『美咲、今日はミレニアムに行く日だからな。出掛ける準備しとけよ』
『はい……あの、先輩。ミレニアムというのはどの様な学園なんですか?話を聞く限りだと今のところトリニティとゲヘナにはあまり良い印象が無いのですが、もしかしてミレニアムも……』
『大丈夫だ、ミレニアムに関しちゃ陰湿なところも野蛮なところも俺が知る限りでは無いはずだから……まあ、争い事とは全くの無縁って訳じゃないけど、それでも他校に比べれば比較的安全な学園だからそう心配すんな』
「……先輩、さっき先輩が家を出る前に言った言葉覚えてますか?」
「……〝ミレニアムは比較的安全な学園だから心配するな〟」
「……あれは?」
美咲の意外すぎる才能を目の当たりにした次の日、いつも通り風紀委員としての仕事を終わらせてからミレニアムに向かった俺達を出迎えたのは盛大な爆発音だった
現在時刻は18時20分、美咲の指差す先には破壊された天井とそこから吹き出る爆煙が
「……すまん、訂正させてくれ。正しくは〝単純な悪意や企み等の私利私欲で事件を起こすような輩は他校に比べたら少ない〟だ」
「……急に不安になってきたんですけど」
そりゃ確かに前世で普通に生活していて学校が爆発するような機会に遭遇する事なんて滅多に無いだろうけど、ミレニアムの場合はゲヘナやトリニティと違って生徒同士の争いではなくただの事故の可能性が高い
だってミレニアムの爆発の原因って主にエンジニア部とかの実験失敗とかだろうし、恨み辛みとは無関係だから変なドンパチに巻き込まれる危険性は低いだろう(あくまでゲヘナ基準)
「……あ、白石さんだ」
爆発が発生した場所を見つめているとその部屋の窓からエンジニア部の三人が顔を覗かせ、ギャグ漫画の様なアフロ頭でゲホゲホと盛大に咳き込んでいた
噂をすればなんとやら、案の定今回の爆発を引き起こしたのはあの三人が原因だったらしい
「よし、あの人達が原因なら心配ないな」
「何〝いつもの事だ〟みたいな顔してるんですか、普通に危険人物では?」
「いやまあ、ゲヘナの馬鹿共と違って他人に迷惑を掛けること前提で動いてる訳じゃないし……」
例えばこれがゲヘナの連中なら〝温泉の為なら校舎を破壊しても仕方ない〟とか〝食の為なら人を拉致しても仕方ない〟とか〝アウトローになる為なら罪を犯しても仕方ない〟とか色々言い訳をして暴れ続けていただろう
しかしエンジニア部の三人の場合は一応〝事故〟という扱いである、彼女達だって故意に校舎を破壊しようとしている訳ではないのだ
でも早瀬さんには普通に謝った方が良いと思う、うん
「……あ、この際だし先に伝えておくけどあそこの窓から顔を出している三人が今回の実験に協力してくれるエンジニア部だから」
「帰ります」
「退却は許可できない」
「……はぁ」
「そう嫌そうな顔すんな、お前を帰す為なんだから我慢してくれ……なーに、ちょっと癖の強い人達に囲まれるくらいさ。それに皆基本的に善い人だからな」
「分かりましたよ、私〝達〟が帰る為ですもんね」
「……行くぞ」
まだ諦めてなかったのかと思いつつ、その言葉から逃げるように美咲を置いて先に正面玄関に向かって歩く
……この辺りの問題ともいずれ向き合わなきゃいけないって分かってるんだけどなぁ
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「先輩、この学校って蛇の名を持つ兵士が四人ほど在学してたりしません?」
「……いや?」
「じゃあどうして四つのダンボールが私達の後を尾行してくるんですか?」
学校の廊下で美咲が振り返ってみれば、廊下の右端に四つのダンボールが縦一列に並んでいた
しかもこのダンボール、一定の間隔を保ったまま付いてくる、なんなら髪の毛がはみ出してるダンボールもある
「さっきからコソコソコソコソと……スパイごっこか?随分と楽しそうな遊びやってんなぁ」
「……っ」
「……やーい、クソシナリオライター」
「FATALITY……!」
「ちょろい」
本当は他にも煽り言葉を入れてみるつもりだったがその必要は無かったようで、ダンボールの中の人物は一瞬でその箱を脱ぎ捨てて俺に殺意をぶつけてきた
人畜無害な顔、パッと見で小学生に見えなくもない容姿、そして一番特徴的な栗みてーな口
やはりと言うべきか、ダンボールの中に入っていたのは才羽モモイだった……となると残りの三人もほぼほぼ確定してるようなもんでして
まあ、そもそも俺の目からはハッキリとヘイローが視認できるし一発で分かるけど
「ほら、残りも全員出てこい……よっと」
「あわわわ……見つかってしまいました……!きっとこれから尋問パートに入るに違いありません……!」
「んな事しないって……そんなどこぞのスニーキングゲームじゃあるまいし……」
「ごめんね酒泉君、本当は私達もこんなストーカー紛いの事はしたくなかったんだけど……」
「モ、モモイがどうしてもって……」
天童さんのダンボールを持ち上げて観念しろと呟くと、その後ろのミドリさんまでダンボールの中から出てきて謝罪の言葉を口にした
しかし花岡さんだけは相変わらずダンボールを被ったままだった、初対面の美咲が居るからだろうか?
