〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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いつか亡き貴方に出会う

 

 

 

『そういやお前今日誕生日だっけ』

 

『はい、そうですけど』

 

『そっか、じゃあこれやるよ』

 

 

そう言うと先輩は何でもないかのように私にちょっとオシャレなピンクの紙袋を渡してきた

 

外から触ってみると中に箱のような何かが入っているのが分かる

 

 

『……これは?』

 

『開けてみ』

 

『……失礼します』

 

 

此方と顔を合わせようとせずスマホを弄りながら適当に答える先輩に断りを入れてから紙袋を開ける

 

そこに入っていたのはやはり小さい箱……だけど、それに付いてるラベルには私の知ってるブランドのロゴがプリントされていた

 

更にその箱を開けると、そこには私が想像していた通りの物が入っていた

 

 

『……コスメセット?』

 

『この前俺の買い物に付き合ってもらってた時にショーウィンドーに入ってるそれ食い入るように見てたからさ、欲しいのかなって思って』

 

 

この前……ああ、あの日かな

 

 

『私が仕方なく……本当に仕方なくカップル割引のケーキバイキングに付き合ってあげた日ですか』

 

『いや、俺元々一人で行く予定だったのにそれを聞いたお前が無理矢理────』

 

『何か言いました?』

 

『その節は大変お世話になりました』

 

 

終わった事でうだうだと文句を垂れないでほしい、それに私のお陰でお金だって浮いたんだしむしろ先輩は礼を言うべきだと思います

 

それにしても……コスメ、か。確かに綺麗だなーとは思ってたけど自分でそこまで夢中になってる自覚は無かったです

 

 

『……ていうか、先輩って私の誕生日覚えてたんですね』

 

『毎年祝ってるだろ?』

 

『まあ……でも今年は全くそんな素振りを見せなかったので』

 

『……て事はなんだかんだお前も毎年どんなプレゼントが貰えるのか気になってたり────痛い痛い、俺が悪かったからボールペンで頬をぐりぐりしないでくれ』

 

 

無神経な事を言う先輩目掛けてボールペンの後ろの部分をおもいっきり押し付ける、別に照れ隠しとかでは断じてない

 

……まあ、確かに〝今年の誕生日も祝ってくれるかな〟って気持ちが全く無かった訳ではありませんけど、むしろそんな気持ちがあったから淡い期待と共に勉強会に誘ったのですが

 

勉強会、受験生の私にとって便利な言葉です

 

 

『いやー今年は何渡そっかなーって悩んでたからさ、丁度良かったよ』

 

『別に無理して物を渡さなくても……その……私は先輩に……祝ってもらえるだけで……』

 

『ん?』

 

『……なんでもないです』

 

 

今更こんな事を言うのは何となく私のキャラじゃない気がして口を閉ざす、多分妹辺りならこんな台詞でも平然と吐けるのだろう

 

素直じゃなく子供っぽい自分が嫌になってしまうが、人生という長い期間で考えれば時間はまだまだ沢山残っているのでここは少しずつ素直になっていこうと思う

 

 

『えっと……その、ありがとうございます』

 

『おう、それじゃ勉強の続きでもやるか』

 

 

そういえばまだ礼を言ってないと思い出し、少々照れ臭い思いをしながら礼を言うと先輩はこちらの気も知らずあっさりと返して再び教科書を開き始めてしまった

 

嘘でしょ、大事な後輩に誕生日プレゼントを渡すというイベントをこんなあっさり終わらせるんですか

 

やはりそういうところはクソボケなんですね先輩

 

 

『あの……私はもう少しこのコスメ眺めててもいいですか』

 

『ん?おう、別に構わんぞ』

 

 

プレゼントを意識していると思われるのは癪だけど、先輩のクソボケムーブに付き合うのはもっと癪なので私だけ別行動を取る

 

まずは箱を開けた時に一番最初に視界に入ってきたリップスティックから確認……種類は三色、赤色と薄紅色と桃色の三本

 

そしてそれらの横にはペン先と同じくらい細い物が……もしかしてこれもリップスティックなのだろうか、これを使えばかなり細かく塗れそうだ

 

次に確認したのは保温クリーム、ほんの僅かにだが蓋を開けた時にフルーツの様な匂いがした、多分オレンジとかだと思う

 

 

『……』

 

 

マニキュアは六つ、いずれも赤系統の色だ

 

宝石をモチーフにしたような容器に入れられており、容器の外側には銀箔がコーティングされている

 

次は箱の真ん中の窪みに埋められている手鏡を────

 

 

『…………』

 

『……あの、なんですか?』

 

『いや、なんか楽しそうに見てたからつい……お前ってオシャレとかに興味なさそうな感じ出してるけど意外とそういうの好きだよな』

 

 

別にそんなつもりは無かったけど先輩にはそう見えたらしい

 

この人は私の表情や態度の細かい変化にすぐ気づいてしまう、変態ですねジロジロ見ないでください

 

『好きで悪いですか……それとも何か?私には似合ってないって言いたいんですか?』

 

 

ええ、好きですよ。オシャレな服も綺麗なコスメも可愛いくまのぬいぐるみも全部好きですけど何か?

