向けてきた
一般生徒、それもトリニティじゃない生徒の俺からしたらあんま関係無い事なんだししょうがないじょのいこ
「はぁ……まあいい、とりあえず何がどうしてそんな状況になったのか一通り説明してくれ、気になった点は後で質問するから」
「はーい」
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「……私とミカが和解、か」
エデン条約編の大まかな説明を聞き終えた途端に何やら複雑そうな顔で語る百合園さん、聖園さん側にその気がなかったとはいえ一度殺されかけてるのだから無理もない反応だろう
いやまあ、気に入らない意見を封殺したいからって外部の……それもテロリストの手を借りてまでクーデター起こす時点で普通にイカれてはいるけど
「やっぱ信じられませんか?」
「そうだな、未来に飛ばされる前の状況を鑑みれば素直には受け入れ難いな……ナギサはどうだ?彼女の方にも何か変化はあったか?」
「桐藤さんなら今まで通りティーパーティーのホストとして働いてますよ、エデン条約の件で何か被害を被ったりとかは特に……あっ」
「……どうした?」
「いや、その……まあ、精神的な傷は負いますけど……五体満足ではありますね……」
「……トラウマのようなものが残ってしまったのか?」
「……一応?そこまで大袈裟では無いですけど」
「そう、か……彼女には苦労を掛けてしまったな」
〝あはは〟の件をどう伝えるべきか悩みはしたが、あれは後に嘘だって判明しただろうし言われた本人も未だに引きずり続けている訳ではなさそうなのでボカして伝えておいた
すると百合園さんは暫く雲隠れして桐藤さんを一人にしてしまった負い目からか、申し訳なさそうに目と頭を伏せた
「トリニティのトップ二人がこの様とは、これではナギサに会わせる顔が無いな……」
「んなことないっすよ、今じゃ政治争いしてたとは思えない程の仲良しっぷりですよ。明後日だって仕事疲れしてる桐藤さんを休ませる為に二人でプライベートビーチに連れていく約束してましたし」
「私の知らない百合園セイアを語られても、私にはその記憶が────ん?明後日?」
「ええ、明後日です」
そう、二日後である
百合園さんから〝バカンス用に色々揃えたい〟と買い物に誘われたが、今日は元々宇沢さんと遊ぶ約束をしていたので〝明日なら空いてます〟と断ったのが今朝の出来事
約束を交わしたその日の内にこんな大事件が起きるとは百合園さん本人も思ってもみなかっただろうな
「どうします?聖園さんに事情を話してバカンス中止に「駄目だ」……はい?」
「私の記憶の事はまだミカには伝えないでくれ、今の彼女はどこまで信頼していいのか分からないからね。それに今回のバカンスが発案された理由はナギサの疲労を癒す為だろう?ならば余計な心労を掛ける訳にはいくまい」
「……はぁ、そすか」
桐藤さんの件はともかく、聖園さんの事は今更疑う必要無いだろうに……って思ったけどこの百合園さんにとっては暗殺未遂の時からずっと話し合ってないんだったな
露骨に嫌うとまではいかなくともある程度の警戒心を抱えたままなのは当然か
……それと多分、桐藤さんの事を優先しようとしてるのは自分だけ身を隠して彼女を一人きりにしてしまった負い目からか?
「じゃあ当日は記憶無い事を隠したままプライベートビーチに行くんです?俺も出来る限りは協力しますけど、それでも大変だと思いますよ?」
「協力?まさか君も来るのかい?」
「そもそも百合園さんの方から誘ってきたんすよ」
「……ナギサの為の計画なのに君を誘う意味はあるのか?」
「俺もそれ聞きましたよ、でもちゃんと答えてもらえませんでした」
〝水着を用意した事をわざわざ君に伝えた時点で察してくれ〟と言われ、それっきり何も答えてくれなかったしなぁ……もしかして新しい水着を買ったの自慢したかっととかか?
いや、男の俺に女性物の水着を自慢されてもなぁ……
「何故私が君を誘ったのかは分からないが、協力者は居るに越したことはない……よし、ならば当日は君の言葉に甘えて協力してもらう事にしよう」
「了解です……ところで、本当に聖園さんにも伝えないつもりなんですか?せめてあの人くらいは知っておいてもらわないと誤魔化すのキツイと思いますよ」
「……話すにしても〝今の〟聖園ミカを見極めてから───ん?」
「モモトーク?……俺のじゃないっすね、百合園さんのですか?」
「ああ」
「……出ないんすか?」
「…………」
訝しげにスマホの画面を睨み付ける百合園さんの様子が気になり、ほんの好奇心でその画面に表示されている名前を確認してみる
すると、先程話題に出た〝聖園ミカ〟の名前が……この百合園さんにとっては複雑な思いを抱えているであろう相手の名前が表示されていた
「仕方ない……もしもし?ミカか?」
『やっほー!セイアちゃん、今大丈夫ー?』
「大丈夫とも言えるし、そうでないとも言えるな」
『なにそれ?結局どっち?』
「……〝私〟は大丈夫だ」
意を決した……というより観念したかのように百合園さんが渋々通話ボタンを押すと、早速聖園さんの元気な声色が聞こえてきた
しかしどうしてだろうか、宇沢さんの大声には〝お、今日も元気だな!〟って気持ちになれるのに聖園さんの明るい声色には〝うっさ〟しか感じられないのは
「それで、用件は?」
『んー?ほら、前に言ってたバカンス用の道具揃え終わったかなーって。もしまだ買ってないなら一緒に買いにいかない?セイアちゃん貧弱だし荷物持ちくらいは手伝ってあげるよ?』
「結構だ、荷物持ちなら間に合ってる」
