過去話的な何かです、情報部とかの情報が少なすぎるからゲヘナ編はよ配信して……
折川酒泉という男
折川酒泉は一般人である
普通の両親の間に普通に産まれ、普通に育ち、普通の幼稚園、普通の小学校、普通の中学校を卒業し、普通の高校に入学した
成績についても普通で、体育の授業が人よりも多少は得意なくらいだった
また、転生前は常軌を逸した〝眼〟を持っているわけでもなかった
普通に勉強し、普通に友達と遊ぶ
折川酒泉はそんなありふれた日常生活を送っていた
……だからこそ、一瞬で心を奪われたのだろう
〝ブルーアーカイブ〟という、何気ない日常でほんの少しの奇跡を見つける物語に
ブルーアーカイブにハマってからの折川酒泉の生き方は変わっていった、現実世界でもちょっとした〝物語〟を探すようになったのだ
〝何年の何先輩が何年のあの子に告白したらしい〟
〝あの部活が全国出場を決めたらしい〟
〝隣のクラスの担任が結婚したらしい〟
いつもは軽く耳に入れる程度の話でも、今の彼にとっては一つ一つが新鮮に感じたのだ
それがずっと〝普通〟だった少年に訪れた奇跡だった
まあ……奇跡が存在すれば、当然悲劇もこの世界に存在する訳で
暫くして折川酒泉は大雨の中、信号無視したトラックによって轢き殺された
ここまで育ててくれた両親への感謝の言葉や、先に死んでしまったことに対する謝罪の言葉を口にする暇も無く、あっさりと死んだ
誰かを庇った訳でもなく、一人の運転手の不注意によってあっさりと死んだ
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折川酒泉は転生者である
彼が前世の記憶を取り戻し、自我が芽生えたのは赤子の時だった
まず真っ先に視界に入ってきたのは犬の顔や猫の顔の獣人の少年や小さな機械の身体の少年、そして頭に不思議な輪を浮かばせた少女達
最初はかなり戸惑ったが、思考が落ち着いてくうちに少しずつ状況を整理できるようになっていった
まずは先程見かけた少女達、彼女達の頭の上に浮いていた謎の輪には見覚えがある
あれは前世で自分がプレイしていたゲーム、ブルーアーカイブに登場するヘイローというものだ
ならば他の機械や獣の少年少女達も、まさか……
この時点で薄々と気づいていたが、それが確信に変わったのはテレビに映るニュースを見た時だった
画面には聞き覚えのある名前の学園、聞き覚えのある都市の名前
もはや疑う余地は無かった、ここはブルーアーカイブの世界だと
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暫くそこで生活していくうちに酒泉は気づいたことがある
ここは孤児院、そして自分は誰かに拾われたのだろうと
誰かから産まれてきたのかも赤子の状態で突然転生したのかも分からないが、とにかく両親と呼べるような存在はこの世界にはいないのだと
孤児院を経営している大人達も別に我が子のように愛情を注いでくれるわけではない、ただ与えられた仕事をこなすかのように世話をするだけだ
しかし、それでも酒泉は感謝していた。彼等が居なければ自分はそこら辺で野垂れ死んでいたのだから
………ただ、それでも酒泉は
少し寂しかった
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前世なら小学六年生として旅立ちの準備をする年齢になった頃
ある日、孤児院の大人達が突然笑顔で話しかけてくるようになった
……知らない大人達と共に
彼等の会話から察するに、このキヴォトスにとって貴重な存在である〝普通の人間〟……つまり、酒泉に接触したかったのだろう
その日から孤児院で〝おこづかい〟が渡されるようになった
……その代わり、酒泉の健康診断の回数が目に見えて増えた
変な薬の投薬や変な実験などは〝まだ〟行われていなかったものの、血液の採取やら何かのデータを見ていたことから、いずれその様な実験も行うことは明白だった
………しかし、運が良いことに酒泉は実験前日に偶然大人達の会話をこっそりと聞くことができた
やはり自身の身体に何かをするつもりだったらしく、孤児院の大人や何処の組織から来たのかも分からない大人達が笑顔で話し合っている
〝ああ、やはりこの世界に自分の居場所は無いのだ〟と思った酒泉は今まで貯めてきた〝おこづかい〟と共に孤児院を出た
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折川酒泉は中学生……そして情報部である
……軽く説明すると、風紀委員会のような組織だ
何故そんな場所に所属しているのかというと……ただ運が良かっただけだ
逃げ出した先で偶然、ブラックマーケットから表の世界に出てきた生徒達と情報部の生徒達との戦いに巻き込まれ、そこで保護された
事情を説明すれば、その組織のトップの生徒は色々と気を利かせてくれた
まずは戸籍の作成、これについては連邦生徒会に頼ったらしい……この頃の会長が誰なのかは分からないが
次に入学手続き、これも酒泉が情報部に入ることであっさりと終わった
この日から折川酒泉の戦いが始まった
………ところで話は変わるが、前世を高校一年生で終えてしまった酒泉はこう考えている
〝学生が普通の青春を送れないのっておかしくね?〟
今になって酒泉は学生生活のありがたみを知ることになる
全ての子供達に平等に分け与えられるべきである〝日常〟