 

どうせ先輩は私みたいな無愛想な女には似合ってないって言いたいんでしょうね

 

『いやいやとんでもない、むしろそういうのギャップがあって俺は可愛いと思うぞ』

 

 

……この人の口説き文句は今に始まった事じゃない、どうせ他の女性にも同じことを言ってるに決まってる

 

だからニヤつこうとするな私の頬、お願いだからじっとしてて

 

 

『……そういう先輩はオシャレとは無縁な人生送ってそうですけどね』

 

『ち、ちげーし……オシャレする機会が無いだけだし……彼女が出来たらいずれするし……』

 

『……へぇ』

 

 

先輩に彼女なんて出来る筈がありません、百万歩譲って出来たとしてもどうせすぐ別れるに決まってます

 

こんなクソボケと付き合えるのなんて私くらいしか存在しないだろう

 

 

『でも、メイクとかその辺の技術はやっぱり覚えときたいかなー』

 

『はい?先輩がですか?』

 

『だってさ……ほら……彼女が出来た時に俺がメイクとかしてあげられんじゃん!』

 

『キモッ』

 

『直球!?』

 

 

先輩のクソボケヘッドには女の子の事しか詰め込まれてないんですか、だったら脳味噌なんて必要無いですよね

 

大体、先輩ってメイクとか出来るのでしょうか。手先は器用な方だったと記憶はしていますが、たったそれだけで完璧に仕上げられるほど女の子のメイクは甘くないですよ

 

 

『……そんなに女の子にメイクしてあげたいのなら、私で練習してみますか?』

 

『……え?』

 

『どうせ非モテ拗らせ先輩の事ですからそういった経験は今まで一度もした事が無いんでしょう?それならプレゼントのお礼に特別に私の顔を使わせてあげなくもないですよ……それに、私も使い心地とか知りたいですし』

 

 

というわけで先輩には特別に私の顔で練習させてあげます

 

これは別に先輩だけの為ではない、将来付き合う女の子が先輩の手によって醜い化粧顔にされるのが気の毒だと思ったから今のうちに練習させてあげるだけだ

 

私だって一応女なんですからちゃんと可愛く仕上げて────間違えました、将来先輩と付き合う女の子だってちゃんと可愛く仕上げてほしいに決まってますから

 

 

『えっと……いいのか?俺、こういうのマジでやったことないぞ?自分の唇に保温リップ塗ったことすらない男だぞ?』

 

『……へぇ』

 

 

……成る程、つまり先輩の〝初めて〟は私ということですか。まあ、だからなんだという話ですが

 

しかしこれでは先輩を想う、もしくは将来先輩に惹かれるであろう女性が可哀想ですね。だって私が〝初めて〟を奪ってしまったのですから

 

 

『いいですよ、最初から期待はしていないので』

 

『ふ、ふざけやがって……後悔しやがれ────!』

 

『慎重にお願いします』

 

『あ、はい』

 

 

勢いよくリップスティックを押し付けようとしてきた先輩を睨んでその手を止めさせると、先輩は割れ物を扱うようにゆっくりとリップスティックを私の唇に当ててきた

 

やれば出来るじゃないですか、その調子で丁寧にお願いしますよ

 

『んっ……』

 

『えーっと……このまま全体に塗ればいいだけか……?』

 

『はい、失格です』

 

『え!?』

 

『私を唇おばけにでもするつもりですか?』

 

 

リップスティックだって雑に塗るだけじゃない、上から全体を塗っただけじゃただの唇が腫れてるだけの人になってしまう

 

強く塗りすぎず弱く塗りすぎず、時には口角から時には中心から、時には置くように塗ったり時にはさするように塗ったり

 

 

『幼稚園児の落書きじゃないんですからしっかり考えて塗ってください、ただでさえ先輩のセンスの無さには失望してるんですから』

 

『んなこと言われても……えっと……こ、こうか……?』

 

『……はい、その調子です』

 

 

先輩は先程と打って変わって不安気にリップスティックを動かす、これぐらいの勢いなら塗りすぎって事もないだろう

 

……って思った矢先、突如先輩の表情が〝やばっ〟という一言と共に変わった

 

 

『悪い、ちょっと唇からはみ出しちまった……今拭くわ』

 

 

そういうと先輩は自身の親指で私の唇の端を────は?

