───ぐっ……くそっ!放せ!
「最近この辺りで鼠がウロチョロしていると耳に入れましたが………随分と珍しい鼠が侵入してましたね」
……は?ベアトリーチェ!?何でこんな所に……!
「……その名前を貴方に教えた事はないはずですが?」
っ……
「まあ、その事については後で聞かせてもらうとしましょう。さて、早速本題に入りますが……貴方ですね?最近アリウスのことについて嗅ぎ回っている少年というのは」
……だったらなんだよ、アリウスのトップが態々カタコンベを抜けてきてまで何をしにきた?
「トリニティともアリウスとも何の関係もない少年が、何故忘れ去られた歴史を調べているのかと気になりましてね………それに、単純に不愉快ですから」
………
「貴方をこのまま始末するのは簡単ですが……色々と新たな疑問が浮かんできました、一旦貴方を連れ帰るとしましょう」
素直に従うとでも?
「貴方だって理解しているのでしょう?────少しでも逆らえば簡単に殺されてしまうことぐらい」
………
「だからこそ貴方は先程私の名前をわざとらしく呼び、自身の持つ知識に私の興味を向けさせた………その場で殺されないためにも」
……そこまで分かっていたのか
「所詮は子供の考えることです………が、敢えてその考えに乗ってあげましょう」
………何が目的だ、俺の知ってる情報なんて大したことないかもしれないだろ
「ただの孤児院出身の少年がどうやって私の名前やアリウス自治区に繋がるカタコンベの存在を知ると?」
……いずれ抜け出してやるからな
「精々私の興味が失われないように、貴方の知識を必死に絞り出すことですね」
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一発の銃声と共に、少女が倒れる
白く美しい翼も、闇を照らす様に輝く髪色も、所々血の赤が滲んでしまっている
しかしそんな痛々しい光景など関係なく、アリウスの幹部はその少女に銃口を向け────
「っ!やめろ!」
────咄嗟に飛び出してきたサオリに妨害される
「どけ、第8分隊長」
「ヘイローを壊すつもりなのか!?やめろ!」
「ど、どうか……どうか、もうやめてください……うぅ……」
あまりにも悲惨な光景にヒヨリは涙を流すが、サオリはそんなヒヨリとは逆に怒りでアリウス幹部に突っかかる
「あいつは我々に抵抗したから当然だ。退かなければ、お前らも同じ目に遭うことになるぞ」
「ゲホッ…ゲホッ………笑わせないで……誰が……」
ボロボロになっている少女に軽く視線を向けると、その少女は先程まで痛め付けられていたにも関わらず、未だに心は折れていなかった
「っ!こいつ……よくも!」
「待て!!」
今度こそ心身共に叩き伏せようと幹部が近づく……が、その前にサオリが一つの提案をする
「……私が指導しよう」
「……指導?」
「………また無駄なことを」
何度も同じことを繰り返してきた自分達のリーダーに呆れたような視線を向けるミサキ
そんな視線を向けられても尚、錠前サオリという少女は目の前の出来事を見過ごせないのだ
「ヒヨリもミサキも私が指導した生徒だ、姫も同じく……皆、成績が良いだろう?だから任せてくれ、私が責任を持ってこいつを指導する」
「………そんな事を言っておきながら、本当はただそいつを助けたいだけじゃないのか?」
サオリの言葉を訝しむ幹部は、サオリの腕を払いのけて少女に近づき────
邪魔だあああ!退けえええええ!
「ガッ!?」
────突如、背後から跳び蹴りを食らった
「ぐっ……今の声は……やはり貴様か!折川酒泉!」
忌々しそうに酒泉を睨み付ける幹部だが、当の本人はとっくに走り去っていた
そしてその後を追うようにアリウス生達が向かっていくが、障害物をものともしない
「くそっ!見張りは何をやっているんだ!」
『こちら第6分隊!折川酒泉が命令違反を起こした!動ける者は全員奴を追え!繰り返す!こちら────ぐあっ!?』
『あの男、武器を持っているぞ!』
『他の連中から奪ったのか……!』
『狙うなら脚を狙え!絶対に殺すなよ!』
『不味いぞ!奴が向かった先は火薬庫だ!』
「チッ……おい、お前!今後は二度と我々の命令に逆らうなよ!」
幹部はそう言い残すと、先程酒泉が去っていった方へと向かって走り出した
「しゅ、酒泉さん……また暴れたんですね……」
「……まあ、別にいいんじゃない?そのせいで私達が罰せられたことは無いんだし」
「………」
アツコが無言で少女に肩を貸すと、その少女は騒動の元凶がいるであろう方向を見つめて小さく呟いた
「私と同じ人が……」
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くそっ……あいつら、必要以上に痛めつけやがって……
何が〝vanitas vanitatum, et omnia vanitas〟だよ………
精神年齢が中学二年生くらいの奴等がなんとなくカッコいいから意味も分からず使ってるだけだろ………馬鹿の一つ覚えみたいにほざきやがって……
「………あまり変なことは言わない方がいいと思う、バレたらまた〝指導〟されるから」
あん?誰………え?白洲さん?
