普通川君
〝平凡〟……特に優れた点もなく、並なこと
〝普通〟……当たり前で、ありふれていること
────……まあ、どっちも趣味の為だけにブラックマーケットに侵入するような生徒が自称するべき言葉ではないわな
「うっ……」
辞書サイトを閉じてジト目を向けながらそうぶつけてやると、目の前の少女は言葉を詰まらせながら目を泳がせる
この少女は自分のことを平凡だの普通だのとよく自称するが、あまりにもアウトローすぎるその生き様は誰がどう見ても平凡にも普通にも見えないだろう
────阿慈谷ぃ……お前、そろそろ自分が普通からかけ離れていってる事に気づいたらどうだ?
「そ、そんな事ありません!私は普通です!」
────普通の人は自分の身を危険に晒してまであんなアへ顔バードなんかに夢中になったりはしませーん
「ペロロ様です!そんなひっ……卑猥な名前じゃありません!」
名前なんて知るか、ペペロンチーノ様でも幼女ペロペロ様でもどっちでもいいわ
ハッキリ言ってあんなヤベェ顔した鳥の名前なんて覚えたくもない、俺はあの鳥を入手する為にブラックマーケットに行こうとした阿慈谷を連れ戻そうとしてとんでもない目にあったのだから
命懸けの追いかけっこはもう懲り懲りだ
「むぅ……どうして酒泉君は昔からペロロ様を受け入れてくれないのでしょうか……こんなにも愛らしいのに……」
────だって……ヤベェ薬キメてそうなヤベェ顔してるし……
「ペロロ様はそんな事しません!」
だんっ!と机に両手をついてキレる阿慈谷、その際に放課後の教室内に残っていた生徒達の視線がチラチラと向けられるがお構い無しに熱弁する
「いいですか!ペロロ様はそんな邪な世界とは無関係なキュートなキャラクターで……」
────この顔でキュートは無理があるって……ぜってーラリってんだろ……
「ラリってません!正常です!この表情がデフォなんです!」
────えぇ……このどこか狂気を感じる表情が……?
阿慈谷が俺の机の上に置いたペロロ様のストラップを手に持って改めて確認してみる
それぞれ右上と左上に寄せられてる両目、嘴から飛び出てるピンクの舌………うーん
────ぶっさ、コミュ抜けるわ
「あはは……楽しかったですよ、酒泉君との学園生活」
────え?俺殺されるの?
満面の笑みを浮かべる阿慈谷、その笑顔は普通とも平凡とも程遠い美少女の顔だ
……だというのにどうしてこんなにも恐怖と寒気を感じるのだろうか、冬はまだまだ先だというのに
────なぁ……この前モモフレの映画に付き合うって約束したけどさ、その映画の主役ってコイツなんだろ?やっぱ観に行くのやめね?
「だっ……駄目ですよ!今回の前売り券には特典としてフライドチキンのコスプレをしたペロロ様と目玉焼きのコスプレをしたペロロ様が付いてくるんですから!二人で観に行かないと揃えられないじゃないですか!」
────目玉焼きはともかくフライドチキンのコスプレはペロロ的にオーケーなのか……?
自虐ネタ的なあれか?それとも公式は本気でこれが売れると思っているのか?……売れるんだろうな、一定数のファンはいるみたいだし
まあ、俺は昔から阿慈谷の付き添いで観に行ってるだけだが……未だにキャラクターとか世界観の設定とか覚えられていない、前世含めてガチで興味ない
……が、映画の誘いを断ると滅茶苦茶落ち込むので仕方なく毎回受け入れている。そんなにアヘアヘラリバードが好きになったのか、アジトラマン
「でっ、ですから今回も一緒に……」
────わかったわかった、今回もちゃんと付き添ってグッズ集め手伝うから……その代わりお前もいつもの付き合えよ?