「先輩、この方達は?」
「ん?ああ、この人達はゲーム開発部。ゲームを作るより世界を救う方が得意な集団さ」
「……何をどうしたらゲーム開発者が世界を救うような展開になるんですか?」
「ちょっと酒泉!なにさその言い方!それだとまるでゲームの方はダメダメみたいに思われるじゃん!」
「キャラデザ良し、キャラ設定良し、グラフィック良し、ゲーム難度も……まあ、高難度好きな俺にとっては良し、ゲーム開発部の作るゲームは俺だって認めているさ────お前の闇鍋みてぇなシナリオがなけりゃなああああああああ!!!」
「闇鍋!?」
ゲーム開発部だってしょっちゅうクソゲーを作っている訳じゃない、ハッキリ言ってクソつまらんゲームもあれば世辞抜きに面白いゲームだってある
ならばその〝クソつまらんゲーム〟というのがどういう物なのかと問われれば、それは難しいと理不尽を履き違えたりバグが多過ぎてゲームとしてまともに機能しなかったり、もしくは────単純にシナリオが終わってたり
「モモイさん、この前発表したゲームのシナリオをもう一度教えてくれないか?」
「え?えっと……まず魔王軍に故郷の村を攻撃された主人公の〝シュリオ・センカワ〟が全てを失った事で瞳に隠された力が目覚めてプロローグ終了でしょ?その後の第一章では魔王軍を打ち破る為に異世界を渡って仲間集めを始めるんだけど、道中で出会った〝魔族狩りのソロ〟と一緒に勇者王を目指す事になって、続く第二章では宇宙からコロニーを落とそうとするネオシオン星人との戦いにまで発展して、第三章ではお菓子の力で変身できるようになった主人公が怪人と戦って、最終章では暴走したシュリオをヒロインが泣きながら調理して……」
「才能ねえよシナリオライターやめちまえブァアアアアアカ!!!」
「はああああああああああ!?これのどこが才能無いのさ!?」
これは大変驚いた、まさか何が悪いのか自分で気づいていなかったとは
モモイさん以外の部員の反応を見てみれば純真無垢な天童さんはともかく、ミドリさんは呆れた目で姉を見つめていて花岡さんは……ダンボール被ってて分からん
「どう考えても盛り上がりそうな要素を沢山詰め込んだ作品でしょ!?こんなの神ゲー化不可避だよ!」
「結局β版の時点でずっこけてそのまま開発中止じゃねえか!畳めもしねえ風呂敷広げやがって!」
「アリス、レビューでも〝シナリオ以外完璧だった〟という意見を幾つも見かけました!」
「やっぱクソシナリオじゃねえかブァアアアアアカ!!!」
「ぐぬぬぬぬっ……!」
「め、珍しいね……酒泉君がお姉ちゃんにここまでボロクソ言うなんて……」
「な、なにさ!もしかして前々作で酒泉をモデルにしたキャラを勝手に登場させてかませ犬にした事まだ怒ってるの!?そんなんだから器量が小さいんだよ!」
「ああ、そりゃ怒るよね……」
「モ、モモイにしてはちゃんとキャラ設定が固まってると思ったけど……モデルが居たからだったんだ」
「でもモモイは〝本人に許可は貰ったから!〟って言ってました!」
「……お姉ちゃん、どうしてそんな嘘を吐いたの?」
「どうせ俺にゲームで負けすぎて腹が立ったからとかだろ?」
「う゛っ!?」
「図星かよ……」
前々回……ああ、モモイさん達が不良物という珍しいジャンルにチャレンジしたというあの作品か、確かタイトルは〝喧嘩団長〟だったか
俺らしきキャラクターが何故か主要人物の舎弟キャラクターになってたり〝やんす〟口調になってたり出っ歯にされてたり敵の強さを分かりやすく知らしめる為によくワンパンでKOされたりと散々な扱いを受けていたがそれは一億歩譲ってどうでもいい
「いいか?今回のゲームで俺が一番納得してないのはシナリオの滅茶苦茶具合でも無駄に大きすぎる風呂敷でもない……ヒロインが固定されていた事だ!」
「えっ!?」
「なんで〝モーイ・サバイバー〟のルートしか存在しないんだよ!俺は〝ヤーハ・セ・モモフット〟の方が好きだったのに!」
