〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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しゃあっ、11連勤終わりっ

イリヤ、僕はね……ちょっと先生をからかおうとしただけのノアを運悪く目撃してしまい〝ごめユウ〟されてしまったユウカ、失意の底に沈みながらベンチに座り込む彼女を偶然見つけた酒泉君が甲斐甲斐しく世話を焼いてメンタルケアしているうちにユウカの第二の恋が始まるっていう昼ドラみたいなドロドロした小説が書きたかったんだ


おはなししましょう・現在

 

 

 

(前回のハッチャードはぁ!?)

 

(バーベキュー用の食材を運んでいたトリニティのトラックが食料を狙ってきた強盗団とハーッチャンコォ!)

 

(突然の報告に困惑しつつ〝昼食どうしようか〟と項垂れていた俺達は、先生からの〝美食研究会の力を借りよう〟という殆ど駄目元の提案に乗る事に……と思いきや!)

 

(なんと!彼女達は偶然にもバーベキューセット一式を持っていたではありませんか!しかも!聖園さんとの交渉の末、それを無償で譲ってくれたのです!)

 

(これには駄目元のつもりだった先生も大歓喜、聖園さんも仲正さんも口を開いて驚愕、羽川さんですらゲヘナ生に対する偏見を改めたとさ)

 

(お・し・ま・い!めでたしめでたし……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これ、全部私が用意してたバーベキューセットだ」

 

 

以上、折川酒泉の妄想終了

彼は漸く現実逃避を辞めてここまでの流れを整理し始めた

 

まず、バーベキューセットの到着が遅かったのはそれを積んでいたトラックが襲撃されたからだった

 

そしてトラックを襲撃した犯人の正体は美食研究会=ゲヘナのせいだった

 

そもそも昼食の時間を若干過ぎるまでバーベキューセットの件に触れられなかったのも温泉開発部が起こした事件=ゲヘナのせいだった

 

ついでに酒泉のすぐ隣で羽川ハスミが彼をガン見しているのも間違いなくこれまでのハスミに対する煽りやゲヘナを擁護する発言=ゲヘナのせいである

 

 

「……」

 

「それにしても……まさか酒泉さんまでいらっしゃっていたとは」

 

「ねー!私達の仲なんだし言ってくれればいいのにー」

 

「水くさいですよねー☆」

 

「いやいやいや、風紀委員が私達に自分から情報を流す訳ないでしょ!?」

 

 

比較的常識人であるジュンコ以外全員が馴れ馴れしく酒泉に話しかけると、ハスミの酒泉を見る目がより鋭く細められた

 

酒泉も酒泉で〝ドウシテ…ドウシテ…〟など呟いているのだが、美食研究会はいつもの調子で酒泉に絡むばかりだった

 

 

「折川酒泉、貴方は先程何て仰っていましたか?」

 

「……なんでもかんでもゲヘナのせいにすんなって」

 

「彼女達は?」

 

「美食研究会ですね」

 

「所属校は?」

 

「ゲヘナですね」

 

「先程プライベートビーチで問題を起こしたのは?」

 

「温泉開発部ですね」

 

「彼女達も?」

 

「ゲヘナですね」

 

「…………今のところ起きてる問題全てがゲヘナ絡みなのですが?」

 

「……はい」

 

 

もはや擁護する気力も失くなったのか、ぐぬぬという言葉すら出ず項垂れるだけの酒泉

 

余計にゲヘナに対する敵対心が強まったハスミはもはや遠慮など無用とばかりに銃を構えた

 

 

「やはり交渉は決裂です!ゲヘナ相手に少しでも話が通じると思っていた私が馬鹿でした!」

 

「ハスミ!ステイ!あれがミカが用意してた物とは限らないから!偶然同じ物を用意してた別の学園のトラックを襲っていただけかもしれないから!どちらにせよ最低だけど!」

 

「こうして酒泉さんのお役に立てるとは……ふふっ!トリニティのトラックを襲撃するという危険を犯してまで手に入れておいてよかったです」

 

「先生?」

 