「は、はい!任せてください!」
実は俺も特撮映画を観に行く時は阿慈谷に付き合ってもらってたりする、理由は阿慈谷と同じく映画の特典目的だ
今回の映画の主役は二人いるのだが、その二人とも映画で新フォームを貰っている。更には映画の特典もその新フォーム達の変身に必要なアイテム……という事は当然二人分の前売り券を買う必要がある訳で
それ以前の映画も特典がランダムに封入されてたりと一回観ただけじゃ全部揃わないパターンとかあったのでそういう時は阿慈谷に協力してもらっていた
────……あ、でもお前あっちの方は大丈夫なのか?
「あっち?」
────ほら、補習授業部。テスト期間とか被ったりせんの?
「あ……」
思い出したかのように声を溢す阿慈谷、恐らく俺に言われるまで忘れていたのだろう
補習授業部、それは成績の悪いおバカちゃん達に勉強させる為の部活……というのが表向きの設立理由
本当はトリニティの〝裏切り者〟を炙り出す為に……または〝裏切り者〟が見つからなかった場合箱ごと捨てる為に設立された部活
……みたいな理由だったはず、前世では周りに合わせてなんとなくブルアカやってただけだからストーリーに関してはうろ覚えだ
「そ、そういえば忘れるところでした……確か公開日がテスト期間と被っていた気が……!」
────……まあ、最悪公開初日じゃなくてもいいんじゃね?予定なんていつでも開けとくからよ
「え?い、いいんですか?」
────まあ……どうせ暇だし
「あ……ありがとうございます!」
俺は阿慈谷と違って何の部活にも入ってない、一年の頃は正実に居たけど学年が上がると同時に辞めちゃったし
今は適当にバイトしながら適当に学園生活を楽しんでいるだけのごく普通の一般学生だ、阿慈谷も普通を名乗りたいなら俺を見習えよ
────……やっぱ普通じゃねえよなぁ
「ま、またその話に戻るんですか!?私は誰がどう見ても普通ですよ!?」
────ねえって、こんな主人公属性放ちまくってる女が普通なわけねえ
確かストーリー上でもめっちゃ主人公らしい事をしてた気がする、途中から〝あれ?先生空気になってね?〟って思ってたもん
……あ、先生で思い出したけどもうすぐオデン条約編じゃん。どんなストーリーだっけ、確かアリウスが〝ばにたすばにたす〟とか言いながらミサイルぶっぱして……みたいな内容だったか?
────オデン条約編……大変そうだな……
「おでん……ですか?まだ時期じゃないと思うんですけど……」
────んなこたぁない、おでんはいつ食っても美味いぞ
「美味しいには美味しいですが……頂くには少々時期が早すぎるかと……」
────……やべぇ、おでん食いたくなってきた。阿慈谷お前今日暇?
「え?えっと……はい、補習授業が終わった後でしたら……」
────じゃあ一緒におでん食いに行こうぜ、屋台探してさ
「うぇ!?屋台のですか!?この辺りには無かったような……」
────じゃあ俺が作ってやるから俺の寮に来いよ、おでんパーティーしようぜ
「………………はい!?」
鍋はある、材料は……帰りに買ってくればいいか
やっぱおでんと言えば大根と餅巾着だよな、この二つは多めに買っておこう
「あ、あの……酒泉君?それは放課後私一人で酒泉君の寮部屋までお伺いする……という事でしょうか?」
────ん?そうだけど……ああ、二人だけで食うのが気まずいとかなら別に誰か誘ってくれても構わないぞ?なんなら俺が後輩達呼んで……
「い、いえ!別に気まずいとか嫌だとかそういう訳ではありませんから!……ありません……けど……」
なんだ、スイーツ繋がりで知り合った喧しい後輩達でも呼んでやろうかと思ったけどその必要は無さそうだな
特にあの子を阿慈谷と合わせて本物の〝普通〟というやつを分からせてやろうかと思ってたのだが……いや、冷静に考えたら空からチョコミント降らせてくる奴も普通じゃないな?
やはり普通枠は俺だけか……まあいい、呼ばなくていいならいいで俺の冷凍庫の中のアイスが減らずに済むし
あ、そうだ。おでんのついでにデザートも買っとくか……ん?
────なあ、そもそもどうしておでんの話になったんだっけ?
「え?えっと……確か酒泉君がおでんがどうのって……」
────……あ、思い出した。オデン条約編だ
「……それ、もしかしてエデン条約のことを言ってるんですか?」
────……そんな名前だっけ?