「だっ……駄目に決まってるじゃん!あっちはもう恋人がいるんだから!」
「はあ!?そんな設定知らんぞ!?」
「だって製品化する前に開発中止にしちゃったし……とにかく!モモフットは最終的に〝チャーティー・レーシャ〟っていう男性とくっつく予定があるから駄目なもんは駄目なの!」
「くそっ……これがBSSってやつか……!」
「……ねえお姉ちゃん、そんな設定どこにも────」
「あ・る・の!!!」
ゲームに自己投影するタイプの人間ではない俺が思わず個別ルートを望んでしまう程のヒロイン力を〝ハーヤ・セ・モモフット〟は持っていた
しかしその個別ルートもなんなら存在その物も開発中止という形で歴史から姿を消してしまった……やっぱこれクソみてーなシナリオ書いたモモイさんが悪いだろ、この鉄血のアークフレンズがよぉ!!!
「大体よぉ!主人公だけキャラ設定盛りすぎなんだよぉ!死の淵から甦った主人公が異世界転生して眼に秘められた力を使って無双するだぁ!?ふざけてんのかテメェ!」
「先輩、手鏡使います?制服乱れてきてますよ」
「おお、悪いな……うん、いつも通りの爽やかナイスガイだ」
「そうですね、脳ミソがスカスカすぎてさっぱりしているという意味でなら爽やかですね」
「へへっ……」
「褒めてませんからね?」
頭空っぽの方が色んなものを詰め込める、夢とか希望とかちょっとえっちな妄想とか男の子の好きそうな激熱シチュエーションとか全部────ん?さてはモモイさんと同じ考えに至ってるな?俺
「……いや、無いな。俺がモモイさんと同レベルなんてそれこそあり得ない」
「だって私の方が酒泉より上だもんね!」
「モモイは ねごとを つかった!モモイ の じばく!」
「な、なにおぅ!?」
「一度トリニティの図書館に行って物語とはどういう物かをたっぷり勉強してくるといい!少しはマシになるだろう!知恵熱で死ななければねええええええ!!!」
「うるさい!バーカバーカ!バカバカバカバカバカ!!!」
「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!!はい俺の方が多く言ったぁ!俺の勝ちィ!!!」
「……あの二人っていつもあんな感じなんですか?」
「あ、はい……えっと……」
「……そういえばまだ自己紹介していませんでしたね、訳有って先輩と行動を共にしている新野美咲です、よろしくお願いします」
「私は才羽ミドリで、あっちの騒がしいのが姉の才羽モモイです。此方こそよろしくお願いします」
「アリスは天童アリスです!ジョブは勇者です!そしてもう一人のアリスがケイです!」
「ゆ、勇者?もう一人のアリス?」
「花岡ユズです……よ、よろしくお願いします……」
「は、はい……よろしくお願いします……(まだダンボールの中に……)」
俺達がギャーギャーワーワーと言い争っている横で既に美咲が自己紹介を始めていた、本当は打ち解けやすいように俺が皆に紹介してあげたかったのに……
「モモイさんのせいだよー!」
「は!?え!?何が!?」
「モモイさんが俺達をストーキングしたせいで余計な時間を過ごしただろうが!」
「だ、だったら気づいてないフリでもすればよかったじゃん!」
「動くダンボールが後を付け回ってたら嫌でも気付くわ!」
「あんな近くで言い合うなんてとても仲が良いんですね」
「あ、でも少なくとも酒泉君からはただの〝女友達〟としてしか見られてないと思いますよ」
「……どうしてそれを私に?」
「えっと……なんとなく〝そういう目〟をしていたので……」
「……」
「あの、私からも一つお聞きしてもよろしいですか?美咲さんは酒泉君とはどういう関係なんですか?」
「……気になるんですか?」
「はい……あ、私のは純粋に好奇心なので心配しないでください」
「…………こんなに落ち着きを持った利口な妹も存在するんですね。まあ、むしろ今は昔みたいに騒いでほしいくらい落ち込んでしまってますが」
「は、はい?」
