「……で?どうして銃なんか握ろうと思ったんだ?」
「まず、帰る方法が見つかる見つからない以前に私は先輩が一緒に帰る意思を示すまではキヴォトスを出るつもりはありません」
「……色々と言いたい事はあるけどとりあえず続けてくれ」
「その場合私はキヴォトスに長期滞在する事になります、そうなると必然的に銃での戦闘に巻き込まれる可能性も高くなりますよね?」
「だから護身の為に……てか?」
「はい」
リビングにシロコさんやプラナが居ない事を確認し、落ち着いて美咲の話を聞いてみると特に疑問を抱く必要もない至極当然の理由を話された
まあ、だよな……こんな都市で暮らすからには護身用の武器の一つでも欲しくなるよな……ましてや美咲はキヴォトスの洗礼を早速受けた一人なのだから
「……でもなぁ」
「?」
俺としては、目の前の可愛い可愛い後輩ちゃんには銃なんかと無縁な生活を送らせたかっただけに何とも言えない気持ちになる
分かってる、こうなってしまったからには仕方無い事なのだと。ただ、それでも……出来れば争い事とは無縁の前世で好きな人でも作って幸せになってほしかった
……ま、今更銃がどうとか言ってられんか
「分かった、銃の撃ち方は教えてやる」
「ありがとうございます……あ、それと護身術の方も教えていただけると……」
「勿論そのつもりだ。ただ、教えるのはあくまで〝護身〟の範囲内だからな?」
「分かっています、最初からそのつもりですので」
下手に戦い方を教えると〝身を護る為〟ではなく〝敵を倒す為〟にその場に留まってしまう場合がある、確かに状況によってはそれも必要になるだろうけど……そうでない場合は敵を倒す事なんか考えずさっさと逃げた方がいい
俺も昔は護身術を覚えたからと調子に乗り、敵を迎え撃とうとして痛い目に遭った事がある
「……んじゃ、早速練習しに行くか?思い立ったが吉日ってな」
「随分急ですね、練習とはいえ銃を撃つのって色々手続きが必要なのでは────ああ、そういえばここキヴォトスでしたね」
「その通り、お前もすっかり慣れてきたな」
「慣れたくて慣れた訳ではありませんよ……」
「それでいい」
人を撃ったところで大して重罪にならないなんて前世ではあり得ない話だ。キヴォトスじゃ殺傷能力がそれほど高くないとはいえ、それでも相手の出血具合によってはちゃんと命を奪う事ができる立派な殺人兵器だ
俺だって既に感覚が麻痺して敵を撃つ事に抵抗が失くなっている、昔は銃口を人に向けるだけで震えていたこの手も今じゃ効率良く敵を倒す為だけに動いている
……もし俺が人を撃ってるところを父さんと母さんが目撃したとしたらあの二人はなんて言うかな────なんて今更考えても意味ねーか、どうせ帰らないんだし
「よし……おーい!シロコさーん!ちょっと出掛けて来るから留守番しててくれー!あとプラナが起動したらついでに伝えといてくれー!」
「ん、お土産はモンブランでいい」
「残念だったなー、買い物に行くわけじゃないから今日は無しだぞー……よし、行くか」
要件だけ伝えて二階に居るであろうシロコさんから返事が来るのも待たずに玄関に向かおうとすると、美咲はこのままでいいのかと階段を指差す
そこでは無に近い表情のシロコさんが恨めしそうに俺を見つめていた、多分他の人から見たら真顔にしか見えていないと思う
「……」
「……買わんぞ」
「……」
「買わんて」
「……」
「……ほら!ポテチあげるから部屋に戻りなさい!しっしっ!」
「!」
階段に向かってポテチ(コンソメ味)を軽く投げると、シロコさんはそれをキャッチしてドタドタと階段を上っていった
多分元・俺の部屋(現・美咲の部屋)から漫画でも借りて読みながら食べるつもりなのだろう……あっ!?
