「キキキッ!そうかそうか!例の計画は順調か!」
「そっすね」
「やはり私の計算は間違っていなかったか!」
「そっすね」
「引き続き頼んだぞ!」
「そっすね」
以前はどうでもよかった笑い声ですら今やすっかり不快に感じるようになってしまった、なんであの時の私はこんな奴に褒められただけで喜んでいたのだろう
ああ、あの時は別に自分がちやほやされればそれで良かったからか。でも今は違う、私はこんな奴より酒泉に褒められたいし酒泉に構われたい
「んん~!今日のコーヒーは一段と美味く感じるなイロハァ!」
「はぁ、そうですか……私は飲んでないので分かりませんけど」
「議長、コーヒーのお代わりでも入れましょうか」
「ほう!そこまで気が効くとはな!いいだろう!とびっきり美味いのを頼むぞ!」
自分の計画通りに事が進んでいるのがかなり嬉しいらしく、議長は椅子をバッタンバッタンと揺らしながら上機嫌に頷いた
酒泉を殺しかけておきながら呑気に笑っていられるその頭の構造が羨ましく感じ……ないな、こんな奴と同じ頭だと思われたくない
「ふふふっ……風紀委員共め!今に見ていろよ!万魔殿の権威の下に跪くその日が来るのを怯えながら待っているがいい!」
「そっすね」
「またマコト先輩が面倒臭いことに……風紀委員会の皆さんも気の毒ですねぇ」
気の毒だと思うなら止めればいいのに、まあ思ってるだけだしこの人にはそんな事をしてやる義理もないか
実際私も今まで何の疑問も抱かず議長の命令に従ってきたし人を責められる立場でもない
「そういえば議長、ちょっと聞きたい事があるんですけど議長はどうして折川酒泉を嫌がらせの対象に選んだんですか?」
「何、簡単な話だ。私はこれまで空崎ヒナを屈服させる為に様々な策を講じてきた……だが!ある日突然それらの策があまり効果を発揮しなくなったのだ!何故だと思う!?」
「折川酒泉が原因ですか」
「その通りだ!奴が来てから空崎ヒナの負担が今まで以上に軽減され、更には風紀委員全体の活力まで上がりはじめた!」
「つまりその元を疲れさせればいいと?」
「よく分かってるじゃないか!キキキッ!」
「そっすね」
やるではないかと褒められたけど全然嬉しくない、やっぱ褒められるなら酒泉に限るな
アイツもアイツで時々雑に対応してくる時があるけどそれでも基本的にはちゃんと相手してくれるし、なんなら雑に構われるのも好きだし
あれ?私って酒泉が相手してくれたらなんでもよくなってないか?まあいいや、楽しいし
「まあ……結果的に疲れさせるどころか暫く仕事が出来なくなるレベルの重傷を負っていたがな!」
「はぁ……マコト先輩、あまり嬉々とした表情で語らないでください。風紀委員長に聞かれたら半殺しどころじゃ済みませんよ」
「キキキッ!キーキッキッキ!」
「喜びすぎでしょう……坊主憎けりゃになってますよ」
キーキーキーキーうるせえな、猿かよコイツ
まあ、こんな笑い声を間近で聞くのも今日で最後になるし別にいっか。今のうちに好きなだけ笑っておくといい、すぐにでも笑えない面にしてやるから
「それにしてもまさかここまで計画が上手く進むとはな……お前に頼んで正解だったぞ!」
「そっすね」
「やはり私の目に狂いはなかったな!」
嘘です!全て嘘です!貴女の目めちゃくちゃ狂いまくってますよ、なんなら貴女の部下あっさりと籠絡されてますよ
でもまあ、コイツが私を嫌がらせ係に任命してなかったら酒泉とあそこまで仲良くなれる機会は永遠に訪れなかったかもしれないしそこだけは感謝してやらんでもない
「そっすね……あ、お湯沸いたんで淹れますねー」
「ああ、頼む……ん?おいおい、そんな上から注ぐとお湯が跳ね────」
「おらっ」
「熱っっっづう゛う゛う゛!゛?゛」
