「……なるほど、やはり間違いない」
過去の日付、過去に暮らしていた部屋、そして過去に調子が悪い日には何度も味わってきた虚弱な身体特有の倦怠感
過去に戻っている────それは明白だった
「さて、元の時間軸に帰る方法を探すのは既定路線として問題は……それまでどの様にして過ごすか、だ」
百合園セイアは未来を知っている、それも予知夢で視たより更に先の未来も
実際にその時間を体験しているからこそ何が原因でどんな事件が起きたのか、それらを全て把握している───が、それはあくまでセイアが歴史通りに動いた場合の話である
仮にここで急に姿を表したとして、急にミカと対話しようとしたとして、急に調印式襲撃に備えだしたとして
何がどの様に変わるのか、石ころを一つ蹴っ飛ばしてどんな結末が訪れるのか、セイアは自分が体験しなかった出来事までは予測できない
「……とはいえ、特にやれる事は無さそうだが」
百合園セイアは未来を知っている、このまま自分が余計な事をしなければ全て解決する事も当然
怪我人が多く出る、涙や血も多く流れる、多くの悲しみも、怒りも、憎しみも、アリウスゲヘナトリニティ関係無く多くの傷跡が残される
それでもこのまま過去に沿って行動すれば全員が生き残れる、どれだけ苦しもうと最後には全員笑顔で終われる、そんなハッピーエンドが待っている
むしろ余計な行動を取ったせいで被害が拡大する可能性がある、山頂まで安全に進む道が整備されている状況だというのにわざわざ足場が不安定な道を選ぶ必要があるのか
「……皆には悪いが、ここは下手に動かない方が良さそうだな」
セイアは自分に何度も言い聞かせる、自分が余計な事をしなければ確実にハッピーエンドを迎えられると
誰も死なない、誰も不幸にならない、特に後遺症も残らない、自分は予知夢を手放す事にはなるだろうがただそれだけだ、むしろ直感が強化される方が小回りが利いて何かと便利だ
良い事づくめじゃないか、何を迷う必要がある、セイアは自分の中でそう結論付けようとした────
『水着?一応持っていきますけど……いや、泳ぎませんよ?』
『別に泳げない訳じゃないっすけど……なんとなく気分じゃなくて……あっ、でもバーベキューとかテント設営の準備は手伝いますよ、桐藤さん休ませる為ってんなら全力で協力しますんで』
『いやいや、俺は休憩とか要らないっすよ。さっきも言いましたけど泳がないんで……本当に手伝いに行くだけですから』
『…………まあ、確かに一人だけ泳がないとか不自然ですけど』
『……』
『……あー……すんません、正直に言います。本当は身体の傷痕誰にも見られたくないんすよ、これ見られると場の空気気まずくしちゃう事が多々ありまして……』
『まあ、そんな訳で当日はビーチの隅っこの方でスマホ弄ってるんで……適当に声かけたら来てくれるお手伝いさん程度の扱いで構いませんから』
「………………ふむ」
「…………」
「……いや、しかし……」
「むぅ……」
「…………」
「むむっ……むむむむむ…………」
「仕方ない、貸し一つだぞ……尽くしーセイアですまない」
百合園セイアは愛を知っている
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────あのグルメテロリストマジで許さん
この世界にもグルメポリス的な人達来てくれないかな……って思ったけど原作での活躍的にかませ犬にすらなれなそうだな
今日は本当に散々な一日だった、便利屋と戦ってる最中に便利屋に恨みを持つ組織から便利屋の一員だと勘違いされて陸八魔さんと一緒に追いかけ回されるし、鬼怒川さんを捕まえようとしたら発掘中の場所から温泉が吹き出して二人揃ってびしょ濡れになるし、黒舘さんには食いかけのメロンパン強奪されたし……まあ、最後の奴は別に事件起こしたわけじゃないけど
え?なんでその中で黒舘さんへの恨みが一番大きいのかって?んなの俺から糖分奪ったからに決まってんだろ
あれ結構有名な店のやつだったんだぞ!?せめて一声かけてくれよ!半分くらいは分けてやるから!
────今日は厄日だわー……いや本当に
思えば朝からイタ電が掛かってきた時点で今日一日の命運が決まっていたのかもしれない……ったく、どこの誰だか知らんが百合園セイアの偽者なんか騙りやがって
ゲヘナの生徒ならともかく、トリニティのお偉いさんが俺なんかに電話するわけないだろ
ちなみに百合園セイアというのは狐耳を生やしたトリニティの金髪少女の事だ、シマエナガっていうちょうど今俺の目の前に居る鳥とよくツーショットで映って……
────ん?
「───!」
目の前の鳥類をスルーしそうになってしまったが、完全に通りすぎようとするギリギリのところで足を止められた
こいつは……シマエナガ?しかもブルアカのスチルで見た奴と全く同じデザインだぞ?
