〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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今度は私が貴方を

 

 

 

「脚の具合はどうだ?」

 

「まだまだ痛みますね」

 

「そうか……」

 

 

昨日と変わらずベッドで寝転がっている私に先輩が悲しそうに俯く

 

あの日の帰り際に〝毎日見舞いに行くから〟と言ってましたけど、とりあえず今のところ約束は達成中ですね先輩……途中で破ったら許しませんから

 

 

「……銃で撃たれた痛みって中々消えてくれないんですね」

 

「これでも運の良い方だぞ、もし骨にぶち当てられたらミレニアムの力でも借りん限りこんな簡単には痛みを抑えられなかっただろうな」

 

「……まるで実際に経験した事のあるような言い方ですね」

 

「俺も大怪我した事あるからな、その時は治療を受けた場所はトリニティだけど銃創を可能な限り隠す手術とか骨の損傷の再生治療とかは間違いなくミレニアムの技術が関わってただろうな」

 

そういえばそうだ、私と違って先輩は十年以上この世界で生きてきたんだった……それも、私と殆ど変わらない耐久の身体で

 

こんな世界でそれだけ長く暮らしていれば当然銃でのいざこざを間近で目撃する機会だってあったでしょうね

 

 

「……で、誰にやられたんですか?」

 

「ん?」

 

「どこのどいつが先輩にそんな怪我を負わせたんですか?」

 

「んー……忘れた」

 

「自分を撃った相手を忘れるはずないでしょう」

 

「風紀委員になると色んな奴に恨まれるからな」

 

 

風紀委員会、先輩が通っている高校の治安維持組織……先輩からはそう聞いている

 

毎日のように争い事が発生するゲヘナの地区で、問題児を取り締まって少しでも学園の平穏を保たせる為に活動しているのだとか

 

 

「……先輩、先輩はどうしてそんな危険な組織に入ってしまったんですか?」

 

「最初は〝推し〟の為とかだったけど……今はゲヘナで大人しく暮らしてる人達の平穏を守りたいから、かな」

 

「……推し、ですか」

 

「空崎さんには言わないでくれよ?」

 

 

空崎ヒナ、先輩が所属している風紀委員会のリーダー、つまり風紀委員長

 

先輩が前世から推していたキャラであり、今世では……先輩の直属の上司でもある

 

 

「確か前世で先輩が画像を見せてくれた髪の白いキャラですよね」

 

「おう」

 

「つまりロリコンですね、この世界の警察は機能してないのですか?」

 

「向こうの方が年上なんでロリコンじゃないですぅー!……あ、因みにこの世界の警察は上層部が普通に癒着してたりするからな」

 

「本当に機能してないじゃないですか」

 

 

頭が痛くなってくる、子供が政治に関わる世界だと聞いてはいたがまさかここまで無法地帯だとは……暴行に癒着に何でも許されるんですね

 

ブルアカをインストールしようとした時に沢山の美少女キャラが画面に映っていたが、実は美少女ゲーの皮を被った某如くシリーズのゲームだったりしないだろうか

 

 

「この世界一度滅びた方が良いのでは?」

 

「実際にキヴォトスが滅びたルートも存在するぞ」

 

「地雷埋まりすぎでは?」

 

 

ちょっとした冗談が一瞬で事実として肯定される、それだけ出鱈目な事件ばかり起きているという事なのか

 

成る程、来たばかりで早速キヴォトスの事が大体分かってきました、倫理も秩序も何もかもが終わってるんですねこの世界は

 

 

「脚の怪我だけで済んだ私は本当に運が良い方だったんですね……」

 

「つっても怪我の具合と当たりどころによっては自分の足じゃ歩けなくなってたかもしれないけどな……」

 

「その時は先輩に背負わせますから、ずっと」

 

「任せとけ、こっちに来てから俺もかなり身体鍛えたからな」

 

「……なに真に受けてるんですか」

 

 

この人はずっとという言葉の意味を理解しているのだろうか、今のはつまり私達が元の世界に帰った後もずっとという意味なのですが

 

まあ、どうせこの人は怪我が治るまでとしか思ってないのでしょうが

 

 

「あ、それとこの後の予定なんだけど……」

 

