〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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俺と空崎さんと嫌な予感

 

 

 

 

実銃で撃つという行為に慣れている現代日本人は美咲の世界では何人存在するのだろうか

 

まず本物の銃を所持する事を許されている役職の者以外がふるい落とされ、そこから更に発砲する機会に恵まれている者以外も全員ふるい落とされる

 

となれば残る候補は射撃訓練を行う自衛官や警察官か、若しくは猟師くらいだろうか……まあ、ともかくそういった職に就いている訳でもない一般人、ましてや学生が急に銃を持たされてすぐに慣れる訳がない

 

 

「先輩、終わりました」

 

「…………おう」

 

 

お疲れさん、と肩を叩いてから三十五メートル先の的を見つめる

 

五つある的のいずれも綺麗に中央を撃ち抜かれており、外した痕跡がある的ですら全て三発以内に中央への射撃を成功させていた

 

 

「コツとか掴んだ感じか?」

 

「コツ……ですか?いえ、特には……なんとなく〝ここで撃てば当たるな〟って思った瞬間に引き金を引いてるだけなので」

 

「……そうか」

 

 

自分の様な眼を持っている訳でもないのにこの精度、感覚派の生徒ってのは戦いの中で何人か見てきたけど美咲の場合はその中でも特に上澄みだった

 

このキヴォトスで生きていく為の技術を持っていた事を喜ぶべきか、それとも戦いの才を持ってしまった事を憂うべきか

 

どの道戦闘経験皆無の美咲が狙撃の才能を持っていたところで現状では付け焼き刃程度にしかならないだろう、それは美咲本人だって理解している筈だ

 

だが、ここから更に成長して力を付けると敵と戦うっていう無茶な選択肢を取るようになってしまうかもしれない、俺が美咲に学んでほしいのは自分を守る為の力だけだ

 

キヴォトスに迷い込んだばかりの時みたいに実銃に立ち向かって大怪我を負う……なんて事態には陥ってほしくない。無論、あの事件は美咲が生徒達の銃を偽物だと思ってたから起きたってのもあるが

 

まあともかく、美咲には戦いとは無縁の生活を送ってほしいと思っている

 

 

「先輩、そろそろ射撃訓練は終わりにしてもいいのでは?」

 

「……と言うと?」

 

「次は格闘戦の指導をお願いしたいです」

 

「……格闘戦なぁ」

 

 

此方の気持ちも露知らず、美咲は更に次のステップへと進もうとしていた

 

いやまあ、確かに護身術は教えるって言ったけどさ……やっぱ後輩が戦闘慣れしていく姿を見るのは複雑っていうか、しかもヘイロー無しの脆い身でありながら────

 

……空崎さんもこんな気持ちだったのかなぁ

 

 

「別に教えるのは構わないけど……そもそもキヴォトスの生徒相手に格闘戦仕掛けられる距離まで詰められた時点で終わりだからな?あくまで最後の手段だって事を忘れんなよ」

 

「はい、分かってます……あの、先輩は敵に距離を詰められたらどうしてるんですか?」

 

「ん?普通にぶん殴ったりしてるけど?」

 

「……格闘戦仕掛けられた時点で終わりって言ってませんでした?」

 

「素人はな」

 

 

さっきの前提は美咲みたいな戦闘素人が身体スペック格上の相手に接近された場合の話だ、攻撃の流し方や姿勢の崩し方を熟知している者ならその限りではない

 

俺だってよっぽどの大人数に囲まれてなけりゃ数人程度は丸腰で制圧できるし、相手が銃持ちか否かを問わずにな!(ドヤッ)

 

え?丸腰で銃持ちの大人数相手に囲まれた場合?遺書を書く時間を貰ってください

 

 

「よし……美咲、とりあえず俺を殴ってみ早い早い早い」

 

「とか言いつつしっかり避けてるじゃないですか……ちっ」

 

「え?なんで舌打ちしたの?」

 

