とりあえず温泉馬鹿が置いてった資材や爆弾を回収、点火しないように一つずつ線を抜いたり切ったり中身をバラしたりして無力化させた……無駄に種類持ってきやがって
「……なるほど、ゲヘナの温泉開発部がね」
「はい……取り逃がしちゃって申し訳ないっす」
「すぐにでも身柄を押さえてきます!」
その後反対方向に施設点検に向かっていた聖園さんと合流、何が起きたのか事の顛末を説明すると聖園さんは考え込む素振りを見せた
……多分、いやほぼ間違いなく色々言われるだろうな。ゲヘナ絡みの嫌味なんざどうせ俺の方に来るに決まってる
「……いや、それよりも今はめちゃくちゃにされたシャワー室の掃除を優先しよ?それにそのゲヘナの子だってもう逃げ出しちゃったんでしょ?だったらもう戻ってこないんじゃないかな」
しかし予想とは裏腹に聖園さんはゲヘナへの怒りを露にするでも俺に対して愚痴を吐いてくるでもなく、目の前の状況を何とかしようと冷静に判断を下した
なんというか……意外だった、普段あれだけゲヘナの俺に突っ掛かってきたから今回もそのパターンかとばかり
俺が思ってるほどゲヘナを嫌っているって訳じゃないのか?……いやいや、だとしたらなんで俺は会う度に突っ掛かられて────
「そんなわけないっす!!!」
「うおっ」
考えに耽ていると急に隣が大声で叫び出したもんでついびっくりしてしまった
声の主はなんと仲正さん、この人はなんとなーく冷静な参謀ポジションって印象があったが別にそんな事は無いのかも……いや、列車で起きた〝あの事件〟が切っ掛けで温泉開発部相手にだけ反応するようになってしまっただけか?
「イ、イチカ?」
「あいつは温泉開発部……ここに目をつけた以上、必ず戻ってくるっす!事あるごとに現れて色んなことが台無しに……全部誤魔化し切れるとは限らないんすよ!?」
「流石にそこまでは……ね?先生?」
「……無い、とは言い切れないね」
「先生まで……じ、じゃあハスミちゃんは?」
「僭越ながら申し上げますが……相手がゲヘナの時点で〝常識〟は通じません。何よりイチカのあの断固とした態度、正義実現委員会の中で最も柔軟な思考を持つイチカでさえこれほど言うのです、この機を逃せばさらに邪魔が入ってくるかと思います」
そ、そんな……いくら温泉開発部が場所時間問わず暴れまわる最低最悪の極悪犯罪者集団だからってそこまで言わなくても…
それにゲヘナ所属の俺の前でゲヘナ全員が非常識かのような言われ方をされると少々ムカッとくるものがある、なのでここは一言言い返させてもらう……よりもイメージ改善の為に動いた方が平和的ではあるよな、ケンカヨクナイ
つーわけで漢酒泉、動きます
「───だったら温泉開発部の件は俺に任せてくれませんか?実は奴等が逃げ出す時にこっそりGPS付けといたんですよね」
「わーお、流石は風紀委員。問題児の相手は手慣れてるね」
「これで奴等の居場所は特定できるし、上手くいけばリーダーごと一網打尽にできます。それに聖園さんの言ってた通り温泉開発部の相手は慣れてますから、戦闘の被害が拡大して桐藤さんに勘づかれる前に終わらせる事もできます」
「……随分と自信があるようですが、その間のビーチの管理等はどうするつもりですか?温泉開発部を追う為だけにあまり人員を割く訳にもいきませんし」
「んなの俺一人で十分ですよ」
「……下倉メグ含む部員やリーダーを貴方一人で相手にすると?」
「空崎さんが不在の時、誰があいつらの相手してると思ってるんですか」
自分が直接返り討ちにされた経験からか、一人で勝てるのかという疑いの眼差しを羽川さんから向けられる
だが俺にとっては何度も経験してきた事に過ぎないし、そうでなくてもゲヘナの問題はゲヘナの俺が解決するのが筋ってもんだろ
「じゃ、そんな訳で温泉開発部の相手は俺がしますから皆さんは桐藤さんに事件が起きた事バレないようになんとかして隠蔽してください……先生もそれでいいですよね?」
「…………」
「……先生?」
「……ねえ、酒泉。温泉開発部がプライベートビーチに居た理由ってやっぱり温泉を掘り当てる為なのかな」
「あいつらの事ですしそれ以外無いと思いますよ」
「じゃあ、やっぱりこの辺りに水脈とかもあるのかな?」
「はぁ……まあ、多分……?作業を進めてたって事はそういう事なんじゃないすか?流石に下調べくらいはしてるでしょうしね」
「だよね……まあ、考えすぎかな……?でも一応……」
先程から会話に入らず考え事をしている先生に声を掛けると至って当たり前の質問をされた
温泉開発部が悪事を働く時なんて大半が温泉開発目的に決まってる、稀にそれ以外の理由の場合もあるが……どのみちろくな理由じゃねーんだ!見つけ次第やるぞ!
