あの戦いの後の話をしよう、聖園さんは動物園で保護される事になった
~完~
嘘です、はい
とりあえずアリウススクワッドについては〝悪い大人に脅されて悪い事しようとした加害者兼被害者〟ってことで処理された
今はスクワッド全員捕まってるけど、そのうち釈放されて普通にトリニティに通うことになると思う
………だけどすぐに一般生徒と同じ教室に通うのは難しいだろう、多分しばらくは監視員付きで更正保護施設的な所で生活することになるだろう
そして問題の聖園さんだが、原作通りティーパーティーとしての権限の剥奪は行われた………ただし、一時的に
これに関しては事件を起こす前だったのと、自分でマダムを倒しに行って責任を取ったからだろう
これから先、聖園さんにはトリニティで奉仕活動をしてもらってちゃんと実績を積み重ねたらティーパーティーに仮復帰できるらしい
……んで、仮復帰中になんも問題起こさなかったらいよいよ復活!って感じらしい。俺としてはここが一番心配だ
あ、ちなみに一般トリニティ生の聖園さんに対する当たりは原作ほど強くはない
やっぱり反感はそれなりにあるものの、基本的には「何かヤバい事があったらしいよ」ぐらいに思ってる生徒ばっかりだ。まあ、被害者本人である百合園さんがあまり情報を公開していないからだろうな
それで次はマダムの……ベアトリーチェの話なんだが……一度捕まりました
いやー、びっくりだよね。まさかゲマトリアの誰も助けに来ないなんて……嫌われすぎでは?
まあ、あの人数相手だと流石のゴルコンダ&デカルコマニーも出てこれなかったんでしょうね
でもあのオバサン、その後一瞬だけ巨大化して檻をぶち破って脱獄したらしいけどね……ズルくない?俺も巨大化して………負けフラグだしやっぱいいや
さて、次は何について────ん?モモトーク?
……っと、こんな時間か、それじゃあそろそろ約束の場所に────
「いけません、大人しくしていてください」
……蒼森さん?何時からそこに?
「今着いたところです………それで、約束とは?」
歌住さんとミラクル5000を食べに行く約束がありまして………できれば見逃していただけると……
「………駄目です、完治するまで外出は許可できません」
で、でも……普通に歩く分にはもう平気だって……
「…………再び悪化する可能性がありますので」
そんなこと聞かされてないんですけど……
「………とにかく駄目です、申し訳ありませんがその約束は────」
「それは聞き捨てなりませんね」
「────………サクラコさん」
「待ち合わせ場所に行くまでのルートで〝偶然〟ここを通ったので、せっかくなら酒泉さんと一緒に向かおうとしたのですが………これはどういうおつもりですか?」
「……見ての通りです、酒泉さんは怪我をしていますので」
「もう十分に歩けるとお聞きしましたが?」
「歩くだけなら問題ありませんが、万が一という事もありますので」
「でしたら、その〝万が一〟が起きないように私がお守りします」
「いえ、私がこの病室内で彼のサポートをしますので」
「……酒泉さん、約束を違えるつもりはありませんよね?」
「完治したのを確認するまでは不用意な外出は禁止です」
あの……その……
「……」
「……」
ミラクル5000、食べに行きたいです……約束もしてましたし……
「ふふっ……ありがとうございます」
「………」
えっと……それで、外出が終わったら怪我が悪化してないか救護騎士団で見てもらってもいいですか……?
「……!ええ、お任せください!」
「………」
い、いやぁ……楽しみだなぁ……はは、あはは……
──────────
────────
──────
歌住さんと別れた後、俺は古書館へと向かっていた
……え?ミラクル5000はどうしたのかって?
ああ、それは…………なんと!食べられました!
いやぁ……残り十個ぐらいの辺りでギリギリ間に合ったぜ……
ちなみに味は滅茶苦茶旨かった、やっぱ糖分なんだよなぁ……
でも少しだけ申し訳ない事があった、それは……俺と歌住さんの仲を周りの人達に誤解されてしまった事だ
二人で並んでる時、ヒソヒソ話の中に「付き合ってるのか」とか「どういう関係なんだ」とか聞こえてきた………今度会った時に土下座でもするか、ジャパニーズ謝罪
なーんて少しの罪悪感を抱えながら歩いてると古書館の扉前に着く
ノックしてもしもーし!ちわー!三河屋でーす!
