〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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作戦開始・現在

 

 

 

青い空!白い雲!広大な砂浜!そして海!これがプライベートビーチだってんだからお金持ちは凄いねー

 

こういうの持ってる人って自家用ジェット機とかも持ってそうだよな、勝手なイメージだけど……まあ、それは置いといて

 

 

「うーん、実に素晴らしい天気だ」

 

「なぜゲヘナの生徒が……それもよりによってスイーツハイエナがこんな所に……!?」

 

「……うーん、実に素晴らしい天気だ」

 

 

うん、天気はいいのよ天気は、日差しだけじゃなくもっと鋭いもん向けられてる気がするけど

 

どうして羽川さんがここに居るんです?俺何も聞かされてないんだけど百合園さん伝え忘れた?ていうか俺ってトリニティでそんなあだ名付けられてるの?

 

……まあいいや、別にゲヘナ嫌いの相手は誰かさんとの口喧嘩で慣れてるし適当に無視しとけばいい

 

 

「ありゃ?そっちは風紀委員の……お久しぶりっすね、もしかしてミカ様が言ってた〝お手伝いさん〟って君のことっすか?」

 

「あ、仲正さん……そっすそっす、本日はよろしくっす」

 

 

めちゃくちゃ睨んでくる羽川さんの隣で普通に挨拶してくれたのが〝とある事件〟が切っ掛けで知り合った仲正さんだ

 

厳密に言うなら〝とある事件〟よりもっと前から互いの事は認識してたし一言二言程度なら会話した事だってある、ただそれらは学園間で戦術対抗戦を行う際にする軽い挨拶程度のものだ

 

つまり実質ほぼ他人みたいなもんなのである

 

 

「やっほ、もう着いたんだ」

 

「先生……先生も呼ばれてたんですか?」

 

「うん、酒泉と同じ要件でね」

 

という事は桐藤さんを休ませるのに協力する為、つまりいつも通り生徒の為に働いてるって訳だ

 

ちゃんと休めてるんですか?……って聞こうと思ったが、先生の鞄とかが纏められている場所に恐らく先生が持ってきたであろう木製バットとスイカが置かれていたのでそこそこ浮かれてはいるのだろう

 

ちゃんとバカンスを楽しむつもりみたいでよかったよかった

 

「それにしても……この面子が揃うとあの事件を思い出すっすねぇ」

 

「……いや、その……あの時は本当に……」

 

「ああ、押し倒された事っすか?気に病まなくてもいいっすよ、あれは暴走しちゃった私が悪いっすから」

 

「なっ……貴方、そんな事を!?スイーツを貪るだけでは飽きたらず、イチカまで貪ろうと……しかもあの子の告白を断っておきながら!」

 

 

違うんよ、あれは銃で仲正さんを撃っていいのか悩んだ結果だったのよ

 

個人的な喧嘩とかじゃなくて互いに組織の一員として働いている時に下手に銃で攻撃しちゃっていいのかなーとか色々考えた末の行動だったのよ

 

でもあのまま放置してたら銀鏡さんの方にも襲いかかってただろうし……俺は悪くねえ!俺は悪くねえ!

 

 

「……言っておきますが、これ以上正義実現委員会の生徒に手を出すつもりなら容赦しませんからね。イチカ、貴方もこの男には気を付けなさい」

 

「そんなことしませんよ!仲正さんに手を出すなんて……仲正は俺の仲間なかまさ!はい!酒泉じゃー?ないt───」

 

「殺すっす」

 

「ごめんなさいっす」

 

 

羽川さんと打ち解けつつ場の空気も良くできるような激ウマギャグを言ったのに何故か開眼した仲正さんに殺気をぶつけられてしまった

 

羽川さんも羽川さんでゴミを見るような目で見てくるし心なしか先生ですら若干引いたような目をしている、もう駄目だ俺には錠前さんしかいない

 

 

「みんな~!おまたせ~!」

 

 

なにやってだこいつ的な視線を向けられる地獄の空気に助け船が

 

声のした方を向いてみれば、ピンク色の髪を揺らしながら駆け寄ってくる少女が一人

 

「遅れちゃってごめん!ちょっと荷物の整理に手間取っちゃって……」

 

「ミカ様……いえ、我々も先程集合したばかりですのでお気になさらないでください」

 

 