「いえ、ただの独り言ですので……そうですね、私と先輩の関係性はただの〝居候〟といったところでしょうか」
「……居候?」
その言葉を呟くとつい数秒前まで俺と言い争いをしていたモモイさんの声がピタリと止む
何か気になる事でも……ああ、そういえば美咲と一緒に暮らしてるって事はまだ言ってなかったな
「えーなんと私、この度また同居人が増えまして……こちら最近DLCで追加された新キャラクターの新野美咲さんです」
「人を追加コンテンツ扱いしないでください」
「……は?同居ぉ!?なんでそんな事になってるの!?」
「うわあああん!酒泉がまたいつの間にかヒロインを作ってました!」
「天童さん、その言い方だと俺がしょっちゅうヒロインを作ってるみたいな風に捉えられるからやめような」
「大変です!酒泉の聴覚ステータスに呪いが掛かってしまいました!」
「難聴でもないからな」
最近天童さんからの扱いも雑になってきたような……いや、冷静に考えたら昔からこんな扱いされてたかもしれん
でも前はもっとこう……最低限の敬意みたいなのがあったんだけど……少なくとも勇者と魔王が云々みたいな話をドヤ顔で偉そうに垂れた時はちゃんと尊敬されてた筈なのに
……もしかして俺って天童さんの中でモモイさんと同じレベルに扱われてたり?いや、まさかな……
「ぷぷーっ!酒泉ってばアリスにも馬鹿にされちゃってるじゃん!そんなんでよく私の事馬鹿にできたねー!」
「ああ!?少なくともモモイさんよりは上の扱いだろうが!そうだよな、天童さん!」
「……酒泉のバッドコミュニケーションのせいでアリスからの好感度は下がってしまいました!」
「なん……だと……!?」
馬鹿な……嫌われるような事をした覚えなど……無い……(土管神並感)
膨れっ面でそっぽを向いてしまった天童さんを前に俺の心は反抗期の娘に暴言を吐かれた父親の様な傷の付き方をしていた、反抗期の娘なんて育てたことないけど
「俺の何がいけなかったんだ!?どう考えても〝よし、楽しく話せたな〟の流れだったのに!」
「酒泉は意地悪です!自分の拠点に何人も女の子を住まわせているのにアリスのことだけ誘ってくれませんし、最近は遊びにすら行けてません!」
「い、いや……それはだな……俺が一緒に暮らしてる人達は全員訳ありだし、それに天童さんと遊べていないのも厄介な連中がゲヘナで暴れまわって仕事が増えるせいでな……」
「……そ、そうだったんですか?ごめんなさい……アリス、てっきり酒泉がまた新しい恋愛フラグを立てたのかと……」
「お、おう……」
扱いが変わっても純粋さは変わっていないらしく、きちんと事情を説明すれば天童さんは申し訳なさそうに頭を下げてきた
話せば分かってくれる辺り相変わらずの良い子っぷりだがこんな子を不安にさせてしまった事に罪悪感を抱いてしまった、だが私は謝ら……ごめんなさい
「えっと、一緒に暮らすのは無理だけど偶に泊まりに来るぐらいなら……暫くは部屋全部埋まっちゃうから色々落ち着いてからになるけど」
「ほ、本当ですか!?アリス、酒泉と一緒に夜更かししてゲームがしたいです────いけません、王女】
「あ、出てきた」
たった一回の瞬きの隙に切り替わる瞳の色と纏う雰囲気、彼女こそが五人目のゲーム開発部────ケイ
……これ言うと本人は否定してくるけど、多分ただのツンデレだと思う
【この男の家にたった一人で上がり込むなど何をされるか分かったものではありません】
「おいおい、家にはシロコさんやプラナだって居るんだぜ?そんなことせんよ」
【つまり自宅に誰も居なければ王女に手を出すと…………ケダモノ】
「なんでそう解釈すんだよ……」
ケイさんは自分の身体を大事そうに抱えると犯罪者を見る様な目をしながら俺から距離を取ってきた
なんでさ、まさかミレニアムにまで折川酒泉ロリコン説が広まってるんじゃないだろうな……だとしたらマズイ、純粋無垢な天童さんの耳にそんな噂が入ってしまえば間違いなく信じられてしまう
