〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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俺と理解者

 

 

 

「よく来てくれたわね、酒泉。先生から話は聞いているわ、先ず……そうね、このリストに目を通してちょうだい」

 

 

部屋に入るなり調月さんに一枚の資料を手渡されると、その資料の一番の下の欄に〝実験参加者〟と書かれている箇所があった

 

そこにはヴェリタス、エンジニア部、特異現象操作部、そして調月さんと飛鳥馬さん、最後に先生の名前が書かれていた

 

 

「今回の実験の協力者には新野美咲が別世界の人間であると事前に伝えているわ」

 

「まあ、当然ですよね」

 

「場合によってはアリスやケイの持つ力も借りないといけないからその二人にも話す可能性があるけど……とりあえずそれ以外の人間には一切情報は漏らしていないわ」

 

「ありがとうございます」

 

 

プロトコルアトラハシースは多次元解釈バリアにすら介入できる強力な力、もし今回の件が次元がどうのこうのといった問題だった場合は二人の力が不可欠になるだろう

 

……もし、それによって天童さんやケイさんがまた危機に晒される事になるようなら別の方法を考えないといけないけど

 

 

「それにしてもこんな短期間にまた別世界の人間がキヴォトスに来るなんて……何かの予兆じゃなければいいけど」

 

「えっと……美咲は別にキヴォトスを侵略しに来た訳じゃないので大丈夫だと……思います」

 

「それは理解しているわ、私が危惧しているのは次元の繋がりがあやふやになる事よ」

 

「次元の繋がり……?」

 

「酒泉、貴方は多次元バリアの効果を覚えてる?」

 

「えっと……確か次元が違うものの干渉を防ぐみたいな感じでしたっけ?二次元が三次元に干渉できないみたいに……」

 

「そうね、もしアリス達の力が無ければ私達はそのまま多次元バリアに衝突していたでしょうね」

 

 

よくあるバリアとは違う、存在する次元そのものを変えてしまうバリア

 

異なる次元からの干渉を完全に防ぐそれは、下手すりゃバトル漫画とかで時々見掛ける次元ごと破壊するような攻撃とかですら防いでしまうかもしれない

 

だってテレビの向こうのオーズがメダジャリバーを全力で振ったところでテレビの前の俺達にはなんの効果も無いだろ?サイヤ人が空間ごと破壊する程の気を発したところで俺達の世界にはなんの影響もないだろ?もしそういう理屈と同様だとしたらどんなチート能力があろうとアリスさんとケイさん以外じゃ絶対に突破できなくなってしまう

 

「んで?そのガチートバリアがどうかしたんですか?」

 

「今回の異世界転移の件、もし次元間の隔たりが失くなった事による偶然の事故だとしたらそれは非常に厄介な事態よ。だって、それはつまりアトラハシース内のような多次元空間が何時何処かも分からない場所に突拍子もなく現れるという事なのだから」

 

「……成る程?」

 

 

何となくだけど調月さんの言いたい事が飲み込めた、要するに危険な地雷がいつの間にか埋められてる可能性があるって感じか

 

これが今回限りの事故なら別に問題ないけど、もしこの事故が頻繁に起こるようになってキヴォトス中多次元空間まみれにされたら……突如あちこちで人や建物が消えたり規模によってはキヴォトスそのものが別次元に塗り潰される事態に陥るかもしれない

 

 

「なんか……思ってた以上に危険な案件なんですね……何が起こるっつーか、何でも起こりそうっつーか……」

 

「多次元関連の情報なんて幾つ集めても足りないわ、それ以上に実験する機会すら人生で一度も訪れなくてもおかしくないくらいよ」

 

 

そもそも多次元のあれこれに触れる機会なんてアトラ・ハシースとかその辺の絡み以外で存在するのだろうか、出来ればあんなチートバリア二度と相手したくないんだけど……いや直接相手したのは天童さん達だけど

 

 

「……あ、それじゃあ元の次元……ってか元の世界に帰す方法も探せないんじゃ……」

 

「そこは直接実験してみてからじゃないと断定できないわ。まず新野美咲が出現した空間がどんな状態なのか、キヴォトスと同じそれから判断しないと」

 

「……その、もし空間の状態とやらがキヴォトスの空間と違っていた場合は?」

 

「さっき貴方自身が言ってたのと同じ結果になるわね」

 

「……異なる次元には干渉できない」

 

 

つまり美咲の帰る手段が────一つ消える

 

もしくは美咲が此方の世界に迷い込んだ時と全く同じ現象が奇跡的に起きるのを祈るしかない

 

 

「そんな……じゃあ場合によっては美咲は一生キヴォトスに────」

 

「ただ、これはあくまでアトラ・ハシース襲来時と同じ現象が起きていた場合の話よ」

 

「────え?」

 

「あれは船の機能があってこそ再現できた代物、つまり今回の件がただ単純に別の理由で発生した事故だとしたら特に多次元バリアのあれこれは考えなくて済むわ」

 

「…………そ、それ先に言ってくださいよぉ~!?」

 

「まず前提から説明するべきだったわね、うっかリオよ」

 

「もう、ほんとうっかリオですよ……ん?」

 

 