「……は?」
それはそれとしてムカつくのでやることやるけど
「ほーら、あったかいコーヒーですよー」
「あづっ!?おまっ……これお湯……あづぅ!?熱い!?やめあつぅ!?」
「じゃばじゃばー」
「ぐぅおおおお!?熱っ……熱っじぃ!?あっっっっ!!?」
突然の行動に唖然と佇んでいる棗先輩を無視して電気ケトルに入った熱湯を議長の頭の上からわちゃちゃふぁいやーしてやると、議長は椅子の上でじたばたと暴れながら抵抗する
その際に椅子から思いっきり転げ落ちてしまっていた、痛そう(他人事)
「きっ……貴様あああああああ!!!これは何の真似────ぷぎゃらっ!!?」
起き上がって何かを叫ぼうとした議長の顔面目掛け、今度は空になった電気ケトルを全力で投げつける
ちょうどど真ん中にヒットした事で鼻の辺りが真っ赤になっている、お似合いですよ議長様
「きっ……きひゃま……よくもわらひのはなを────ぬおおおっ!?」
まだ何か喋ってる途中だったけど聞いてやる義理はないので胸ぐらを掴んで此方に引き寄せる
いつも風紀委員会の話を聞いてこなかったくせに自分の時だけ文句言わないでほしい
「な、なんだ!?これ以上何を────」
「すぅ……はぁ……」
「お、おい待て!?なんだその右手は!?何故握りしめている!?」
「右ストレートでぶっとばす右ストレートでぶっとばす真っすぐいってぶっとばす真っすぐいってぶっとばす右ストレートでぶっとばす」
「どう考えても殴るつもりだよなぁ!?どう見ても殴る直前の行動だよなぁ!?お、落ち着けぇ!一体私の何がお前の気に障ったと────ボギュッッッッ!!?」
奴の顔面真正面ど真ん中に私の誇りと魂とプライドと怒りと恨みと辞表とその他諸々を込めた拳を叩きつけてやると、議長は勢いよく後ろの壁に激突して近くの物品を巻き込みながらだらりと前のめりに床に倒れ込んだ
私は別に気に入らない奴をぶん殴ったところで拳や心が痛んだりするタイプの人間ではないので特に何も感じない、むしろ心地好さすら感じる
本当はこのままボゴォボゴォボゴォって連続で殴りながら〝有難ッス…オレパンデモ辞めます〟って言ってやろうかと思ったけど今ので大分スッキリしたしこれで勘弁してやろう
「………は!?ちょっ……な、何してるんですか!?」
「あ、棗先輩。私今日でここ辞めるんで」
「にゃ……にゃんれ……」
「それ処理しといてくださいね、じゃあこれで」
倒れ伏したまま舌足らずに尋ねてくる議長様兼〝元〟上司を見下ろし、返答する訳でもなく上からぽいっと辞表を雑に落とす
特に別れの挨拶をしたい相手とかもいないしさっさとここを出よう、そして廊下に出た瞬間全力ダッシュして真っ先に酒泉のところに向かってやろう
あ、でもそんなことしたらアイツに〝緊急時でもないのに廊下を走るな〟って怒られるかもしれないな……まあでもそれはそれで向こうから声掛けてもらえるし別にいっか
「んじゃ、お世話になり……いや別にそこまで世話になってないか、とりあえずお疲れ様でしたー」
「いやいやいや、これだけやらかしておいてそんなあっさり帰ろうとされても……先ずはこんな事をしでかした理由から教えてくださいよ、このままだと誰に何をどう報告すればいいのか分からなくなるじゃないですか」
「お、ポテチ発見」
「それ私のなんですけど、勝手に持っていこうと……その場で開けないでくれません!?」
「うめぇ」
バリボリバリボリしながら近くに置いてあったポテチを貪り食う、仕方ないので今まで働いてきた分の給料はこれで我慢してやる
さーて、あまりしつこく質問責めされるのも面倒だしさっさと────
「な……なにこれ!?なんでマコト先輩が倒れてるの!?」
「あ」
「イブキ!」
