〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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折川酒泉は帰したい

 

 

 

 

「追い詰めたぞ!今度こそ逃がすな!」

 

「お前らは市民を保護しろ!追撃はこっちで行う!」

 

「み、皆さん避難してください!」

 

 

普段以上に危機迫った表情で敵を追いかける風紀委員達、その先ではつい先日話題に上げられた蛇腹キイロの一味が逃走していた

 

自治区の地形を知り尽くしているキイロは蛇の様にするすると建物の間を抜けていくが、地形を知り尽くしているのは風紀委員も同じ

 

「な、なんだ!?」

 

「危っ……てめぇ!?信号無視してんじゃねえぞ!?」

 

 

ただ、唯一異なる点は蛇腹一味は市民の存在などお構い無しに逃げ回っているという点

 

下手に攻撃を加えようものなら民間の建物や市民に危害を加えかねないルートばかりを彼女達は進んでいた

 

 

「せ、先輩!あの人達、また市民の方々を……!」

 

「くそっ!本当にお構い無しだってのか……!?」

 

 

人を盾に、車を足場に、時には子供すら遮蔽物代わりに!誤射の一つで大きな損害を与えてしまうものばかりを利用して逃走ルートを進むキイロ達に苦戦する風紀委員

 

やがて彼女達は商店街に侵入し、より風紀委員の追い辛い場所へと逃げ込む

 

 

「と、止まってください!」

 

「ひっ……な、なんだ!?俺は何もしてないぞ!?」

 

「おかあさーん!こわいよぉ!」

 

「馬鹿!銃を向けるな!」

 

 

一人の風紀委員が商店街の奥へと進んでいく敵に銃口を向けると、その正面に立っていた獣人や周囲の子供達が怯えたように後退る

 

突然戦闘に巻き込まれた事で商店街はパニックに陥り、その影響でよりキイロの一味が遠ざかっていく

 

 

『リーダー!脱出ルートの確保は出来てます!』

 

「そっかそっか、ごくろーさん……あ、罠の方は?」

『そっちも完璧っす!』

 

「了解っと、それじゃあ私が合図を出したら────ん?」

 

 

キイロが軍用無線機での会話を中断して空を見上げれば、少しずつ人の影が迫ってきていた

 

その影の主を見た瞬間、キイロの薄ら笑いも若干頬が引き吊ったように上がり、その額からは少しずつ冷や汗が滲み出した

 

 

「あらら、随分とお早い到着で────折川酒泉」

 

 

建物の屋根から屋根へ、より低い足場を選んで少しずつ降りていく酒泉

 

そうして地面に足を着けた瞬間には、既にスナイパーライフルの銃口が蛇腹キイロに向けられていた

 

 

「は?この人混みの中で撃つつもりなの?少しでもズレたら────っ!?」

 

 

酒泉に聞こえない距離で独り言の様に呟こうとした瞬間、キイロの頬を一発の弾丸が掠める

 

それは、スナイパーライフルの射線上にパニックに陥った人が飛び出してきた事で酒泉が咄嗟に銃口の向きを変えて放った一撃だった

 

 

「……いやー……流石にこれは……」

 

 

偶然に助けられたキイロは逃げる足は止めなかったものの、その思考は戦闘能力の差を見せつけられて軽くフリーズしていた

 

端から正面衝突で勝てるとは思っていなかった、しかし小細工を弄した上でこれ程の差があるとは

 

 

「……っと、じゃあこっちもそろそろ仕掛けさせてもらおうかねぇ……起動しちゃっていいよー」

 

 

気を取り直したキイロが次弾を装填しながら接近する酒泉を正面から見据えると、そのまま商店街を通り抜けた先で無線機の向こうの相手に何かの合図を出した

 

次の瞬間、酒泉を取り囲むようにカチカチと音が鳴り始める

 

酒泉は人々の悲鳴の中でその音を聞き分けられるほど耳が良い訳ではないが、代わりにその〝眼〟で音の正体を全て発見していた

 

路地裏のゴミ箱、駐車中の車の真下、まだ開店していない店のシャッターに貼られたポスターの裏、放置自転車のカゴに入れられている鞄の中

 

