〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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if世界~アリウスルート~その3

 

 

 

私にとって肉体というのは魂を閉じ込めるための檻にすぎない

 

簡単には死なせてくれず、そのくせ雨風や他者からの痛みはしっかりと感じ取ってしまう………そんな不便な存在だ

 

しかし痛みを感じている時だけは苦痛の他に〝ある感情〟が湧き上がってきた、それは……

 

 

 

 

 

 

 

〝期待〟と〝安堵〟だ

 

 

 

〝今度こそ死ねるかもしれない〟という期待

 

〝漸く弱くて惨めなこの肉体から解放される〟という安堵

 

自身の肉体が傷付く度にそんな思いが心の中で広がっていく

 

だから私は─────今日も血を流す

 

 

 

「……っ」

 

 

手首から流れる血を見る度にリーダーの……サオリ姉さんの悲しそうな表情を思い出す

 

私が自殺しようとする度に無理矢理それを止めて、止められる度に私がリーダーに問う

 

〝どうして苦しみながら生きないといけないの?〟

 

結局、リーダーは最後まで私の問いに答えてくれなかった……いや、答えられなかった

 

でも……もうそんなことを考える必要も無い

 

今はサオリ姉さんはマダムからの呼び出しでこの場にいない、他の皆も見当たらない

 

私が何をしようと、誰にも止めることはできない

 

 

「……これで……やっと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────戒野さん、あのババアからの命令で次の…任……務の……

 

「………あっ」

 

 

これでやっと終われる、そう思った瞬間に突然酒泉が現れる

 

私が今居る場所は扉も何も無い、とうの昔に使われなくなった廃墟。事前にノックなんてされる筈もなく、手首を隠すことすらできずに思いっきり目撃されてしまった

 

 

「……何?言いたいことがあるなら早く言って」

 

……自傷するなら任務が終わった後でお願いします、それと誰にも伝えるつもりは無いんで……ちゃんと隠してくださいね

 

「………え?」

 

それだけ言うと彼は背を向けて離れていった

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「今回の任務は廃施設の調査だ」

 

「この廃施設は私達アリウスが何度も行き来してきた場所だが……新たに地下室が発見された」

 

「つい最近まで発見されることが無かったとは……余程厳重に隠蔽されていたようだ」

 

「建物外はヒヨリが見張り、その護衛にアズサをつける」

 

「地下室内部は私と姫、酒泉とミサキの二手に別れて調査する。怪しい部屋や見知らぬ機具等が見つかれば逐一連絡しろ………私からは以上だ」

 

「では………任務開始だ」

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

「ケホッ…ケホッ………どれだけ放置されてたの……」

 

 

中に誰も居ないことを確認してから扉を開けると、部屋に溜まっていた埃のせいで思わず咳き込んでしまう

 

地下室の調査を行ってるうちに息苦しくなってきて一時的にマスクを外していたけど……失敗だった

 

今すぐ地上に戻りたくなってきたのを我慢して、ライトで周囲を照らしながら進んでいく

 

ただの壊れた機械……こんな物に用はない

 

千切れたコード……ハズレ。でもその隣に変わった形の物が……なんだ、ただの玩具か

 

他にも色んな所を見渡してみるものの、この施設の正体を探れそうな物は何一つ存在しなかった

 

 

「酒泉、次の部屋に行くよ」

 

………

 

「……聞いてるの?」

 

……あそこ、怪しくないですか?

 

「……どこ?」

 

 

酒泉が天井に指差すとそこには………何も無かった

 

特に何も取り付けられていない、至って普通の天井だ

 

 

「……何も無いけど」

 

ちょっと他の部分より出っ張ってると思うんですけど……

 

「……そう?」

 

 

酒泉は私の言葉を無視して何とか手を届かせようと足場代わりになりそうな物を探している

 

そこら辺から選んだボロボロのデスクの上に乗ると、背伸びしながらスナイパーライフルの銃口で無理矢理天井を押す

 

すると突然近くの壁に綺麗な縦線が入り、そのまま扉のように開かれる

 

 

「……何これ?」

 

隠し扉……カッコいいな……

 

「価値観がよく分からないんだけど……」

 

 

仕掛けには驚いたが、すぐに気を取り直して中を探索しようと二人で中に入ってみる

 

 

「……これだけ?」

 

……またしても何も無い

 

床にも天井にも壁にも驚く程何もない、強いて言うならエレベーターぐらいの大きさの空間があるくらいか

 

 

「………何かを隠しておく為の部屋?」

 

……戒野さん、とりあえず錠前さん達に連絡しませんか?

 

「……賛成、何か嫌な予感がするし、さっさとリーダー達を呼んで………あれ?」

 

どうかしました?

 

「………無線機が反応しない」

 

……はい?そんなまさか………あ、本当だ

 

「一体何がどうなって────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、後ろで何か音が聞こえた

 

 

「……ねえ、酒泉。今何が起きたの?」

 

………後ろ向いてないんで分かりません

 

「…………じゃあ後ろ向いてよ」

 

絶対に嫌です、俺は何も見てないですし何も聞いていません

 

「…………」

 

だから扉が閉まった音なんて絶対に聞こえませんでしたから

 

「まさか…………」

 

 

恐る恐る後ろを振り向いてみると………

 

 

「……完全に閉まってる」

 

 

部屋の中から光が消えた時点で薄々とそんな気がしていたが、実際に直視はしたくなかった

 

迂闊だった………こんな埃だらけの部屋からさっさと出ようと、心のどこかで気づかぬうちに焦っていたのかもしれない

 

いや、多分それだけじゃない………作戦前に酒泉に自傷行為を見られたこともあって、その気まずさのせいで〝早く調査を終わらせて解散したい〟っていう気持ちもあったのかもしれない

 

……っ……いや、それどころじゃない……そんな事を考えている余裕も……もう……

 

ああ……最悪だ……〝アレ〟が来る……

 

 

「…………」

 

駄目だ、全く反応しない……

 

「……っ……早く……何とかして……っ」

 

何とかしてって言われましても……無理なもんは無理ですよ……ほら、スナイパーライフルで扉を撃っても軽く傷が付くだけ

 

「……大体……なんでこんな部屋が……っ!」

 

この部屋に入るまで無線機が機能していた事を考えると………恐らくはこの部屋の壁とかに何かしらの妨害装置が仕込まれてるんじゃないですか?