「おーい!漫画読むなら箸使って食えよー!?油で汚れるからなー!?」
「あっ……ん、分かった」
「てめぇ今の〝あっ〟はなんだこの野郎!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おばちゃーん、今日も借りてくなー」
「今日は実弾とペイント弾、どっちだい?」
「んー……どっちも!」
「あいよ、千円ね」
先輩に言われるがままついていき、そうして連れていかれた先は演習場?らしき場所でした
明らかに射撃訓練用と思われる的に様々な色で汚された壁、それを除いてもあまり綺麗とは言えない内装
周りには私達以外のお客さんが一人も存在しません
「おーおー、今日もすっからかんだなー……俺と聖園さんが戦う時以外本当に誰も使わないんだな」
「あの……先輩、ここは……」
「見ての通り訓練所だよ……まあ、殆ど人は来ないけど。大抵の人は設備が揃ってる新しい方の施設に行っちまうからなー」
まさかアトラクション感覚で実銃を射てる施設があるなんて、とも思ったけどそもそも子供が銃を持ち歩いているんだしあまり気にする問題ではありませんね
「ほれ、美咲」
「きゃっ……ちょっと、いきなり服を投げつけないでくれませんか?」
「俺のジャージなんだし別に良いだろ?更衣室でそれに着替えたら一旦出てこい、プロテクターとかパッドの付け方は戻ってきた時に教えてやるから」
「……これ、先輩のジャージなんですか?」
「おう、洗濯してるし臭わないとは思うけど……ちょっとだけ我慢してくれや」
なるほど、つまり私は今先輩の服に包まれていると……先輩の温もり……先輩の匂い…………何をやっているのだろう私は、これではまるで変態みたいではないか
たかが先輩の着ていた服一着、別にそこまで意識する必要なんてないのに
「まあ、それが嫌なら自分の服でも────」
「これがいいです」
「え?」
「……間違えました、これでいいです」
「お、おう……」
──────────
────────
──────
「さて、着替えから戻ってきたところで早速説明するぞ。今回の訓練で使うのはこのハンドガンだ、口径は9mm、銃身長は100mm、装弾数は15発、オートマで有効射程は……51とか52だったか?まあ、実戦する訳でもないしそこはおぼえとかなくていいか」
おそらく衝撃吸収用であろうプロテクターや肩パッド、それのごわごわした感覚に慣れない私を置いて説明が開始される
銃の説明をしながら弾倉?らしきものを銃に填めるすっかり手慣れてしまっているその姿に寂しさを感じつつ、先輩の言葉を聞き逃さない様に集中して聞き取る
「今俺がセットしたのは本物の弾じゃなくてペイント弾だ」
先輩が引き金を引くとぱん!という銃らしくない軽い音がなった、すると次の瞬間には弾が床に直撃していた
オレンジ色の塗料が床に広がり、元々汚れていた床が更に汚れてしまった
「こいつは弾も銃も実戦用と違って軽いし反動も圧倒的に少ないけど、それでもちゃんと構えておかないと肩を痛めるからな」
「はい、分かりました」
「よし、次は撃ち方だ……美咲、とりあえずあの的撃ってみろ」
「……はい?」
「足でも腕でも的に掠めるだけでも、とにかくほんの少し当たっただけでも合格だ」
私に銃を渡すと、先輩は私達が立っている場所から10m程離れた人型の的を指差した
はあ……銃の扱いに関しては素人とはいえ、この距離ならしっかり銃口を向けていれば私でも外し様がないと思うのですが……
「では……」
初めて銃を手に持ったというのに中に入っているのはペイント弾だと分かっているからか、意外と焦る事も恐れる事もなかった
なら後はあの的を撃つだけ、外さないようにピッタリと銃口を合わせ、反動に耐える為にしっかりと両手で持つ