「先輩、今この子の声質が変わった様な……」
「ん?あー……この人はその────」
【ケイです、私の事はアリスの中に潜むもう一つの存在とでも思ってください】
「……つまり二重人格というものですか?」
【厳密には少々異なりますが……まあ、その認識で良いでしょう】
自身の紹介を終えるとケイさんは意外にも自ら手を出して握手を求め、美咲も特に拒む事なくその手を握り返した
これは驚いた、正直ケイさんは他人にそういう事はやらないタイプだと思っていたから
【………………】
「あの、ケイさん?」
すぐに離すかと思いきやケイさんは十秒程握手を続け、それを疑問に感じた美咲はケイに声を掛ける
そこでやっと満足したのか、ケイさんはそっと美咲の手を離して一歩引いた立ち位置から美咲の姿を見据えた
【貴女は何処から────いえ、ここで聞くべき事ではないでしょう。王女、出過ぎた真似してしまい申し訳ありませんでした……折川酒泉、くれぐれも王女に変な気を起こさないように】
「はい?一体何を聞こうと……」
「あっ!ケイが戻ってしまいました!」
ケイさんの口から出掛けた言葉を尋ねようとするが、それよりも早くケイさんは天童さんと意識を交代してしまった
天童さんに言われるまでもなく自ら意識を表に出して挨拶するなんて、今日のケイさんはちょっとだけケイさんらしくな……あれ?これ最後まで俺に対するあらぬ疑い晴らせてなくね?ケダモノ扱いされたまま?
「な、なんか今日のケイちゃんちょっとだけ様子おかしかったよね……自分から積極的に初対面の人と触れ合おうとしたり」
「きっとケイは美咲と仲良くなりたかったんだと思います!」
「はあ……あまりそういう雰囲気は感じませんでしたが……」
「でもちょっと意外だったよね。スニーキング前は〝王女を下らない事に付き合わせないでください!〟って怒ってたのに、また表に出てきたと思ったら特に怒る訳でもなくそのままアリスの中に引っ込んじゃったし」
「……あ、そうだ。それで結局俺達を付け回してた理由はなんだよ」
「えーっと……実は私達今度はスニーキング要素のあるRPGを作ろうとしてるんだけど、開発中にお姉ちゃんが〝よりリアルな難易度に仕上げる為に実際に校内を誰にも見つからないように探索してみようよ!〟って……」
「そしたら途中で酒泉君が知らない女の子と並んで歩いてるのを見つけて……モモイが勝手に後を追おうとするから仕方なく────」
「あー!!!あー!!!聞こえない聞こえない!!!」
ミドリさんと花岡さんの声を遮りながら必死に手を動かすモモイさん、何を慌てているのか知らんが言われたら困る様な事でも企んでいたのだろうか
まあいいさ、どうせモモイさんの思い浮かぶ事なんて荒唐無稽支離滅裂なシナリオの事ぐらいだしな。恋愛の〝れ〟の字も色気の〝い〟の字も持ち合わせていないこの人じゃ大した企みは実行できんだろう
「……なんか馬鹿にされてる気がする!」
「いつもの事だろ……とりあえず天童さん、泊まりに来たかったら過保護なお姉ちゃんをなんとか説得してくれよな」
「姉はアリスです!」
「ははっ、そっかそっか」
「むっ……酒泉!私も私も!私も遊びに行くから!」
「えぇ……?」
「なんで私の時だけ嫌そうにするの!?」
「だってゲームで勝つまで帰ってくれなさそうだし……」
ゲーム開発部に遊びに行った時なんか実際モモイさんが勝つまで無限にリターンマッチを挑まれ続けた経験がある、その時はバレない程度にめっっっっっっちゃ気を遣ってギリギリの戦いを演じた上で負けてやった
この人困ったらすぐレバガチャするんだもん、とりあえず横格闘とかとりあえず覚醒技ぶっぱと同レベルだぞそれ
「んじゃ、人待たせてるからそろそろ行くわ……あ、花岡さん、この前は対ありな」
「あ、うん……私こそ」
「へ?二人とも何かしてたの?」
「お姉ちゃん知らないの?この間酒泉君とユズちゃんが格ゲーのオンラインで偶然マッチングした話」