え?お前今日やけにテンション高くないかって?当然だろやっと皆に堂々と会えるんだぞ、俺はウサギじゃねーから寂しいと死ぬんだよ
「ウヒッ!?しゅ、酒泉さんですか?」
なんて兎小隊みたいな事を考えていると扉の向こうから古関さんの声が聞こえてくる
「ど、どうぞ!お入りくだささささい!」
〝さ〟多くない?……まあいいや、お邪魔しまーす……うおっ、暗っ……
古関さんに呼ばれて中に入ると、電気もつけずカーテンも開けてないせいで何も見えないくらい真っ暗だった……いや、俺は眼が良いからある程度見えるけど
「で、電気は点けちゃって構わないので……」
本人の許可も貰えたことだし、照明のスイッチを探す
……っと、これか。それじゃあ点けますよー
「は、はい!」
あー点いた点いた……こんな暗くしてたら目が悪くなっちゃいま──────す?
「…………」
後ろを振り向いた瞬間、思考が固まる……は?
え?何?どういうこと?古関さん、アンタなんで……
シスター服の下にスク水着てるんだよっ!?
「え、えへへ……どうでしょうか……?」
どうでしょうかと言われましても……
「……も、もしかして……似合ってませんでしたか?お嫌いでしたか?」
いや、嫌いではないけど……好きって答えるのもなんか……
「しゅ、酒泉さんがこの様な格好が好みだと聞いて着てみたんですけど……」
……誰に?
「その……ハナコさんに……」
名前を聞いただけで納得してしまった、あの人は何を考えてるんだ……!
「えっと……それで、何か感想とかは……」
に、似合ってると……思います……
「ちゃ、ちゃんと見てから言ってください……!」
何かイケない物を見ている気分になって眼を逸らしていると、古関さんがズイッと近づいてくる
それでも必死に逃げようとするが、今度は両肩を捕まれて無理やり引き寄せられる……近い近い近い!
「捕まえました……も、もう離しませんよ……!」
そう言いながら手に力を込めてくる、普通に痛い
「酒泉さんはすぐふらふらと何処かに行っちゃうんですから、私がこうして捕まえておかないと……」
……ん?
「だ、だからもう二度と離しません……誰の所にも行かせません……!」
何か雲行きが……
「……そ、そうだ……いっそのこと、ここでずっと一緒に暮らして……」
………
「……そうと決まれば、まずは……うぇへ、うへへへへ……」
脳内でアラートが鳴り響く
何故かトリップしてる古関さんを振り払ってもう一度電気を消し、そのまま窓の位置までダッシュしてカーテンを開ける
オラッ!浄化の光を食らえっ!
「へぇあああっ!?」
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────────
──────
あの後、少々気まずい空気を味わいながら古関さんと普通に会話して帰った
脳内アラートがなった瞬間、何故か背筋がゾワッとしたんだけど……あれは何だったんだ?
……あまり深く考えないようにしよう、何か怖いし
今日は久しぶりに正実に顔出して帰ろう
──────────
────────
──────
「……うわっ、会っちゃった」
出会っていきなり嫌そうな顔してくる聖園さん
何だよその反応は……俺だって会いたくなかったっすよ
「そんなこと言って……本当は私の顔でも見にきたんでしょ?」
ニヤニヤしながら勝手に決めつけてくるジャージ姿で草むしりしてるゴリラ、相変わらずムカつくな……
んな訳ないだろ……正実に顔出しに行こうとして偶然出会しただけだって、何をどう考えたらその発想になるんだよ……
「だってさー、酒泉君って私が事件を起こす前に止めようとしてくれたんでしょ?私の為にさ……それってつまり、そういうことだよね☆」
……は?それって誰から……まさか!
「セイアちゃんが教えてくれたよ?」
ゆ、百合園さんめ……俺のこともついでにからかおうとしたな……!何でそんな事をするんだ!
「……他の子に粉かけようとしてるから嫉妬したんでしょ」
あん?
「何でもないよーだ………それよりもさ!その事で私だって訳分かんないマウント取られて大変だったんだよ!?」
マウント?何が?
「セイアちゃんってば『まあ、私は彼に抱きしめられたことがあるがね。つまり、君とは違って明確にそういうことだろう』って」
……ん?