「じゃあ俺もう行きますからねー、そっちはそっちでなんとか───」
「待ちなさい、折川酒泉」
「───んもーう、なによー」
「なんですかその気色悪い喋り方は……温泉開発部の追跡は私一人で行います、貴方は予定通りミカさん達のサポートをお願いします」
「え?えっと……それはつまり、羽川さんが一人で温泉開発部の相手をすると?」
さっき下倉さんにいいようにされたのが悔しいからか、追跡隊の候補に羽川さんが名乗り出た
一対一でもあんなコテンパンにやられてたのに……もしかして何か策でも用意してるのだろうか、その策を使えば俺が戦うより早く解決できるってんなら俺もそれで構わないが
「先程は敵の実力を見誤り、不甲斐なく敗れてしまいましたが……今度はそう簡単にはやられません!」
「へー……具体的にはどんな作戦を?」
「……今から考えます」
「じゃあ行ってきますねー」
「なっ……待ちなさい!話はまだ終わってませんよ!」
「終わりじゃボケェ!アンタは桐藤さんのフォローでもしてろや!つーかアンタゲヘナが相手の時だけ冷静さ失いすぎなんだよ!リベンジなんかに拘ってんじゃねえ!」
「誰がボケですかクソボケ!言っておきますが貴方のクソボケ伝説は正実にまで広まってるんですからね!?それと私はいつだって冷静ですから!」
「うるせぇ!本当に冷静な奴はちゃんと食事を自制できるしリバウンドするくらい食いまくったりしねーんだよデブ!」
「なっ!?なぜそれを────ではなく!さっきも申した通り身体はしっかり絞ってきました!これの何処がデブなんですか!?貴方の目は節穴ですか!?」
「もはや纏ってるオーラそのものがデブなんだよ!!!」
「オーラがデブ!?」
雰囲気とか食い意地とか顔とか、なんかもうそういうところがデブなんだろうなって……大丈夫、自分でも何言ってんだろうなってちゃんと思ってるから
駄目だ、この人と会話してると必死に抑えようとしてもつい感情的になってしまう。だって雰囲気が空崎さん絡みの事でギャオってる時の天雨さんとそっくりなんだもん、そのせいか天雨さんの時と同じ感じの対応をしてしまう
「だ、大体ですねぇ!人のことをデブデブ言いますけど貴方だって似たようなものでしょう!?あれだけ大量のスイーツを摂取しているのですから何度も太ってるに決まってます!」
「あ、すみません俺そもそもあんま太らない体質なんで(笑)」
「は?」
「風紀委員として働いてるのもありますけどそれ以前からそういう体なんで(笑)」
「は?(困惑)は?(憤怒)は?(羨望)」
なんなら運動しなくても太りづらいこの肉体は糖分を無限に摂取し続けたい俺の為に神様が用意してくれた究極の肉体なんだ
……いや、太りづらいってのは前世からの体質だけどさ
「じゃあ俺今度こそ本当の本当に行くんで!さようなら仲正さん聖園さん先生!それと太りやすい羽川さん!!!!!」
「わ、私だって特別太りやすい訳じゃありません!ただ他の方よりほんの少し食べる量が───」
「到着して早々……一体何の騒ぎだ?」
「まさか、こんな日まで争い事ですか?」
砂の上を歩く軽い足音、涼風のような穏やかな声
さっきまで騒ぎ合ってた俺も羽川さんも一瞬でピタリと言葉を止めて一方向だけを見つめる
なんと、そこには我らがメルトナギちゃんと百合園さん(過去)が立っていたではありませんか
……し、しまったァ────!?かんっぜんに忘れてたァ────!
桐藤さんが到着する前にさっさと温泉開発部の所に向かうつもりが、どっかの誰かさんが駄々をこねたせいで間に合わなかったァ───!