それすら許されないとは……この世界はなんて残酷なのだろう
次に酒泉はこう思った
〝それなら推しキャラの空崎さんに少しでも青春させてやるぜ!………ついでにアリウスとパンデモ潰そ〟
そう、実は酒泉が属している組織の三年に空崎ヒナが居たのだ
初めて見た時、それはそれは興奮したものだ
しかし周囲の期待を背負わされ、その小さな身体であっちこっちを駆け回っているのを見て酒泉は少しずつ同情の念を抱いていった
だからこそこれから先、ヒナの心労の原因になるであろう連中を潰そうと画策した………まあ、後にアリウススクワッドを潰す役目はヒナが引き継ぐことになってしまったのだが
更に言うなら、アリウスの生徒も普通の〝日常〟を分け与えられるべき〝子供達〟だった。 しかし当時の酒泉はそんなことを考えられるほど世界を見てきた訳じゃなかった
……ちなみにだが、万魔殿に対しては未来も過去も現在も一ミリ足りとも申し訳なさを感じていない
とにかく、この日から酒泉のもう一つの戦い………名付けて〝先生が来るまでの間、少しでも空崎さんの負担を軽くしよう作戦〟が始まった
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ヒナが応援として送られることになれば、ヒナがたどり着くよりも前に多少無茶をしてでも敵を倒す
ヒナが潜入捜査をすることになれば、事前にその場所の情報を集めたり一緒に情報を集めるのを手伝った
ヒナが疲れていると感じた時は、自分にできる仕事の一部を引き受けたりした
ヒナの方から個人的に話しかけてくれた時なんかそれはもう盛大に喜んだ
そしてそこまで来ると酒泉の考え方………というよりは酒泉の見る世界も変わっていった
〝推しのキャラを幸せにしたい〟から
〝空崎ヒナを幸せにしたい〟に
キャラクターとしてではなく、一人の人間として
ゲームの世界ではなく、実際に自分が生きている現実の世界で
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空崎ヒナは普通の生徒……と呼ぶには優秀すぎる
諜報能力、戦闘能力、判断力、それ以外にも全てが優れている
……が故に、周囲からの期待を背負わせられやすく、ヒナ自身もそれを受け入れてしまう
下された命令をこなし、任務が完了すればいつも通り報告し、次の任務に備える、そんな行動をひたすら繰り返していた
……ある日、少しだけ違和感を感じた
といっても、悪い意味ではなく良い意味で……だが
普段よりも疲れが溜まっていないのだ、更には仕事の効率も多少上がっている
また、現場に直接出向いて戦闘を開始しようとしても既に片付いているパターンが多くなった
その理由に気づかないほどヒナは鈍感ではない
彼だ、最近ちょくちょく話すようになった彼のお陰だ
しかし何故私の仕事を手伝ってくれるのだろう、そう思ったヒナはその理由を直接聞いたことがあった
その時の答えはこうだ
〝空崎さんにも普通の学生らしく楽しんでほしいから〟
その答えを聞いたヒナは少しだけ戸惑った
何故なら自分がいっぱい働くことはあっても、自分の為にいっぱい働いてくれた子に出会ったのは初めてだったからだ
そんな単純な理由、しかし誰の助けも必要としないヒナの優秀さが今までそれを邪魔していた
そして次の日からヒナは自分から酒泉に声をかけるようになった
理由は自分でも分からない
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「ねえ、酒泉……色々ありがとね」
いえ、俺が好きでやってることなんで
「ふふっ……いつもそれ言うよね」
そう……ですかね?
「………酒泉」
何ですか?
「……やっぱり何でもない」
……別に遠慮しなくていいですよ?
「……相当重いことを言うと思うけど」
それでも構いませんよ
「……私が卒業した後も……私のこと支えてくれる?」
え?
「具体的に言うと、その………同じ高校に………」
いいですよ
「………答えるの早い」
断る理由も無いですし、全然構いませんよ
「………ありがとう、じゃあ────」
あ、でも俺以外にも空崎さんを支えようとする人が現れたら全然その人に頼ってもいいですからね?
「────え?」
俺の予想だと、その人は空崎さんが甘えられるほど優しい人なんで………俺の予想って結構当たるんですよ?
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空崎ヒナは分からない
目の前の貴方に「支えてほしい」と言っているのに、どうして自分の代わりが現れるかの様に話すのか
何故「それは自分の役目ではない」と言うかの様な態度を取るのか
まるで「時が来たら自分は用済みだ」とでも言うかの様に笑いながら話す、そんな彼のことが何も分からない
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「はい、あーん」
あ、あの……自分で食べられますから……
「駄目、無理して怪我が悪化したらどうするの?」
ちょっと手を動かすだけじゃないですか……
「……とにかく駄目、アリウスにやられた怪我が治るまでは私がずっとお世話するから」
それを言われると……
「……絶対に分からせるから、酒泉の代わりなんていないってことを」
え?
「……何でもない」
折川酒泉はクソボケアホカス転生者である、一回ヒナちゃんに殴られた方がいい