「ナギちゃんもそれに対抗するかの様に『私は彼が潜伏していた期間中、夜中に二人で密会してましたよ』って言い出すんだから!」
さっきから喋り方若干似てるな……って、そうじゃなくて
それがどうして聖園さんに対するマウントになるんだよ、ただからかわれてるだけだろ?
「……え!?そ、それは……何ていうか……」
それは?
「………ああもう!うるさいなあ!」
そう叫んで丸めた雑草を投げつけてくる聖園さん、やっぱゴリラじゃん、ゴリラゴリラゴリラならぬ聖園聖園聖園じゃん
「………ねえ、酒泉君。その……ごめんね?」
かと思えば急にしおらしくなる、情緒不安定だな……
「私のせいで酒泉君に大変な思いさせちゃって……」
……ええ、大変でしたよ
「………本当にごめん」
ここまでしたんですから、ちゃんとティーパーティーに戻っていつもの三人で笑顔にならないと許しませんからね
「……!うんっ!」
先程までの曇り顔が嘘のように元気に返事をする聖園さん、ころころと表情が変わるな……
……んじゃ、そろそろ行きますわ
「……もう行っちゃうの?」
だって露骨に嫌そうな顔してたじゃん、アンタ
「あ、あれは条件反射っていうか……今はそんなに……嫌いじゃないし……」
無理しなくてもいいっすよ……ていうか聖園さんの計画失敗したんですし、正実に対する人質ももう必要ないでしょ
「は……はあ!?別にそれだけが理由で呼んでた訳じゃないんだけど!?ただ一緒にお喋りしたくて────」
……え?
「────っ、お喋りしたかった訳じゃなくて!正実の内部情報も抜き取れないかなーって思ってただけ!」
うわっ……性格悪ぅ……
「とにかく!変な勘違いはしないでね!?」
あーはいはい分かってますよ、依然変わらず俺が嫌いだって事ぐらい……
「……分かってるならそれでいいよ」
じゃあ、今度こそ行きますから……
「………」
「うぅ……どうして素直に大好きって言えないんだろう……」
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──────
「あ!酒泉君!」
「久しぶりー!」
「もう出歩いて大丈夫なの?」
どうやら休憩時間中だったらしく、俺の姿を見つけた人達が出迎えてくれた
あの戦いが終わった後、大勢の仲間達に揉みくちゃにされたんだけど……自分で思ってたより人望あったんだなぁ、俺………
「酒泉、怪我はもう平気なんですか?」
そんなことを考えているとベンチに腰掛けていた羽川さんが近づいてくる
はい、歩く分には全然問題ないです
「そうですか……それなら良かったです」
ご心配お掛けしてしまって申し訳ないです……
「あれは仕方なかった事ですし…………いえ、そうですね、とても心配しましたよ?」
う゛っ……本当にごめんなさい……
「そうですね……これからは何か行動を起こす際は逐一私に連絡してください」
えっ
「分かりましたか?」
えーっと……
「分 か り ま し た か ?」
……はい
「ふふっ……良い返事ですね」
謎の圧を感じたので素直に従っておく事にした、今日は皆怖いな……
……あれ?そういえば下江さんは?
「コハルなら押収品の整理に行ったっすよ………いつものアレっす」
あー……よし、ちょっとからかいに行ってきます
「……自分も読みたいだけなんじゃないっすか?」
べ、べべ別に?俺はそういうこと一切興味ありませんけど?
「まっ、久しぶりに二人っきりで話して来たらどうっすか?」
そ、そうですね……じゃあ行ってきます!
「コハルに会ったら〝そろそろ訓練再開する〟って伝えといてほしいっす」
「ただいま戻りました」
「おっ……お疲れっす、マシロ。ついさっき酒泉が来てたっすよ」
「はい、知ってますよ……物陰から覗いていたので」
「え?何でわざわざそんな事を……普通に出てくればいいのに」
「その……ツルギ先輩が放してくれなくて……〝今は駄目だ〟って」
「……その肝心のツルギ先輩は?」
「………あそこです、壁越しにコソコソしているあの人です」
「ど、どうしよう………会った方が良かったのかな……でも巡回終わったばかりで汗臭いし……外があんなに暑くなければこんな事には……うぅ……で、でも……久しぶりにお話ししたかったな、今からでも遅くないかな……?今更行っても迷惑かな……?」
「先輩~?何してるんすか~?」
「キエエエエエエエエッ!?」
「うわあ!?突然暴れないでほしいっす!?」
──────────
────────
──────
「………」
「……こ、これも駄目!エッチすぎるわよ!」
「や、やっぱり押収して正解だったわね……こんなのがトリニティ中で広まったら大変な事になるんだから……」
確かに……これは危ないな……
「でしょ?だから私達が管理しないと………え?」
……ところで、次のページは捲らないのか?