それらの場所に普段通り生活用品の買い物をしているだけの者なら特に気付かないであろう爆弾トラップが仕掛けられているが、それは酒泉の様な〝眼〟を持たなくともある程度戦場慣れしている人間ならば幾つか気づけるであろう程度の工作だった

 

 

(長期遅延式の起爆装置……サイズと型式から考えてそこまで大きな火力は出ないはず)

 

このまま商店街を通り抜ければ爆風すら大して食らわない、キイロ一味から逃げるように市民が避難した事で爆弾の付近にも酒泉以外に人はいない

 

 

 

(────なら、どうして蛇腹キイロはあんな余裕そうに笑いながら立ち止まっている?)

 

 

 

 

自分の扱う武器の火力すら知らないほどコイツは馬鹿なのか?────否、そんな馬鹿が相手ならとっくに捕まえている

 

また市民を人質にするつもりか?────騒ぎを自ら大きくしたせいで周囲からはとっくに人が避難している

 

なら────他に狙いがある?

 

 

「……」

 

 

その足を止めて再び各地に仕掛けられた爆弾を確認する

 

どこかにセンサー式のトラップが仕掛けられてないか、罠を囮に狙撃主が潜んでいないか

 

そこのマンホールに人の気配は?あそこの人一人入れそうなゴミ箱は?この商店街を通り抜けた先で更に罠を仕掛けられそうな場所は?

 

それら全てを視界に入れ、二秒と掛からぬ時間で判断し────再び正面のキイロを見据えた瞬間、閃光手榴弾が酒泉に迫っていた

 

 

「っ……何も仕掛けてねえのかよ!?」

 

 

まんまと相手の演技に嵌まった事を恥じながらスナイパーライフルを撃つでもなくそのままバットの様に振る酒泉

 

空中でスナイパーライフルと激突した閃光手榴弾はそのまま酒泉から数メートル離れた場所で破裂

 

 

「────っ、」

 

 

屋内という閉鎖空間に居る訳ではなく、間近で破裂した訳でもない、しかし眼が良すぎる酒泉にとっては閃光手榴弾というだけでそこらの銃器以上の兵器と化す

 

咄嗟にスナイパーライフルを落とすと同時に眼を閉じて耳を塞ぐ酒泉、その際に無防備になった身体を守る為近くの店の看板裏に身を隠した

 

「さっすが折川酒泉、慌てる事なくなるべく爆弾から遠い場所にある看板を選んだね……まっ、今回は〝練習試合〟ってことで」

 

 

じゃあねー、という軽い挨拶と共に遠ざかる蛇腹キイロの声

 

同時に仕掛けられていた爆弾が全て起爆し、空気を小さく揺らす

 

閃光手榴弾の影響が無くなっても爆弾の爆発によって割れた破片がとんでくる可能性も考え、酒泉は両腕で顔周りを庇いながらゆっくりと瞳を開ける

 

そこには恐らくキイロの仲間が乗ってきたであろう車の排気ガスの跡とボロボロになった商店街の風景だけが残されていた

 

 

「……やられた」

 

 

先程の演技にさえ騙されなければ、そう悔やみながら拳を握る酒泉

 

しかし酒泉があの瞬間足を止めてしまったのも無理はない、何故なら────蛇腹キイロのあの笑みは演技ではないのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さすがリーダー!作戦通りでしたね!」

 

「でしょー?ちょっと工夫すればこんなもんよ」

 

 

アジト代わりに使っている稼働停止されたゴミ処理場、そこの瓦礫に腰掛けるキイロを崇めるように囲む部下達

 

彼女達は憎き風紀委員を連日出し抜けた事で調子付いていた

 

 

「〝敢えてバレバレの罠を仕掛けまくって折川酒泉の眼をそっちに集中させる〟……まんまと上手くいきましたね!」

 

「作戦前の話では〝折川酒泉の情報処理能力も厄介だ〟って言ってましたけど……そっちも解決できちまうなんて!」

 

「ああいうタイプはどんなに本命の罠を隠し通そうとしても平然と見破ってくるだろうからね……だったら最初から本命なんて作らなきゃいいのよ」

 

 

ブラフの罠の中に一つだけ巧く隠されている罠があれば当然それが本命という事になる、そして酒泉の眼はその本命をいとも簡単に見抜いてしまうだろう

 