 

此方が言い終える前に既に拳を前に突き出していた美咲、彼女の鋭い一撃を回避すると何故か舌打ちで追撃を喰らわされた

 

このツンツンムーブももう浴びせられる事は無いと思っていたから久しぶりに見れてなんやかんやで嬉しかったりする、誤解されない様に言っておくけど俺は別にドMではない

 

 

「本当は受け流すつもりだったのに急すぎて普通に避けちゃっただろ……ほれ、もう一回殴ってみろ」

 

「では遠慮なく────っ!」

 

「よっと」

 

 

美咲の繰り出す右ストレートを顔を逸らしてかわし、半身になりながら美咲の右腕を掴んで地面に押し出す

 

怪我でもされちゃ困るので右腕は掴んだまま、美咲の顔が地面にぶつかる前にくいっと引き戻す

 

 

「今のが突き技とかに対して有効な流し方だな、殴りかかられた時やナイフで刺されそうになった時に使う技だ……よし、じゃあ次は俺の胸ぐらを掴んでみろ」

 

「……こう、ですか?」

 

「そうだ、これを……こう!」

 

 

右手で胸ぐらを掴まれたと同時に美咲の右腕に自らの左腕を巻き付けて時計回りに腕を回す、恐らく一番簡単で分かりやすく有名な方法だろう

 

 

「いくらキヴォトスの生徒と言えども腕を捻られてる状態からじゃまともな力は入らんからな、それなりに有効だとは思うぞ。まあ、事前にガッチリ力込められてたら振り解けないけど……とりあえずゲヘナみたいな野蛮人だらけの地区に迷い込んだ時を想定してこの技を練習しとけ、特に不良連中なんてすぐ胸ぐら掴んでくるからな」

 

「……経験談ですか?」

 

「いぐざくとりぃ」

 

 

前世のスラムより治安が終わってるであろう学園、その名もゲヘナ

 

暴走する巨大パンケーキ、食や温泉の為に爆弾を持ち込む人食い反社共、万年赤字の便利屋、馬鹿タヌキ、まさにこの世の終わり詰め合わせセットである

 

 

「さて、そんな物騒な世界で生き延びる為にもう一つ護身術を教えてやろう……いや、別にこれは護身術とは関係無いか?……まあいいや、とりあえず適当に攻撃してくれ」

 

「適当にと言われましても……じゃあ……えい────」

 

「はい後ろもーらい」

 

「────は?」

 

 

今度は攻撃を受け流すでも振り解くでも即座に後ろをとって美咲の両手を拘束する、ついでに片足も絡ませて蹴りも封じる

 

反撃されるとは思っていなかったのか、美咲は呆気に取られたまま顔だけ僅かに此方に向けた

 

 

「あの、先輩?何を……」

 

「さて、ここで問題です。この様に完全に両手を押さえられた場合は一体どうやって抜け出せばいいのでしょーか」

 

「……まさかとは思いますが〝自ら腕を折って脱出しろ〟なんて言わないですよね?」

 

「心配すんな、ちゃんと正解はある……腕も足も使えなくて武器も仕込んでない時でも使える脱出方法がな」

 

「…………ギブアップです」

 

 

暫く考え込んだ後にぼそりと呟くと、美咲は悔しそうに〝さっさと教えてください〟と吐き捨てた

 

……なんか、この答え教えたら〝引っ掛け問題じゃないですか〟って文句言われそうだな、ちょっと怖くなってきたぞ

 

 

「えーっとだな……正解は〝なにもしない〟だ」

 

「……はい?」

 

「無駄な抵抗せず極限まで脱力してただひたすら機を窺え。〝あ、コイツはもう抵抗しないな〟って思わせる事ができたら御の字だが……そうでなくとも少しでも油断させて拘束を緩めさせる事が出来たのならその時点でチャンスが生まれる、常に気を張り詰めてられる人間なんざ限られてるからな」

 

「…………」

 