「分かってます、ゲヘナ学園の風紀委員長が……空崎ヒナさんが此方にいらっしゃるんですよね」

 

 

他校間での争い事に発展した事で先輩に報告義務が発生したらしく、事の顛末を先輩の上司である空崎ヒナさんに説明したところどうやら私の顔を直接見に行くことになったとか

 

さて、その〝空崎ヒナ〟さんとやらがどんな理由で私に会いに来るのか。単純に事件の被害者の顔を見に来ただけなら警戒する必要もありませんが、もし先輩と私が同居することを知って牽制しに来たのだとしたら……

 

 

「……中々面倒な事になりそうですね」

 

「大丈夫だって、事情は前世の事は隠して大体説明しといたからさ」

 

「そうではなく……いえ、ありがとうございます」

 

 

女性関係の事だと気付かないボケ面の先輩に礼を言う

 

この世界だと誰が先輩を狙っているのか、それを知るのはこれからでいいでしょう……いえ、それを知る前に元の世界に帰れるのがベストなのですが

 

 

(空崎ヒナ……先輩の推し)

 

 

もし彼女からの矢印が先輩に向けられていた場合、かなり厄介な相手になる

 

そうならない為にも今のうちに精々祈っておこう、先輩と空崎ヒナさんがただの上下関係である事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、貴方が〝酒泉と同居したい〟と言ってる新野美咲さんね」

 

 

 

それから約二時間後、私と先輩の前に現れた彼女を見て一瞬で察した

 

 

 

(あ、敵だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「初めまして、酒泉から話は聞いてるだろうけど一応自分でも挨拶しておくわ。ゲヘナ学園の風紀委員長を勤めている空崎ヒナよ、よろしく」

 

「新野美咲です、先輩には重ね重ねお世話になっています……そしてこれからもお世話になる予定です、よろしくお願いします」

 

「……先輩?それって酒泉の事?」

 

「……ええ、学年は私より一年上なので先輩とお呼びさせてもらってます」

 

 

嘘だ、今はもう同学年だけど無理して先輩呼びを避けようとしてもどうせどこかしらでボロが出そうなので今のうちに本来の呼び方を周知しようと思っただけだ

 

それに先輩呼びを避けていた元々の理由は前世での関係性を隠すためだし、それが達成された今遠慮する必要はなくなっただろう

 

 

「まあ、酒泉の呼び方に関しては私が決める事じゃないし別に何でも構わないわ……本題はここからよ」

 

「本題?」

 

「新野美咲、貴女……酒泉と同じ家で暮らしたいって本気なの?」

 

 

やはり来た、この人が先輩に向ける視線や表情でどんな想いを抱いているのかは薄々察していたけど……

 

 

「ええ、本気ですが」

 

「女性が男性の家に泊まることの意味が分かってるの?それに男女間の価値観の違いとか生活面でも不安が残るも思うけど……今からでも遅くないから大人しく先生の提案を受け入れなさい、最悪私の部屋だって貸してあげるから」

 

「あ、あの……美咲本人が俺の家に行きたいって言ってますしここは本人の希望通りに……」

 

「酒泉は黙ってて」

 

「はい」

 

「……なんでこの子は名前呼びなの」

 

「え?今なんか」

 

「酒泉は黙ってて」

 

「はい」

 

力関係が把握できた、どうやら先輩はこの人の尻に敷かれているらしい

 

でも私にとって空崎ヒナは他人同然、先輩の推しだからって気を遣う必要など微塵もない

 

 

「空崎ヒナさん、お気遣い感謝します。まず、男女が同じ屋根の下で暮らすことの意味はちゃんと理解していますのでご心配なく……私はその上で先輩と暮らしたいと考えていますので」

 

「……どうしてそんなに酒泉と暮らすことに拘るの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは……私が先輩に一目惚れしてしまったからです」

 

「……!?」

 

「えっ」

 

 

 

 

なので、ここからは遠慮なくいかせてもらおう

 

 

 

 

「ひと……めぼれ……?それってどういう……」

 

「言葉通りの意味ですよ、私は先輩の事が好きになってしまったんです」

 

「そんな……出会って間もないのにそんなことが────」

 