「私のこと知ってるの?」
うえ?いや……その……あっ!噂で聞いたことがあるんですよ!幹部生に歯向かう命知らずがいるって!
「………貴方の方がもっと命知らずだと思うけど」
は、ははっ……それで?何でこんな地下牢にやってきたんです?
俺に会いに来たとか?
「うん」
あっ、本当にそうなんですね……でもなんで?直接会うのは初めてですよね?
「……聞きたいことがあって」
聞きたいこと?
「酒泉はどうしてアリウスに反抗するの?」
え?
「酒泉の噂は何度か聞いたことがある……どれだけ痛めつけられてもマダムに逆らい続ける、とんでもない命知らずだって」
「全ては虚しい………他の人達は皆、その教えに何の疑問も持たずに命令に従い続けている」
「そんな集団の中で……どうして自分の意思を貫き通せるの?」
どうしてって言われましても……俺、この世界が虚しいって思ったこと一度もありませんし……
何より………負けたくないんで
「……何に?」
んー……強いて言うなら全部……ですかね……?
「全部?」
アリウスの教えに従うのも嫌ですし他の連中と協力するのも嫌ですしあのオバさんに屈服するのも嫌です
アリウスに囚われたままなのも洗脳されるのも飼い慣らされるのも全部全部ぜーんぶ嫌です
「何ていうか……我儘な子供みたい」
子供ですからね
「……でも、少し安心できた。私は一人で戦ってるわけじゃないんだって」
……白洲さん、俺達は多分このアリウスだと〝はみ出し者〟だと思うんです
抗う姿は目障りで、発する言葉は耳障りで、誰も理解できない……そんな存在
でも、諦めずに抗い続ければいずれ白洲さんの思いは報われるはずです
白洲さんの思いを理解して、今までの辛い記憶を塗り替えてくれる……そんな人達と出会えるはずです
だから……その日が来るまで戦い続けてください
「………よく分からないけど、覚えておく」
あっ、それはそうと無茶しすぎないでくださいね
「それだけは人のこと言えないと思う」
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「………」
………
「………うぇへへ」
アズサがアリウススクワッドとして行動するようになってから三週間後、アズサと酒泉を含めた六人で他の隊と実戦形式の訓練を行うことになった
訓練開始の時間からはまだ時間が余っているものの、偶然演習場の近くにいたヒヨリと酒泉は既に準備を終えていた
「うわぁ……こんな物まで……」
………
「美味しそうですねぇ……」
雑誌の収集が趣味のヒヨリは、この前の廃施設での任務の時に拾い集めた雑誌を読んでいた
表紙には様々な料理が載っており、恐らくはグルメ系の雑誌であることが窺える
ヒヨリにとっては余程魅力的な内容だったのだろう、時々独り言が漏れでてしまっている
「いいなぁ……私達もいつかはこんな物を食べてみたいですねぇ……」
………なあ
「え?……あっ!す、すみません!夢中になりすぎてしまいまして……つい……」
いつの間にか立ち上がっていた酒泉がヒヨリに近づくと、ふるふると震えながら彼女を見下ろす
「その……うるさかったですよね……」
アンタ………分かってるじゃねーか!
「……ふえ?」
すると突然ヒヨリの両肩を掴んで笑顔で語りだす
「な、何がですか……?」
アンタらだって希望を持って良いんだよ!あれを食べてみたいだとか、あれをやってみたいだとか!
「そ……そうでしょうか?」
そうだよ!他にも何か食べてみたい物とかないのか!?どんどん語れ!
「そうは言われましても……」
その厚かましさを失うな!
「私、そんな風に思われてたんですか!?」
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「遅かったね、リーダー」
「すまない、少々マダムに呼ばれていてな……」
「………」
「そうか、もう準備は─────まて、ヒヨリは?」
「ヒヨリならあそこにいるぞ」
「ええ!?お肉が食べ放題!?デザートまで!?ドリンクも!?」
ああ!たらふく食えるぞ!
「ああ……なんて魅力的なお店なんでしょう……でも私なんかには一生縁の無い話ですよね……」
いいや!ある!いずれ俺が食わせてやる!
「ほ、本当ですか!?」
ああ!約束だ!槌永さんが希望を持っている限り、必ず約束は守る!
「えへへ……こんな世界でも光はあるんですねぇ……」
「……何があった」
「……さあ?」