到着するや否や聖園さんがいきなり深々と頭を下げると、自分より上のお偉いさんに頭を下げられたからか羽川さんは一瞬だけ戸惑った様に後退りした

 

しかしそこは流石の正義実現委員会の副委員長、すぐさまキリッとした表情に切り替えて咄嗟のフォローも忘れていない

 

 

「ハスミちゃん、イチカちゃん、それに先生も!今日は来てくれてありがとね!本当は私達だけでナギちゃんを休ませてあげたかったんだけど……ナギちゃんってば〝最低限の護衛はつけるべきです〟って聞いてくれなくてさ」

 

「いえ、我々としても声を掛けていただけてよかったです。ティーパーティーの皆様を護る事は最重要任務ですから」

 

「でも、ここはティーパーティーの所有するプライベートビーチっすよ?そうそう危険な事は起きないと思うっすけど……」

 

 

仲正さんの言う通り、マナーも法も知らん馬鹿共が人の土地で暴れたりしない限り護衛が必要になる事など起こり得ないだろう

 

ちなみにゲヘナには人の土地だろうと勝手に爆破したり温泉掘ったりする馬鹿共が沢山居ます、悲しいねバナージ

 

 

「まあね?でも一応警戒しておくに越したことはないからさ……あっ!勿論皆を働かせっぱなしにするつもりはないよ?イチカちゃんも言ってた通り事件が起きることなんて滅多に無いだろうから、ある程度施設の点検とか巡回が終わったら皆も肩の力抜いて楽しんじゃっていいからね!」

 

「い、いいんすかね……ティーパーティーの皆様の警護をほったらかしてバカンス楽しむなんて……」

 

 

聖園さんの前だからなのか仲正さんは若干緊張している様子で尋ねる

 

が、聖園さんは気品も偉さも感じないぐらい適当な態度で手を横に振った

 

「いいのいいの、そのティーパーティー本人がいいって言ってるんだから!それに何か起きてもそこの雑用係君に任せちゃえばいいからねー」

 

「おい待てェ、誰が雑用係だってェ?」

 

「誰って……私の誘いには乗らなかった癖にセイアちゃんからの誘いにはあっさり乗っちゃった誰かさんのことだけど?」

 

「あれはアンタの誘い方が下手くそだったからだろうが!さっきだって俺にだけお礼言わなかったしよぉ!」

 

「俺にお礼……この男、またしても下らないジョークを……それもティーパーティーの前で……!」

 

「ハスミ先輩、多分今のは先輩の受け取り方の問題っす」

 

 

話すと長くなるので要約するが、確かモモトークでは〝今度ティーパーティーのプライベートビーチに遊びに行くんだけど、頭を下げて懇願するなら特別に連れていってあげないこともないよ?〟みたいな誘われ方をされたはず

 

他にも〝新しい水着見せてあげよっか?酒泉君には勿体無いけどね☆〟だの〝この海すっごく綺麗でしょ?ゲヘナにはこんなに綺麗な海ってあるのかなー〟だのと頼んでもいないのに色んな自慢をしてきて鬱陶しかったので一時的にモモトークをブロックしてしまった

 

その後、聖園さんにモモトークをブロックされた事を愚痴られた百合園さんが代わりに俺にメッセージを送ってきて〝これこれこういう理由で桐藤さんを休ませたいからバカンス計画を手伝ってくれ〟と聖園さんの何倍も分かりやすく丁寧な文で協力を頼まれた

 

……その後の〝なんで俺に頼むんですか?〟という質問には答えてくれなかったけど、多分人を無理矢理休ませる事に関しては空崎さんで慣れている俺が適任だからだろうと勝手に結論付けた

 

 

「私の頼みを聞いて来てくれたんならお礼も言ったけど?でも酒泉君、セイアちゃんのお願い聞いただけだしなー」

 

「こ、このアマ……!」

「こらこら、二人とも落ち着きなさい……ほら、ミカだってせっかく可愛い水着着てきたのに喧嘩ばっかりしてるとバカンスが台無しになっちゃうよ?」

 

「おーさっすが先生!ちゃんと女の子の褒め方わかってるー!……誰かさんと違ってー」

 

 

〝可愛い〟と褒められた瞬間、水着を見せびらかす様にくるりとその場で回りながら笑みを浮かべる聖園さん

 

それだけなら別に良かったのだが、なんと先生の後ろからわざとらしく俺の方に〝べー〟と舌を向けてきやがった

 

……もう知らん、付き合ってられるか

 

 

「やっぱり先生は優しいなー、褒められるところはちゃんと素直に褒めてくれるし?気遣いも出来るし?」

 

 

さて、巡回前に俺も荷物の整理でもしよっかな

 

まずは救急セットだろ?スマホのバッテリーと充電コードだろ?泳ぐつもりはないけど一応持ってきた水着だろ?