「それは私の台詞ですよ!?」
そうだそうだ、エデン条約だ。めっちゃヤバい事件を先生と補習授業部が解決するってやつ、あとゲヘナの人達もいたっけ
んで確かその大活躍する補習授業部のメンバーが阿慈谷と……えっと……とりあえずエッチなのは駄目な人が居た事は覚えてる
思い出せないもんはしゃーないだろ、十何年前の記憶だと思ってる
別にハマってた訳でもないゲームの記憶なんてそんなもんだろ
「……で、エデン条約がどうかしたんですか?」
────いや、もうすぐだなーって
「驚きました……流石の酒泉君でもそういうのに興味があったんですね……!」
────お前って時々俺に対してだけ当たり強くなるよな
まあ、興味が無いと答えたらそれは嘘になる
だって舞台はトリニティだぜ?最悪の場合、俺も戦火に巻き込まれるかもしれないし……うん、阿慈谷には悪いけど調印式当日はどっか別の自治区に遊びに行ってよう
阿慈谷は多分ストーリークリアに必須なキャラクターとかそういうのだと思うから頑張ってくれ、でえじょうぶだ多分死なないから
……死なないよな?
────……大丈夫だろ、ここブルアカだし
「ブルアカ?……どういう意味の言葉ですか?」
────ブルーアーカイブ、ブルーは青でアーカイブは……まあ……記録?映像?みたいな意味だったか?つまり青の記録で……青春みたいな?
「へぇー…なんだかとっても素敵な響きの言葉ですね!」
そうだ、ここは生徒達が青春を繰り広げる透き通った世界なんだ
だから生徒が死ぬなんて事はない……はず……いやプレ先世界で普通に生徒死んでたしそもそもアビドスでも誰か死んでたわような気がするわ
……ま、まあ……きっと何とかなるよ、それか何とかしろ遊作
「それにしてもこんな素敵な言葉を知ってるなんて今日の酒泉君は酒泉君らしくないですね!」
────もしかしてペロペロ様馬鹿にしたこと怒ってる?
「ペロペロ様?」
あっ
普通川酒泉君メモ
・ガチで普通、目も普通、推しもいない、特に売られたりせず本編とは別の普通の施設で育った、あんまブルアカやってない、ストーリー内において特に重要なポジションに立っているわけでもない
・一年時は正実にいたけど二年になると同時に辞めちゃった。理由は自分にはあんま合わないと思ったから、特に深い理由があるわけではない、マジでそれだけ
・正実で一番仲が良かった生徒はイチカ、二人でギター弾いてた時もあった、酒泉が正実辞めた後は糸目でチクチクと責めてくるけど
・正義感とかはあんまない、別に悪い奴ってわけでもない
・スイーツ同盟を結んでいる四人の後輩達がいる、時々寮前でその四人(チョコミントガールだけは止めようとしてくれた側)にたむろされてる、帰宅時を狙われてスイーツをたかられる、そのまま家に上がり込まれて勝手にゲームで遊ばれる
・ひふーみとは小学生からの付き合い、ひふーみの知らない友達が酒泉君と一緒にいたらちょっとだけモヤッとされると思う
・幼少期に前世の人生経験を活かして周りの大人達の仕事を支えたり年上の生徒達に勉強を教えたりしてたら〝神童〟だの〝天才〟だのと持ち上げられ、期待や責任を押し付けられそうになったからすぐ普通の子供レベルに合わせた。その辺の危機管理だけは人一倍である
・期待で押し潰されそうになった時はその度に「うっせー勝手なイメージ押し付けんな庭にミント埋めんぞ」で黙らせてきた
・初恋の相手はトリニティで売ってた抹茶パフェ、その日のうちに美味しく頂きました(意味浅)
・マジで原作関わらなすぎて今がどういう時期なのか全く把握できてない、なんなら先生が女であることも噂を聞くまで知らなかった、ついでに家の鍵を閉め忘れていることも知らない、ついでのついでに保存していた限定スイーツをナツに持ち帰られてることも知らない