〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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おはなししました・過去

 

 

 

「どうしたんだい?そんな死人を見てしまったかの様な表情をして」

 

「……死んでるの?」

 

「生きてるさ、見ての通り元気ピンピンだよ」

 

 

自分が差し向けた刺客によって寝たきりになった筈の友が、何食わぬ顔で平然と語りかけてくる

 

そんな事態に遭遇したミカは一瞬自分の願望が生んだ幻覚かと疑ってしまうが、確かに感じる目の前の気配からそれが本物であると確信した

 

 

「……意識不明って聞いたけど?」

 

「ああうん、寝間着に着替えた後ベッドの上で八時間程意識を失っていたかな?」

 

「……」

 

「おいおい、ここは〝それはただの睡眠じゃないか〟と突っ込むところだぞ?」

 

「…………復讐しに来たの?」

 

「やれやれ、君は話を急ぎすぎるところがあるな……だからこそ対話を選ばず強行手段に出てしまったと言うべきか」

 

「っ……」

 

 

痛いところを突かれた様な顔をするミカにセイアが一歩近づくと、ミカもそれに合わせて一歩後ろに下がる

 

実力は圧倒的に自分の方が上の筈だというのに、セイアを殺しかけてしまった罪悪感からかミカは強気に出る事が出来なかった

 

 

「そう怯えるな、君の目の前に立っているのは死人でもなければ幻影でもない、君がその気になればいつでも殴り倒せる本物の百合園セイアだ」

 

「……っ、はあ?私がセイアちゃんに怯えてるなんて有り得ないんだけど?」

 

「そうか、それは良かった。対話が出来そうな状態で安心したよ」

 

「……それ、さっきも言ってたけどこんな所で何を話し合うっていうの?私がアリウスと繋がっていて、私がセイアちゃんを殺そうとした。それで話は終わりじゃない?細かい話とかは独房とかでいいでしょ」

 

「おや、もう自首するつもりかい?そんなに私と話すのが嫌なのか?」

 

「自首も何も……だって、セイアちゃんが目を覚ましたって事は当然もうナギちゃんにも伝わってるんでしょ?だったら事件の犯人やそれを裏で操ってた私の事だって話してるだろうし────」

 

「いや、ナギサはこの事は知らないよ」

 

「……は?」

 

「この事を知っているのは極一部の生徒だけだ、それとここには私一人で来ているから誰かに会話を聞かれる事もないだろう」

 

「……正気?」

 

 

黒幕の正体を誰にも話さず、自分に刺客を差し向けてきた相手の前に無防備且つ単独で姿を現したセイア

 

その行動の異常さを引き気味にミカが尋ねると、セイアは〝今の君よりかはな〟と返した

 

 

「ほら、いつまで立っているつもりだ?早く紅茶と菓子を用意したまえ……ティーパーティーらしく話し合おうじゃないか」

 

「……だから、さっきから話し合い話し合いって……セイアちゃんと話す事なんて何も無いんだけど?」

 

 

最初の接触から少し時間が経った事で多少の落ち着きを取り戻したのか、ミカは普段通りに近い調子でセイアの提案を跳ね退けた

 

 

「大体さ、セイアちゃんは今の状況が分かってるの?ここでもう一度セイアちゃんを寝たきりにしちゃえば今度こそ真実を知ってる人が居なくなるんだよ?他のお仲間さんは……まあ、セイアちゃんを餌にすれば釣れるでしょ」

 

「……君はそこまでして言葉を交わす事を拒むのか」

 

「嫌いな相手と話したくないなんて当たり前じゃん、そもそも私はセイアちゃんの事がムカついたからあんな強行手段に出たんだし」

 

「また同じ過ちを繰り返すつもりかい?」

 

「だとしたら?」

 

「……そうか、残念だよ。それを聞かされたからには私もティーパーティーの一人として君を放置する訳にはいかないな」

 

「あはは☆面白い冗談だね?まさかセイアちゃん一人で私をどうこう出来るなんて思ってないよね?」

 

「出来るさ、出来る手段を持っているからここまで一人で来たんだ」

 

 

押され気味の状況から一転して今度は自分からセイアに手を伸ばすミカ、しかしセイアの手が袖の中から露になった瞬間、ミカの動きが固まった

 

その手に握られていたのは黒い筒の様な何か、恐らくそれがセイアの言う〝ミカをどうこう出来る〟切り札なのだろうと判断した

 

 

「アリウスと結託し、ゲヘナとの和平を破壊しようとトリニティの生徒にすら危害を加える……ミカ、君は危険すぎる存在だ。私はトリニティを背負う者として、自分の命に替えてでも君を止めなければならない」

