〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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やっと、貴方に会えた

 

 

 

 

「な、何よアンタら!?……って、そっちのはさっき逃げ出した……」

 

「なに?まさか助けでも呼んできたわけ?」

 

 

美咲の脚から流れる血、赤く濡れた地面

 

折川酒泉の目は無機質に加害者達を捉えていた

 

 

「これをやったのはお前らか?」

 

「だ、だったら何よ!?あんたには……ゲヘナの生徒には関係無いでしょ!?」

 

「そうよ!ゲヘナなんかが余計な口を出さないで!」

 

「もし犯人がお前らなら然るべき機関に突き出す、それだけだ」

 

「だからっ……それはゲヘナのあんたが決める事じゃないでしょう!?」

 

「……話にならねえ」

 

 

自らの手で相手の身体から血を流させてしまった少女は半狂乱になりながら酒泉にスナイパーライフルを突き付ける

 

すると酒泉は早い段階から対話を諦めたのか、自身を連れてきた後ろの少女を呼び寄せた

 

 

「なあ、アンタ。悪いけど美咲の……その子の面倒見てもらっていいか?それと出来れば救護騎士団にも連絡頼む」

 

「えっ!?正義実現委員会には……」

 

「正実に連絡すんのはその後でいい、今は一刻も早く美咲の応急手当を頼みたい」

 

「わ、わかった!」

 

 

助けられた少女が美咲を庇うように抱くと、酒泉は銃すら抜かず加害者の生徒達に近づく

 

酒泉の肉体の強度から考えれば明らかに自殺行為、にも関わらず何の恐れも見せず銃に近付いてくる彼を加害者達が逆に恐れていた

 

「こ、これ以上近付くなら本当に撃つわよ!?」

 

「一応聞くが自首するつもりは?」

 

「う、うるさいわね!だから何でゲヘナなんかに偉そうに言われなきゃならないのよ!?」

 

「ああ、そうか。じゃあ────後で正実に突き出す為に拘束させてもらうぞ」

 

「じ……上等よ!あんたらもさっさと構え……な……さ……?」

 

 

美咲を撃った張本人が仲間達にも戦闘態勢に入るよう叫ぶ

 

しかし仲間達が立っている真横に視線を向けると、そこには既に酒泉が立っていた

 

 

「……は?」

 

 

懐に潜り込まれた、ほんの一瞬目を放した隙に

 

一人が銃を上げる前に銃の持ち手を酒泉に握られ、そこからもう一人の生徒の喉元にたった今掴まれた手を向けさせられる

 

そのまま引き金を引く勢いを止める事ができず、仲間の喉元に弾丸を直撃させてしまった生徒は身体を硬直させてしまう

 

 

「ぅ゛あ゛っ゛!?」

 

「ご、ごめ───っ゛ず!?」

 

 

喉を押さえて地面に横たわる仲間に対して咄嗟に謝罪の言葉を口にしようとする誤射をしてしまった生徒、そんな彼女の髪の毛が突如掴まれたかと思えば勢いよく地面に顔面を叩きつけられる

 

喋っている最中に顔を叩きつけられたせいか、舌を盛大に噛んでしまった少女は倒れ込んだまま口元を押さえる

 

しかし、そんな二人の少女に情け容赦なく銃口が押し付けられる

 

 

「やめ───」

 

 

言葉を発し切る前に、放たれた弾丸が意識を奪う

 

たった今二人を攻撃した銃は二丁共加害者生徒の所持していた銃、折川酒泉は自身の武器を使用する暇すら惜しんで目の前の〝敵〟を一瞬で制圧する事を選んだ

 

コンマ一秒でも早くコイツらを倒す、酒泉の行動はそんな決意を込めてのものだった

 

 

「……ひっ」

 

 

次はお前だ、そう言わんばかりに酒泉の目が最後の一人に向けられる

 

ここまで掛かった時間は五秒以内、こんな化物に誰が勝てるのか

 

戦う前から一瞬で心の奥底に敗北の二文字を刻み込まれた少女は怯えながら後ろに下がる

 

 

「ご……ごめんなさいっ!ごめんなさいごめんなさい!〝ゲヘナなんか〟って言ったことは謝りますから────づぅ゛!?」

 

 

そんな言葉は意味を成さない、何故なら折川酒泉の怒りの理由にゲヘナは関係していないからだ

 

