「……あの、蒼森さん?ここって救護騎士団の医務室で合ってますよね?」
「ええ、合ってますよ」
「嫌だああああああ!〝救護〟されたくないいいいいい!」
「たすげで!!誰がだずげでえええええええ!!!」
「やだやだやだやだやだあ゛!!!もう〝救護〟やだあああああ゛あああ゛あぁあ゛!!!」
「きゃあ!?あ、暴れないでください~!?」
「そ、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ!?痛くなるような事は何もしませんから!」
「救護……」
「はい、救護です」
「……救誤?」
「違います、救護です」
「救護かぁ……」
「救護です」
鷲見さんと朝顔さんに連れてかれるボロボロの生徒達、恐らく彼女達は何かしらの悪さを働いて〝救護〟された者達だろう
何人か俺と目が合って救いを求めるような顔で見つめてきたが、ふと目を逸らしてみれば全員の表情が絶望に染まった
すんません、でも自分ゲヘナの生徒なんでトリニティの問題はトリニティで解決してください
「ご用件は伺っております、美咲さんの事で御礼がしたいのだとか」
「はい、あの時は色々とゴタゴタしていたので落ち着いた時に改めて礼をと思いまして……」
「日常での身の回りの事だけでなくリハビリまで手伝っていただき、ありがとうございました」
「いえ、私は当然の事をしたまでです」
礼を言うと同時に頭を下げると、蒼森さんはキリッとした表情を崩さず普段通りの対応で返してきた
うーん、流石は救護騎士団団長。部屋の扉にしがみついて視線で助けを求めてくるボロボロの生徒達に目を瞑ればマジで良心的な常識人だ
……救護ってなんだっけ?
「あ、これお土産です。是非救護騎士団の皆さんと一緒に食べてください」
「お土産……ですか……気持ちは嬉しいのですが、先程も言ったように私達は当然の事をしたまでですので────」
「それとこのウェーブキャットのキーホルダーもどうぞ、こっちは何を買えばいいのか迷走した結果の余り物ですが」
「………………そうですね、折角のご厚意を無下にするのもよろしくないのでありがたく受け取らせていただきましょうか」
抗えないのさ……モモフレグッズには!こういうのはさらっと受け取り手が求める物を混ぜておけば受け取ってもらえると決まってるのさ
ちなみにスカルマンのキーホルダーは売り切れてた、慧眼持ちが多いのう
「ところで美咲さん、その後の経過は如何ですか?」
「はい、特に後遺症も無く痛みも感じません」
「それは何よりです。完治したと言っても美咲さんの身体でキヴォトスで生活していくのなら僅かな油断でも命取りになってしまいますから、お出掛けの際は出来るだけ付き添いの方を連れてくださいね?……こんな脅しみたいな忠告、あまりしたくはないのですが」
「大丈夫です、これからはずっと先輩に付きっ切りになってもらいますから」
「……おい、そんな気安く男にくっつくなよ」
「ふふっ……」
ぎゅっと腕を組んでくる美咲を見て蒼森さんが微笑ましそうに笑う、恐らく彼女には仲睦まじい友人関係に見えているのだろう
しかし俺にとって美咲のこの行動は〝テメェ絶対逃がさねえからなこの野郎〟と言われてるようにしか感じなかった、ゆるして
「んじゃ、渡したい物も渡せたので邪魔になる前に帰りますね……お仕事頑張ってください」
「はい……あ、お帰りになる前に少しだけお時間頂けませんか?エデン条約絡みの事で少々お話が……」
「エデン条約の事で?……俺に?」
「はい、内容が内容ですので二人きりでお話したいのですが……」
「あー……美咲?」
「私は構いませんが……ミネさん気をつけてください、この人女性と二人きりになるとすぐ口説いてきますから」
「とんでもない誤解を残そうとするんじゃない、確かに蒼森さんは魅力的な女性だが俺だって誰彼構わず口説こうとするほど見境無いわけじゃないぞ」
「……言った通りでしょう?」
「…………ええ、よく理解できました」
二人で顔を合わせたかと思いきや深く溜め息を吐かれ、美咲どころか蒼森さんにすら呆れた目で見られてしまった
そんな……あまり接点の無い蒼森さんにまでこんな扱いを受けるなんて……こ、こんな事が許されていいのか……