安堵の溜め息を吐きながら調月さんに小言を言ってると何やら変な言葉が聞こえた気がする……まあ、気のせいだろう

 

よかったー、別次元に侵略されるとかそんな事を考える必要が無ければとりあえず時間に迫られることはなく落ち着いて実験を進められるな

 

 

「とはいえ、さっきも言ったように多次元関連の資料は少ないし下手すればかなりの年月が掛かる実験になるでしょうね」

 

「ですよねぇ……原因も何も分からない状態からのスタートですもんね」

 

「そこはとにかく気合いで乗り切るしかないわね、がんばリオよ」

 

「ははっ、気合いって言葉を使うなんてなんだか調月さんらしくないですね……ん?」

 

珍しく根性論を持ち出す調月さん、これも天童さん含めた色んな人達と関わってきたお陰なのかな

 

……今なんかまた変なこと言ってた気がするけど

 

 

「さて、早速今後の実験予定日を伝えるわね。初実験は今から三日後、新野美咲が眠っていたという場所で行うわ」

 

「了解です……あ、美咲本人は実験に参加するんですか?」

 

「ええ、彼女の退院後何日か経ってから参加してもらうわ」

 

 

それもそうか、被害者本人が居た方が色々と捗ることもあるかもしれんし

 

あれ?待てよ?俺の立場って冷静に考えるとただ美咲を保護しただけの奴って事になるよな?じゃあ実験に関しては殆ど部外者では?

 

 

「あ、あのぉ……ちなみにですけど俺もその実験に参加させてもらったりは……」

 

「参加したいなら参加してもいいわよ、というよりも貴方の事だから新野美咲を保護しておいて知らないふりなんて出来ないでしょう?」

 

「は、はい……その通りです……」

 

「そう答えると思っていたわ、だからこそこうして貴方にも声を掛けたのよ」

 

「俺の考えなんてお見通しなんですね……流石です」

 

「当然よ、貴方の理解者だもの……ふふっ」

 

 

流石は調月さん、俺がどう行動するかの予測だってお手の物か

 

そう素直に感心していると、調月さんは先程渡してきた資料の何倍も分厚い資料を手渡してきた

 

ぱらぱらと軽く捲ってみれば、小難しい式やら如何にも理系ですって感じの言葉が大量に記されていた

 

 

「あの……これは?」

 

「今回の実験の具体的な内容よ、参加する以上は最低限の知識を付けてもらう必要があるわ」

 

「う゛っ……お、俺がこれを?」

 

「専門外の事を完璧に理解しろとは言わないわ、なんとなく〝これはこんな感じなんだな〟程度の感覚で覚えてくれたらそれでいいから」

 

と言われましても、原作で出てきた多次元解釈のあれこれですら未だ完璧には理解できていないのに

 

うーん……最低限言葉の意味だけでも何とか記憶したいなぁ……

 

 

「何も一人で勉強しろなんて酷な事を言うつもりはないわ、ある程度は私が面倒を見てあげるから」

 

「それはつまり……調月さんが俺の講師になってくれるってことですか?」

 

「ええ……とはいえ、これは貴方が良ければの話だけど」

 

「勿論、お願いするに決まってますよ。俺一人じゃ絶対にちんぷんかんぷんになるんですから」

 

「そう、なら授業はこの後でもいい?終わる頃にはもしかしたら外が少し暗くなってるかもしれないけど……」

 

「はい、今日は特に予定無いんで大丈夫ですよ」

 

 

美咲のお見舞いはもう済ませたし、風紀委員の仕事も終わらせてからミレニアムにきた

 

今日は時間が余ってるのでたっぷり勉強に専念する事ができる、知らない事を覚えるのは嫌いではないしちょっと楽しみだったりする

 

 

「……そうね、もし夕飯時まで授業が伸びてしまったら一緒に食事でもどうかしら?」

 

「あー……せっかくのお誘いですけど遠慮しておきます、今日は何も作り置きしてないんで家に帰ってシロコさんのご飯作らないと」

 

「そう……残念だわ、久しぶりに会えたし色々語り合いたかったのだけど」

 

「ほんとすんません……」

 

「気にしないでちょうだい、少し落ち込んだだけだから、しょんぼリオよ」

 

 

俺自身調月さんと一緒に食事したかったけどシロコさんを放置する訳にもいかんし、どっかで予定合わせて別の日に改めて自分から誘い直そう

 

……さて、流石にこれ以上スルーするわけにはいかないよな

 

 

「あの、ところで調月さん?」

 

「どうしたの?」

 

「うっかリオだのがんばリオだのしょんぼリオだのさっきから妙な言葉遣いしてますけど……一体どうしたんですか?」

 

「…………トキが」

 

「……?」

 

「こういうキャラ付けをすれば酒泉も喜ぶって」

 

「……ま、まあ……可愛いとは思いましたよ」

 

「……そう、なら良かったわ」

 

 

 




(美咲……名前呼び?どうして出会ったばかりの子にだけ名前呼びを……)

(……そういえばアリウスの知り合いにも〝みさき〟っていう名前の子がいるらしいけど……その子と区別を付ける為かしら)

(……名前呼び)

(……別にどんな呼ばれ方をされたところで合理性と関係がある訳じゃ……)

(…………)

(名前……呼び……)
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