それを理解できない少女は自身の顔に超至近距離から向けられるスナイパーライフルの銃口から目を逸らす事ができず、顔面のど真ん中に弾が直撃するその瞬間まで歯をガタガタと鳴らし続けた

 

「う゛あ゛っ!?」

 

 

一発で意識は奪えず、続けて二発三発と顔に撃ち込まれる

 

がくり、と少女の腕がだらしなく降ろされたのを確認すると、酒泉は漸く敵から奪った銃を放り捨てた

 

 

「……え?も、もう終わったの?」

 

「ああ、終わった」

 

確かにその内に怒りを抱えていた筈の酒泉は自分でも驚くほど冷静に答える

 

酒泉は目の前の女達を殴りたい気持ちよりも、間に合わなかった自分を責めたい気持ちよりも、少しでも早く〝恐らく前世の後輩であろう少女〟を助けたいという気持ちを優先した

「連絡は?」

 

「……あ!?ご、ごめん……あまりにも早く終わりすぎて……まだ……」

 

「そっか、じゃあ俺は正実の方に連絡するからアンタは救護騎士団に────」

 

「せん……ぱい……?」

 

「っ、美咲?」

 

 

美咲の身を預かろうと酒泉が屈んだ瞬間、か細く声が聞こえる

 

それはもう何年……否、十何年も聞くことがなかった懐かしい声だった

 

 

「ああ、なんだ、やっぱりゆめだったんだ、せんぱいがいきてるはずないし」

 

「……そうか、やっぱお前〝あの〟美咲か」

 

「でも、ゆめでもうれしいです、またあえましたね、せんぱい」

 

「……いいよ、今は夢って事にしとけ。後で色々と説明してやるから」

 

 

意識が途切れそうになりながらも必死に言葉を続けようとする美咲、彼女の手は酒泉の服の袖を必死に掴んでいた

 

争いとは無縁だった筈の後輩、酒泉はそんな彼女の痛々しい姿に歯噛みをする

 

 

「せんぱい、せんぱい、まださめたくないです、まだゆめのなかがいいです」

 

「……美咲」

 

「いたいけど、くるしいけど、でもせんぱいとはなれたくないです、またおわかれなんていやです」

 

「安心しろ、また会えるからよ」

 

「せんぱい、せんぱい、これからもいっしょにいてください」

 

「っ……それ……は……」

 

 

汗と涙でぐちゃぐちゃになった顔で微笑みながら語りかける美咲に酒泉は複雑な思いを寄せる

 

もし、彼女も何らかの要因で死亡しており、その後自分と同じようにこの世界に落ちていたのだとしたら────不本意ながら、これからも一緒に居られるだろう

 

勿論、不本意というのは彼女の死に対してである

 

 

「……今後の話はまた後でだ、今は喋らずじっとしとけ」

 

 

酒泉は話を誤魔化すように後輩の頭を優しく撫でる

 

身体を揺らさないように、痛みを感じさせないように丁寧に

 

 

「せんぱい、つらいです」

 

「もうすぐ助けが来るからな、それまで頑張って耐えてくれ」

 

「せんぱい、てをにぎってほしいです」

 

「ああ、いくらでも握ってやる」

 

「せんぱい、またいっしょにあそびたいです」

 

「任せろ、俺がキヴォトスを案内してやる……怪我が治ってからな」

 

「……せんぱい」

 

「おう」

 

「……また……また、いっしょに……いきて……」

 

「……おう」

 

 

初めて見る後輩の弱々しい姿を前に改めて〝守る〟という決意を固くする酒泉

 

二人の会話は美咲の意識が完全に途絶えるまで続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

『なんだよ!じゃますんなよ!酒泉!』

 

『そうだそうだー!』

 

『うっせー!よってたかって下の学年の女の子いじめやがって!』

 

『うっ……うぇえ……』

 

 

思えば、先輩は昔から変わらない人なのかもしれない

 

私が小学三年生の頃からずっと誰かの為に戦っていたのだから

 

 

『それが男のやることかよ!?みっともないことしやがって!』

 

『な、なんだよ!?そのちびが生意気なのがいけないんだろ!?』

 

『先輩に逆らう方が悪いんだよ!』

 

『お前らが学校の花壇荒らさなければいいだけだろ!?なんでそれを注意したこの子が責められないといけないんだよ!』

 

 

中学生になってもイマイチ頼りなかったり、高校生になっても情けないままだったり

それでもあの背中だけは、ずっと頼もしいままで

 

 