「ごめん」

 

「おもっきし〝トリニティの〟って言ったっすね……」

 

 

プライベートビーチに来てからというもの、ゲヘナに対する好感度が下がる出来事ばかりに見舞われる一同

 

既に怒り心頭なハスミはともかく、先程は穏やかに問題解決に勤しもうとしていたミカですらいよいよ我慢が限界に達したのではないかとイチカは考える

 

 

(これは……衝突は避けられなさそうっすね)

 

 

古くから今に至るまで続いてきたトリニティとゲヘナの不和、その歴史によって多くのトリニティ生に植え付けられたゲヘナ生に対する嫌悪感

 

もしミカもその例に漏れていないのならば間違いなく今からこの戦場は血で染まる事になる、主に美食研究会の

 

ティーパーティーになんて報告すれば、リカバリーは可能か、ここから入れる保険があるのか、顔を青白くさせながら諦め混じりにこの後の予定を考えるイチカ

 

 

「……よかった、無事に見つかって」

 

「……え?」

 

 

しかしイチカの耳に届いたのは相手を威圧する怒鳴り声でも底冷えする様な声でもなく、安堵の一心のみを込めたミカの一言だった。

 

「ハスミちゃん、怒る気持ちも分かるんだけどここは銃を収めてくれない?あまり大事にはしたくないからさ……それにこれ以上時間を掛けるとナギちゃんに怪しまれちゃうし」

 

「で、ですが!ここで見逃してしまうと後々更に大きな事件を起こす可能性だってあるのですよ!?そうなればナギサさんに隠し通すどころの話ではなくなってしまいます!」

「おや、そんな不粋な真似をするつもりはありませんよ?ミカさんの友への献身的な想いを聞かされてしまったら私達も大人しくせざるを得ませんから」

 

「貴女達が最初から大人しくしていればここまで事も大きくならなかったのですが!?」

 

「それはそうなんだけど……でも、この子達ももう暴れないって言ってくれてるしここは信じてみてもいいんじゃないかな?」

 

「ぐっ……」

 

 

ミカ本人の申し出ならばと渋々引き下がろうとするもやはり納得し切れないハスミは敵意を込めた視線を美食研究会に送る

 

そもそもこの前にもゲヘナ所属の温泉開発部が問題を起こしており、その問題児達が捕まっておらずこれからまた何かやらかすかもしれぬという時に別の火種を放置する事などハスミには出来なかった

 

 

「じゃあこうしましょう、俺が美食研究会の監視をします、ついでに温泉開発部の件も秘密裏に解決してきますから聖園さん達はバカンスに戻ってください」

 

「へ?い、いや……折角のプライベートなのに酒泉君がそこまでしなくても……」

 

「いいんですよ、ケジメってやつですから」

 

「そ、そこはほら!終わりよければ全てよし!みたいな?ね?」

 

 

こうしてゲヘナの問題児連中が平気な顔して他校でも暴れまわるのは自分の対応が甘いからかもしれない、完全アウェイな空気に充てられてか何故かそんな自責に駆られる酒泉

 

そもそもヒナに散々懲らしめられても次の日には元通りになっている辺りゲヘナの問題児が反省しない理由に酒泉の甘さは関係していないのだが

 

そんな事にも気付けないほど落ち込みきった酒泉はセイアをサポートするという約束も忘れてビーチから抜け出そうとするが、ナギサを休ませる〝ついで〟に水着で酒泉とも遊ぼうとしていたミカが止めに入る

 

実はその〝ついで〟の目的の方も結構大きかったりするのは酒泉以外にはバレていたりする

 

「酒泉、ここで君だけ抜けた状態でビーチに戻るとナギサに〝何かあったのか〟って疑われちゃうよ?それに自分達から温泉開発部を追いかけまわすより酒泉が常にビーチに居てくれた方が彼女達に対する抑止力になると私は思うな」

 

「……でも、この馬鹿共から目を離すと何をするか分かりませんし」

 

「まあ!私から目が離せないなんて酒泉さんってば……」

 