 

 

「やっぱり女の子としては誰かさんみたいなガキンチョより先生みたいな大人の男性の方が憧れるよねー」

 

「あ、あはは……ありがとう……」

 

 

ゲーム機だろ?あと〝撲滅の刃〟と〝叙述廻戦〟の最新刊だろ?……最新刊、どっちも人死ぬんだよな、俺の推しキャラの燃獄さんと六条先生が

 

 

「……私、デートするなら先生みたいな人がいいなー!全く褒めてくれない人の為にオシャレしていってもしょうがないもんね!」

 

 

六条先生なんか〝僕の力が及ばなかったせいで生徒達にあの化物を押し付けてしまった〟って死後の世界みたいな空間でめちゃくちゃ悔しがってたな……でも胴体を切断されても尚気合いでラスボスの力の一部を封印したシーンはマジで感動したわ

 

 

「あーあ!!!付き合うなら先生みたいな素敵な人がいいなー!!!」

 

「……先生、先生、ミカ様っていつもあんな感じなんすか?」

 

「いや、あのモードになるのは酒泉の前だけだね」

 

「ティーパーティーがあの男の毒牙にかかっているという噂は本当でしたか、だとすればセイア様も噂通り……くっ!せめてナギサ様だけでも!」

 

……っていかんいかん、早く荷物整理を終わらせないと

 

クーラーボックスよし!大量に詰め込んできたアイスよし!糖分よし!

 

 

「────んで?どこから巡回行きます?」

 

「知らない!海の中でも巡回しとけば!?」

 

「死ねと!?」

 

 

事前に段取りを決めておくため聖園さんに話しかけたのに返ってきたのは理不尽な怒りだった

 

聖園さんは〝私あっちの巡回に行くから!〟と吐き捨てるとそのまま俺達から離れて単独行動しようとする……が、その前に先生が静止に入った

 

 

「ま、まあまあ!酒泉だってミカの水着に見惚れてて咄嗟に褒めることができなかっただけだから!ねっ!?」

 

「…………そ、そうなの?」

 

「はあ?んなわけ───むごぉ!?」

 

「そうだよねー!?(お願い!ここは合わせて!)」

 

「……むぐぐ(まあ、先生の頼みなら……)」

 

 

先生は俺の口を自らの手で塞ぐと〝話を合わせてくれ〟と目配せしてきた……え?なんで分かるのかって?知らん、なんとなくそう思った

 

 

「……そっすね、その水着、結構似合ってると思いますよ」

 

「ふ、ふーん?なーんだ、やっぱりそう思ってたんだー……最初から素直にそう言えばいいのに」

 

「はいはい、悪かったですね……じゃあ、そろそろ───」

 

「ちなみに!……〝結構似合ってる〟って酒泉君的には何点くらいなの?」

 

「……はい?」

 

「だ、だからぁ!どこが可愛いとかどこに魅力を感じるとか、そういう……褒めるっていうか……ポイント的な……」

 

 

ただ褒められるだけじゃ物足りないのか、まだゴニョゴニョと呟いている聖園さん

 

似合ってると言ったのも別に世辞ではないのでそれだけで満足してほしかったが……そうだな……点数か……

 

 

「……5点ですね」

 

「バーカ!!!」

 

小学生かと言いたくなるような悪口を叫びながら走り去っていく聖園さん、相変わらず怒りの沸点が分からない人だな

 

 

「さて、聖園さんも行ったことだし俺達も巡回開始といきますか」

 

「……ねえ、酒泉」

 

「なんすか」

 

「さっき言ってた〝5点〟って評価、あれもしかして5点満点中だったりする?」

 

「……………………チガイマス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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〝こっちは予定通り進んでますよー〟

 

〝そうか〟

 

 

車の停止中に酒泉から届いたモモトークを確認し、素早く返信してからまた運転を再開するセイア

 

その隣の助手席にはナギサが座っており、格好は二人揃って仲良く水着を着用していた

 

 