先程部屋を出ようとした際に扉を開けっぱにしていたせいか、扉の隙間からつい今到着したであろうロリっ娘が顔を覗かせている
そして、その視線の先には散らかったデスク周りとそこで倒れている議長の姿が
「だ、大丈夫!?マコト先輩、どこか怪我したの!?」
「いぶきぃ……にげろぉ……そのおんなはきけんだぁ……」
失礼な、危険度で言えばアリウスと繋がってた奴の方がどう考えても圧倒的に上だろう
あれ?そう考えたら私って自校の裏切り者を罰した正義のヒーローなのでは?困った、またちやほやされる理由が出来てしまった
しかしそれを周囲にひけらかす様な真似をするつもりはない、だって酒泉は議長とアリウスの繋がりをネタに万魔殿を脅しているのだからそれをバラしてしまえば酒泉の手札が減ってしまう
あ、でも議長をぶん殴った事を伝えたら酒泉が私を褒めてもっと沢山構ってくれるかも……ないな、アイツの事だし〝俺のせいで手を汚させてしまった〟とか勝手に思い悩むに違いない
「き、危険?どうして?あの人も万魔殿の人だよ?イブキの先輩だよ?」
「えっとですね……それは……彼女がこの状況を生み出したというか、彼女がマコト先輩をぶん殴ったからこんな状況になったと言いますか……」
「……え?」
純粋無垢の愛されガール、丹花イブキ
そんな彼女に身内でのゴタゴタを話すのは気が引けるのか棗先輩はボソボソと歯切れ悪そうに事情を説明する
すると、丹下ちゃんは信じられないといった表情で私を見つめてきた
「う、嘘だよね?そんなことしてないよね?だって、先輩はお腹を空かせたイブキにプリンを届けてくれるぐらい優しい先輩だもんね?」
それは議長に命令されたから届けただけです、はい
ていうかこの子、私との関わりなんてそれぐらいしかなかったにも関わらずこんなモブの事も覚えていたのか……
万魔殿には勿体無いくらいの良い子じゃないか、もう私には関係無いけど
「いや?本当だけど?」
「そんな……な、なんでそんな酷いことしちゃったの?暴力はいけないことなんだよ?」
「丹花ちゃん、確かに議長が怪我をしたのは私の責任だ」
「で、でしょ?だからマコト先輩にあやまろ?それで仲直りしよ?イブキも一緒にごめんなさいするから────」
「だが私は謝らない」
「────え?」
「ちょっと!イブキの前でなんて事を……!」
丹花さんに対する私の態度が気に入らなかったのか棗先輩が私に詰め寄ってくる、それでも私は態度を変えるつもりはない
だって私、丹花ちゃんの事はあまり興味ないし。万魔殿の大多数はこの子にメロメロだけど私は別に好きでも嫌いでもないし
なんなら私よりちやほやされてるからちょっと対抗心を抱いていたまである……今?今は別にどうでもいいよそもそも丹花ちゃんに罪はないし今は酒泉が構ってくれるし
それにしても〝暴力はいけないこと〟か……言われてますよ風紀委員を亡き者にしようとした議長様ー
「な、なんで……?このままだと喧嘩したままになっちゃうよ……?」
「謝罪するようなことなどした覚えがない……」
「お、お願い!仲直りしよ!イブキの分のプリンあげるから!それでマコト先輩と一緒に仲良く食べよ!?ね!?」
「ホッホッホ!DA☆ME」
「うぅ……ひっぐ……なんでぇ……!」
「────っ、いい加減にしてください!」
自分に正直に生きる、それが私のモットー……なのだが、それを貫きすぎたせいで一人の幼い子供を泣かせてしまった
そしたら案の定怒りを爆発させた棗先輩が丹花さんを抱き締めながら睨んできた
いいさ、お前らはそうやって丹花ちゃんを甘やかしてろよ。その代わり私は酒泉を優先するし酒泉に構ってもらうから
「万魔殿の議長に対する突然の暴行、具体的な理由も明かさない辞表の提出……先程から貴女の行動は全て目に余るものばかりですよ」
