〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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平凡川君

 

 

 

『やだよ、お前らが自分でやりゃいいじゃん』

 

 

ちょっとだけ意地悪な男の子だな、子供心ながらにそう思いました

 

彼は周りの人達を助けてもなお余裕を保てるくらいに優秀で、そんな彼の力を借りようと声を掛ける生徒さん達は沢山いました

 

 

『なんで俺がクラスリーダーなんてやらなきゃいけないんだよ』

 

『それは……ねえ?』

 

『ほら、酒泉君ってめっちゃ優秀じゃん。だからぴったりかなーって!』

 

 

上に立つ能力を持つ者が上に立つべき、それは誰もが考える当たり前の思考であって何も可笑しな話ではありません

 

しかし彼はそれを平然と蹴り返しました

 

 

『じゃあお前らがやればいいじゃん』

 

『私達はほら……酒泉君ほど頭は良くないからさー』

 

『本当は私達も代わってあげたいんだけどねー』

 

『じゃあ代わってくれよ』

 

『そこはほら、さっきも言ったけど私達は酒泉君ほど優秀じゃないから────』

 

『じゃあ勉強してくれ、代われるなら代わってあげたいんだろ?可哀想な折川酒泉君の為に優秀になってくれよ』

 

『……い、いや……そんな時間も無いからさ……』

 

『じゃあお前らが優秀になるまではクラスリーダー勤めてやるから、お前らが優秀になったらすぐ俺と代わってくれよ』

 

『……え、えーっと』

 

たじたじとする生徒達を容赦なく言い負かす男の子、彼の態度は何が何でも仕事を増やしたくないと言っている様子でした

 

自分の意見をハッキリ伝える、相手が何人だろうと自分が取り囲まれてようと周囲の空気など関係無く

 

 

『ハッキリ言わせてもらうけどさ、お前ら俺に面倒事押し付けようとしてるだろ』

 

『べ、別にそんなつもりは……』

 

『じゃあ別に俺に頼む必要ないだろ、面倒じゃないなら自分達でやればいい話だし』

 

 

彼の言葉が図星だったのか、彼を取り囲んでいた生徒達は誰も反論を返そうとはしない

 

すると彼は〝やはり〟と言った様に面倒そうに溜め息を吐きました

 

 

『あのな?期待されてるところ悪いんだけど俺はお前らが思ってるほど優秀な人間じゃないんだよ。ただ人よりちょっと多くの事を知ってて人よりちょっと心に余裕があるだけの普通の人間……それが俺なんだ』

 

『そりゃ一時は勉強とか運動とか色んな事に全力で取り組んで実際に結果とかも残したけどさ……それだって煽てられたいからじゃなくてただ子供らしく何事にも精一杯頑張ってただけだ、天才でもなけりゃ神童でもない』

 

『……だから……まあ……あんま期待とか責任とか背負わせようとしないでくれ、出来れば普通の生徒と同じ様に接してくれるとありがたい』

 

『勿論、こんな俺の事が気に入らないなら無視するなり罵るなり好きなようにしてくれて構わない。逆にこんなありふれた普通の生徒とも仲良くしてくれるような奴は……その、仲良くしてくれると嬉しい』

 

 

一切怖じ気付く事なく自分の意見を言い切った男の子

 

それから少しの間気まずい空気が続きましたが、酒泉君の言葉から数秒後、ばつの悪そうな顔で一人の女の子が頭を下げていました

 

 

『……ごめんなさい!私、酒泉君の気持ち考えてなかった!』

 

『私も……その……ごめん、酒泉君にばかり仕事を押し付けようとしちゃって』

 

『いや、俺の方も悪かった。ちょっと言い過ぎたかもしれん……うし、詫びと言っちゃなんだがクラスリーダーはやっぱ俺が引き受けるよ』

 

『え?いいの?』

 

『おう、その代わり一人じゃ出来ない事とか一人でやりたくない面倒事とかあったらばんばんお前らの手も借りるからな……強制的に』

 

『えー!?無理矢理ー!?』

 

『当たり前だろ、俺一人に責任を押し付けられても困るからな……一蓮托生だ、あんたらはここで酒泉と死ぬのよ……!』

 

『私、クラスリーダーの仕事で死にたくないんだけど……』

 

 

気まずい空気がずっと続くかと思われましたが、彼の軽い冗談のお陰で教室内はすっかり元の空気に戻っていました

 