「はぁ……ミカさんの方は大丈夫でしょうか、正義実現委員会の方々に我儘を言って困らせていなければいいのですが」

 

「……どうだろうな」

 

 

少なくとも自分の知るミカは我儘を力ずくで押し通そうとする輩だ、それを実際に身をもって味わったセイアは未だに昔のミカのイメージに引っ張られていた

 

セイアはナギサをプライベートビーチに連れ出す為の打ち合わせをする際にミカと一度直接顔を合わせている、その時に抱いた感想は〝私の知るミカではない〟というものだった

 

謀略を練り暴力に頼る、気に入らない相手を黙らせる為だけにテロリストの手を借りようとしていた愚かな少女の姿はそこにはなかった

 

 

「彼女の事だ、また一人で暴走していてもおかしくはない」

 

「……その、セイアさん?ミカさんと何かありましたか?」

 

「……どうしてそう思う?」

 

「言葉に棘があるように感じましたので」

 

 

二人が喧嘩するのはよくある事だが、今回の場合は互いに意見がぶつかり合った訳ではなくセイアが一方的にミカを警戒しているだけだ

 

しかし誰に刺客を差し向けられたのかを考えれば警戒するのも無理はない。最悪の場合、ミカにその気がなくともアリウス側の一方的な判断で隣に座っている少女まで命を狙われていた可能性があるのだから

 

 

「……ナギサ、身体の調子はどうだ?」

 

「わ、私ですか?私は平気ですが……セイアさんの方こそ大丈夫ですか?今は多少回復したとはいえ、以前は床に伏している事が多かったですから」

 

「私の身体の問題なんて些細な事さ……君にかけてしまった負担の大きさに比べたらね」

 

「負担?……えっと、お仕事の話でしょうか?」

 

「…………それだけじゃない、エデン条約の件もだ」

 

 

自身の命も狙われているかもしれない、次に殺されるのはミカかもしれない、被害が学園全体に拡大するかもしれない、裏切り者の正体が自分の大切な人かもしれない

 

その恐怖は尋常なものではなく、自分はこれからその恐怖のど真ん中にナギサ一人を置いていこうとしている────どころか、実際にその恐怖を体験した後のナギサが目の前にいる

 

そんな状況下で何も感じないほどセイアは薄情な人間ではなかった

 

 

「君には多くの決断まで背負わせてしまった。友を疑うのは辛かっただろう、その身を晒し続けるのは怖かっただろう。君は本来その苦しみを背負う必要は無かったんだ……ナギサ、君は完全な被害者だ。例え無実の者を疑ってしまったとしても、そうせざるを得ない状況を作ったのは私とミカなんだ」

 

「……」

 

「謝って許される事ではないと理解している、それでも言わせてくれ……すまない」

 

今更彼女に謝罪したところで何の意味があるのか、このナギサはとっくに心を傷付けられた後だというのに、過去のナギサが救われる訳でもないというのに

 

それを理解していながらもセイアは深々と頭を下げた、所詮自己満足だと自身の行動を嘲笑しながら

 

 

「はぁ……セイアさんもミカさんも一度思い込んだら考えを曲げなくなってしまうところがありますからね、そういう部分は似た者同士といいますか……」

 

「……?君は何を……」

 

「いいですか、セイアさん。エデン条約の件でしたら私は〝背負う必要の無かった問題〟だと思った事など一度足りともありません」

 

 

そんなセイアに返ってきたのは罵倒でも軽蔑の目でもなく、呆れ返ったような溜め息だけだった

 

 

「命を狙われる危険に身を晒すのも、親しかった者を疑うのも、全て〝ティーパーティー現ホスト・桐藤ナギサ〟の仕事です。その過程で無実の者達を疑ってしまったのもミカさんの謀略に気付けなかったのも全て私自身の責任です。それなのに勝手に〝自分のせいだ〟と卑下なさらないでください、勝手に私の荷物を持っていこうとしないでください」

 

「し、しかし……」

 

「それよりも私が気にしているのはセイアさんとミカさんの事です、今度は一体何が原因で喧嘩しているのですか?」

 

 

桐藤ナギサとはこんなにも強かな少女だっただろうかと困惑するセイア、一方でナギサは直前の会話の空気を引きずる事なく一瞬でいつもの状態へと切り替わる

 

ミカとセイアの口喧嘩を呆れながら宥めている時のような、いつも通りの桐藤ナギサに

 

 