「ハルナ」

 

「すみません」

 

 

たった一言、名前を呼ぶだけでハルナを黙らせる先生

 

何の罪もない酒泉が責任を感じている事に思うところがあるのか、その声色は落ち着いているのにどこか寒気を感じさせるものだった

 

 

「ハルナ、酒泉はさっきもトリニティで暴れてた温泉開発部を見てしまったせいでミカ達に対して罪悪感を覚えているんだ。だから……」

 

「なるほど、そういう事でしたか……事情は理解できました」

 

「本当?じゃあ────」

 

「ええ、これ以上酒泉さんに辛い思いをさせない為、これから食料を強奪……お借りする時はバレないように立ち回ります」

 

「────違う、そうじゃない」

 

「ここまで開き直られると一周回って冷静になってくるっすね」

 

「ふふ、煽てても何も出ませんよ?」

 

「褒めてないっす」

 

 

斜め上の方向に気を遣おうとするハルナに即座にツッコミを入れる先生、そもそもゲヘナの問題児達が罪悪感で絆す事が出来る程度のレベルであればヒナの過労っぷりを知ってる時点で自重してくれそうなものなのだが

 

しかし残念な事にゲヘナの問題児は罪悪感を抱く事はあってもそれはそれとして自分の目的を優先できる超迷惑集団なのだ、これは美食研究会に限らず温泉便利屋その他諸々纏めての評価だ

 

 

「……羽川さん、さっき〝何でもゲヘナのせいにするな〟って言ったことを訂正させてください。ゲヘナ生にも優しくてまともな人が沢山居るってのは本当です。けど、ゲヘナ生を見掛けた場所の辺りで事件が起きた時はゲヘナ生が関与してる可能性も少しは考えた方が良さそうですね」

 

「……漸く認めましたね」

 

「はい、認めます。こんな……こんなグルメ犯罪者共の肩をちょっとでも持ってやろうとした俺が馬鹿だったよぉ!!!」

 

 

ずん、ずん、と露骨に足音を立てながらその場を去ってビーチに戻ろうとする酒泉

 

が、そんな彼をゲヘナを嫌っている筈のハスミが〝待ちなさい〟と意外にも呼び止める

 

 

「止めないでください羽川さん、俺は一刻も早くこんな奴等の前から「何を逃げようとしているのですか、先程の〝ゲヘナ生の仕業だったら言うことを何でも一つ聞く〟という約束を忘れた訳ではありませんよね?」……イヤソンナコトナイヨ?」

 

「やはり逃げ出すつもりでしたね!?貴方のような輩が考える事なんてお見通しなんですよ!」

 

「そんなことねえって言ってんだろうが!ちょっと野暮用思い出しただけだよ!」

 

「ああもう、また始まった……ミカ、悪いけど先にナギサの所に戻って適当に誤魔化しといてもらえる?これ以上長引くとトラブルに巻き込まれてると思われちゃうかもしれないからさ」

 

「……」

 

「……ミカ?」

 

 

再び言い争いを始める二人を見てこの場を収めようとする先生は、ミカだけでも先に戻らせようと声を掛ける

 

しかしミカは先生の声に返事をするでもなく、怪しげな空気を放ちながらゆらりと美食研究会に近づきながら〝ねえ〟と声を溢した

 

 

「貴女達……酒泉君があんなに庇おうとしてくれてたのにどうして平然とそれを裏切れるの……?」

 

「あっ」

 

「どんなに悪い人達でも偏見だけで犯人だと決めつけないでって、貴女達ゲヘナ生の事を信じていたのにさぁ……なんですぐ裏切っちゃうのかなぁ……酒泉君が報われないよねぇ……?」

 

「ミ、ミカ───」

 

「やっぱりさ……酒泉君はトリニティに来るべきだよね……」

 

 

マズイ、その一心で先生の頭は埋め尽くされた

 

後ろの方でハスミとギャーギャー言い争っている酒泉にはミカが酒泉の為にぶちギレている姿が見えていないが、今のミカは間違いなく目が虚ろに染まっている魔女モードに入っている