ならば最初から本命など仕掛けなければいい、全ての罠を未熟で稚拙で情けなくみっともない完成度で仕掛けて折川酒泉に〝本命の罠があるはず〟と勝手に勘繰らせてしまえばいい

 

ブラフの中からいつまでも見つかる筈のない本命の罠を探し続ける、その状況に陥れば結果的に全ての罠が酒泉の視線を集める為のブラフ本命となるのだから

 

 

 

「視界内の情報を全て正確に処理するって、それ逆に言えば〝全部処理してから動きますよー〟って言ってるようなもんだしね。だったらブラフだろうとなんだろうと一個でもトラップが多い方が時間は稼ぎやすいでしょ」

 

「な、なるほど……?」

 

「アイツの前じゃ〝質〟の高い罠なんて意味無いだろうしね……重要なのは〝量〟よ。まあ、あんな早く見破られるとは思ってなかったけど」

 

「相変わらずしぶとい奴っすね……あたしらより肉体は弱いくせに」

 

「本当にゴキブリみてえなしぶとさだな……」

 

「くそっ!あの〝眼〟さえなけりゃさっさとぶっ潰してやりてーのに……!」

 

 

空崎ヒナの不在を狙って悪事を働いてきた彼女達にとってその穴を埋めた折川酒泉の存在は忌々しいのだろう

 

各々が彼の存在を嫌悪し、憎み、罵る中、一人の部下が怒り任せに近くのガラス片を蹴り飛ばし────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?舐めてんのかテメェ」

 

「がっ゛……ぁ゛……!?゛」

 

 

 

────次の瞬間、突如その部下の腹にキイロの拳がめり込む

 

 

 

「げほ……ぅ゛え……!?」

 

「リ、リーダー!?」

 

「ぶっ潰したいじゃなくてぶっ潰すんだよ、折川酒泉を。オモチャみてーに叩いて殴って抉って嬲って遊び尽くしてプライドも尊厳も全部砕いた上で泣かせて土下座で命乞いさせながら二度と逆らえねーように両手両足ぶっ壊して何もかも陵辱し尽くしてやるんだよ」

 

 

嘔吐く部下を見下ろしながら殺意を瞳に宿らせるが、その瞳が本当に捉えているのは目下の部下ではなかった

 

真に捉えているのはこの場にいない風紀委員会、特に折川酒泉の存在だった

 

 

「それに目標は折川酒泉だけじゃないよ、折川酒泉を捕らえた後は空崎ヒナだってヤるつもりだしねー」

 

「……は!?アイツまで!?」

 

「当たり前じゃん、風紀委員会潰すつもりなんだし」

 

「さ、流石にそれは無謀すぎるんじゃ────」

 

「ん?どしたん?何か意見でもあるの?」

 

「っ……い、いえ……なんでも」

 

 

下手に意見すれば先程殴られた仲間と同じ目に遭わされると思ったのか、その少女はそれ以上喋ることなく口を閉ざす

 

その事にキイロは触れる事なく、ただ鬱陶しそうに溜め息を吐きながら拳銃のトリガーに指を突っ込んでくるくると回し始めた

 

 

「折川酒泉さえ人質にできればアイツを溺愛してるヒナは身動き取れないだろうしねー、そこを狙ってあのちっこい身体を寄って集ってリンチしてやればダメージは与えられるでしょ」

 

「あ、あの化物にダメージなんて与えられるんすかね……」

 

「出来るでしょ、明らかに飲用じゃないもんを飲ませて身体の内側を傷付けたりバケツ一杯の水に顔面をおもいっきり沈め続けたりすれば幾らでも苦しめられるよ」

 

 

拷問の様な手口を平然と提案するリーダーの姿に恐れ戦く部下達、しかしそれと同時に〝もしかしたら風紀委員会に勝てるかもしれない〟という希望も抱いていた……自分達のリーダーが冷めた瞳で自分達を見ている事にも気付かずに

 

蛇腹キイロは手段を選ばない、目的の為ならあらゆる手段を使う覚悟を持っており、それらを効率的に行使する悪知恵を持っている

 