(……そうだ、このナギサは私の知るナギサではなかったな)

 

 

ならば当然成長もしていよう、ナギサも───ミカも、もしかすると

 

 

(……未来の私はどの程度成長しているのだろうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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馬鹿な、ここはティーパーティーが所有するプライベートビーチのはず

他者が立ち入る事は禁止されている筈なのに、どうして────

 

 

「あれ?……酒泉じゃん!」

 

「どうして温泉開発部のアンタがここに居んだよぉ!?」

 

 

シャワー室の点検をしようとしたら何者かがシャワー室内で何かしらの工事を勝手にしており、温泉開発部みたいな事をする奴が他にもいるんだなーと思いながら声をかけてみればまさかのご本人様でした

 

なんで巡回早々にこんなアクシデントが発生すんだよ、しかも温泉開発部が相手って十中八九何か起きるだろ

 

 

「温泉開発部?…………はっ!?ま、まさかゲヘナのテロリスト集団の!?何故そんな人物がプライベートビーチに!?」

 

「メ……メグ?なんで君がここに居るのかな?」

 

「んー?それはねー……」

 

 

先生は困惑しながら、羽川さんはゲヘナへの敵意を隠さず警戒しながら下倉さんに尋ねる

 

すると下倉さんは後ろで作業を続けている仲間達の方に視線を移し、〝見ての通りさ〟と言わんばかりにドヤ顔を向けてきた

 

 

「なっ……なんですかこれは!?どうして発掘道具がシャワー室内に!?どうしてシャワー室に穴が!?どうして爆薬が!?」

 

「はんちょー、こっちも掘り始めちゃっていいー?」

 

「おっけー!」

 

「おっけーじゃないです!ここは私有地ですよ!?勝手な行動をしないでください!」

 

「うわっと!?」

 

「このっ!さっさと……離しなさい……!」

 

「むむむむっ……!」

 

 

自分もツルハシを持って仲間達の元へと向かおうとする下倉さんに羽川さんが即座に襲い掛かる

 

……ところで、急に話が変わるけど下倉さんって結構力がある方なんだよね

 

日頃から発掘作業してる連中の腕力が低い筈もなく、聖園さん程ではないにしろ単純なパワー比べならそこらの生徒じゃ歯も立たないだろう

 

 

「────せいやー!」

 

「きゃあっ!?」

 

 

案の定、下倉さんに力負けした羽川さんはそのまま勢いよく突き飛ばされて尻餅をついてしまった

 

少しずつ敗北した事実を受け入れてきたのか、羽川さんはワナワナと震えながら何かの間違いだとばかりに再び突撃していった

 

 

「この程度……ツルギに……比べれば……っ!」

 

「むむむっ……とりゃあ!」

 

「ぐっ!?」

 

 

羽川さんの脚と手には先程以上の力が込められているように見えたが、下倉さんの力に比べたら上昇力も微々たる程度でしかない

 

またまた案の定だ、力が入っていたのは最初だけで途中から下倉さんに押し返されてゆき、最後にはさっきと全く同じ格好で突き飛ばされた

 

 

「っ……まだまだです!」

 

「羽川さん、下倉さんと戦う時は────」

 

「ゲヘナの助言など必要ありません!」

 

「あ……行っちまった」

 

 

なーにをそんな拘っているのか知らんけど素直に話を聞いてくれりゃいいのに

 

そんなにゲヘナからの助言を受けたくないのか、それともゲヘナとの勝負に一対一で勝ちたいのか、あるいは両方か

 

 

「ハスミ、メグはゲヘナの中でもかなりの力持ちだから───」

 

「分かってます!正面から叩き伏せてみせます!」

 

「……うん、駄目だ、私の声も聞こえてないね」

 

「先生で駄目なら俺でも無理っすね」

 

 

そこまでして負けたくないのか正義実現委員会副委員長様よ

 

どうせ無駄だろうけど一応声は掛け続けておくか、後から〝どうして弱点を教えてくれなかったのですか!〟とかイチャモンつけられても困るし

 

 

「羽川さーん、まずは馬鹿正直に突っ込むよりも相手からの攻撃を避ける姿勢を作って────」

 

「それくらい分かってます!」

 

……まあ、きっと羽川さんも大嫌いなゲヘナにいいようにやられて頭に血が上っているのだろう

 

ここは言葉が通じるまで冷静に呼び掛けよう

 