『八つ当たりなんてダサい真似してんじゃねーぞ!この馬鹿!アホ!マヌケ!』

 

『な、なんだとー!?』

 

『社会不適合者予備軍!生きる価値のない屑!酸素の無駄遣い!ゴミ!くたばれ!コンクリートで固められて海に沈められろ!ヤクザに爪剥がされちまえ!この道端に吐かれた酔っ払いのゲロ以下のカスがっ!気持ちわりいんだよ二度とその面見せんじゃねえ汚物が!』

 

『そ、そこまで言わなくてもよぉ……うぅ……ぅああ……うあああああああああん!!!』

 

『わあー!酒泉がうちのクラスのガキ大将泣かせたー!』

 

『あ、やべ』

 

 

私をいじめてた、おっきい男の子達を追い払ってくれた先輩

 

赤の他人の為に、たった一人で立ち向かってくれた先輩

 

 

『ったく!ちょっと悪口言っただけですぐ泣きやがって……図体はデカい癖に情けねえやつ!』

 

『ひっぐ……うぅ……』

 

『ほら、お前もいつまでも泣いてないで立てよ。さっさと下校しないとお母さんに心配されるぜ?』

 

『ぅ゛う゛う゛……えぐっ……』

 

『……ああもう……しょうがねえなぁ……ほら、俺がランドセル持ってやるからさっさと行くぞ!家まで送ってやるから!』

 

『ぐすっ……うぇ?な、なんで……?なんでそこまでしてくれるの?私たちはじめて会ったのに……』

 

『なんでって……後輩を助けるのは先輩の役目だからな!』

 

 

どやっ!と何故か得意気に腕を組む幼き日の先輩、今思えばあれはただ学年マウントを取りたかっただけなのかもしれない

 

それでも当時の私には他人に無償の愛を与えられる貴方の事が誰よりも格好良く見えた

 

『ほら!早く!』

 

『ぁ……う、うん……』

 

 

その手に引かれた日からきっと、私は先輩に惹かれ始めていたのだろう

 

小学生の時の会話はそれっきりで次に会話らしい会話をしたのは中学生になってからだけど、それでも私はずっと昔から先輩の事を目で追い続けていた

 

昼休みに外で友達とサッカーをしていた先輩を教室の窓から、運動会のリレーで一気に二人抜きして一位に躍り出た先輩を応援席から、演奏会で力強く真剣な表情で歌う先輩を体育館で

 

喜んでる先輩を、悔しがってる先輩を、落ち込んでる先輩を、怒ってる先輩を

 

 

 

 

 

ずっとずっと、ずっと────見てきましたよ、先輩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、また貴方を見つける事ができて本当に良かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……」

 

 

いい加減にしてほしい、今日だけで一体何度夢を見たら気が済むのだろうか私は

 

しかも全部先輩絡みの夢で、直前に先輩と再会する夢まで見ているときた

 

 

「……っ」

 

 

さて、今度はどんな夢を見ているのだろう……まずは状況の把握から始めましょうか

 

目覚めた場所は知らない病室のベッドの上、今感じた脚の痛みから先程の夢の続きである事が窺える

 

眠る前の最後の記憶は確か……銃で脚を撃ち抜かれて、そのまま悶え苦しんでたら先輩が駆け付けてきて……いやいや、ピンチの状況を気になるあの人に王子様の様に助けられるなんてどんな乙女チックな夢だ

 

痛みをリアルに感じてまで見たい夢とは到底……思えますね、先輩に会えたんですから

 

……さて、現実逃避もここまでにしておきましょうか

 

「ここ、本当に夢なんですか?」

 

 

あの時感じた痛みも、今感じている痛みも、全てがリアルすぎる

 

そして意識を失う直前の記憶────先輩に握ってもらったこの手の感触も未だに覚えている

 

夢から覚めた夢なんて聞いたことがない、もしかしてここは本当に存在する世界で、私は何かしらの事象によってこの世界に飛ばされてしまったのでは?

 

 

「……じゃあ、ここで会った不思議な生き物達も全部本物なの……?」

 

 

馬鹿馬鹿しいと切り捨てるには脚の痛みがノイズすぎる

 

喋る犬も、自我を持つロボットも、羽の生えた生徒も

 

私が元居た世界ではあり得ない出来事の数々も、全て本物────という事は

 

 

「私を助けてくれた先輩も────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ああ、本物だ」

 

 

病室の扉から、懐かしい声がした

 

 

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