 

そう考えると……大事な何かを隠しておく部屋だった……とか?

 

「なんでまだ……そんな機能が……!」

 

ですよねぇ……この施設がいつから存在してたのかは分かりませんけど、にしても随分長生きですよねぇ……

 

「………っ…」

 

……戒野さん?

 

「………ぅ……」

 

………閉所恐怖症、か

 

(駄目だ……頭が、働か、ない)

 

(からだが……ふるえてきた……)

 

 

 

もう嫌だ、どうしてこの程度の事でこんなにも怯えなければならないのか

 

少し狭くて閉ざされた空間に居るだけで震えだしてしまうこの身体を恨むものの、今の私にはただ目を閉じて耐えることしかできない

 

でも逃げるように目を閉じたら、今度は暗闇が私を襲ってくる

 

そんな暗闇に支配されたら、更に心が押し潰される

 

惨めさで、情けなさで、悔しさで、悲しさで、寂しさで

 

今、私の周りには誰もいない

 

サオリ姉さんも姫もヒヨリもアズサも………スクワッドの仲間達は誰も………

 

孤独感を味わいながら少しずつ身体が冷えていく中、私の意識は遠ざかっていき、そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────何故か両手だけが温かかった

 

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

「……サキ……ミサキ……」

 

 

 

「……ん……サオリ姉……さん?……」

 

「……良かった、目を覚ましてくれたか」

 

「……ここは?任務は?」

 

「ここはアリウス自治区、任務はもう完了した………あの地下室には何も手がかりとなる物は残っていなかった」

 

「………サオリ姉さんなの?」

 

「……何の話だ?」

 

「……手、握っててくれたの」

 

「………私ではない」

 

「………そっか」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ある人物に会おうと、地下牢に向かって足を進める

 

細長い道はどこもかしこもボロボロになっていて今にも崩れそうだ……実際にはそんな脆くはないけど

 

そんなことを考えながら歩いていると、目当ての人物が見えてきた

 

そいつの顔には殴られた様な痕が残っており、口の端からは血が流れている

 

 

「……また暴れたんだってね、酒泉」

 

 

ピクリと反応した酒泉はゆっくりと顔を上げると、まるで意外な事が起きたかの様な表情をする

 

 

「………なに、その顔」

 

いや……意外な人物が会いに来たんで……つい……何か用でも?次の任務の話とか?

 

「……任務は当分ないよ、私はただ……礼を言いに来ただけ」

 

 

不本意だけど……本っ当に不本意だけど、〝アレ〟のおかげで少しは楽になれたところもある。だから……

 

 

 

────俺は何もしてないですし何も見てないですよ

 

「………あっそ」

 

 

本人がそう言うなら仕方ない……あの部屋では何も無かった、うん

 

何も見てない、か………そういえば

 

 

「……本当にリーダーには伝えてなかったんだ」

 

ん?何がです?

 

「……私の腕のこと」

 

まあ……任務前に面倒事が起きるのも嫌ですし

 

「………そういえば、あの時はどうして何も言わなかったの?」

 

止めてほしかったんですか?

 

「別に……何となく気になっただけ」

 

 

そう、本当に少し気になっただけだ

 

何故なら………酒泉が私を見た時の目が、これまで私の自傷行為を目撃してしまった人達のどの目とも違っていたからだ

 

サオリ姉さんのような苦しそうな目とも、ヒヨリのような悲しそうな目とも、姫………はマスクをつけてるから分からないけど……

 

とにかく、今まで見たことのない目をしていた

 

 

 

 

「……まあ、別に答えなくてもいいけど」

 

答えないとは言ってないじゃないですか………〝別に自分の身体だし勝手にすれば?〟って感じです

 

「ああ、そういうこと」

 

それに……逃げ道も必要でしょうしね

 

「………逃げ道?」

 

世の中には自傷することでしか心を癒せない人だって存在しますからね………

 

そういった人達の感情は理解できませんけど、下手に溜め込んで自傷以上にヤバいことやらかすぐらいなら好きなようにすればいいと思いますよ?

 

別に自傷を推奨するつもりはありませんけど否定だってしませんよ、俺は

 

「………へえ?」

 

 

……少しだけこの男のことが理解できた気がする

 

初めて会った時、リーダーに反発したかと思えば〝私達に迷惑が掛かる〟と言われた瞬間に突然大人しくなった

 

それからもちょくちょく私達に無愛想な態度を取っていた………かと思えばヒヨリやアズサとは普通に接したりすることもあった

 

要するにこの男、無理して非情になろうとしている………気がする

 

…………前言撤回、やっぱり全然理解できない

 

けど、まあ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────あの温かさは………正直、嫌いじゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そうだ、こんなクソみたいな環境で〝逃げ出すこと〟自体は何も悪くないんだ

 

あのババアに逆らえないことだって……仕方ないのかもしれない

 

けど……俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝家族の為〟とか〝この世界が虚しいから〟とか理由を作って、人を殺す事になんの疑問も持とうとしない人間に同情できるほど心は広くない

 

 

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