 

「羽川さん、そもそも肉体スペックが格上の相手と真っ向勝負するなんて────」

 

「非力な貴方に言われなくても分かってます!」

 

 

……ふー……落ち着け落ち着け、クールになれ

 

 

「やるねー!でも私だって負けないよー!」

 

「っ、この……うあっ!?」

 

「羽川さん、無理して力の押し合いで勝とうとしなくても────」

 

「ですから!ゲヘナの助言は要らないと言ってるでしょう!?それにゲヘナに負けもしませんから!」

 

 

…………

 

 

「……しゅ、酒泉?もしかして怒ってる?」

 

「いや怒ってないっすマジで怒ってないっす俺を怒らせることができたら大したもんすよいやマジで実際────」

 

「ちょいさー!」

 

「きゃあああああっ!?」

 

「あ、また投げ飛ばされた」

 

「……もういい、俺が行きます」

 

「え?あ、でもハスミが───」

 

 

先生から制止させようとする声が聞こえてくるが、それを無視して脚を下倉さんと羽川さんの方へと進める

 

羽川さんは既に立ち上がっており、下倉さんも羽川さんに向かって体当たりでも仕掛けるかのような構えを取っている

 

 

「今度こそ真っ向から返り討ち────にぃ!?」

 

「またまた勝っちゃうもん────ねぇ!?」

 

そんな羽川さんの身体を左手で横から雑に突き飛ばし、突進してきた下倉さんの腕を掴んでそのまま背負い投げを決める

 

さっさと終わらせたいし武力介入させてもらうぞ、空気なんぞ読む必要無し

 

 

「あ、貴方……突然何を……!」

 

「いや、だって羽川さん苦戦してたから俺が戦った方が早いかなって」

 

「く、苦戦なんてしてません!今から本気出すところでした!」

 

「……馬鹿正直に突っ込むことしかしてねー癖に」

 

「なっ!?」

 

「自分より身体スペックが高い相手に真っ向から挑んで勝てるわけないでしょ、そういう時は小手先の技術も使っていかないと……そもそも格上と肉弾戦を行う際の基本は〝流す〟〝逸らす〟〝潜る〟〝乗せる〟でしょう?」

 

「あ、貴方に言われなくても分かってますよ!言っておきますが一年生の貴方より私の方が戦闘経験は多いんですからね!?」

 

「できてねーから言ってんだろうがよぉ!?攻撃を流すことも起動を逸らすことも懐に潜ることも相手の勢いを利用して自分の力を乗せることもしてねえだろうが!?」

 

 

純粋な近接戦闘というのは実は狙撃の次に得意な俺の戦闘スタイルである……というよりも身体をある程度自在に動かせるようにならないと簡単に被弾してしまうので鍛えざるを得なかった

 

敵の射撃の初動と銃口の向きを〝眼〟で咄嗟に判断出来たとしても、咄嗟に身体を動かす事ができないと全ての弾を完全に回避するのは難しい

 

だから俺はどんな姿勢からでもあらゆる構えに繋げられるようにひたすら訓練を続けてきた

 

 

「いった~……もー!急に横入りしないでよー!」

 

「それは悪かった───な!」

 

「うえっ!?避けられた!?」

 

 

だから、背後から飛び掛かってきた下倉さんを避けて背後を奪い返すことも

 

 

「そおい!」

 

「ま、また!?」

 

 

足払いを掛けて下倉さんの支えを崩し、そのまま抵抗される前にまた背負い投げを決めることも

 

 

「いたたたたたっ!?降参!降参するから~!」

 

「駄目だ、信用できん……少しでも力を籠めようものならその瞬間にもっとキツく絞めるからな」

 

 

そのまま自分の脚を下倉さんの胴体に絡ませながら下倉さんの腕を極めることだって可能だ

 

 

「……ふん、その程度の拘束で彼女程の怪力が簡単に捕まるわけが……」

 

「ふぎぎぎぎぎっ……」

 

「……あ、あれ?」

 

 

そう、羽川さんの言うとおりだ

 

そこらの不良生徒相手ならともかく、下倉さんほどの力を持つキヴォトス人相手では俺ごときの拘束なんてすぐに抜け出せるだろうよ

 

だからこそ拘束する際の〝姿勢〟や締め付ける〝位置〟が重要になる

 

 