自分の心を堂々と晒し出す、たったそれだけの事で彼も彼の周りの生徒達も全員が笑い合える空間を作り出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっぱり凄いよね、浦和さんって』

 

『うん、このまま行けばティーパーティーのトップも夢じゃないよね』

 

『神童ってああいう人の事を言うのかなー』

 

『あの子が居ればトリニティの未来も安泰よね』

 

『お願いします!是非ともシスターフッドに……!』

 

『浦和ハナコさん、少々お時間を頂いても?安心してください、今からする話は貴女にとっても悪い話ではないはずです。もし受け入れていただければそれなりの……いえ、それ以上の地位を保証しますから』

 

『彼女をなんとしても此方の分派へ!あの頭脳があれば我々は今よりもっと……!』

 

 

 

そんな光景を目にしてから何年経ったか、今更当時の記憶が甦る

 

私も彼と同じ様にもっと自分に正直になっていれば、今頃違う未来を歩んでいたのでしょうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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────むむっ……

 

「……」

 

────ぐっ……

 

「……先に言っておきますが、もう〝待った〟は無しですよ?」

 

 

 

余裕そうな表情で紅茶を飲んでいる女と苦しそうに歯を食い縛っている男がチェスで勝負をしている

 

女の方の名は桐藤ナギサ、トリニティのトップであるティーパーティーの一人

 

一方の男は折川酒泉、トリニティで生活しているだけの凡人の一人だ

 

────……よし、これでいい

 

「では……はい、どうぞ」

 

────あっ

 

 

酒泉が動かしたポーンが一瞬でビショップに奪われ、その斜め後ろの酒泉のルークまで脅かされる

 

酒泉がルークを移動させれば、そのルークはナギサのナイトによってあっさり奪われる

 

 

「……それで?お次は?」

 

────むむむっ……ちょっと長考しますね……

 

「ええ、お好きなだけどうぞ……私も酒泉さんはじっくりとお話したかったので」

 

 

にこりと微笑むナギサ、しかしその笑みに友好的な感情は込もっていない

 

今日この日まで二人には全く接点など存在しなかった……そう、酒泉がナギサに呼び出されるまでは

 

 

(折川酒泉……ヒフミさんと同じく警戒するに値する生徒の一人、まさかこんな人物を見過ごしていたとは)

 

 

補習授業部に集められた四人の生徒、彼女達とは別に新たな容疑者として上げられたのが折川酒泉だった

 

ヒフミと長らく行動を共にしてきた彼が疑われるのは当然の事、補習授業部に入れられていないのは単に成績が普通で特に表沙汰になるような問題も起こしていないからである

 

 

(しかし……)

 

 

今一度折川酒泉の顔を見る

 

普通の少年の顔で、普通に苦しんでいる

 

このチェスでの勝負は折川酒泉の戦略眼を見定める為に始めただけだが、特に優れていると思わされるような動きは見せていない

 

 

(どこまで行っても普通……いえ、この勝負に関しては普通以下ですね)

 

 

桐藤ナギサ、被害はポーンが2体とナイトが1体奪われただけ

 

折川酒泉、残りの駒はポーン2、ルーク1、ナイト1、キング1

 

初心者ですらここまで酷い戦況にはならないだろうに、折川酒泉はチェスの経験者でありながら惨敗を喫する寸前だった

 

 

「時に酒泉さん、貴方は何故御自分がお呼びされたのか理解していますか?」

 

────ぐぬぬぬっ……うぇ?呼び出された理由?さあ……あっ、もしかして俺が何か失礼な事をしてしまったとか……

 

「ふふっ……大丈夫ですよ、その様な事はされていませんから……私はただヒフミさんのお友達とお話してみたかっただけですから」

 

────あ、なんだ……ビビらせないでくださいよもう……んで?話したい事って?