 

美食研究会が相手でも話し合おうとしていた時のミカの気はすっかり消え去っていた

 

一方で敵意を向けられている美食研究会は呑気に次のターゲット食材の会議を行っており、やはりハスミと酒泉は喧嘩中

 

 

「言っておくがなぁ!正実の副委員長がゲヘナの風紀委員に無茶振りしようもんなら間違いなく政治問題に発展するからなぁ!?」

「おや?まさか自分から〝何でも言う事を聞く〟と宣言しておきながら今更それを撤回すると?ルールを守り違反者を取り締まる立場である風紀委員が?」

「上等だやってやろうじゃねえかこの野郎!!!」

「ねえねえ!次は何食べに行くのー?」

「当初の予定通りトリニティで美味しいもの漁りでもしましょっか☆」

「トリニティ生の前で堂々とそれ言っちゃうのまずくない!?」

「もう手遅れっすよ!ていうかこんだけやらかしておいてまだ居座るつもりっすか!?」

「そうですね……ここで会ったのも何かの縁、折角ですし酒泉さんも誘ってみましょう」

「酒泉君を裏切るだけじゃ飽き足らず今度は酒泉君を拐おうとしてるの?ただ食材を奪うだけならまだ許してあげたけど私から酒泉君を奪おうとするなら話は別だよ?」

「……ふふっ、まるで御自分の物のような言い方をしますね?」

「……そういう貴女こそ、酒泉君を自分の所有物みたいに振り回そうとしてるよね?」

「……はい?」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

「…………さて、場を治められるのが先か私の胃に穴が空くのが先か」

 

 

持ってくれよ!私の身体!と叫びながら先生はヤケクソ気味に生徒達の中心に突っ込んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

「納得いかないんだけど!!!」

「……何がだ?」

「なんでセイアちゃんが酒泉君と一緒に行動する事になってるの!?まだ話し合ってもないのに!」

「それぞれ二人一組に別れて作業した方が効率良いだろう?……それともなんだ?彼と二人で行動したかったのかい?」

「べ、別にそういう訳じゃないけどさぁ……そ、そうだ!酒泉君は?酒泉君本人はどう思ってるの?」

「くっそ……なんであんな約束しちまったんだよ俺ぇ……ぜってー〝トリニティを逆立ちで一周しろ〟レベルの無茶振りされるって……あ゛ー癒しがほしい……空崎さんに会いたい……」

「……ねえ、聞いてる?」

「え?……ああ、はい。そっすね、空崎さん可愛いっすよね」

「なんにも聞いてないじゃん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……セイアさんもミカさんも、あの男を構う理由が分かりません。一体どこに惹かれる要素があるというのでしょうか」

 

「……ねえ、一つ聞いてもいい?ハスミってどうしてあんなに酒泉の事を敵視してるの?」

 

「別に敵視って程では……まあ、確かに少々当たりを強くしすぎていると自己反省はしていますが」

 

 

先程まで言い争っていた相手が今度は別の相手に絡まれているのを見つめながらハスミが呟くと、先生は心底不思議そうに首を傾げながらハスミに尋ねた

 

 

「もしかして酒泉に何かされたとか?まあ、確かに売られた喧嘩は買うタイプだろうけど……それでも自分から人が嫌がる事をする様な子ではないと思うけど」

 

「そうっすね、それどころか後輩達から聞いた話だと調印式の一件では正実の生徒を守りながら戦ってくれてたみたいっすよ?私も例の列車の件では彼に助けてもらっちゃいましたし」

 

「……イチカも先程はあれだけ激昂していたのに」

 

「そりゃあ温泉開発部とかそれと同じくらい倫理観の無い連中が相手の時は……まあ、多少は取り乱すっすけど……でも、彼単体なら悪印象を抱く事は無いしむしろ仲良くしたいとさえ思えるっすよ、他校の生徒の為に尽くしてくれるなんてただの良い子じゃないっすか」

 

「……多少?」

 

「……多少っす」

 

 