「足場が柔らかければ足に力を込めずらくなる、仰け反ると呼吸が辛くなる、関節の可動域を制限されると大振りで抵抗できなくなる……これは人間の弱点ってより構造上当たり前の話なんだけど、酒泉はそれを誰よりも詳しく理解してるんだ」

 

「誰よりもは言い過ぎです、少なくとも火宮さんや氷室さんは俺より人体構造に詳しいですよ」

 

 

どこをどんな体勢で絞めるべきか、今の相手の体勢ならどこが一番力を入れにくい箇所なのか

 

それらを理解する為に俺はひたすら訓練用の人形で勉強しまくった、結果一時期マネキンに発情するやべーやつ疑惑に付きまとわれた

 

 

「くっ……ゲ、ゲヘナの生徒の割にはそこそこ知恵が回るみたいですね……!」

 

「おやぁ?逆に正義実現委員会の副委員長様はそんなこともご存知なかったんですかぁ?」

 

「も、勿論存じておりました!あのまま戦闘が続いていれば私だって同じ手段を使ってました!貴方が邪魔してきたから使う機会を失くしてしまっただけです!」

 

「んな長々と待てるかぁ!大体〝邪魔した〟ってなんだよ!アンタがチンタラやってっから俺が代わりに片してやったんだよ感謝しろやぁ!」

 

「いいえ!あれは邪魔です!邪魔以外の何者でもありません!私はただ敵の能力を見定める為に観察に時間を費やしていただけです!それを貴方が横から手柄泥棒したんです!」

 

「そんな事に時間掛けるくらいなら黙って俺の言うこと聞けばよかったんだよぉ!アンタ俺より弱いんだから余計な事すんな!俺より弱いんだから!」

 

「二回も言いましたね!?というか私が貴方より弱いというのがそもそもの間違いです!感情のまま暴れるだけの野蛮なゲヘナ生に私が負ける訳がないでしょう!?」

 

「そのゲヘナ生にボロクソにされてるから助けてやったんだろうがよぉ!?アンタのやっすいプライド守ってやっただけ感謝しやがれ!」

 

「そのせいで余計に屈辱を感じているのですよ!」

 

「ゲヘナにボコされるかゲヘナに助けられるか程度の違いだろうが!」

 

「────もー!私の周りで喧嘩しないでよー!」

 

「ぬおっ……!?」

 

 

口喧嘩に気を取られていたせいで無意識に拘束が甘くなっていたか、下倉さんは俺の手を強引に振りほどいてそのまま距離を取ってしまった

 

これも全部羽川さんのせいだ、この人が素直に助けを求めてくれたらもっとスムーズに制圧できたのに……つーかこの人、俺に対して当たり強くね?いくらゲヘナ嫌いとはいえここまでのキャラだったか?

 

うーん、恨みを買うような真似をした覚えなどないのだが……そもそも接点自体殆ど無いし、トリニティのスイーツ店で見掛けた時も特に会話とかしないしな

 

「ちょいちょい、何を騒いでるんすか。何か変な物でも見つけ……て……ん?」

 

「あ、仲正さん」

 

 

完全に体勢を立て直してしまった下倉さんと(隣から睨んでくる羽川さんを無視しながら)睨み合っていると、他の設備の点検に向かっていた仲正さんが騒ぎを聞き付けてシャワー室にやってきた

 

丁度良い、参謀的なポジションのこの人なら素直に協力してくれるだろう……羽川さんと違って

 

 

「仲正さん、緊急事態です。ティーパーティーのプライベートビーチに不法侵入者が現れました」

 

「…………」

 

「敵は下倉メグ、仲正さんも前に会った事のある温泉開発部の一人です」

 

「…………」

 

「あの人が居るって事はもしかすると……いえ、高確率で鬼怒川さんも近くまで来ているでしょう」

 

「…………」

 

「……あの、仲正さん?さっきから黙りしてますけどちゃんと聞こえて────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!?」

 

「!?!!?」

 

 

突然隣で叫び出す仲正さん、あまりの声量に咄嗟に耳を塞いでしまった

 

なんだなんだ、まさか仲正さんまで羽川さんの影響を受けてヒステリックを起こしてしまったのか?精神汚染か?