 

「それは……普段のヒフミさんの様子についてです」

 

 

折川酒泉の安堵したような表情、恐らく演技ではない

 

視線が泳いでいないかも確認……変化はない

 

 

(隠し事は無さそうで────いえ、まだ断定するには情報が足りませんね)

 

 

もし日頃からの酒泉の様子を窺えば〝自分が疑われているかもしれない〟と悟られてしまうかもしれない

 

しかしヒフミの様子を尋ねれば何かを悟られたとしてもそれは〝桐藤ナギサが阿慈谷ヒフミを疑っているかもしれない〟という考えにしか至らない

 

もし酒泉が犯人でなければ可能な限り正直に答えてくれるだろう……それはそれで単純な情報源として役立つ

 

もし阿慈谷ヒフミがトリニティの裏切り者で折川酒泉がその協力者だったとしたら、どこかしらのタイミングで阿慈谷ヒフミに警告しに行くだろう……ならば追手を付けてそこを押さえる

 

桐藤ナギサは全てを疑う────幼馴染みを除いて

 

 

「ヒフミさんはクラスではどの様な立ち位置なのですか?」

 

────どの様なって……まあ、普通に友達と話して普通に遊んでますよ?特に変わったところはありません

 

「普通……」

 

 

〝クラスでは〟……そう聞かれた酒泉は学園内での阿慈谷ヒフミの行動を教える

 

学園外の非平凡な行動まで教える必要は無いだろう、そう考えての答えだった

 

 

「最近ヒフミさんと仲良くなっとお友達とかはいらっしゃいますか?」

 

────最近だと……そっすね、よく補習授業部の話とか聞くようになりましたよ

「それ以前のお友達で異様にヒフミさんと共に過ごす時間が長い方等は?」

 

────んー……多分、同じクラス内だと俺が一番阿慈谷と付き合い長いんじゃないっすかね

 

「そう、ですか……」

 

 

これが本当なら折川酒泉以外に怪しむ様な人物はいない、容疑者は全て出揃った……しかしそれだけで問題が解決した訳ではない

 

もし補習授業部の中にスパイが存在すれば誰が犯人なのか特定できなくても最悪補習授業部ごと処分すればいい、しかし折川酒泉がスパイだった場合は補習授業部ではない彼に対してその手段は使えない

 

補習授業部ではない男を裁くのならはっきりした〝証拠〟が必要となる……もしくは

 

 

(折川酒泉も補習授業部に入れてしまうか……ですか)

 

 

それでは〝貴方を疑っています〟と正直に伝えているようなもの、そうでなくとも入れられる理由が無いのに強引に入れてしまえばそれだけでトリニティ内部のスパイに〝桐藤ナギサは尻尾を掴めなくて焦っている〟と悟られてしまう

 

しかし一切の情報が掴めていない現状、ここで何か一手を打たなければ状況は一向に変わらない

 

ナギサは決意と共に自身のルークを動かした

 

 

────ああ!?俺のポーンが!?

 

「……酒泉さん、貴方にお伝えしなければならない事があります」

 

────な、なんですか……俺に勝ち目は無いとでも言うつもりで……そんな事は俺が一番分かって────

 

「ヒフミさんにはセイアさん殺害の疑惑が掛けられています」

 

 

 

酒泉の口が半開きで止まる

 

情報の開示、それと同時に酒泉の一挙手一投足に注視する

 

僅かな表情の変化、動揺と共に生まれる目の動き、瞬きの回数の変化を見逃さないように

 

 

 

「エデン条約締結を阻止しようとトリニティ内の何者かがセイアさんを襲撃してそのまま殺害……私はその犯人を特定する為に様々な人物の経歴を洗い出してきました」

 

「本日酒泉さんをお呼びしたのは貴方のご友人……ヒフミさんがその中で最も怪しい人物だったから、つまり貴方の口から何か心当たりがあるか聞き出そうとしていた訳です」

 

「しかし此方の事情を隠したままでは一向に話は進展しないと判断し、こうして真の目的を打ち明ける事を決意しました」

 

 

全て嘘、阿慈谷ヒフミだけでなく容疑者は全員平等に疑われている

 

しかしナギサはそれを話さない

 

 

「酒泉さん、私はヒフミさんを疑う他の者が許せません。彼女は人を殺すような人間ではないと……自身の感情だけで他者を傷付けるような人間ではないと知っています」

 

「しかし彼女の事を何も知らない者達は口々に言うのです……阿慈谷ヒフミを捕らえよと、阿慈谷ヒフミを罰せよと」

 

「私はそんなヒフミさんを救いたい……ヒフミさんの疑いを晴らしたいのです、しかしどこか距離感のある私ではヒフミさんが無実だという証拠を集める事ができません」

 

「ですから……お願いします、どうか……どうか、私に代わってヒフミさんを救ってください」

 

 

頭を下げ、必死に頼み込む

 

当然これも嘘、折川酒泉の反応とこれからの動きを確認する為でしかない

 

 

 

────……あ、あの……百合園さんが死んだって……ほ、本当……ですか……?