思わず溢れてしまった先生の呟きから逃げるように視線を外して答えるイチカ

 

しかし彼女からの返答に納得いかなかったのか、ハスミは不満気な表情を維持したまま〝ふん〟と鼻を鳴らした

 

 

「私だって最初はそう思っていましたよ。アリウスの奇襲を受けたあの日、彼が私達の仲間を守りながら戦っていると聞いた時は〝何故トリニティで発生した事件なのに私が最前線に立っていないのか〟と己を恥じてしまう程には感心していました……が!それは過去の話です!あれだけ多くの嫌がらせを受けてしまえばマイナス感情の方が大きくなってしまうのも当然です!」

 

「嫌がらせ?酒泉がっすか?……どんな内容の?」

 

「……私が限定販売のスイーツを買いに行くと、あの男は必ず私の前に現れて残りのスイーツを売り切れさせるんですよ!」

 

「え?それだけ?」

 

「いや……それだけだと偶然って可能性も……」

 

「正直、それは間に合わなかった先輩が悪いとしか……」

 

限定販売なんて物は種類問わず人を惹き付けやすい傾向にある、しかもそれが酒泉の好むスイーツ類であればより惹かれる確率が上がるのは想像に難くない

 

たったそれだけの事で嫌がらせだと決めつけるのは流石に彼が可哀想ではないかとイチカが口を開きかけたが、それより先にハスミが〝それだけではありません!〟と声を荒げた

 

 

「私だって一度や二度……いえ!なんなら十度までなら目の前で彼にスイーツを買い占められても〝偶然だろう〟と何とか自分を納得させる事ができました!」

 

「……ということは?」

 

「28回!28回も目の前で売り切れにさせられたんですよ!?毎回同じスイーツを狙っている訳じゃないのに!毎回同じ店に通っている訳じゃないのに!毎回同じ時間に来てる訳じゃないのに!他校の生徒がわざわざトリニティに来て!毎回私の目の前で限定品を売り切れにするんですよ!?」

 

「にじゅっ……いやいやいや、それでも酒泉が嫌がらせするなんてあり得ないって」

 

「じゃあなんですか!?今までの出会いは全て偶然だったと!?」

 

 

最早奇跡と呼ぶべきレベルで酒泉と遭遇しているハスミ、彼女の話を聞いた先生はほんの一瞬心が揺らぎかけるがそれでも酒泉の人柄から〝それはあり得ない〟と再び断言する

 

その上で別の理由を付けるとするならば何が一番しっくりくるのか、そうして思考を巡らせている内に一つの考えが先生の頭を過った

 

 

「……その、もしかしたら酒泉とハスミって結構考え方似てるのかもね」

 

「……はい?」

 

「今日はどんな店に行こうとか今日は何を何個食べようとか、仕事が忙しいけどこの時間に行けばギリギリ間に合うかなとか、好みとかそういうのが一致してるからよく同じ場所で出くわすんじゃないかな……そうだ!これまで何度も鉢合わせてきたのも〝これを機に仲良くなれ〟っていう天からのおm────」

 

「ぜっっっっっっっっっったいにあり得ません!!!」

 

「あっはい」

 

 

あれだけ言い争った相手と相性が良いなどと認めたくないハスミは拒絶するかの様に叫んだ

 

 

「とにかく、ハスミは一旦酒泉と話し合った方が良いと思うよ?今日は一日中一緒に行動するんだし、それなら仲良くするに越した事はないでしょ」

 

「…………」

 

「……ハスミ、君はメグやハルナ達と戦おうとした時〝ゲヘナの生徒に話が通じる筈がない〟って思いながら向かって行ったよね」

 

「……はい、間違っていますか?」

 

「全部は否定しないよ、ゲヘナにはちょっと我の強い子達が多いからね。人の話を無視して勝手に他人の敷地に穴を空けて温泉掘ろうとしたり、本人の意思を無視して他の部の生徒を無理矢理拉致したり、なんか急にラーメン屋爆破したり……まあ、うん、ちょっと強引だよね」

 