「……すまん、ちょっと意地悪だったな」

 

 

美咲からのジト目に耐えきれず即座に謝罪の言葉を口にする、ここで謝っておかないと帰り道でマシンガン罵倒を浴びせられてしまう

 

ひとまず真っ先に教えたい事は教え終わったし後は実践して身体に叩き込むだけ……と考えていたところで美咲が小さな声で〝先輩〟と呟いた

 

 

「先輩の力、強いですね」

 

「そりゃあこっちで散々鍛えてきたからな、むしろ強くなってなきゃ困る」

 

「ええ、本当に凄く強いです……このまま簡単に組み敷かれてしまいそうな程に」

 

「お、おう……?」

 

「……多分、キヴォトスの生徒達と違って先輩に何かされたとしても私は抵抗する事すらできないのでしょうね」

 

「いや、別にお前相手じゃなくてもそこらの不良生徒なら簡単に組み敷けるぞ。身体を動かす上で重要なパーツを理解していればそこを押さえる事だって出来るしな」

 

「……そうですか」

 

「おう」

 

「…………」

 

「……?」

 

 

 

結局何が言いたかったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

────────

 

 

 

──────

 

 

 

 

「そういえばリオさん達から連絡はありましたか?」

 

「いや、まだだ」

 

「では次の実験は未定という事になりますね」

 

「……おう」

 

 

美咲を帰す為の手掛かりが見つかり、ついでに俺の過去がバレたあの日から三日後

 

いつの間にか消えていたポータルが再び姿を現す事はなく、あの工場に何か異変が起きればすぐに連絡を寄越すと調月さんに言われたものの未だ動きは無し

 

ポータルを開くという行為に回数制限があるのだとしたらその制限が日付と共にリセットされている事を願うばかりだ、そうでないと美咲を一生帰せなくなってしまう

 

 

「ところで先輩、あの事はシロコさん達に話したんですか?」

 

「……それもまだ」

 

 

俺が転生者である事を知ってるのはあの日実験に参加した人達だけだ。シロコさんやプラナには、そして当然空崎さんにもまだ教えていない

 

この人達にこそ真っ先に教えるべきだとは自分でも思っているのだが、不慮の事故で語る事になったあの時と違っていざ自分から語ろうとすると変に躊躇してしまう

 

俺の過去を知った人達もそれを言い触らすような真似はしないだろうし、それに甘えて全てを打ち明けられる勇気が湧いてくるまでは暫く黙っていようと思う

 

 

「再びポータルが出現するまでには話しておいた方が良いと思うのですが……」

 

「……俺も一緒に帰るからか?」

 

「はい」

 

「何度も言わせるな、帰るのはお前一人だ」

 

「何度でも言います、先輩が頷いてくれるまで」

 

「……俺としちゃ説得なんて無意味な事せず、ポータルが開いたらさっさと帰ってほしいんだけどな。お前はこんな危険な世界に残るべきじゃない」

 

「危険は承知の上です、だからこそ先輩に鍛えてもらってるんじゃないですか」

 

「……あくまで護身の為だからな、自分から戦おうとするなよ」

 

 

どれだけ射撃能力が優秀だろうと数発撃たれた程度ではキヴォトスの生徒は倒れない、それこそ空崎さんや天童さんの武器みたいに一発一発の威力が高くないと

 

そこに護身用に教えた体術を加えたところで焼け石に水、実戦経験ゼロの美咲に使いこなせる訳がない

 

 

「そろそろ家も近いし話はここで終わりだ、玄関近くにシロコさん達が居たら話を聞かれる可能性があるしな」

 

「いっそのこと話してみては?」

 

「……駄目だ」

 

 

大切な人を失って二度と会えなくなったシロコさんとプラナの前で〝二度目の人生を得た上に失った筈の人達とまた会えましたー〟なんて……どんな面して話せばいいってんだ

 