「な、な、なっ………何で酒泉がここに居るのよ!?」
普通に歩ける程度には回復したんで色んな人達に顔出してるんだよ
「だ、だったら事前に連絡しなさいよ!」
んー……サプライズ?
「何よそれ……まあ、嬉しかったけど……」
お?やけに素直だな?
「うるさいわねっ!悪い!?」
いや、嬉しいよ
「……そ、そう……」
ああ……
「………」
………
「よ……よくさ、二人でこうやって押収品の整理してたよね」
……そうだな、その理由の大半が下江さんだけに任せるとエロ本の読みすぎで仕事が終わらなくなるからだけどな
「わ、私は押収品の中身をしっかりと細かく確認してるだけよ!」
はいはい、分かってるよ
「……ねえ、酒泉」
んー?
「私、酒泉が死んだって聞いた時、信じられなかった。だって……酒泉が私のことを置いていくなんてあり得ないから」
………
「前に私がこれからも一緒に居てくれるか聞いた時、〝当たり前だ〟って答えてくれたよね?」
……ああ
「………私、怖かったのよ?酒泉が突然居なくなっちゃって………」
……ごめん
「一緒に居るのが当たり前だと思ってた人が……いきなり隣から居なくなって……っ!」
「それでも……っ!私がいっぱい頑張れば酒泉が戻ってきてくれると思って……酒泉がまた私のことを褒めてくれるって思って……っ!」
……そっか
「もう……もう何処にも行かないでよ……!今度こそ……ずっと私の隣に居てよ……!」
そう言って泣きながら抱きついてくる下江さん
……それを見て、ようやく自分がどれだけ馬鹿な事をしたのか理解した
今回の計画を実行した事については後悔していない、だけど本当にあのやり方で良かったのか?他に良い方法があったんじゃないか?
確かに俺と百合園さんは未来が見えるという点においては似たような存在だ、それでも百合園さんだけじゃなく他の人達にも相談した方が良かったんじゃないか?
何でそんな事を思い付きもしなかったんだ?………いや、本当は分かっているんだ
俺はただ、心の底から皆を信じることができなかっただけだ
こんな事を言ったとしても、大した成果も上げておらず、百合園さんの様に昔からその力でトリニティを支えてきた訳でもない
そんな俺の言う事なんか信じてくれるはずがない、きっと心のどこかでそう思っていたんだ
だから俺は百合園さんにしか頼ろうとしなかった………それが原因で他の人達が傷付いた事にも気付かずに
「何か言いなさいよぉ……!」
……下江さん、ごめん
「何で謝るのよ……!」
俺さ……何も分かってなかった、自分がどれだけ大切にされていたのかを、どれだけ皆が俺を信じてくれていたのかを……
「やっと気づくなんて……遅すぎるわよ……!」
……さっきの問いに対する答えなんだけどさ、ずっと一緒に居ることはできないと思う
「……っ」
だけどっ!………最後には必ず下江さんの隣に帰ってくるから、それだけは信じてほしい
「……本当に?」
本当だ
「……約束する?」
約束する
「………分かった、絶対に帰ってきてね」
抱きしめる腕に力を込める下江さん、暫くはそのまま動かずにいた
──────────
────────
──────
「………」
………
「………その、いきなり抱きついちゃってごめん」
……いや、気にすんな
「……そ、そうだ!押収品の整理に戻らないと!」
あ、それなんだけど……そろそろ訓練再開するから戻ってこいってよ
「そうなんだ……あっ!ど、どうしよう……押収品片付けないと……」
あー、それなら俺がやっとくからいいよ、この後暇だし
「そ、そんなこと言って……本当はエ……エッチな本を見たいだけじゃないでしょうね!?」
は、はあ!?そんな訳ないだろ!?
「いっ…言っておくけど!そういうのは……!」
分かってるって!〝エッチなのは駄目〟だろ!?
「分かってるならいいけど………その、どうしても興味があるっていうなら……わ、私にちゃんと伝えること!」
なっ……何でそんな事を報告しなきゃいけないんだよ!?