「では、私は正門前で待ってますね、先輩……くれぐれも変な気は起こさないように」
そう言うと美咲は最悪な置き土産を残して部屋を去り、この場には俺と蒼森さんだけが残っ……いやどっかからさっき連れてかれた生徒達の悲鳴が聞こえるな、まだトラウマ収まってないのか
「えっと……それで?さっきエデン条約絡みの事で話があるって言ってましたけど……」
「その件なのですが……半分嘘で半分本当といったところでしょうか」
「……はい?」
「……今から話す内容はあまり美咲さんには聞かせたくなかったので」
なるほど、どうして風紀委員長でも万魔殿の議長でもない俺なんかとエデン条約の話をしたいのかと思えば……そういう事だったのか
……でも、美咲抜きで話したい事ってなんだ?実は後遺症が残ったままとか……いや、そういうのは真っ先に本人に伝えるだろうしあり得ないか
「酒泉さん、ここ最近美咲さんの前で大きな傷を負った事などは?」
「一回も無いですよ、そもそも戦場には連れていきませんしね……んで、どうしてそんな質問を?」
「……実は美咲さんの入院中、酒泉さんの事に関して何度も質問された事がありまして」
「……俺の事を?」
「はい、キヴォトスでどの様な生活を送っているのか、周囲からはどう思われているのか、それと……どんな事件に巻き込まれ、どんな怪我を負ってきたのか」
美咲の奴、そんな事を聞いてたのか……最初の二つの質問に関しては知り合い程度の関係でしかない蒼森さんには答えられなかっただろうが、その後の二つの質問は蒼森さんでも答えられる質問だっただろう
まず調印式の時に一回、更にアリウス自治区での戦いの後でもう一回、大怪我を負った時に計二回はトリニティでお世話になったのだから
「私は精神科医ではないのでこれは素人目線からの発言になりますが……私には、美咲さんが酒泉さんの事を過度に気にされているように見えました」
「過度に?……それってどういう……」
「怪我の具合や手術を受けた回数、特に聞かれたのが怪我を負った時の状況や誰にやられた等……まだ自身の脚の痛みが残っているにも関わらず酒泉さんの事ばかり聞いてましたよ」
俺が美咲を心配している様に美咲も俺の事を心配してくれた、ただそれだけだろう
話を聞く限りだとそうとしか思えなかったのだが、次に蒼森さんは一言静かに呟いた
「〝絶対に守らないと〟」
「……はい?」
「貴方の事を知った美咲さんが溢した一言です、恐らくは無意識下での言葉だったのでしょう」
それは奇しくも俺が美咲に抱いていたのと同じ決意、唯一異なるのはそれを実行できる実力を持っているか否かだろう
「何故美咲さんが貴方の事をそこまで気にかけるのか、貴方と美咲さんはどの様な関係なのか、それは個人間の問題ですので問い詰めるつもりはありません。ですがこれだけは言わせてください、貴方が再び調印式の時と同じ様な危機に瀕してしまうか実際に怪我を負ってしまうと美咲さんの精神に大きな傷が残ってしまう可能性があります」
「要するに気を付けろと……ご忠告ありがとうございます」
「くれぐれもお気をつけて……心の傷はそう簡単には治せませんから」
風紀委員会に所属している限り戦闘そのものからは逃げられないだろうが、美咲を預かってる間はあまり無茶しない方が良さそうだな……と言っても最近は無茶する様な戦闘は経験していないが
「まあ、美咲さんの事を抜きにしても貴方はもっと御自分の身体を大切にした方が良いと思いますが」
「ちゃんと大切にしてますよ?何か山を越える度に自分の身体にご褒美与えてますから、主に糖分とか」
「そういう意味では────はぁ……全く、貴方がトリニティの生徒であれば無理矢理にでもその考えを叩き直したというのに……」
俺は今心の底から〝ゲヘナの生徒でよかった〟と思う事ができた、それと蒼森さんの場合だと叩き直すどころか叩き壊されて修復不可能になりそうだがそれは言うまい
「前にも言いましたが他校の生徒だろうと怪我人や病人がそこに居れば全員私の救護対象です、なので……」
「なので?」
「もしまた私の前に貴方が運ばれてくるような事があれば〝これ〟ですからね?」
そう言うと蒼森さんは右の拳をぎゅっと握りしめてそれを俺に見せつけてきた……え?拳?