空崎さんに話さないのは単純に自分が臆病者なだけだが、シロコさん達に話さない理由にはそういった考えも含まれていたりする

 

 

「……先輩は前世でお世話になった人達に会いたくないんですか?」

 

「……会いたいよ。未だに父さんと母さんに会いたいって思ってるし、友達とも……あの馬鹿野郎共ともまた馬鹿な事したいって思ってるよ、でも……」

 

「……先輩、先輩が頑なに元の世界に帰る事を拒む理由ってもしかして……怖いからですか?」

 

「怖い?……何がだよ、偽者扱いされる事がか?」

 

「そうではなく元の世界から────いえ、何でもないです」

 

「……んだよ、そこで止められると気になるだろ?」

 

「これ以上しつこく迫ると本格的に怒らせてしまいそうなので」

 

「そうか、それが分かってるならもう説得しないでくれ」

 

「ええ、日を跨いで先輩の心がリフレッシュされてから説得を再開する事にします」

 

「……違う、そうじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空崎さん、昔は無茶ばっかしてて本当にすいませんでした」

 

「……急ね、どうしたの?」

 

 

親の心子知らず、昔の空崎さんもそんな思いだったのだろうか

 

昨日の訓練から……いや、初めて美咲に稽古をつけたあの日から、身体の脆い後輩が戦闘の技術を学ぶ度に死地に近づいている様な気がしてならない

 

 

「実は今美咲の奴に護身術というか……まあ、戦い方を教えてるんです。ただ、美咲が強くなればなるほど危険に近づいてる気がして……」

 

 

クールぶっておきながら困ってる人がいたら見過ごせない、美咲にはそんなお人好しな一面がある

 

実際に脚を撃たれた事件だって柄の悪い連中に絡まれてる生徒を助けようとした事で起きた事件だしな

 

 

「もし強くなった美咲がまた誰かを助ける為に戦って大怪我でも負ったらって思うと……ちょっと怖くて」

 

「……まんま昔の私と同じ事を考えてる」

 

「……やっぱ空崎さんも?」

 

「当然でしょ?だって昔の酒泉、今より全然安心できなかったし」

 

 

そんな……昔からそれなりには強かったとは思うんだけど……酷い怪我だってエデン条約とキリエとパヴァーヌと最終編以外では特にした記憶も……あれ?俺って本当に生きてる?実は死んでたりしない?

 

もしや俺の耐久力ってどこぞの質問してほしくないライダーや何故か戦闘センス抜群な元芸人ライダー並にあるのではなかろうか……いやそれは流石に自惚れすぎか

 

 

「……心当たりあるって顔してる」

 

「うぐっ……あ、改めてすんません……」

 

「いいわよ……でも、前にも言ったけどこれからは私も酒泉の隣で戦うから」

 

 

そうだ、別に自分の身体が丈夫だからってだけじゃない。俺が今日まで生きてこられたのはこうして空崎さんに守られてきたからだ

 

いや、空崎さんだけじゃない。アリスクに殺されそうになった時はギリギリで正実が駆けつけてくれたし、ベアトリーチェ……つーか強化されたバルバラとの戦いではピンク色のゴリラが俺を担いでくれたらしいし、シロコさんっていう格上との一戦目では狐坂さん、二戦目は先生や砂狼さんにも助けてもらい、またまた空崎さんに支えてもらったりもした

 

俺一人じゃとっくに死んでいた、誰か一人でも欠けていたらこの未来には辿り着けていなかっただろう

 

 

「……そうだ、俺が守ればいいだけだ」

 

 

皆が俺を守ってくれたみたいに俺が美咲を守り、そんでさっさとポータルの向こうに送り帰す

 

……本人が俺を説得できるまで残ろうとしてるのはちょっと問題あるけど

 

 

「守るって……新野美咲のこと?」

 

「はい、アイツの身体は俺と同じで弾を受けられないんで……俺がしっかり守ってやらないと」

 

「…………そうね」

 

 

その一言だけ答えると空崎さんは複雑そうな表情で俺から視線を外してしまった

 

なんだ?何か変な事でも言ったか?俺はただ美咲を守ってやらないとって言っただけで……いや待てよ?今の発言、受け取り方によっちゃなんか特定の女に固執する危ない野郎みたいじゃね?