「なんで俺の方を見ながら……まあ、最初からそのつもりではありましたけど」
『……?ねえ、今酒泉君の声しなかった?』
「ああ、一緒に居るからな」
特に隠すこともあるまいと百合園さんが正直に答えると、聖園さんは〝ええ!?〟と大袈裟な声で驚きを露にした
『二人だけでお買い物してるの!?ズルい!私も一緒に行くから!』
「……彼女は何を羨ましがってるんだい?」
「さあ……?」
『今何処に居るの?すぐ準備するから───』
「いい、来るな」
『……ほえ?』
「おや、聞こえなかったのかい?……私は〝来るな〟と言ったんだ」
百合園さんがハッキリと拒絶の意を伝えると、電話越しに聖園さんの間の抜けた声が聞こえてきた
『……セ、セイアちゃーん?いくら酒泉君と二人きりになりたいからってその言い方は無いんじゃないかなー?少なくとも友達に対する態度ではないと思うんだけどー?』
「ああそうか、私達は一応友達だったな……すまない、次から態度を改めるよ」
『……セイアちゃん、なんか今日はいつも以上に棘が「切るぞ」……はっ!?いや、ちょ───』
ブツ、ツー、ツー、ツー、という音が個室内で静かに鳴り渡る
……いや、なんで俺がこんな気まずい思いしなくちゃならないんだよ。友達同士の喧嘩とか一番見たくないんだけど
特に女の子同士の喧嘩とかガチで場の空気が凍るぞ、俺も前世で後輩ちゃんとその妹ちゃんの喧嘩に巻き込まれた事があったが本当に何も言えんかった
「……その、ちょっと当たり強くしすぎたんじゃ……」
「そうか?どれだけ不信な相手にもテロリストを差し向けたりしない分、私はまだ冷静な方だと思うが」
「それは本当にそう……いやでも、今の聖園さんはそんな事しないしもう少し優しく接してあげても……」
「驚いたな、君は予言者だったのかい?君自身も未来を知る術を失ったと発言しておきながらどうして〝ミカはそんな事をしない〟と言い切れる?現に〝そんな事〟をしてしまったからこそ今回の騒動が起きたのだろう?……ああ、すまない。君達にとってエデン条約の件は〝今回の騒動〟ではなく〝過去の過ち〟でしかなかったね」
駄目だ、この百合園さんは未来を諦めている───そう感じた
俺が初めて出会った百合園セイアは調印式を終えた後の百合園セイアだ、事件が起きる前の彼女と話すのは今回が初めて……よくもまあ、この状態からあんなわんぱくフォックスに成長したもんだ
いや、元々わんぱくフォックス状態が素だったのかもしれないが
「ともかく、私の身に起きた出来事を知ってるのは私と君の二人だけだ。どちらかが余計な事を言わなければバレる事もないだろう」
「分かりましたよ、俺からは何も言いません……けど、もし少しでも百合園さんの体調が悪くなったりしたらすぐに周りの人達に相談しますからね」
「ああ、それで構わない」
本当は先生だけにでも伝えておくべきなのだろうが、百合園さんからの信頼が無い状態で勝手に告げ口した事がバレたら余計に信頼度が地の底まで落ちそうなので素直に従っておくことにした
……とはいえ、先生なら直接会えば百合園さんの変化くらいすぐに気付きそうなもんだけどな
「んじゃ、とりあえず記憶を取り戻す方法を考えるのはなんとかバカンスをやり過ごしてからって事で……この後はどうします?店に入って何も注文しないのもなんですし一品二品食べてから出ます?」
「ああ、そうしよう」
「りょーかい……あ、それと明日の買い物の予定もどうします?」
「そちらは予定通り済ませよう、君達の知る〝百合園セイア〟を演じるなら本人の予定に沿って行動した方が良さそうだからな」
「っすね、ところでバカンスに必要な道具って何を買うつもり……かは……覚えてるわけないですよね」
「そうだな、だが私の事だし恐らくスマホのスケジュールアプリに何か書いて─────は?」
「どうです?何か書いてました?」
「……折川酒泉、一つ聞きたいのだが未来の私は色ボケていたのか?」
「は?」
「いや、なんでもない……忘れてくれ」
百合園さんはそれだけ言うと不自然なくらい動揺しながらメニュー表を眺め出した
あのスケジュールアプリには一体何が書かれていたのか、百合園さんの記憶は戻ってくるのか、バカンスを無事に乗り切れるのか
それは名も無き神々のみぞ知る……なんちゃって
〝○月○日○時、酒泉とデート。そこで水着を試着してセクシービームを食らわせる〟
(……これは本当に私が書いたのか?)
オマケ、なんとなく思いついたネタ
酒泉「お願いします!一回だけ!一回だけでいいんです!」
イロハ「はぁ…仕方ないですね……ホッパァ!」
酒泉「すげぇ!本物のホッパー1だ!」
イロハ「ホッパー!ホパー!」
酒泉「うおおおおおおっ!」
マコト「イロハが壊れた……!?」
イロハ「ほーぱ……ほー……」
酒泉「あ、それはトラウマなんでやめてください」
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ミモリ「私には酒泉さんの愛があります!」
酒泉「あの……それどっちかっていうと俺が言うべきセリフなんじゃ……」
ミモリ「───というわけで、このまま二人でロマンティクスを……///」
酒泉「えっ」
ヒナ「こいつらデュートリオンしたんだ!」
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ナギサ「相変わらずのクソボケっぷりですね……そんなだから皆に嫌われるんですよ」
酒泉「俺は嫌われてません」
ナギサ「……優しいロールケーキで殺してあげましょうね」
酒泉「殺さないでください」