「い……いいからっ!もし教えてくれたら酒泉が周りの人に迷惑かける前に私がなんとかするからっ!」
そう言い残すと走り去って行く下江さん
………なんとかするって何だよ
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大勢のトリニティ生とゲヘナ生が旗を持って並んでいる
全員が姿勢を崩さずに立ちながら中央の人物達に視線を向ける
……いや、生徒達だけではない。今回の平和への一歩を見届ける為に大勢の一般市民達も見にきている
「キキキキキッ……」
ゲヘナ側の席から代表者である羽沼マコトが出てくる。何やら不敵な笑みを浮かべているが、どうせトリニティを何かに利用しようだとか考えているのだろう
………彼女は知らない、今のトリニティの繋がりは生半可ではないことを。この先何を企もうとも、彼女は必ず敗北することになるだろう
「……ナギサ、頼んだよ」
「はい、行ってきますね」
トリニティ側の席からナギサが立ち上がり、それをセイアが見届ける
両者がゆっくりと近づくのを先生が少し離れた所から見守る
書類へのサインは済ませている、ETO設立の宣言も先生が終わらせている、残るは一つだけ
ナギサが微笑みながら手を差し出すと、マコトはニヤリと笑ってそれを握る
瞬間、周囲から歓声が上がった
今ここに、トリニティとゲヘナは歴史的和解を成し遂げた
……これからも事件は起きてしまうのだろう、トリニティもゲヘナも関係なく
時には悪い大人の陰謀に巻き込まれるかもしれない、時には世界規模の事件に巻き込まれるかもしれない、時には再びゲマトリアと……ベアトリーチェと戦うことになるかもしれない
それでも一つだけハッキリとしていることがある、それは────
────子供達は、大人が思っているほど弱くはないということだ
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「……こんな所に居たのですか、マエストロ」
「………黒服か。何か用でも?」
「会議の時間になっても中々来なかったので……こうして直接」
「……むっ?そうか、もうこんな時間に……すまないな」
「いえ……ところで、それは?」
「見た通りだ、私が描いた……ちょうど良い、そなたの正直な感想が聞きたい」
「そうですね……これは……」
「遠慮することはない……下手くそだろう?」
「……ええ」
「そこら辺で売っている安物の絵の具を使い、技術も何も関係なく感情のままに書き上げたこの絵……非常に幼稚だ」
「………そうですね」
「幼稚で、粗末で、不細工で、ぐちゃぐちゃで、まるで小学校低学年が学校の授業で提出するような作品だ」
「…………」
「だが、これを描き終えた時………私は達成感に満たされていた。不思議な話だな、芸術を求めていた私がこの程度の作品で満足してしまうなど……」
「……何が言いたいのでしょうか?」
「………案外、私の求めていた芸術とは適当な場所に転がっているのかもしれないな」
「………」
「作品を全て描き変えるのではなく、後から付け足すのでもなく、同じ物を複製するわけでもない。それぞれが必死に描き殴って出来上がった滅茶苦茶な絵………それもまた、汚くて美しい」
「……つまり、彼女達に貴方の求める〝芸術〟を見出だした……と?」
「………かもしれないな。私自身、未だに感情の整理がつかないのだ」
「そうですか……」
「全く……まさか私がこんな絵を描いてしまうとはな」
「……それは?何やら様々な色が混ざりあっているようですが……」
「ああ、これか……これは〝青空〟だ」
「………青?」
「分かっているさ、青空にしては汚すぎると言いたいのだろう?……だが、これが私にとっての青空なのだ」
「………」
「悲しみの涙を流しながら想い人を待つ少女、血を流しながらも必死に戦う少年、家族を救う為に殺人の覚悟を決めた少女、己の感情を騙してでも突き進もうとしてしまった少女………他にも多くの〝色達〟がそれぞれの思いを掲げる中、〝青空〟が上から見守っている。それが私の感じた全てだ」
「……とても素晴らしい作品だと思いますよ」
「そうか、感謝する」
「ところで……作品名等はお決まりで?」
「……名前?」
「ええ、その様なご立派な作品が無名のままなのは非常に惜しいと思いましたので……」
「名前か、そうだな……青空が見守る景色……青空の下……安直だな……青空の……青空の見た記憶───」
「────ブルーアーカイブ……というのはどうだ?」