「や、やあ!二人とも何事もなく到着したようで何よりだよ!」
「そ、そうだね!でもセイアちゃんもつれないなー、連絡の一つでもくれたら迎えにいったのにー!」
「私はさっきからずっとモモトークを送っていたぞ、なんなら通話だって掛けたさ……メッセージには既読すら付かなかったし通話にも出る気配が無かったけどね」
「……へ?」
先生と聖園さんが直前の雰囲気を誤魔化そうと作り笑いで迎えるが、百合園さんの一言でポカンと口を半開きにしてしまう
そして聖園さんは設置途中だったテントの中に雑に放置されているスマホを手に取ると〝ほんとだ……〟と小さく呟いた
……これ、聖園さんがモモトークに気づかなかったのってもしかしなくても俺と羽川さんの喧嘩のせいなんじゃ
そう思いながら羽川さんを横目でチラッと見つめてみれば、この人も同じ事を考えていたのか〝しまった〟という風に口を開けていた
「……それで、酒泉さんとハスミさんは何故言い争っていたのでしょうか?」
「え!?い、いや……別に争ってなんか……」
「は、はい!恐らく気のせいかと……」
「そうですか?少し離れた所からでも聞こえてくる程の声量で何か言い合っていましたが……」
完全に聞かれた訳ではないらしいが、恐らく声色や雰囲気から完全に喧嘩事だと察せられてしまったのだろう
「────ス、スイーツ議論っす!」
「……スイーツ議論?」
「ハスミ先輩も酒泉もどっちも甘い物好きだから〝どの店のスイーツが一番甘くて美味しいのか〟を議論してたんすよ!そうっすよね!?」
「……はい!その通りです!さっきまでずっとスイーツトークしてました!」
「そしたらついエスカレートしちゃいまして!」
「まあ……そうだったのですね、私はまた勘違いを……」
「いえいえいえ!気にしないでください!誤解されるような事をしてた俺達が悪いんですから!」
「そ、そうです!そこまでお気になさらないでください!」
仲正さんが出してくれた助け船に全力で乗り込む俺達、結果として何とか誤魔化す事には成功した……が、羽川さんの表情はどこか引きつった笑みをしており、多分俺の顔も若干不服そうになっているだろう
もし互いの位置がもっと近ければ互いの足を踏み合いながら話を続けていたかもしれない、こんな力士に体重乗せられたら骨が折れそうだけど
「ささっ!ナギサ様、荷物はこっちの方へ!」
「あ、積んできた椅子は私が運ぶよ」
仲正さんと先生が桐藤さんを連れてビーチパラソルの下へ向かう途中、二人は振り向いて俺と羽川さんの顔を見てきた
多分あれは〝頼むから問題起こすなよ〟的な事を言いたいのだろう、酒泉反省した
「さて!ナギちゃん達も到着した事だし早いとこお昼の準備済ませちゃおっか、もう12時40分だし……ん?」
「どうかしました?」
「い、いや……そういえばバーベキューセットまだ届いてないなって……12時半には届く筈なんだけどなぁ」
「……バーベキュー用の食材が積んである車が渋滞に巻き込まれた、とか?」
「どうだろ……ちょっと電話してみるね」
聖園さんが配達の人に電話を掛けている間、俺は百合園さんに近寄りこっそり耳打ちをした
「百合園さん百合園さん、今の桐藤さんと話してみてどう感じました?」
「……私が思っていた以上に強かな子だったよ、彼女は」
「そりゃ良かった」
「……折川酒泉、セイアさんに近付きすぎですよ」
「へーへー、分かってますよー」
「いや、いいんだ。私と彼は元よりこんな距離感だからな……多分」
「……セイアさんがそれでいいのでしたら」
ティーパーティーの一人にゲヘナの一般生徒が馴れ馴れしく話しかけてる事が気に入らないのか、羽川さんがジロッと睨んできたので咄嗟に離れる
現在藤さんと過去園さんがどんな話をしたのか少しだけ気になるが……まあ、それを聞くのは野暮というものだろう
「……それにしてもバーベキューセットの方はどうなってるんすかね、やっぱ渋滞?それか食材運んでるトラックが途中で襲われたとか?」
「なんだねそのシチュエーションは……」
「いやいや、それがゲヘナだとマジであり得るんすよ……しかもほぼ毎回同じ奴等が事件の犯人だったり」
「でしたらそのゲヘナの生徒が今回の件の犯人なのでは?」
「…………羽川さん、さっきからゲヘナにいいようにされてるからって何でも罪被せようとすんのやめてくれません?確かにアイツらは他校でも暴れまわるようなろくでもない連中ですけど、それでも犯した覚えのない罪でまで責められる道理はない筈ですよ」
「…………」
「……俺は〝ゲヘナならこういうパターンもあり得る〟って例え話をしただけです、そこから〝ゲヘナの生徒が犯人〟ってのは飛躍しすぎでしょう」
「……そうでしょうか?既にゲヘナの生徒による被害を受けた後ですが」
……上等だ
「じゃあこうしましょう、もしバーベキューセットの到着が遅れている理由がゲヘナ生関係無かったらその時は罪の無いゲヘナ生を疑った事を素直に謝罪してください」
「……では、もしゲヘナの仕業だったら?」
「その時はこっちが謝罪した上になんでも一つ言うこと聞いてやりますよ……まあ、絶対にあり得ないでしょうけどね!」
そんな都合良く二回もトリニティの土地でゲヘナ生が暴れるわけないだろ……この勝負、俺の勝ちだな!
コミケ行ってきます