「もしかして俺ぶん殴られるんすか?」
「はい?私は〝救護〟すると言っているだけですよ?」
だから救護ってなんだよ
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「この後はどうしますか?」
「この後?」
目的を果たし、蒼森さんとも別れ、特に理由がある訳でもないのになんとなく噴水広場辺りをうろうろしていると美咲が訪ねてきた
「……お前はどうしたい?」
「私は特には……先輩は寄りたい場所とか無いんですか?」
「俺は……そうだな……」
救護騎士団以外に寄る予定も無いし、トリニティの知り合いと会う約束もしていない
食いたい物がある訳でも行きたい場所がある訳でも……あっ、でも折角だしトリニティのスイーツを……いや、土産買う時についでに買った自分用のスイーツがあるしなぁ
うん、俺も特には「───さ──」ないかなー……ん?
「……なんだ?」
「どうしたんですか?急にキョロキョロしだして」
「いや、なんか誰かに呼ばれたような気が……」
「そうですか?……見たところそれらしき人は周囲には居ませんけど」
なんだ気のせいか、そう思って再び歩き出そうとするがどうにも引っ掛かる
何が引っ掛かってんのかって聞かれるとなんとなーく誰かの声に似てるところ、もう少し近くで声を聞くことが出来れば「──せ──さ───」正体だって分かって……んん?
「やっぱ誰か呼んでるって」
「周囲を見渡してみてください、誰も先輩の名前なんか呼んでませんよ?」
「もっと離れたところで呼んでるとか……」
「だとしたらとんでもない声量ですね」
「んー……」
いや、やっぱ聞き覚えあるぞこの声。最近は会ってなかったが確かに俺の記憶に残っ「──せ──さん────」ている……はっ!?
「く、くる……奴が来るぞ……!」
「はい?奴って一体───」
美咲からの問いに答える前に声が聞こえてきた方向を向く、すると案の定予想通りの生徒が予想通りの格好で此方に接近していた
声が徐々に大きくなってくると同時に迫るスピードまで増していき、その勢いは特急列車を想起させるまでに達していた
わたあめみたいにふわふわしてそうな髪、そしてお星様みたいにキラキラした髪飾りやバッジ達
それは、紛れもなく────
「我が友、宇沢ではないか────ふぉおおおおおっ!!?」
「酒泉さあああああああああん!!!」
開幕ぶっぱ、此方の台詞を待たずロケットずつきの勢いで飛び付いてくる宇沢さん
急接近してくるキラキラを前に俺の思考は既に次の手を考えていた、この間約0.n秒
(強…!速…!避…!無理!受け止める!?無事で…出来る!?否…死…!)
「ピンクゴレイヌ────違う!」
受け流すと宇沢さんが怪我する可能性がある!避けても宇沢さんが以下省略!
ならば答えは一つ!真っ向勝負だ!彼女の全身全霊を俺の全身全霊で受け止めてやる!
「うおおおおおっ!フェンス・オブ・ガイぐあああああああああっ!?」
お星様の様な宇沢レイサはそのままシューティングスター宇沢へと進化し、俺の予想していた威力を越えて軽々と俺の身体を吹き飛ばした
せめてこの人だけは守護らねばと身体を弾かれる直前に宇沢さんの両肩をガッシリと掴み、仰向けのまま吹き飛ばされた俺の身体をクッションに宇沢さんを安全に着地させた
一仕事終え、咄嗟に瞑ってしまった目を再び開けば視界にはいっぱいの青空とキラキラした宇沢スターの満面の笑みが広まった
「お久しぶりです!!!酒泉さん!!!」
「きらきらが……きらきらがみえる……」
「…………あの、とりあえず先輩から降りた方がいいのでは?」
「……はっ!?こ、これは失礼しました!久しぶりに会えたものでつい……!」
「大丈夫だと……アバンギャルド君がそう言っている……」
ふらつきながらもゆったりと立ち上がると宇沢さんが申し訳なさそうに頭を下げてきたので〝気にするな〟とだけ言っておく、この程度鉛弾に比べれば痛くも痒くもないわ
「ところで、この方も先輩のご友人ですか?…………かなり距離感が近そうでしたけど」
「いや、ただの友人じゃないぞ」
「……は?それって────」
「紹介しよう!彼女の名は宇沢レイサ!俺の大☆親☆友だ!」
「初めまして!酒泉さんの大☆親☆友の宇沢レイサです!!!」