 

「そんな筒一つで私を止められると思ってるの?」

 

「止められるさ、これは我々の様な存在には効果覿面だからな」

 

「……はぁ?」

 

「これはな───白洲アズサ、彼女が私を仕留める為に用意したスペシャルなプレゼントさ」

 

「なっ───」

 

 

ヘイローを破壊する爆弾、それはキヴォトスの生徒にこそ最も効果を発揮する殺人兵器、それが袖の中に隠せる程度のサイズしかないあの筒の中に

 

セイアが生きている以上はその兵器を使わなかったか、もしくは使っても効果が出なかったであろう可能性も考慮していた

 

だが、まさかこうして直接持ち込んでくる可能性までは考慮していなかったのかミカは驚愕で表情を染めながら一歩後退った

 

 

「もし君が少しでも歩み寄ってくれたのなら……ほんの数分でも耳を傾けてくれたのなら、私はこんな選択などしなかった」

 

「……セイアちゃん、本気なの?ここで使ったらセイアちゃんまで巻き込まれちゃうよ?」

 

「言っただろう?自分の命に替えてでもと……ミカ、君は多くの過ちを犯し、これからも犯し続けようとしている。そんな君をここで消す事こそが私のティーパーティーとしての最後の仕事だ」

 

「ふーん……そっか、本気なんだね。でも……やっぱりセイアちゃん、戦闘慣れしてないよね。この距離ならセイアちゃんがそれを起爆させるより、私がセイアちゃんを取り押さえる方が早いと思うよ?」

 

「だろうな、更にこの爆弾は時限式ときた。今から起動したとしても君が私を取り押さえる方が早いだろうし、なんなら爆弾を窓の外に投げ捨てる余裕すらあるだろうね」

 

「……自分でも分かってるじゃん」

 

 

だというのに、余裕綽々と答えるその姿にミカは寒気を覚えた

 

万に一つの勝ち目すら潰されるのが確定しているというのにセイアの表情はとても落ち着いておりそれでいて穏やかだった

 

他に手があるのかと、なるべく態度を崩さないようにしながら必死に思考を巡らせるミカ。そんな彼女にセイアは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、予め起動しておいた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────筒をミカの足元に投げ捨て、笑顔で抱きついた

 

 

「……は?」

 

 

起動しておいた、ヘイローを破壊する爆弾を、既に

 

セイアは最初からミカの答えなど分かり切っていた、ならば初めから心中するつもりで

 

たった一言で思考がぐちゃぐちゃに絡まってしまったミカに対し、セイアは抱きついたまま構わず語りかける

 

 

「君は対話を拒む事など最初から分かっていたさ、それでも……最後に一度君と話したかったんだ。君は私の事なんて大嫌いだろうが、私の方は君の事はそこまで嫌いではなかったからな」

 

「なっ……そんな事を言ってる場合じゃ────」

 

「煽り合い、罵り合い、何度も衝突してきた私達だが最期くらいは……同じ場所で眠りにつこうじゃないか」

 

「……っ、セイアちゃん!」

 

「遺言は大嫌いな相手の名前で良いのかい?」

 

 

たった今からヘイローを破壊する爆弾が起爆するにも関わらず未だに語りを続けるセイア、一方でミカは怒りなのか心配なのか自分の感情も分からぬままセイアの名を叫ぶしか出来なかった

 

ミカの腕力ならセイアの抱擁を振りほどく事など造作もないだろう。だが、振りほどいた上でヘイローを破壊する爆弾を拾い上げ、それを窓の外に正確に投げ捨てられるかは不明だった

 

どの道自分は助からない、ならば────

 

 

 

「───ごめんなさい」

 

 

 

零れ出た謝罪が何に対して、誰に対してなのか

 

それを語る間もなくミカはセイアを突き飛ばし、ヘイローを破壊する爆弾を自分の身体で覆った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

灰色のパーカーを羽織り、顔にはマスクとサングラスを装着、しかも現在時刻夜中の九時

 

明らかな不審者スタイルでトリニティを歩き回っている転生者は誰でしょうか?そう、私です!

 

……いやほら、ゲヘナの生徒がこんな時間にトリニティを歩き回ってたら普通に怪しいじゃん?しかも百合園さん襲撃事件が起きた後だし尚更じゃん?

 

だから変装してトリニティに行く事にしたじゃん?でも結局不審者っぽい格好である事に変わりはないと後から気づくじゃん?なんなら変装しない方がまだマシだったまであるじゃん?