「……っ」
引き金を引く前の一瞬だけヒヤっとしたが、瞬きをした次の瞬間には脇腹辺りがオレンジ色に染まっている的が視界に入ってきた
成功したには成功した……けど……正直、ど真ん中に当てるつもりだっただけにちょっと悔しい
「おー、上手いな。初めてにしては上出来だな」
「……馬鹿にしてます?」
「してないしてない、人生初の射撃にも関わらず焦らず10m先の的にしっかりと当てられるなら大したもんだよ」
お世辞なのか本心なのかイマイチ分からない褒め方をする先輩、その手にはいつの間にか私が使っていたのと全く同じ見た目の銃が握られていた
「次は実銃と実弾だ、これを使ってさっきの的を撃ってみろ」
先輩が片手で銃を持って引き金を引くと、私が先程ペイント弾を直撃させた箇所と全く同じ箇所に穴が空いた
銃声は私の銃より大きく、音も私の銃より〝銃〟らしかった
「ほい、交換。そっちのペイント弾用の銃は俺が預かっとくから」
「……私が持ってるのより重いですね」
「その重さ忘れんなよ、そっちは人の命奪えるんだからな」
物理的にも精神的にも先程以上の重さが手に加わる
これが本物の銃……もしこの銃から放たれた弾が誰かに直撃したら、キヴォトスに来たばかりの時の私みたいにその人は───って、この世界じゃそんな脆い人間の方が珍しいんでしたね
「さて、次は構え方だ。お前って確か利き手は右だったよな?」
「はい」
「じゃあまず右手でグリップを握ってくれ、親指はグリップより少し上の辺りに置いて……ああ、念の為人差し指はまだ引き金には指を置くなよ?うっかり力を籠められちゃ困るからな」
「はい……こうですか?」
「そうだ、次は右手の指の隙間を埋めるように左手も合わせろ。左手の親指も右手の時と同じようにもう少し上の部分に置いてくれ」
「この辺りですか?」
「違うもうちょい上だ」
「……ここですか?」
「それだと行きすぎだ……ちょっと触るぞ」
「きゃっ……」
先輩が急に私の両手を握ってきた事でつい変な声が漏れてしまう……が、先輩はお構い無しで私の指を動かし始める
……私、女なんですけど。どうして私だけ一方的に意識しないといけないんですか?先輩も何かしらの反応を見せてくださいよ────待って近い近いです顔も身体も近いです無防備すぎます先輩
「……ほい、こんな感じだ。この握り方をしっかり覚えとけよ」
「……やっぱりミスターセクハラじゃないですか」
「え?…………あっ!?わ、悪い!勝手に触られるなんて嫌だったよな!?」
「……嫌ではないです」
「……え?」
「何でもありません……私は別に気にしませんけど他の人にはあまりこういう事はしない方がいいですよ、私以外の女性は全員漏れ無く不快な思いをするでしょうから」
「す、すまん……以後気をつける……」
そうですよ、世の女性は皆気安く身体に触れられるのを嫌がってるんですから
まあ、先輩がどうしてもというのなら私だけは昔のよしみで許してあげなくもないですけど……その代わり責任はしっかりと────
「こほん……気を取り直して説明を続けるぞ、次は利き手側の人差し指を引き金に……おーい美咲ー?聞いてるかー?」
「式はお金が勿体無いし時間の無駄だから挙げなくても────はい?なんですか?」
「いや、なんかブツブツ呟いてたからちゃんと話聞いてるのかなって……」
「……大丈夫です、ちゃんと聞こえてますから」
「そ、そうか……じゃあいよいよ撃つ直前の段階に移るぞ、まずは利き腕を伸ばし、反対の腕は少しだけ曲げてくれ。そして利き腕側の足は引いてくれ」
「はい」
「おっと、背筋は伸ばさなくてもいいぞ。むしろ反動が来た時の為に軽く前傾していた方がいい」
こういうのはしっかり立って撃たないといけないものだとばかり思い込んでいたけど、どうやら銃の世界は奥が深いらしい