「……ああ、ただの友人じゃないってそういう……」
ハイテンションで挨拶する宇沢さんを見て何故かほっと息を吐く美咲、次の瞬間には恨みを込めた様な瞳で俺を鋭く睨み付けてきた
「紛らわしいこと言わないでください、私はてっきり……」
「てっきり?」
「…………何でもありません」
「あの、酒泉さん?この方は……」
「ああ、こいつは新野美咲。俺の……えっと……知り合い?みたいな?キヴォトスの外から来たばっかで友達少ないから仲良くしてやってくれ」
「ややっ!外からの御来客でしたか!お任せください!この宇沢レイサ、海の底でも山の頂上でもご案内致しましょう!」
「あ、はい……」
「あー……俺と同じで身体はそんな頑丈じゃないからお手柔らかに頼む」
少々……少々?テンションに差があるものの拒むことなく差し出された手を握り返す美咲、これで縁が出来たな!(妖怪縁結び)
美咲の毒舌が発揮されるのは一部の相手だけ(主に俺)だろうし宇沢さんみたいな純粋な好意をぶつけてくる相手には優しく接してくれるだろう、つまり一見元気そうに見えて本当は繊細な宇沢さんの心を傷付ける心配も無し
「ところで酒泉さん!本日はどの様な用事でトリニティまで……はっ!?まさか酒泉さん、この後開催される〝スイーツ詰め合わせボックス争奪戦〟に参加するつもりで……!?」
「なにそれkwsk」
「古臭いですよ先輩……あと近いです」
とてもドキがムネムネさせられる素敵ワードについ反応してしまい咄嗟に宇沢さんに詰め寄ってしまった……が、美咲に服を引っ張られて即座に引き剥がされる
だって仕方ないじゃん……〝スイーツ詰め合わせボックス〟だぜ!?こんなん〝折川酒泉ホイホイ〟って名付けられてもおかしくないだろ!?
「あれ?知らなかったんですか?なにやら大型の公園の方で開催されるバトルロワイアルで優勝した人〝だけ〟に配られるとか……」
「バトロワ!?しかも一個限定!?」
「その代わりボックスの中身はトリニティ中の有名スイーツ店から集めた各店の看板スイーツが入ってるとか……」
「各店の!?」
風紀委員として働いている時に便利屋68が最高級A5ランク牛を賭けてバトルオークションに参加したという情報を入手した事があった、その時は〝そんなもんの為に暴れんなよ〟と思ったが……なるほど、少しだけ奴等の気持ちが理解できたかもしれん
俺だって現在進行形でバトロワ会場まで足を運びたがってしまっている、もし美咲が居なければ即駆け出していたかもしれん
しかし流石に後輩の身の安全よりスイーツを優先するほど俺の頭は糖分に犯されている訳ではないのでここは大人しく引き下がると……いや、待てよ?
「宇沢さん、その大会って何時から始まるんだ?」
「えっと……確か午後の三時からなので……ちょうど二時間後くらいですかね?」
二時間後……まあ、バスでも電車でも十分間に合うし美咲を家まで送ってからでも問題無いな
「よし美咲、早急に帰るぞ。俺は俺のやるべき事を見つけてしまった」
「ほんっとうに単純な頭してますね……別に帰る必要は無いでしょう?私は安全な所で待ってますから」
「いやお前、流石に一人にする訳にはいかんだろ……あんな事件があったのに」
「人気の多い場所なら大丈夫ですよ、それに往復分の交通費だって勿体無いですし」
まあ、確かにトリニティで暮らす生徒の気質はゲヘナと比べると比較的大人しい方ではあるし大衆の前で暴れるような馬鹿は限られてるだろうが……それでも可能性はゼロだとは言い切れないのがキヴォトスの怖いところだ
確実な安全を確保する為に俺としては絶対に美咲を一人にはしたくない、二度も傷付けさせてたまるかってんだ
「あのー……もしよろしければ私が美咲さんと一緒に居ましょうか?」
「宇沢さんが?その提案はありがたいけど……良いのか?」
「いえいえ!目の前で困っている人を助けるのも自警団の役目ですから!」
人気の多い場所でキヴォトス人と二人一緒に……これなら安心できるな
しかも護衛役はトリニティが誇るスーパースターの宇沢レイサ、彼女程の実力者ならそう簡単には負けないだろう、ていうかそもそもの話彼女が敗北してしまうほど戦闘が激化したのなら正実に連絡が行くだろうしどのみち美咲は安全だろう
「……よし!宇沢さん!美咲のこと頼んでいいか?」