 

ちなみにトリニティに来た理由はこれから聖園ミカと一対一で話し合う予定の百合園さんが心配だからだ、話し合いが終わればすぐに連絡を寄越すとは言っていたが……正直、俺はそこまで聖園ミカを信用していない

 

もし聖園ミカが無事な百合園さんを前にしたら、今度こそ無傷のまま黙らせようと何処かに監禁する可能性だって考えられる。だから俺はあまりにも百合園さんからの連絡が遅くなるようなら直接乗り込んで救出する事まで考えている

 

……百合園さんにこの事は伝えてないけどな、少しずつ心配が大きくなってきて俺もトリニティに来てしまった

 

でも今は自分自身の心配をした方が良いのかもしれない、もし今職質でもされようもんなら間違いなくポリスメンのお世話に「ちょっとよろしいですか?」────あっ

 

「先程から挙動不審な様子でしたので道にでも迷ってしまったのかと思いまして……驚かせてしまい申し訳ございません」

 

────い、いえ……ちょっと散歩してただけなんで気にしないでください……

 

振り向いた先に立っていたのはロボットフェイスのポリスメン、早速フラグを回収してしまった瞬間だった

 

ヤバイ(ヤバイ)、このままだと両手にわっぱ掛けられて檻の中にぶちこまれ、風紀委員の誰かに冷めた瞳で迎えに来られる羽目になってしまう

 

 

「ふーん?こんな時間に散歩ねぇ……」

 

────……よ、夜の散歩って結構気持ち良いんですよ?夜風が心地好くて……

 

「……夜風を感じたいならそのサングラスとマスクとパーカーは外した方がいいんじゃない?」

 

 

ごもっともですお巡りさん

 

適当に誤魔化そうとすれば間違いなく粗を探されてしまう、間違いなくこんなクソみてぇな格好で来た弊害が出ていた

 

 

「まあいいや、とりあえず身分証かなんか確認させてもらっていい?」

 

────み、身分証っすか?……その、今は持ってなくて……

 

「ふーん……じゃあ名前だけでも教えてもらっていい?」

 

────……お、折川酒泉です

 

「折川酒泉さんね……散歩してたって事は君この辺りの人なの?家とか近い?」

 

 

ヤバイ(二回目)、ゴリゴリに疑われてる。百合園さんがゴリラの相手をしてる間に俺がゴリゴリに疑われてる、お巡りさんの敬語も消えてる

 

なんだって俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ、ただゲヘナの生徒が不審者みたいな格好でトリニティを挙動不審にうろうろしてたってだけなのに

 

ほな仕方ないか……(自己完結)

 

────い、家はそんな近くないっすね……ちょっと遠くまで歩くのが好きなんで

 

「遠くまでって……どの辺?地区跨ぐ?電車かなんか使うの?」

 

 

し、しつけェ───!警察としては正しい行動なんだろうけどしつけェよぉ!?

 

あれか!?トリニティで物騒な事件が起きちまったから警戒が強化されてんのか!?だとしたら滅茶苦茶頑張ってますねお疲れ様です皆さん仕事増やしてごめんなさいねぇ!?

 

 

「うーん……とりあえずサングラスとマスク外してもらう事って出来るかな?」

 

────……は、はい

 

「ありがとう、えっと……うん?君……男の子?最近キヴォトスに来たっていうシャーレの先生……ではないよね?」

 

────え?あ、いや……その……

 

「……君、どこの学園の子?」

 

────……ゲ、ゲヘナです

 

「……ゲヘナ?ゲヘナの生徒がこんな時間にそんな格好でトリニティに?」

 

 

ヤバイ(三回目)、もしかしたら暫くシャバの飯を食えなくなるかもしれん

 

このままだと留置場ではなく刑務所にぶち込まれるかもしれん。そんでゲヘナの面子を汚した俺を始末する為にゲヘナから刑務所に刺客を送り込まれ、その刺客に〝堂島会長があの世で寂しいとさ!!〟って言われながら襲われるんだ

 

何か……何か信憑性のある言い訳を───そうだ!?ここは言葉を理解出来ないふりをして適当に誤魔化すナリ!

 

 

「君、本当にただの散歩?別の目的があるんじゃないの?」

 

────なに?

 

「だから他に目的があるんじゃないのかって聞いてるの」

 

────なんだと?

 

「……ふざけてる?」

 

────どういうことだ?

 

「あーあー、応援頼みまーす」

 

────すみませんでした

 

 

ヤバイヤバイヤバイヤバイ、桐生ちゃんスタイルで誤魔化そうとしたが逆に疑いの目を強くしてしまった

 

どうする?逃げるか?駄目だ名前も顔もどっちも割れてる!ここで逃げたら後日ゲヘナに連絡がいって空崎さんに迷惑を掛けてしまうかもしれん!一体どうすれば……

 

 

────……あっ!?そ、そうだ!見舞い!見舞いに来たんです!