 

いやでも実際美咲が一人で出歩くにはキヴォトスは過酷すぎる環境だし……ゲヘナ以外の場所ですら街中で弾丸が飛び交う事があるってのに、守らなくても大丈夫だなんてとても言い切れない

 

 

「まさか沢山の人達を心配させてきた酒泉がその立場に立たされるなんてね」

 

「いやぁ、その節は本当に……皆さんを怒らせてばかりで……」

 

「本当にね、もし今も変わらず一人で無茶する様な性格のままだったら私は……」

 

「……私は?」

 

「勝手な行動が出来ないように酒泉の両手両足を縛ってどこかに閉じ込めていたかもしれないわ」

 

 

正直驚いた、空崎さんの口からそんな物騒な冗談が出てくるなんて

 

しかしそれも空崎さんにとって俺が気の置けない相手だったからこそ出てきた冗談なのかもしれない、もしそうならちょっと……いや、かなり嬉しい

 

 

「ははは、空崎さんにしては珍しい冗談っすね」

 

「ふふっ」

 

「あはははは」

 

「ふふふふ」

 

「……冗談っすよね?」

 

「?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねー、私達ここに居ていいの?自宅謹慎しろって言われてんのに」

 

「そうそう、聴聞会だって控えてんのに……」

 

「別にいいでしょ、どうせ結果は分かりきってるんだし」

 

 

カラオケ店から出て目的もなく歩き始める三人、学生と思わしき少女達は誰一人制服を纏っていない

 

彼女達は新野美咲の脚を撃ち抜いたトリニティ生、自分達に非があるにも関わらず何の罪もない一般市民に大怪我を負わせた件で聴聞会にかけられる事が決まっていた

 

そんな彼女達は全員が自宅謹慎を言い渡されていた……が、聴聞会間近にも関わらずそれを破るという悪印象に残る行為を行っていた

 

 

「こんな所で遊んでるのがバレたらティーパーティーに庇ってもらえなくなんじゃない?」

 

「はあ?一般市民を……それもゲヘナの風紀委員の知り合いを殺しかけといて許してもらえるわけないでしょ?」

 

「で、でもさ!聖園ミカだって許してもらえたし私達もワンチャンみたいな……?」

 

「あれは幼馴染だからってナギサ様が忖度しただけでしょ、しかもセイア様のお友達でもあったみたいだしぃ?あの魔女と違って身内でもなんでもない私達が庇ってもらえるわけないじゃん…………あーあ!私にも身内にはダダ甘なお偉いさんとのコネがあればなー!」

 

「ちょっと……声大きいって……」

 

 

どうせ自分は許されないだろうと不貞腐れ、嫌みったらしく大声をあげながら近くの空き缶を蹴り飛ばす茶髪のリーダー格の少女

 

その横で銀髪の生徒と金髪の生徒が周囲の目を気にして宥めようとするが、そもそも三人が今歩いている道はあまり人が通らない細道だった

 

「あーもう腹が立ってきた!なんであんな身体の脆い奴が割り込んでくるのよ!しかもあの後ゲヘナの風紀委員にもボコボコにされたし!ムカつくムカつくムカつくムカつく────」

 

「うんうん!その気持ちわかるよぉ~!」

 

「……は?」

 

 

怒りを隠すことなく喚き散らすトリニティの生徒、そんな彼女の背後から何者かが手を回して馴れ馴れしく話し掛ける

 

困惑を隠せないながらもそれより怒りの感情の方が勝ったのか、トリニティ生は若干の疑問を含めた様子で腹立たしそうに背後の人物に問い掛けた

 