「それ言っちゃって大丈夫なんすか?余計に先輩の偏見が深まりそうなんすけど」

 

 

〝話が通じない〟という言葉を最大限オブラートに包み〝強引〟と評した先生

 

彼もただの悪事を擁護するほど生徒に甘い訳ではないが、それでも生徒相手に言葉を選んでしまうのは教職故か

 

 

「でも、ゲヘナ生だって全員が全員問題児って訳じゃない。ゲヘナ学園に通ってるからって全員がゲヘナの校風に染まってる訳じゃないし、荒事を好まない生徒だって沢山居るんだ」

 

「例えば風紀委員、あの子達はゲヘナで治安維持に勤しむ事がどれほど大変か知っていながら風紀を守る為に戦っている。好戦的な子が多いゲヘナで組織ごと周りに疎まれても、そんな子達の被害を受けた一般市民から何も悪くないのに責め立てられても、それでも風紀委員達は私がキヴォトスに来るより前からずっと他人の為に戦ってきた」

 

「酒泉だってその一人だよ、この事を本人に話せば〝俺は空崎さんの為に風紀委員になっただけです〟って返すだろうけど……結果的に多くの人を助けている事実に変わりはないよ」

 

 

ゲヘナで風紀委員会に属するという事は大半の不良生徒達から目の敵にされるという事……どころか、何故か味方側でなければいけない筈の万魔殿の議長からも睨まれるという事

 

そんな目に遇っても尚未だ風紀委員会は廃れていない、それどころか毎年入部希望の一年生が入ってくる

 

それはつまり、ハスミが属する組織の生徒達と同じく〝正義〟の心を持つ生徒がゲヘナにも多数存在するという事実

 

 

「多分、ハスミは少しイラついてただけだよ。二回連続でゲヘナの生徒に問題起こされたから先入観に囚われて、それが偶然酒泉に抱いていた疑念と重なっちゃって、つい酒泉に強く当たっちゃったんだ」

 

「それは………そう、かもしれませんが……」

 

「一回だけ落ち着いて話し合ってごらん?大丈夫、ハスミが普通に話しかけたら酒泉も普通に対応してくれる筈だから。もしそれでも仲良くできなさそうだったら、その時は…………うん、お互いそっとしておこっか」

 

「……いいんですか?」

 

「好き嫌いなんてのは結局のところ個人の価値観だからね、好きなものは好きなまま、苦手なものは苦手なままでもいいんだよ。相手の事を理解しようと努力した上で出した結論なら尚更さ」

 

 

無理にとは言わないよ、そう言い残した先生はハスミの返答を待たず歩き去っていく

 

足の行く先は何やら酒泉とセイアに怒っている様子のミカの方、恐らく仲裁にでも向かったのだろう

 

 

「────で、どうするんすか?先生曰く〝苦手なものは苦手なままでいい〟らしいっすけど」

 

「……」

 

「私としては喧嘩別れするよりは仲直りして終わった方がいいと思うっすけどね、険悪な空気引きずったままだとナギサ様にも勘づかれちゃいそうですし」

 

「イチカ……温泉開発部が関わっていない時は普段通りなんて、本当に彼女達の事が苦手なんですね」

 

「……あいつらだけは無理っす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

────────

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

「聖園さん、なんであんなにキレてたんすかね」

 

「君と組めなかったからじゃないか?」

 

「いや、多分百合園さんと組めなかった事の方に怒ってると思うんすけど」

 

「それこそ有り得ないだろう、刺客を差し向けられるほど嫌われているのだからね」

 

 

百合園さんは表情を崩さず、ただ吐き捨てるかのように呟いた

 

現在ちょっと遅いお昼時、俺と百合園さんは食事担当としてバーベキュー用の串に食材をぶっ刺してる最中だった……あ、ちなみにあのグルメ犯罪者共はいつの間にか姿を消してました

 

この後の予定は聖園さんと仲正さんでヨットの点検に、先生と羽川さんでバーベキューの後片付けを、一足先に仕事を終えた俺と百合園さんが休憩する事になっている

 