 

「見舞い?トリニティに?」

 

────そ、そうです!実はトリニティの友人が重体に陥り、寝たきりになってしまったんです!その見舞いに来たんですけど……〝ゲヘナの生徒なんかに会わせると本人の意識が無い間に何されるかわかったもんじゃない〟って追い返されてしまいまして。それでどうしたものかと途方に暮れていたら〝顔と身分を隠せばいけるんじゃね?〟と思いつきまして、でもそれを実行に移す頃にはもうこんな時間に……

 

「めっちゃ早口じゃん……いや、幾らトリニティとゲヘナが犬猿の仲とはいえ、一般生徒同士の面会ごときにそこまで警戒する必要あるか?」

 

 

…………

 

 

────うるせえ!(堂島の龍並感)

 

「やっぱ応援頼みまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

十秒、二十秒

 

セイアを突き飛ばし、ミカがヘイローを破壊する爆弾を身体で覆ってから三十秒が経過

 

未だ爆発は起きず、ただ頭にクエスチョンマークが浮かぶだけ

 

 

「酒泉が言うにこういう時に使う台詞は……ああ、思い出した。〝乗せられちゃった?〟だな」

 

「……起動したんじゃないの?」

 

「おや、私は何度も言った筈だが?〝対話をしにきた〟と」

 

「……」

 

「いやはや、それにしても驚いたな。まさか私を嫌っている君が、自分の命を盾にしてでも私を救おうとしてくれるとは」

 

 

音も、振動も、一切起動の予兆を示さない筒を握ったままのミカ

 

無言で座り込む彼女の背中にセイアが語りかける

 

 

「ミカ、私には────君が本気でエデン条約を壊そうとしている様には見えない」

 

びくり、と肩を震わすミカ

 

顔は見えないものの、耳にはしっかりと言葉が届いていた

 

 

「確かに〝以前までの君〟にはその想いがあったのだろう。アリウスと和解したいという想いも、ゲヘナへの嫌悪感も、エデン条約への拒絶も、全てが本心だった。だが……〝今の君〟はそうは見えない」

 

「〝今の君〟は……私を手にかけてしまったから、取り返しのつかない過ちを犯してしまったから仕方なく進み続けるしかなくなってしまった様にしか見えない」

 

 

要するに止まれなくなってしまった、ただそれだけ

 

ここで止めてしまえば百合園セイアを傷付けた事が無駄になる、そんな考えから止めどころを失い、それでも進み続ける為に自分の心まで騙し続けてきた

 

そんな憐れな少女に真実を突き付けたセイアは一歩ずつミカの背中に近づき、彼女の服を掴んで無理矢理立ち上がらせた

 

 

「───舐めるなよ、聖園ミカ」

 

 

自分より圧倒的に力の劣る少女に胸ぐらを掴まれたミカ、彼女が見たのは怒りに染まったセイアの顔だった

 

 

「身体も脳味噌も心も筋肉しか詰まっていなくて力が強いだけの短絡的思考な脳筋野郎の君なんかより私の方が強いんだ、君ごときが私に勝てると思うな」

 

「それともなんだ、君には刺客を一人差し向けただけで簡単に寝たきりにされてしまうほど私がか弱い存在に見えていたのかい?何度も口論で負けてきた君ごときに見下されるとは気に入らないな」

 

「いいか───私は死なない、絶対に死なない。君が誰を寄越そうと、君が何を企もうと、私は必ず君の前に姿を現し、そして何度でも煽ってやる。どんな試練を与えられようと彼の様に必ず生還し、今まで通り小馬鹿にしたような表情で小言を繰り返して、何度でも罵ってやる。だから……〝百合園セイアを殺してしまった〟と、勝手に絶望するな」

 

「────サンクトゥス分派のリーダー・百合園セイアを舐めるな」

 

 

叫ぶでもなく、しかし確かに怒りの込められた言葉の雨を浴びせられるミカ

 

漸く胸ぐらを離されたと思えばそのまま力なく後ろに倒れ、力なくぽつりと溢した

 

 

「……なんで」

 

「主語はハッキリしてくれ」

 

「なんで───なんで!私を恨んでくれないの!?」

 

 

時間帯も、外の暗さも、月の光も、全てを忘れてミカの叫びが響き渡る

 

 

「私はセイアちゃんに酷いことしたんだよ!?だったら素直に恨めばいいじゃん!なのにどうして〝私自身〟に怒らないの!?なんで───私が絶望してる事に怒ってるの!?」

 