「へー、そんな偶然もあるんだ……じゃあもしかしたら気づかないうちに私と酒泉がマッチングしてて私が酒泉をボコボコにしちゃったみたいな事も起きてるかもね!」
「ないない、大抵俺の方がランク帯上だしマッチングしないだろ(笑)」
「あはは!言ったなーこのイキリアルコールめー!」
「ははっははは!」
「あはははははは!」
「……」
「……」
「やってやろうじゃんこの野郎!!!」
「こいや胡座かきがに股女ぁ!!!」
「先輩、実験の方は?」
「お姉ちゃん、ゲーム開発に戻ろうよ……」
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「よし、何事もなく着いたな」
「先程の流れを無かったことにしないでください」
人生二週目による大人メンタルでモモイさんの煽りを華麗にスルーして歩き続けていると目的の場所である調月さんの拠点(仮)の前に辿り着いた
この教室は技術と共に発展してきたこの学園にしては珍しく近未来感を感じさせないシンプルな木製構造で作られており、調月さんが以前拠点として使っていたエリドゥと比べると雰囲気が驚くほどミレニアムに似合っていない
「さてと、相変わらず不健康な生活してなきゃいいけど……」
パヴァーヌや最終編を終えてからは調月さんに会いに行く頻度も落ちたが、別に全く会わないという訳ではなく天童さんやモモイさんに遊びに誘われてミレニアムに来た時は毎回顔を覗かせている
その度に不健康そうな生活を送っていたり仕事漬けにされてたりとまあ……飛鳥馬さんには調月さん直々に頼まれた仕事が幾つもあるらしく、どうやら毎日毎日様子を見に行く事はできないらしい
「調月さーん、来ましたよー」
「…………入って」
「……はーい」
コンコンとノックしながら呼んでみれば中から調月さんの声が聞こえてきた……なんか妙に落ち込んでいたけど
「失礼しまーす……美咲、この人がこれから俺達がお世話になるミレニアムのビッグシスター、調月…リオ…さ…………ん?」
「……これ、は」
「……待っていたわ、酒泉」
軽く紹介をしながら教室に入ると、唖然とする俺達の視界に映ったのは目の下に濃い隈が出来ているボサボサ髪の調月さんの姿だった
部屋にはゴミ袋等が若干溜まっており、デスクの上には大量のエナジードリンクの空き缶が放置されている
「つ、調月さん?これは……その……どういう状況で……?」
「気にしないで、ここ最近の夢見心地が悪くて少し体調を崩していただけだから」
「えぇ!?そ、それ大丈夫なんですか!?」
調月さんなら悪夢なんて〝所詮はただの夢でしょう?〟とか言って全く気にも留めなさそうなのに……つまりそれほど酷い夢だったのだろうか
「ええ、そうよ。貴方が誰かと同居するなんて今に始まった事じゃないのにおかしな話よね。それにたかが夢の一つくらいでこんなに動揺するなんて私らしくないわね、ところで私って誰だったかしら?」
「調月さん!?もしかして壊れてます!?」
「気にしないで、本当に平気だから。そうよ、貴方がまた女の子を自宅に住まわせた事なんて今更なのに。そのままその子が貴方の良き理解者となってゴールインする悪夢を数日間連続で見たくらいで取り乱しすぎよね」
「は、はい!?ゴールイン!?」
「ええ、そうね、えっと……酒泉、そういえばアトラ・ハシースの対策会議はまだだったかしら。もうすぐ決戦も近いし貴方も身体を大事に……いえ、違ったわね、今はトロッコ問題の話の途中だったわね」
「それもうとっくに終わった話ですよ!?しかもトロッコ問題に関しちゃ大分前の会話だし!」
「そう、そうね、そう。えっと……とりあえず新たな客人も居る事だしお茶でも出すわね────ぶっ」
「調月さん!?」
「ちょっとまってちょうだい」
椅子から立ち上がって歩き出した瞬間にビターン!と前のめりに床に倒れる調月さん
ちょっと会わない間に頼れる俺の理解者がとんでもないポンコツになってました