故にただの力押ししか思い付かない者達を全員平等に見下している

 

 

「折川酒泉は人質としては最高の人間だからね、空崎ヒナをオモチャにして遊ぶ為にはまずアイツの確保からかなー」

 

「その……人質として最高というのは?どう考えても捕らえる際のリスクの方が大きい気がするんですけど……」

 

「んー……例えばさ、もし私がそこらの生徒を人質にして空崎ヒナに立ち向かった場合空崎ヒナはどうすると思う?」

 

「え?どうするって……人質の安全を確保する為に引き下がるかその場で待機するんじゃ……」

 

「そんな訳ないでしょ、一瞬で制圧にしにくるに決まってんじゃん」

 

「ええ!?風紀委員なのに!?」

 

 

キイロの返答に驚愕する部下、彼女にはヒナが人質を見捨てる光景など想像できなかった

 

あの風紀の長である空崎ヒナが、蛇腹キイロという邪悪な人間に捕らわれた憐れな被害者を見捨てるなど────

 

 

「だってさ、キヴォトスの生徒なんて皆硬い奴ばっかでしょ?つまり私が人質に攻撃したところで命に別状なんてないし容赦なく襲って来れるってわけ」

 

「あ、そっか」

 

「そーそー、その点折川酒泉は頭に一発ぶち当てただけで簡単に殺せるから人質としての効果が大きいのよ」

 

 

最強に近い実力には釣り合わない脆い肉体、それこそが折川酒泉一番の弱点と言えるだろう

 

ただ唯一の問題は────

 

 

「そんな〝最高の人質〟自身が〝最強の戦闘能力〟を持っちゃってるのがねぇ……」

 

「ど、どうします?他の風紀委員でも人質にして誘き寄せます?」

 

「だーかーらー、身体が丈夫な奴を人質にしても意味無いのは折川酒泉も同じなんだって。そりゃ守る余裕があるなら仲間を守ろうとするだろうけど、そうも言ってられない状況になったら間違いなく人質無視してこっち潰しにくるって」

 

「じゃあ……打つ手無しってことっすか……?」

 

「あ!そうだ!そこらの市民人質にするってのは!?」

 

「ばっかお前!ヴァルキューレまで敵に回すつもりかよ!?下手したらシャーレまで来るぞ!?」

 

「まあ、最悪それでもいいんだけどさー」

 

(いいんだ……)

 

(いいのか……)

 

「んー……折川酒泉より弱っちくて身体が脆い奴がいればねぇ……暫くは情報集めに徹しようかなー」

 

「え!?じゃあ当分の間は暴れられないって事ですか!?」

 

「文句でもあるの?」

 

「い、いえ……」

 

蛇腹キイロは時を待つ

 

自らを捕らえる側だと思い込んでいる折川酒泉を捕食し、胃の中でじわじわと消化して苦しめる為なら幾らでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「蛇腹キイロの一味をまた逃しただとぉ!?貴様ら風紀委員は一体何をやっているんだぁ!!」

 

「そういうテメェこそ嫌がらせなんて下らねえことの為に風紀委員の予算使わずもっと戦力増強に充てろやぁ!!!」

 

「少なくともここ最近は全部奴等からの被害を埋める為に使っているわぁ!!!」

 

「ああそうかよ!!じゃあ単純に俺の実力不足だわすみませんでしたあ!!!」

 

 

万魔殿の連中のお小言を空崎さんに聞かせる訳にはいくまいと先手を打って自分で直接報告しに行けば案の定羽沼さんがぶちギレてきた

 

でも今回の件は全て俺の実力と判断力が不足していたせいなのであまり言い返す気にもなれな……ん?〝ここ最近は〟……?