「ええ、出会って間もないのに惚れたんですよ」

 

 

 

下手に取り繕うと足元を掬われる可能性がある、ここはストレートにぶっ込みます

 

 

 

「先輩が居る時も、先輩が居ない時も、私はずっと先輩の事ばかりを考えてました」

 

「あの日、あの場所で、私を救ってくれた背中は今もずっと脳に焼き付いているんです」

 

「ずっと……あの時からずっと、先輩は私の────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ヒーローですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが私が先輩に惚れた理由です、他に何か聞きたい事は?」

 

「…………な、い」

 

「そうですか、では私はこのままお願いした通り退院後は先輩の家でお世話になるという事でよろしいでしょうか」

 

「……」

 

 

返事はない、無言は肯定

 

良かった、もしこの人が他人の意思をねじ曲げてでも人様の恋路を妨害してくるような人だったらこの賭けは少々危うかっただろう

 

そうでないと分かれば後は正直に仕掛ければいいだけ、私も先輩本人も納得していて先生の了承も得ている、一体どこに止められる理由があるのか

 

 

「なるほど、そういう設定か……考えたな美咲、流石は俺の後輩───ぐああああっ!?耳があああああ!?」

 

「……ふん」

 

 

こしょこしょと耳打ちしてくる先輩の耳を力強く引っ張ると、先輩は途端に涙目になりながら大声を上げる

 

別にいいですよ、設定と思っていただいて……〝今〟はですけど

 

あの日の出来事なんて大して覚えていないであろうその脳に、いずれ私の想いをしっかりと刻み込んであげますから────

 

 

「そん、な……また酒泉の家に……女の子の同居人が……増える……なん、て……」

 

「は?????」

 

「いやあああああああ!?お耳千切れちゃうううううううう!?」

 

「同居人?女の子?どういう事ですか?」

 

 

そういえば昨日は機会を逃して聞けなかったが、同居人が増えるとかそんな事を言っていた気がする

 

その時は男友達とルームシェアでもしてるのかと思っていたが……

 

 

「まさか女性と一緒に暮らしてるんですか?」

 

「えぇっと……その……」

 

「返事」

 

「はい!二人の女性と同じ屋根の下で暮らしております!」

 

 

二人……最低です、私が先輩を想って悲しんでいる間も先輩は女性を侍らせて鼻の下を伸ばしていたんですね

 

最低です、本当に最低です、ここ数日だけで何回最低って言ったのか分からなくなるぐらい最低です

 

 

「酒泉が……また同棲……私はまだなのに……ぽっと出の子に……」

 

「どうしてそんな状況になってるんですか、先輩から誘ったんですか?それとも相手の方から押し掛けてきたんですか?」

 

「取られちゃう……このままだと酒泉が……私の前から……」

 

「今すぐ答えてください、この際女性関係も洗いざらい全て吐いてください、嘘を吐くのは許しませんから、真実を述べても許しませんから」

 

「両耳から負の感情が流し込まれてる気がする」

 

 

 

最低です、先輩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「────健康状態に変化は無し、と……少しでも痛みが悪化するような事があればすぐに近くの者にお伝えください」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 

先輩が空崎ヒナさんを送ってから数時間後、私は蒼森さんから健康チェックを受けていた

 

大事な後輩の容態を知れる機会だというのだから、もう少し居てくれても……と思わなくもない

 

まったく、薄情な人です

 

 

『じゃ、じゃあ俺空崎さん送って帰るから……』

 

『しゅせん……いっちゃやだぁ……』

 

『行きません!!!絶対どこにも行かないんで泣き止んでください!!!』

 

 

……そういえば、あの時の先輩の対応は前世で他の女の子達と接していた時と比べてやけに甘かったような

 

成る程、あれが〝推し〟に対する対応ですか、特定の子だけ特別扱いするんですねロリコン先輩は

 

 

「ところで、美咲さんは退院後は酒泉さんの自宅でお世話になると先生からお伺いしたのですが……別に彼と同じゲヘナ学園に通うという訳ではないのですよね?」

 

「はい……それが何か?」

 

「いえ、ただ安心しただけですので」

 

「安心……?」

 