「───、」
───あ、行った
写真でも撮ろうかとスマホを取り出したところでシマエナガは〝ピー!〟と鳴き声をあげて道の曲がり角の方へ飛び立ってしまった
ちょっと残念な気持ちになり、シマエナガが飛び立った方を見ながら再び帰路を歩き出す……すると、今度は曲がり角の向こうに小さな影が二つ───
────増えた!?
「「───!」」
なんとシマエナガくんの姿が二つに、これがマイティシマエナガダブルエックスですか
────兄弟か?
「「────!」」
────あ、こりゃどうも……ってまた行っちゃったし
何故かぺこりと行儀よく頭を下げられたのでこちらも頭を下げ返すと、シマエナガくんは二匹揃ってまたまた別の曲がり角の方へ飛び立ってしまった
……あの曲がり角の向こうでまた増えてたり……なーんて、そんな訳────
「「「「────!」」」」
────四匹!?
ピー!ピー!ピー!ピー!と鳴き声の四連撃が俺に襲い来る
いや可愛いけど!めちゃくちゃ可愛いけども!ちっこくて可愛いものに夢中になってる自分自身を意外に思ってるけども!それでもここまで怪現象が続くと怖くなって……やっぱ可愛いなチクショウ!
「「「「────、」」」」
────ま、また飛び立った……まさか、あそこの曲がり角を曲がったら今度は八匹に────
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ピ──!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
───いや多いなオイ!?
俺の予想は外れ、八匹を飛ばして九、十、十一、十二……いや、まだ増える!?
数えてる最中にも次々と空からシマエナガが降り立ち、とっくに両手の指では数え切れなくなっているのに両足の指を合わせてですら数え切れなくなってしまった
────な、なんだ!?何か不吉な事でも……おわああああああああっ!!?
次の瞬間、シマエナガの大群が俺に飛び掛かってきた
服に、腕に、頭に、肩に、あるいは頭に降りずその上でばっさばっさと
あらゆる個体が身体のどこかしらを突っついてきたり、服の中に潜り込もうとしてきたり、攻撃されてる感じはしないがとにかくじゃれついてくる
────だ、だれか……助け────
助けを求めようと空に手を伸ばした次の瞬間、何かが空から急降下してくるのが見えた
そいつもまたシマエナガ、しかし他の個体と違って嘴で紙の様なものを咥えており、表情はどこか怒っているように感じた
「────!」
「───、」
────おお……他のシマエナガが散っていく……
激おこシマエナガくんがばっさばっさと翼を羽ばたかせれば俺に纏わりついていた個体が全員地面に降りてくれた
────お、お前……まさか助けてくれたのか……?
「────!」
────ん?この手紙……俺に受け取れってか?
俺の言葉に頷いた激おこシマエナガくんは返事をするように頷いた後、嘴に咥えていた手紙を俺に渡してきた
役目を果たし終えたのかシマエナガくんがピー!とどの個体よりも大きな声で鳴くと、先程散ったシマエナガの軍隊が列を組み、その列を連れて皆で帰ってしまった
────はえー……すっげ
口を半開きにしながら空を眺めている俺は過去一番間抜けな顔をしているだろう
そんな顔を偶然通り掛かった通行人に見られる可能性も考えずに暫くぼーっとしていると、通り風で吹き飛びそうになる手紙を押さえていた事で漸く〝そういえばなんか渡されたな〟と思い出した
この紙なんだろうな、シマエナガくんからのラブレターとかか?……いや、なんか書いてあんな
────どれどれ……〝空、染まりし日、勇者は船と共に飛び立たん〟?
なんだコレは!?まるで意味が分からんぞ!勇者とはなんだ?いつ発動する?……てのは冗談で、実際には意味を全て理解している
……本当に重要なのは内容ではなく〝どうしてこれを知っているのか〟という事だったりする
少なくともこの手紙に書かれてる出来事を知ってるのは俺とシロコテラー……いや、シロコテラーだって〝勇者〟が〝船〟に乗ってくる展開は知らないはず
つまり俺以外にこの事を知ってる人はこの世界には一人も存在せず、知る術だって未来人がやって来るか────ん?
────……未来
そういえば、未来を予知できる人がトリニティに居たような
……その人は偶然にもシマエナガを飼っていたような
────……マジ?あれ悪戯電話じゃなかったの?
俺の予知夢でも視たか、それとも別の理由があるのか、どちらにせよ面倒事の匂いがする。つーかなんでこんな回りくどい文章にしてんだよ、俺以外の奴に拾われてもいいようにか?
ていうかもし本物だったとしたらトリニティのお偉いさんからの電話をイタ電扱いしてそのままブッチした事に……かなりマズくね?
……こんな所で考え込んでも仕方ないか、とりま今朝かかってきた番号に今度はこっちからかけ直そう
────ま、回りくどい……!