「それ以上に柔な女扱いされてる事への怒りが勝った、それだけさ」

 

「もしかしたら本当に殺されてたかもしれないんだよ!?もっと私を責めてよ!人殺しって!裏切り者って!堂々と恨んでよ!」

 

「私の代わりに君自身が君を責めてくれたからね、それで十分だよ」

 

「っ……」

 

 

涙を流しながら心からの慟哭を放つミカ、セイアはそれを受けても尚微笑みながら言葉を返す

 

ミカ自身が叫んだように一歩違えば百合園セイアは命を落とし、この場に立てていなかったかもしれない、だというのにセイアは〝怒り〟こそすれと〝恨み〟はしなかった

 

 

「……っ……わ、私……」

 

「うん?」

 

「私、セイアちゃん……こ、殺すつもりなくて……ちょっと、痛い目見ればいいって……それだけしか……お、おもってなくて……」

 

「ああ、知っている」

 

「で、でも……そした、ら……ひどいことに、なって……わ、わたし……バカ、だから……こんなことになるとも……おもってなくて……!」

 

「ミカ」

 

「いまさらやめたらダメだって……セイアちゃんにやったこと、無駄になっちゃうからって……じぶんでとまれなくて……!」

 

「ミカ、もういいんだ。私は君を────」

 

 

幼子の様に途切れ途切れながら本心を吐露するミカ、そんな彼女を母親の様に抱き締めるとセイアは優しく囁いた

 

 

「────許すよ」

 

「────うぁあ゛あああ゛あああ!!!」

 

 

意地も、体裁も、恥も外聞も、全てを投げ捨て、今までで一番の声量でミカが泣き叫ぶ

 

 

「ごめんなさ゛い!わるいことしてごめん゛なさい!」

 

「さっきの言葉が聞こえなかったのかい?私は許すと言った筈だが」

 

「めいわく゛かけてごめんなさい!うらぎっでごめんなさい!」

 

「やれやれ、この調子じゃ聞こえていないだろうな……仕方無い、ここには私と君しかいないし存分に泣き叫びたまえ。その代わり誰かが駆けつけてきた時は適当に誤魔化してくれよ?私が無事である事をまだアリウスに明かす訳にはいかないからな」

 

「うああ゛あぁああぁ゛ああん!!!うああぁああ゛あああああ!!!」

 

「……これも聞こえてなさそうだな」

 

 

泣きじゃくるミカの背を呆れ顔で、しかし微笑ましそうな目で撫でるセイア

 

ミカが泣き疲れ漸く会話が出来そうな状態になるまで数分は掛かったが、幸いにも部屋その物の防音性能が高いのもあってその間に泣き声を聞いて駆けつけた者は現れなかった

 

 

「うぅ゛う……うぅ゛……」

 

「ミカ、君は今まで〝ごめんなさい〟の一言が喉奥に詰まって吐き出せなかっただけだ……どうだ?スッキリしたかい?」

 

「うん……ごめんね……セイアちゃん……」

 

「それはもういいと言っただろう?それに謝る必要があるのは私だって同じさ、もっと早く私の方から腹を割りに行っていればここまでの大事は起きなかったかもしれないのに……君一人に辛い思いをさせてしまい、本当にすまなかった」

 

「う、ううん!セイアちゃんが謝る事じゃないよ!どんな言い訳をしたところで先に手を出したのは私の方からなんだし……」

 

「ミカ……」

 

「セイアちゃん……」

 

「……止そう、互いに謝りたい事は山程あるだろうがこれ以上続けると日を跨いでしまいそうだ。それに、私が今日ここに来たのは君に謝罪させる為じゃない」

 

「えっと……確か、話し合う為だっけ?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

ここまで様々な感情のぶつかり合いがあったが、それらは全て本題ではない

 

むしろここからが本番、ミカの協力を得てどこまでアリウスに近づく事が出来るか

 

若干気まずくなった空気をリセットする為にセイアは一度咳払いをしてから話を始めた

 

 

「ミカ、単刀直入に言うが……君の手を貸してほしい。アリウスと和解する為に、ゲヘナと和解する為に、そして私が大好きな彼と一緒に海で泳ぎ最終的にイチャイチャチュッチュする為に」

 

「勿論!私に出来る事ならなんだってごめん最後なんて?」

 






「さて、何とか話し合いの場を設けられた事を酒泉に伝えたいのだが……なかなか電話に出ないな」


──────────


交番


────俺は……誓って殺しはやってません

「いや別に殺人を疑ってる訳じゃないよ?」
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