「ゲヘナはキヴォトスの中でもトップクラスに……いえ、一番治安が荒れている事で有名ですから、もしゲヘナに通うのならばボディーガードを付けるだけじゃ足りないだろうと忠告しようかと思いまして」

 

「はぁ……」

 

「あそこは美咲さんの身体で生き抜くには相当厳しい環境ですから」

 

 

ゲヘナの話は先輩からある程度聞いている……が、まさか他校の生徒にまで心配されるレベルだとは

 

でも、先輩はそんな場所でずっと…………よく生きてこられましたね

 

 

「……あの、蒼森さんは先輩の……酒泉さんの事をよく知ってるんですか?」

 

「彼の事ですか?いえ、私は個人的な会話などは数回した程度ですので……噂以上の事は何も」

 

「噂?もしかしてあの人有名なんですか?」

 

 

ふとこの世界での先輩の話が気になって蒼森さんに尋ねてみると、何やら興味深いワードが出てきた

 

噂にされるという事はそれなりに有名ではあるという事なのだから

 

 

「まず、美咲さんはキヴォトス屈指の実力者達の事はご存知ですか?」

 

「いえ……実力者というと、強さ的な意味ですか?」

 

「はい、それぞれの学園に〝最強〟と称される生徒が存在していますが、酒泉さんはその最強達の次くらいには有名な実力者ですよ」

 

「……先輩が」

 

「まだ一年生にも関わらず戦術対抗戦でツルギさん……トリニティの最強に食らいついてましたからね、恐らくですがあの試合で彼の実力が多くの人に知れ渡ったのだと思われます」

 

 

正直、唖然としてしまった

 

この世界での先輩はとても頼もしく思えたけど、まさかキヴォトスの中でも上位に入るほどの成長を遂げていたなんて

 

……本当に住む世界が変わってしまったんですね、先輩

 

 

「身体の強度は私と変わらないのに……そんなに強く……」

 

「ええ、その通りです。肉体は貴女とそう大して変わりませんよ、違いがあるとすれば筋肉量ぐらい……そんな身体でキヴォトス中を駆け回るものですから度々大きな怪我を負うのだとか」

 

「……蒼森さんってトリニティの生徒ですよね?なのにゲヘナ生の噂が流れてくるなんて……そんな頻繁に怪我してるんですかあの人は」

 

「キヴォトスでは珍しい人間の男子生徒ですから……まあ、それ以前に彼の活動範囲が広いというのも理由の一つですが」

 

「……そういえばさっき〝キヴォトス中〟とか言ってましたね」

 

「トリニティで発生したテロに巻き込まれ、次はそのテロを起こした者達の拠点で暴れまわり、暫く時間が経ってからミレニアムの爆発事故に巻き込まれたと噂が流れ、挙げ句に遥か上空の敵を討ち取る為に飛行船に乗り込むメンバーに選ばれたとか」

 

「…………?」

 

 

蒼森さんの言葉が理解できないのは私がまだキヴォトスに慣れていないからなのだろうか

 

つい一年程前までただの高校生だった先輩がどうしてこんな多くの事件に巻き込まれてるんですか、完全に物語のキャラクターみたいな人生送ってるじゃないですか

 

しかもそれら全部を経験して生き延びてるなんてもしかして本格的に人間やめようとしてます?まあ私は先輩が何者になろうと絶対離れませんけど

 

……でも、そんな人間離れした戦闘能力を身につけなければ生き残る事すらできないほどの苛烈な環境にずっと身を置いてきたと考えると心が痛む

 

早くこんな世界から先輩を解放してあげないと────いや、それだけじゃ駄目だ

 

元の世界に帰る方法がすぐ見つかるとは限らない、ならそれが見つかるまで私も先輩を守れるように銃の撃ち方くらいは学んだ方がいいかもしれない……今度は私が先輩を助けますから

 

でも問題は誰に教えてもらうか……そうだ、良い方法があった

 

 

「……先輩に教えてもらおう」

 

 

手取り足取り、直接

 

 

 




ええ!?慣れたように片手で軽々とハンドガンを撃つ先輩の真似をしようとして肩が外れて涙目になる美咲ちゃんだって!?(幻覚)
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