百合園さんが俺と組む事にしたのは……やっぱ事情を知ってる奴と組んだ方が気が楽だからだろうな、ボロを出しても問題無いし

 

「いやーあんだけ百合園さん襲わせたこと後悔してたし嫌いって事はないでしょー、ちょっと懲らしめてやろ☆程度のつもりだったんでしょ本当は」

 

「ちょっとのつもりで殺されかけては堪ったものではないな」

 

「それは本当にそう……まあ、そこは聖園さんが馬鹿だったって事で」

 

 

全ての元凶はベアトリーチェだって結論に変わりはないのだが、かと言って聖園さんに全く非が無いのかと言われれば素直に頷けない

 

アリウスを利用して百合園さんを黙らせようとしたのは最終的に聖園さん自身の判断な訳で、その辺りの問題を踏まえると間違いなく〝聖園ミカは加害者だ〟と言えるだろう

 

 

「私とミカの事を気にする余裕があるなら君は彼女の事を気にした方がいい」

 

「彼女?」

 

「羽川ハスミだ、まさかこのバカンス中ずっと喧嘩し続けるつもりかい?」

 

 

ああ……あの人か……

 

 

「仕方ないっすよ、羽川さん本人がそれを望んでるみたいなもんかんですから……つーか仲直りしようにも無理でしょ、あの人俺がゲヘナの生徒だからって理由だけで俺のこと嫌ってるんですから」

 

「本人がそう言ってたのか?」

 

「いや、本人に直接聞いたわけじゃないですけど……どうせそんなところでしょ」

 

 

何度もゲヘナゲヘナと繰り返し愚痴ってるところを見れば本人に聞かなくても分かる

 

まあ、こんだけゲヘナの生徒に迷惑を掛けられたら学校そのものを嫌ってしまうのも理解できなくもないが……それでも特に悪さしてない俺の友達まで一緒くたにされるのは納得が行かない

 

「それは宜しくないな。想像は所詮想像に過ぎず、何よりも確かなのは自分の目で視て自分の耳で聞いた真実だけだ。その真実を確かめようともせず自分の想像が正しいと端から決めつけて対話を放棄しようなど────」

 

「百合園さんだって聖園さんとの対話から逃げてるでしょ、ここに来てから露骨に二人になるのを避けてるし。聖園さんと話をしないといけない時は俺の後ろから話しかけたり、ちょっと近寄られただけで身構えるし」

 

「……」

 

「……」

 

「……よし、この話は無かった事にしよう」

 

「いや百合園さんは駄目っすよ」

 

 

元から殆ど関わりのない俺と羽川さんが喧嘩したまま別れるのは特に問題無いとして、ティーパーティーとしてこれから一緒に働いていくであろう百合園さんと聖園さんが仲違いしたままなのはマズイだろう

 

すぐにでも元の時代に帰れる方法を見つけられるというのなら話は別だが、そうでないのなら今後の事も考えて仲直りしておいた方がいい

 

……いや、聖園さんの方はとっくに仲直りしたと思ってるし実際その通りなんだけどね?でもこっちの百合園さんは聖園さんと仲直りした百合園さんじゃないんよ

 

 

「ハスミとの対話を拒んだ君が私に対話の重要性を説くつもりか?自分を棚に上げすぎたせいで天井に頭をぶつけ、ここに至るまでの記憶を飛ばしてしまったか」

 

「おうキレッキレなストレートやめーや」

 

「私は私のやり方で今のミカを見定める、だから余計な口出しを……いや、すまない。協力者である君に投げるべき言葉ではなかったね」

 

 

百合園さんは咄嗟に口を閉ざすとばつの悪そうな顔をしながら謝罪した

 

きっと百合園さんもこの時代に飛ばされたばっかで余裕が無いのだろう、多少当たりが強くなってしまうのも仕方ない……それに、羽川さんと喧嘩してる俺が百合園さんに〝さっさと仲直りしろ〟っていうのもおかしな話だしな

 

……あ、そうだ

 

 