「マジすか、じゃあ議長様が度々行ってる風紀委員会に対するただの嫌がらせは目に余らない行動なんですね」
「まこどせんぱいは……そんなごどしないもん……ぐすん」
「え?もしかして丹花ちゃんって何も知らされてないの?えっと……実はな?丹花ちゃんの先輩は風紀委員長である空崎ヒナに対して────」
「────っ……待てぇ!辞表なら私が処理する!だからさっさと出ていけぇ!」
「あ、起きた」
私が親切心で丹花ちゃんに事実を伝えようとすると議長が突然息を吹き返したかのように起き上がり、必死の形相で叫んできた
「っせバーカ!言われなくてもそうするわ!やーいやーい!おまえらの議長うんこたれー!!!」
「ま゛こどせんぱいはう゛んこたれじゃないも゛ん!」
「イブキ!そんな言葉遣いをしてはいけません!貴女もイブキの前でなんて事を言うんですか!」
「お尻ぺーんぺん!あっかんべー!」
「やめろぉ!イブキの前でパンツを晒すな!それと尻を叩くなぁ!」
「お前らの議長の頭羽沼マコトー!」
「貴女……それは流石にライン越えですよ……!いくら相手がマコト先輩だからって〝頭羽沼マコト〟は言い過ぎです!」
「お前それ……トドメ……」
「ばーかばーか!滅びろ万魔殿!!!」
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好き放題言ってから勢いよく部屋を出た後(ついでに棗先輩のお菓子を幾つかかっぱらった後)
自由の身になった事への解放感か、私の身体は今までで一番軽かった……ような気がした、この調子で廊下を走ってしまおうか
向かう先は当然アイツのところ、まず一番にアイツに報告してやろう
────ん?なんか廊下を走る音が……ってアイツかよ!?
後ろ姿を見つけた、その瞬間に一度立ち止まってから一気に力を込める
瞬発力なら誰にも負けん、絶対逃がさんぞ酒泉
────おいおい、緊急時でもないのに廊下を走るなよ……お前が転んで怪我したらどうsふおおおおっ!?
喋ってる最中の酒泉に向かって一直線に駆け出し、その身体に勢いよく抱きつく
すると、私を支えきれなかった酒泉は私の身体と後頭部をしっかりと抱き締めながらそのまま後ろに倒れ込む
────て、てめぇ!?いきなり突進してくんじゃねえ!?お前がキヴォトス人だからって怪我しないとは限らな────
「万魔殿辞めた」
────…………ひょ?
「だからこれまで以上に構え」
私の要求を押し付けながらついでにぐりぐりと胸元に顔も押し付けてやると、酒泉はポカンとしながら間の抜けた声を出した
これからは嫌がらせとかそういうの関係なく酒泉と遊べる、そう思うと身体を抑え切れなかった
「……あ、そうだ」
ついでにサラシも外しとこう、そもそも私がサラシを着け始めた理由は万魔殿で働いてると戦闘行為に巻き込まれる事があるからだ
敵の攻撃を避けたり敵を追いかけようとする度にずっと〝この重り邪魔だな〟って思ってたんだよな、まあそれ以外の時は〝ふっ……貧乳共め〟と優越感に浸れるし得する事もあるんだけど
でも万魔殿を辞めた後ならそういうの気にしなくてよくなるしこんな窮屈なのさっさと外してしまおう
「しゅるしゅるーっと」
「あ、あの子……こんな廊下のど真ん中で酒泉君を押し倒して……!」
「しかも服まで脱ごうとしてない!?一体ナニするつもりなのよ……!?」
「そりゃもうナニしかないでしょう!?」
この後めちゃくちゃ酒泉に怒られた、なんでだ
構えちゃんは人前でお尻ぺんぺんできるくらいには大胆すぎる子です、でも酒泉君の前だとパンツを出す直前で何故か急にやめてしまいます
どうしてかは分かりませんが