「はい!お任せください!」
「……その、申し訳ありません。先輩の突発的な行動のせいでご迷惑をお掛けしてしまって」
「め、迷惑だなんてとんでもないです!私としてはむしろ酒泉さんのお役に立てて嬉しいですから!」
「う、宇沢さん……!」
やはり持つべきものは大親友、しかし美咲の言う通り俺のせいで迷惑を掛けてしまうのが心苦しい……あ、そうだ。
「宇沢さん、お昼はもう食べたか?」
「はい!先程、パトロールの合間に!」
「あーそっか……じゃあさ、一緒に食後のデザートでも食べに行かないか?」
「デザート……ですか?」
「ああ、世話になりっぱなしってのも申し訳無いしなんか奢らせてほしいんだ」
「い、いえいえ!私が自分から提案した事なのに奢ってもらうなんてそんな……それこそ申し訳無いですよ!」
「お願いしますレイサさん、どうか先輩に奢らせてあげてください……この人こういうの引きずってしまうので」
ナイスアシストだ美咲、そんな感情を込めて視線を送ってみるとジト目で返された
多分心の中で〝貸し一つですからね先輩〟みたいな事を考えているのだろう、俺だってお前の考えそうな事は分かってるんだからな
「う、うぅ……分かりました……で、では!この宇沢レイサ、まだまだ未熟な身ではありますが精一杯尽力させていただきます!」
「いや、こっちがお礼をする立場なんだから頑張らないでほしいんだけど……」
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トリニティのショッピングモール、そこの一階のフードコートに入ると早速飲食店の看板が目に入った
アイスクリーム屋にクレープ屋、ハンバーガー屋のシェイク系アイス、どれにしようかと悩んでいるとアイスクリーム屋の前で挙動不審な人物を発見してしまった
「先輩?買いに行かないんですか?」
「あ、ああ……いや……」
見覚えのあるその後ろ姿をぼーっと見つめていると美咲に急かされ、急ぎ足でアイスクリーム屋の方へと向かう
「サイズはスモールとビッグのどちらにしますか?」
「む?……じゃ、じゃあ……小さい方で……」
「はーいスモールですねー、段数はシングルダブルトリプルのどれにしますかー?」
「え?あ……えっと……一つだけの……」
「シングルですねー」
「あ、ああ……」
「容器はカップとワッフルコーンのどちらにしますか?ワッフルコーンの場合はプラス70円になります!」
「あ、えっと……ワッフルというのは……」
「こちらの写真のですねー」
「え、あ、で……ではそれで頼む」
「はーい!お会計300円になりまーす!」
「ああ……その……ハッピーアイスクリーム」
「……?」
「なっ……!?」
この店のシステムに慣れていないのか、それとも他の理由があるのか、その挙動不審な客はオロオロしながら財布を取り出して会計を……と思いきやその手を止めた
そして口を小さく開けて真後ろに立っている俺達に聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で小さく呟いた、これではレジの方に立っている店員さんに聞こえていないかもしれない
「会計の際に〝ハッピーアイスクリーム〟と店員に伝えれば期間限定で熊のキーホルダーが貰えると耳にしたのだが……ち、違うのか?」
「あ、ハッピーアイスクリームって呟いてたんですね。えっと、それは合ってるんですけどそれを言う際に両手でハートの形を作っていただく必要がありまして……」
「ハートを……こ、こうか?」
「はい!ありがとうございます!ハッピーアイスクリーム!」
照れ臭そうにハートの形を作る挙動不審者、すると店員さんが笑顔で同じ言葉を返しながらこのアイス屋のマスコットキャラクターである熊のキーホルダーを手渡した
それを受け取ると挙動不審者は〝よし……!〟と一つの仕事をやり遂げたかの様に拳を握りしめ、そして────
「これをミサキに────あっ」
「お久しぶりです、錠前さん」
「また先輩の知り合いでs……〝みさき〟?」
「あれ?今度は美咲さんの知り合いですか?」
「……ミサキだと?」
「はい?」
「む?」
「え?」
「ミサキ……ではないな」
「いえ!この方は美咲さんで合ってますよ!」
「え?」
「え?」