「ええ……理解していると思いますが、これは機密情報ですのでくれぐれも────」

 

────わ、分かってます!誰にも言いませんから!誰にも言いません……けど……すいません、急に大量の情報が流れてきたせいでちょっと頭が……

 

「……確かに、一生徒にする話にしては少々重すぎましたね。配慮が足りず申し訳ありませんでした」

 

 

 

そんな事は分かっている、むしろそれが目的

 

自ら情報を開示して少しでも動揺を誘う為なのだから

 

 

────えっと……つまりこういう事ですか?百合園さんは俺達一般生徒が知らない間に死んでいて、その犯人候補として阿慈谷が上げられているからその疑いを晴らす為に協力してほしいと?

 

「はい、その通りです……それで返事の方は……」

 

────当然協力しますよ、友達が疑われたままなんて俺も胸糞悪いですからね……ただ、話が突然すぎてちょっと混乱してるんで今日はもう帰ってもいいですか?

 

「ええ、用件は以上ですので……本日はお忙しい中お時間を頂きありがとうございました、次の密会の予定日はまた此方からお伝えしますので」

 

 

声を震わしながら頷く酒泉、それを見てもナギサの脳裏には〝これも演技かもしれない〟という考えが浮かんでいた

 

チェスを中断してふらふらと部屋を立ち去ろうとする酒泉、しかし背を向けたままピタリと立ち止まる

 

 

 

────……あ、あの……一つ聞いてもいいですか?

 

「……?ええ、構いませんが……」

 

────例えばなんですけど桐藤さんの身近の人達の中で怪しい人とかいますかね?もしそういった人がいるなら一応その人達に監視をつけておいた方が……エデン条約締結を阻止する為にティーパーティーである百合園さんが殺されたんなら今度は桐藤さんが狙われるかもしれませんし……

 

「……お気遣いありがとうございます、しかし私の周囲の者達の過去もしっかり調べ上げましたのでご心配なく」

 

 

部下も他組織のトップも全員洗った、その上で残された容疑者は補習授業部と折川酒泉の五人だけ

 

幼馴染みである〝彼女〟に関してはそもそも疑いの目すら向けていない、つまり桐藤ナギサの中で裁くべき人間は限られていた

 

 

 

────……そうですか、それなら良かったです。じゃあ俺はこれで……あ、そうだ

 

 

 

そのまま帰ろうとした酒泉はくるりと振り向き、再び自身が座っていた席に戻ろうとする

 

ナギサはその動きに警戒しながら〝どうかされました?〟と尋ねると、酒泉はじっとテーブルの上のチェスボードを見つめて手を動かす

 

 

「……おや、私の駒が」

 

────いや、なんかボロ負けしたまま終わるのは嫌なんでせめてと思って……

 

「ふふっ……負けず嫌いなんですね?」

 

 

油断しすぎたか、そう反省してしまう程にナギサのクイーンの駒は無防備だった

 

酒泉は自身のルークを摘まんで〝結局負けてたと思いますけどね〟と呟きながらナギサのキングの隣に置かれていた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最も強く、最も信頼できるであろうクイーンを奪った

 

 

 





普通川君メモ

・自分が疑われている事には気づいてる

・裏切り者が誰かは知ってるけど裏切った動機とかはうっすらとしか覚えてない、どうせ言っても信じてもらえないだろうしむしろ自分が余計に疑われるかもしれないから教えるつもりはない

・単純にチェスで勝つよりもいかにスムーズにクイーンを奪ってからわざと負けられるか考える事の方が難しかった

・この後補習授業部が聖園ミカを負かすまでどうやってのらりくらりしようか考え中

・この後桐藤ナギサが〝あはは……〟される事をすっかり忘れている、覚えていても何もしないと思う

・帰ってきたら冷蔵庫の中の限定スイーツが無くなっている事に気づく、先週牛乳ガールが遊びにきた時にこっそり持ち帰られていた事にも今更気付く

・ついでに元不良猫の上着が置きっぱで持ち帰られてない事にも気付く、それを下の学年に届けに行ったら一年生達の間で妙な噂が流れて元不良猫に背中を蹴られた


多分続きません、だってコイツ原作自分から関わろうとしないんだもん
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