 

 

「テメェやっぱり予算削ってんじゃねえか!?」

 

「し、しまったァ────!?」

 

〝ここ最近は〟って事はコイツ俺の知らない間にまた風紀委員会の予算に手を出していたのか……本当に懲りんな

 

そろそろ脅しじゃなくて本格的に巡航ミサイルの件リークしてやろうかな、コイツの自分勝手な野望に先生が巻き込まれるところだったって世間に知られたら一体何人のLOVE勢が動くのだろうか

 

 

「ち、違う!誤解だ!決して風紀委員会にバレないようにちまちまと少しずつ予算を減らそうとなんてしていないぞ!」

 

「羽沼……何なんだよてめぇは本気マジでよ……」

 

 

俺の中の美食神が〝本当にいい加減にしろよお前〟とぶちギレている、法さえ許してくれるのならこのタヌキを今すぐコンクリートに沈めたい

 

しかしこんな奴でも居なくなれば悲しむ人も存在するので……

 

 

「えい」ギュ

 

「な、なんだ!?なぜ急に私を抱きしめ────……そ、そうか!そういう事か!ついに貴様も私の魅力と偉大さに気づいたか!キキキッ!良いだろう!ヒナの脳を破壊する為なら付き合ってやらんでも────」

 

「折川スープレックス!!!」

 

「ぬおおおおおおおっ!?」

 

 

今日はこれぐらいで勘弁してやる、ヤサシー酒泉ですまない

 

さて、報告も済ませたところで仕事仕事……蛇腹キイロ関連の仕事以外にもやる事は沢山残っている

 

例えば……いやもう説明する必要ねーな、ゲヘナで起きる事件なんて大抵がドンパチ絡みだもん

 

 

「き、貴様……よくも……」

 

「とはいえ、羽沼さんの言ってたことも事実だしな……」

 

「無視するんじゃない……」

 

 

万魔殿ですら予算を穴埋めに回す程に奴等からの被害が大きくなってきている、市民の平和の為にも風紀委員会の面子の為にもこれ以上取り逃がす訳にはいかない……が、そう簡単に捕まえるのは不可能だろう

 

奴はゲヘナの野蛮さとトリニティの陰湿さがベストマッチしたような最悪な女だ、奴との戦いは単純な実力比べでは解決できないだろう

 

 

「……大規模な掃討作戦が必要になるかもな」

 

「お、おい!聞こえているんだろう!?無視するんじゃない!」

 

 

一番手っ取り早いのが全戦力を投入して蛇腹キイロ一味もそれ以外の一味も片っ端から狩り尽くす掃討作戦だろうけど……残念な事に風紀委員会にそれを実行できる余裕はない

 

毎日毎日どっかで誰かが暴れてその度に対処に回されてんのに人手なんて足りる筈がない、せめて全風紀委員が学園を離れている間は万魔殿が学園を守ってくれたらなぁ……

 

 

「どうせ断られるだろうけどなぁ……」

 

「む、無視は流石に酷くないか?これはもう失礼とかそういうレベルを越えているぞ?」

 

 

市民の被害すら気にしないほどの無秩序集団、コイツらがゲヘナの外で暴れるようになったら他校との外交問題にまで発展するかもしれない

 

……シャーレの力を借りる事も視野に入れた方がいいな、そこんとこ空崎さんに相談してみるか

 

 

「……はぁ、面倒だな」

 

「ま、まさか本当に聞こえていないのか……?」

 

 

風紀委員になったばかりの頃は〝ネームドの生徒を警戒してればいい〟なんて考えていたが……すぐにその見通しが甘かった事を思い知らされた

 

ゲームじゃあるまいし前世でよく見かけたネームドキャラ以外にも腕の立つ奴がいるなんて当然の事なのに、この世界をゲームの世界としか思えなかった当時の俺にはそんなこと全く予想もついていなかった

 

伊草さんほど頑丈ではないが手榴弾の一発程度なら耐えて突っ込んでくる奴、鬼怒川さんほど狡猾ではないが各風紀委員の弱点を調べてそれを戦いに利用してきた奴、元の生徒数が多い学園だけあって色んな奴と戦ってきた

 

……今回は久々にそのパターンだ。剣先さんやシロコさんと闘った時みたいに絶望的な実力差って訳じゃないけど、それでも一秒の油断も許されない戦いになるだろう

 

 

「……上等、初心忘れるべからずってな」

 

「……ぐすん」

 

 

こっちが挑む側、気分はいつだってチャレンジャー

 

自分が格上だなんて油断したら数秒後には鉛弾とごっつんこ、ここはそういう世界だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────先輩、私に銃の撃ち方を教えてください」

 

 

 

そんな世界で生きるには、美咲はあまりにも弱すぎる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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