 

この人、今、私に何してるの?

 

先輩の指、私の唇に、直接、触れてる?

 

 

『────っ、時間切れです!』

 

『えっ』

 

 

咄嗟に先輩を突き放して距離を取る、勿体ないという気持ちより恥ずかしさの方が勝って……いえ別に勿体ないなんて思ってませんが、ただの練習ですし

 

 

『いやいやいや!流石に早くね!?あんな短時間でメイク終わらせろって初心者に酷すぎじゃねえか!?』

 

『うるさいです、黙ってください、セクハラすけこましクソボケ先輩』

 

『なにその悪魔合体!?』

 

 

ギャーギャーと騒ぎ散らす先輩を無視して顔を逸らす……が、その度に先輩は私の正面に回り込んで抗議してくる

 

やめてください今私の顔を見ようとしないでくださいぶん殴りますよ

 

 

『騒いでる暇があったらさっさと勉強の続きでもやっててください』

 

『お前が練習するかって提案してきたんだろぉ!?』

 

『先輩が私の方をジロジロと舐め回すように見つめてきたのが原因です』

 

『舐め回しとらんわぁ!?』

 

 

本っ当にどうしようもないですねこの人は、折角の女の子と触れ合える機会をこんな形で終わらせるなんて

 

まあチャンスが一度きりというのも少々冷たい気もしますしこれからも仕方なく付き合ってあげましょうかね

 

 

『続き、またやらせてあげますから────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────先輩…………あれ?」

 

 

冷たい地面、真っ暗な空間、廃れたような匂い

 

先程まで一緒に勉強してた先輩の姿はそこにはない

 

 

「……まあ、夢か」

 

 

ただの妄想ではなく実際にあった懐かしい思い出、これを見るのは今に始まったことじゃない

 

先輩を失ったあの日から同じ経験は何度も味わってる、未練がましい私にぴったりな夢ばかりだ────

 

 

「────待て」

 

 

夢?これは本当に夢なのだろうか、私はさっき何を考えた?

 

冷たい地面、真っ暗な空間、廃れたような匂い

 

 

「私の……部屋じゃない……?」

 

 

ここは一体どこなのだろうか、もしかして寝惚けながら歩いてた?……あり得ないでしょ、玄関出る前にお母さんに見つかってそうだし

 

突然拉致された?……一般家系の一般市民の私を?何の目的で?それこそあり得ない

 

じゃあ残る可能性は……ああ、そっか

 

 

「なんだ、夢か」

 

 

多分、私はまだ夢から覚めてないのだろう

 

他にも家族にドッキリを仕掛けられてる可能性も考えたけどお父さんもお母さんもそんな性格じゃないし妹は引きこもってるしでそれは到底考えられない

 

じゃあやっぱり夢だ、うん、随分意識がはっきりしてるような気がするけど多分これは夢だ

 

……ただ、夢の中なのにパジャマのままなのはちょっと気になるけど

 

さっき先輩と一緒に話してた夢の中だと普通の部屋着だったのに、どうしてこんな訳の分からない夢の世界に変わった瞬間にパジャマに切り替わってるのだろうか

 

 

「……とりあえず歩いてみよっかな」

 

 

この夢の世界がどんな世界なのかはまだ分からないけど、この工場跡地みたいな場所から抜け出したらきっと何かしら情報を得られるはず

 

そんな事を考えながらとりあえず出入口らしき場所から出て適当に外を歩く

 

 

「……」

 

 

無言のままキョロキョロと周囲を観察してみる

 

まずは私が目覚めた建物の外観……は、普通

 

今歩いてる道路……も、普通

 

そのまま歩き続けて辿り着いた細道、そこを歩くと今度は……何も起こらない、この道も普通だ

 

普通、あまりにも普通、現実でなんとなくフラフラ歩いてる時となんら変わらない普通さ

 

ここは本当に夢なのだろうか、だとしたら何故私はこんなつまらない夢を視ているのだろうか

 

何のイベントも起きず、私自身に変化が訪れる訳でもない

 

身体も、建物も、地面も、空も何一つ変わらない────

 

「────なにあれ」

 

 

いや、一つだけ

 

たった一つだけ変化を見つけた

 

 

 

 

 

 

 

 

「……輪?」

 

 

 

 

 

 

 

 

あんな輪は、私達の世界の青空に存在していただろうか

 

 




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