 

 

「いやいやいやいやいや!?なんで温泉開発部がこんな所にいるんすか!?ここティーパーティーのプライベートビーチっすよ!?」

 

「さ、さあ……何かしらの理由はあるんでしょうけど……」

 

「何かしらの理由ってなんすか!?あいつら温泉開発以外にやることあるんすか!?もっと厄介なもん持ってきてんすか!?」

 

 

仲正さんがずいーっと俺に詰め寄ってくるが、正直困惑で答えるどころではない

 

仲正さんってこんなキャラだっけ?いや、確かに〝あの事件〟ではかなり暴走してたけど……いや確実に〝あの事件〟が原因じゃん、あれのせいで温泉開発部警戒しまくってるだけじゃん

 

 

「イ、イチカ!これ以上戦闘が長引くとバカンスにも影響が出ちゃうかもしれないからここは穏便に話し合いを……!」

 

「分かってるっす!穏便に暴力で解決するっす!」

 

「違う、そうじゃない」

 

「行きますよイチカ!ここは二人掛かりで───おや?」

 

「どうしたんすかハスミ先輩!今すぐあいつを……ありゃ?」

 

急に冷静さを取り戻した二人は先程まで下倉さんが立っていた場所を見つめる

 

しかしそこに人の姿はなく、あるのは工事か何かで使うつもりだったであろう爆薬だけだった

 

 

「……彼女の姿は?」

 

「二人が言い争ってる間に仲間達と逃げ出しましたよ、こっち側の戦力が増えたから撤収したみたいですね」

 

「……止めなかったんすか?」

 

「ごめん、私は話だけでも聞こうとしたんだけど止めるのが間に合わなくて……」

 

「……折川酒泉、貴方が止めなかった理由は?」

 

「……仲正さんの変わりっぷりに驚いてつい唖然としちゃって……」

 

「……折川酒泉」

 

「……なんすか」

 

「そこは貴方の学園の生徒なんですから貴方が責任を持って止めるべきでしょう!?」

 

「アンタらが大人しくしてたら最初から逃がさなかったわボケェ!」

 

 

とか言いつつ小型GPSを下倉さんの鞄に付けてたり……わざと逃がしたって訳ですね、これぞ風紀委員実働部隊の必需品

 

つーかさっきまで散々協力を拒んでた癖に今更責任云々語らないでほしい、ていうか今日の俺は風紀委員の折川酒泉ではなくただの折川酒泉なのでテロリストの相手を押し付けないでほしい

 

さて、そんな面倒なテロリストを追うのは後にして先ずは聖園さんの所に行かないとな、何があったのか説明もしないといけないし

 

 

「あーもうマジでめんどくせぇ……今日はバカンスの手伝いだけして帰るつもりだったのに余計な仕事増やすなよあいつら……」

 

「まったく……先程の生徒といい胸をさらけ出してる行政官といい、ゲヘナ学園には問題児しかいないんですか?」

 

「そっすね、まともな生徒も沢山居ますけどアンタの腹並にふてぶてしい奴も同じくらい沢山居ますよ」

 

「は……はぁ!?私のお腹のどこが太いんですか!しっかり絞ってますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー……ふー…………あー落ち着いてきた」

 

「……」

 

「先生、さっきは取り乱しちゃって申し訳ないっす……後で彼にも謝っとくっす」

 

「……ああ、うん」

 

「……先生?どうしたんすか?あの二人の背中をじっと見て……何か気になるんすか?」

 

「……いや、なんていうか────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなどしどし音立てて近寄らないでくださいよ、四股でも踏んでるんですか?羽ノ川親方」

 

「ですからっ!!!私はっ!!!太ってません!!!」

 

「ギアフォース(笑)リバウンドマン(笑)」

 

「~~~っ!あーもう!そこまで言うなら実際に触って確かめてみればいいでしょう!ちゃんと痩せてますから!」

 

「あーはいはい痩せてる痩せてる、めっちゃ痩せてますねー」

 

「何ですかその適当な返事は!それに〝はい〟は一回に────待ちなさい!まだ話は終わってませんよ!折川酒泉!待てと言ってるでしょう!?」

 

「はいはーい」

 

「もっと集中して私のお腹を見なさい!見事に絞れてるでしょう!?ほら!目に焼きつけなさい!私のお腹を!ちゃんと見なさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────酒泉と喧嘩してる時のアコと雰囲気がそっくりだなーって」

 

 

 








モブA「誰かが酒泉の水筒に媚薬を盛った!あいつら本編のメインヒロインレースじゃ絶対にヒナ委員長に勝てないから!あいつら酷い真似を!」
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