先輩に言われた通りの姿勢のまま次の指示を待っていると、先輩は今度は15メートル先の人型的の顔部分を指差した
「よし、じゃあその姿勢のまま今度はあの的の顔部分を狙ってみろ……言っておくが、さっきより強い反動が来るからな?衝撃吸収用のパッドを付けてるからって油断せずしっかり身構えてろよ、そうすりゃ大丈夫な筈だ」
「……分かりました」
狙いは顔、狙いは顔、狙いは顔……何度も頭で繰り返して狙いを定める
戦闘ではなくただの訓練、それでも実銃を扱うのは人生で初めて、緊張感が高まってきた、胸がうるさい
十秒以上経った頃か、少しずつ胸の苦しみがマシになってきた。やがて鼓動が大して気にならない程度の落ち着き様に戻り、私は引き金を強く引いた
「────っ!」
さっきの銃より引き金が硬く、重い
先輩の言っていた通り反動も来たけど、でも耐えられた
弾は────
「……外れた」
「ちょっとだけ狙いがズレたな……思ってた以上に引き金が重かったろ?銃を撃つ為に強く引き金を引きすぎてつい銃の向きがブレちまったんだよ」
姿勢、銃口、反動、握る強さ、たった一発の弾を当てるだけなのに様々な事を計算しなければならないなんて
……さっき先輩はガンアクションの映画とかで見掛けるように簡単そうに片手撃ちで弾を命中させていたけど、私には一生出来そうにありませんね
「……銃って難しいですね」
「簡単に扱えたらむしろ困るからな……でもこれで撃ち方は分かっただろ?」
「はい」
再び先程の姿勢を取り、銃口を的の顔に向ける
標的は15m先の的────ではなく、更にその左斜め後ろに配置されている20m先の的
今度は人型ではなくアーチェリー等で使われる丸い的、一度深呼吸をしてから再び強く引き金を引く
狙いは当然────真ん中に
「これからは基礎中の基礎を中心に教えて行くから────」
────ダンッ!────
「────は?」
「あ、やった」
今度は上手くいった、狙い通り真ん中を撃ち抜けた
それにしても……一発一発に気を配らないといけないなんて、あまり動いていないのに一気に疲れますね
「先輩、撃ち方ってこんな感じで……先輩?」
「……」
「……何を呆けているんですか、ちゃんと見てました?」
「……美咲、お前どうやって撃った?」
「やっぱり見てなかったんですね……別に特別な事はしていませんよ。先輩に教えられた通りの構えで、なんとなく〝ここからなら当たりそうだな〟って思った位置に銃を置いて引き金を引いただけです」
「…………」
全く……後輩に物を教えているというのにその成長過程を見逃すなんて薄情な先輩です
まあ、教え方は上手かったのでそこは感謝していますが……そうだ、もしかしたらさっき外した的にも今なら当てられるかも
そう考えた私は再び銃口を15m先の人型的の顔部分に向け、そして引き金を引き────ヒット、顔の真ん中に命中
「……嘘だろ」
「ちょっとずつですけど慣れてきましたね、この調子ならあっちの25m先の動いてる的もいけそうです」
感覚を忘れない内に成功体験を重ねておかないと、そう思って今度は左右にスライドしている丸い的の中央を狙う
姿勢は教本通りに、撃つのに慣れてきても反動に身構えるのは忘れずに────撃つ
「あ、いけました」
動いてる的の真ん中にも命中させる事ができた、これで少しは基礎も身に付けられただろうか
「先輩、次の訓練をお願いします」
「……」
「先輩?また見てなかったんですか?」
「……美咲、例えこれからお前がどれだけの力を身に付けようと、絶対に自分から戦いに身を投じようとは思うなよ?何度も言うが、戦っていいのはあくまで護身の範囲内だけだからな?」
「もう……またそれですか?分かってますよ」