 

「……誰よあんた、ていうか勝手に触らないでくれる?」

 

「おお、これは失敬失敬……いやー、実は私も君達と同じでゲヘナの風紀委員に虐められてる可哀想な被害者なんだよねー、あいつら同じゲヘナの生徒にも容赦なくてさー」

 

「なんだ、あんたもゲヘナだったのね……それじゃあ触らないでくれる?私、虫の居所悪いんだけど」

 

 

彼女が嫌っているのは〝風紀委員〟ではなく〝ゲヘナ〟という存在そのもの、トリニティの古い歴史の中で憎悪を植え付けられてしまったという〝よくあるパターン〟の生徒だった

 

しかしそれを知っても尚、話し掛けてきたゲヘナ生は馴れ馴れしさを抑える事はなくお構い無しにべらべらと語り続ける

 

 

「まあまあ!そう言わずにさ!お互い風紀委員には思うところがある訳だしぃ?私達って仲良くなれると思うんだよねー」

 

「何か勘違いしてるけど私はあんた達ゲヘナに思うところがあるのよ、分かったらさっさと消えてくれる?……ほら、あんた達もぼーっとしてないで────」

 

 

さっさと帰るぞ、後ろの二人にそう伝えようと振り向いた瞬間足下からどさりと音が聞こえた

 

視線を下ろせばそこには先程まで一緒に歩いていた筈の生徒二人が倒れ伏しており、再び正面を見据えれば恐らく話し掛けてきたゲヘナ生の仲間であろう二人がバチバチと電気の様なものを発している棒を握っていた

 

「おー流石は改造品、そこらの生徒が相手ならあっという間に寝かしつけられるね」

 

「リ、リーダー……これ本当に大丈夫なんすかね……?」

 

「これ、威力高すぎるんじゃ……」

 

「大丈夫だって、死なない程度には抑えてるしそもそも生徒を殺せる威力出す方が難しいって……そんな心配ならテメェらで確かめてみるか?」

 

「ひっ……い、いえ!大丈夫です!」

 

仲間であろう相手に対して殺気を飛ばしながら睨み付けるゲヘナの少女、それを見ただけでトリニティ生は目の前の女がただの不良ではない事を察した

 

 

「な、なんなのよ……なんなのよアンタは!?」

 

「いやーごめんごめん、騒がれでもしたら面倒な事になるからお友達の方にはちょっとだけ〝休憩〟してもらったよ……これで二人っきりだね♡なんちゃって!」

 

(リーダー……アタシ達もいます……)

 

「……あ?んだよその目」

 

「な、なんでもありません!」

 

 

その殺気もトリニティの生徒に向けられる事はなく、むしろ満面の笑みばかり向けられている

 

しかし彼女にはゲヘナ生が浮かべるその笑みが獲物を前にした狩人のそれにしか見えず、どこか寒気を覚えながら一歩また一歩と距離を取っていく

 

それを見たゲヘナ生はわざとらしく肩を落とし、自分が落ち込んでいる事を大袈裟にアピールした

 

 

「ありゃ、そんなに怯えられると流石の私でも傷付いちゃうなー」

 

「ひっ……来ないで!来ないでよぉ!?」

 

「本当に何もしないから!先っちょだけ!先っちょだけだから!」

 

「や、やめ────きゃっ!?」

 

「だいじょぶだいじょぶ!君が言ってた〝風紀委員〟についてほーんのちょっと語り合いたいだけだからさ!」

 

 

ゆったりと伸ばされる手から逃れようと足に力を込めるも、恐怖心による身体の震えのせいか駆け出す直前に足首を挫いてしまうトリニティ生

 

そんな彼女にゲヘナの生徒は────蛇腹キイロはにったりと笑いながら優しく手を伸ばした

 

 






ヒカリのショップボイスすこ、特に〝ヒカリのぶんも!ヒカリのぶんも!〟を聞くと父性が芽生えてきます
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