「じゃあこうしません?俺は羽川さんと仲良くなる……までいけるかは分かりませんけど何とか折り合いをつけてみます、だから百合園さんも聖園さんと二人きりで話し合ってください」

 

「……何が〝だから〟なのか理解できないな」

 

「だって百合園さんは対話しようとしない俺に対話しろって言われたくないんでしょう?だったら俺一回羽川さんと話し合ってくるんで、その結果がどうであれ百合園さんも聖園さんと話してきてください」

 

「己を害してきた相手と一対一で話してこいと?中々酷な要求をするな君は。いいか、私がこのバカンスに参加している理由はミカと仲良くなりたいからじゃない、ナギサへの罪悪感からだ。これから多くの物を背負わせてしまう事になるナギサに少しでも罪滅ぼしをする為に……いや、この時間軸のナギサは既に背負わされた後だったか」

 

 

……確かに、今の要求はあまりにも百合園さんの気持ちを考えてなさすぎた

 

和解に至るまでの積み重ねが無い、その上未来諦めてますモードの過去園さんにとっては聖園さんを信用する理由が無いのだから

 

「……まあ、ここまで散々言ってしまったが君が羽川ハスミと話し合うというのはとても良い心掛けだと思ったよ。まだバレてこそいないものの、あの喧嘩っぷりを見ていると何時ナギサの前でも爆発するかヒヤヒヤさせるれるからな」

 

「あー……すみません、そこは気を付けます」

 

「君は十二分に気を付けているだろう?買い言葉が強すぎるのはどうかと思うが、そもそも彼女が売り言葉を吐かなければいいだけだ……というか、何故あそこまで目の敵にされている?」

 

「……やっぱ〝ゲヘナだから〟なんすかねぇ」

 

 

それが理由ならもう仲直りのしようがないな、転校する気も無いし

 

それ以外が理由なら……まあ……やりようはある……か?

 

 

 

 




以下おまけ・TTTで起きた一幕~このあとめちゃくちゃボコられるカスミを添えて~


「落ち着け」

たった一言、それだけで頭から冷や水を浴びせられたような感覚に陥る

握っていた筈の銃は座席の下へ、両足ついて立っていた筈の身体は押し倒され、自分の両手はごわごわした別の両手と正面から握り合い、イオリという少女を捉えていた筈の目は瞬きをした次の瞬間には男の子の顔と向かい合っていた

「奴等に乗せられたまま終わっていいのか?」

一瞬、言葉通り本当に一瞬で制圧された私の耳に彼の声が吹き抜けていく

それだけで先程まで起爆寸前だった本能が少しずつ鳴りを潜めていくのが自分でも分かる。この感覚、どこかで味わったような

「俺が必ず最高の舞台を用意してやる。邪魔なモブを散らして、アンタが欲してる物も無傷で取り返して、面倒な仕掛けも逃走ルートも全部ぶっ壊して、アンタが存分に暴れられるような都合の良いステージを作ってやる」

そうだ、ツルギ先輩だ。暴走しそうな私を咎めている時の、圧倒的格上によって本能を強制的に制御されている時のそれと同じだ

「アンタが望む事は全部叶えてやる、好きなように暴れさせてやる、気に入らない奴をとことん殴らせてやる、俺が気持ちよくさせてやる、だからその怒りは〝まだ〟抑えておけ」

両手に熱が籠る、ドクンドクンと何かが高鳴り、うずうずと自分の中で何かが疼き始める

それを知ってか知らずか、彼の仲間である筈の風紀委員も、銃口を向けてきている温泉開発部の生徒も、その温泉開発部のリーダーすらも無視し、ただ一直線に私だけを見下ろしながら挑発するように呟いた

「理性なら後で幾らでも捨てさせてやる、だから……」

握られた両の手に熱が宿る、視線が私の仮面を貫いて本質を見つめてくる

「───我慢できるな?仲正イチカ」

彼の挑発するような笑み、それに呼応して自分の口元が歪んでいることにも気づかず、私は獲物を求める様に彼の手に爪を立てた
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