そして現在時刻夜中の八時、俺は若干の憤りを感じていた
あの後家に帰って百合園セイア(仮称)の電話番号にかけたのだが一向に出てくる気配はなく、代わりに返ってきたのはまた知らない番号からの電話だった
念のためその通話に出ると機械的な音声で〝ふた、まる、まる、まる〟と返ってきただけだった
最初は訳わかめちゃんだったが〝ふたまるまるまる〟ってもしかして〝2 0 0 0〟の事なのか?という考えに至り、20時にまたかけ直せば何か起こると思ってこの時間まで適当に過ごしていた
しかし電話をかけ直しても返ってきたのは〝おまちください〟というメッセージだけ
何なんだこの回りくどすぎる方法は、盗聴対策か?シマエナガくんと電話を使った二重の盗聴対策なのか?もし本人の趣味とかだったらぶちギレる自信がある
つーか〝おまちください〟ってどういう意味だよ、このまま電話の前で待ってろって事か?それとも自宅で待機してろって事か?
……あー、これで悪戯とかだったらめちゃくちゃ時間を無駄に────
〝ピンポーン〟
────……ん?
なんかもう面倒になってきてさっさと寝てしまおうかと思った矢先、家のインターホンが鳴らされる
来客にしてはちょっと遅い時間帯……なんだろう、ご近所さんか?何か注文した覚えはないので配送業者って事は無いだろう
……それか、例の電話の主……とか?
────……今行きまーす
玄関前から人の気配を感じながら恐る恐る扉を開ける
突然ナイフを向けられてもいいように身体を半身に傾け、銃を後ろ手に隠しながら来訪者の姿を見据える
────……は?子供?
「失礼だな、君より年上さ」
自分の目線より下から声が聞こえてきたので目線を降ろしてみる、するとそこに立っていたのは灰色のパーカーを被った子供だった
身長は空崎さんより少し大きいぐらい、フード部分が不自然に盛り上がってるので獣人特有の耳が頭から生えている可能性がある
そして一番気になる点が頭の上に浮かんでいるこのヘイロー、とあるキャラクターのものに非常によく似ている……のだが、正直自分の記憶に自信が無い
これが好きなキャラクターのヘイローとかであれば一発で正体が分かったのだが、生憎俺が想像しているのは特に推しでもなんでもない普通のキャラクターのヘイローだった
でも、多分合ってると思う。状況的に、あの人なら
────その、人違いなら申し訳ないんすけど……百合園セイアさん……ですか?
「おや、君の一番の理解者の顔を忘れてしまったのかい?」
どこのファンサービスさんだオメーと言いそうになったが、その前に目の前の少女が〝冗談さ〟と呟いた事でツッコむタイミングを見失ってしまう
「君にとっては初対面だろうからな、今は〝まだ〟そこまで深い関係ではないしその反応も仕方あるまい」
────〝まだ〟って……まるでこれから深くなるみたいな……
「ああ、そのつもりで言ったが?」
────えっ
一体彼女はどんな未来を視たのか、そこで俺は何をしでかしたのか
そんな事を聞く暇すら与えてもらえず、彼女はフードを外してその隠れていた両耳を露にした
「では改めて自己紹介といこう……将来的に君と苦しみも悲しみも喜びも分かち合う事になるであろう百合園セイアだ、よろしく頼む」
ヒナ「しつこい」
ヒナ「貴女達は本当にしつこい、飽き飽きする、心底うんざりした」
ヒナ「口を開けば酒泉酒泉と馬鹿の一つ覚え、貴女達は番外編でヒロインになれたのだからそれで充分でしょう」
ヒナ「本編でヒロインになれないからってなんだというの、番外編を貰えただけでも幸せだと元の生活を続ければ済むこと」
セイア「……お前は何を言ってるんだ?」
ヒナ「私と酒泉がくっつくのは運命だと思いなさい」
ヒナ「何も難しく考える必要はない、メインヒロインが絶対に主人公とくっつくように、続編で二人の子供が登場するように、どれだけメインヒロインと主人公がイチャラブしようとそれに文句を言う読者はいない」
ヒナ「本編軸で酒泉が貴女達に振り向く可能性は無い、いつまでも酒泉に拘ってないで自分達なりに素敵な人を探せばいいでしょう」
ヒナ「殆どの作品の負けヒロインはそうしてる、貴女達はなぜそうしない?」
ヒナ「理由は一つ、アリ潰の負けヒロイン達は異常者の集まりだからよ」
ヒナ「異常者の相手は疲れた、いい加減終わらせて余生を酒泉とのイチャラブに費やしたいのは私の方よ」
ミカ「……っ」
ナギサ「……っ」
セイア「……空崎ヒナ、お前は───」
セイア「───存在してはいけない生き物だ」