「……ヒヨリ、それは?」
「あっ、これですか?これはですね………酒泉さんが買ってくれた新しい雑誌です!」
「……また会ってきたの?」
「はい!酒泉さんって私が呼び出しても嫌な顔一つせずに来てくれるんですよね……えへへ」
「……で、また何か買って貰ったんだ」
「ち、違いますよ!?これに関しては私が頼んだ訳じゃなくてですね……酒泉さんが自分から……」
「………遠慮って言葉を知らないの?」
「うぅ………そんな目で見ないでください………でも、確かに貰ってばかりなのも悪いですよね………次会う時は私から何かお渡しした方がいいのでしょうか……」
「…………私に聞かれても」
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「~~~♪」
「………随分ご機嫌だね、姫」
「あ、おはようミサキ………そう見える?」
「明らかにね……鼻歌も歌ってるし」
「そっか、自分でも気づかないほど喜んでたんだ、私………ふふっ」
「……何か良いことでもあったの?」
「えっとね……もうすぐ花が咲くの、酒泉がプレゼントしてくれた種から」
「………へえ?」
「だからお返しに真っ先に酒泉に渡そうと思ってるんだけど………それだけだと少し味気無いから、自分で買った花も一緒にプレゼントしようかなって思うんだ」
「………」
「アイビーが良いかな、タツナミソウ……は時期が遅いかな。あっ、シンプルに薔薇を渡すのも良いかも……沢山の赤い薔薇を」
「……まあ、好きにしたら?」
「3本、9本……あっ、いきなり108本渡したら驚くかな?」
「………あまり迷惑掛けないようにね」
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「……むっ、ここなら私の給料でも……」
「………」
「………いや、もう少し高い所にしよう」
「……ねえ、サオリ姉さん」
「ここも良さそうだな………なに?ドレスコードだと?服装指定の飲食店なんかもあるのか………変に気負わせてしまうようなのも止めておくか……」
「ねえってば」
「……ん?ミサキか……どうした?」
「さっきから何を考えてるの?」
「ああ、実は酒泉に今までの礼をしようと思っていてな………何度も世話になっているからな」
「……別に気にしなくていいんじゃない?」
「そういう訳にはいかないだろう、酒泉は私達の命の恩人なんだからな」
「…………律儀なんだから」
「………むっ、これなら丁度良さそうだな……よし、ここにしよう」
「はぁ……聞こえてないじゃん……」
「……しかし、今更だが私のような罪人なんかと一緒に食事しに行っても周囲からの冷たい視線を浴びせてしまうだけじゃないのか?」
「………」
「当日は変装した方が良さそうだな………」
「………」
「…………酒泉はどんな服が好みなのだろうか」
「…………まあ、頑張ってね」
「………〝女の顔〟になってるじゃん」
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「………ジッとしてて」
……あの……戒野さん?本当につけるんですか?
「当たり前でしょ、その方が誰が誰の〝持ち主〟なのかハッキリ分かるし」
戒野さんの耳についているエグいピアスと同じ物を近づけられる
……ええ……なんか怖いんだけど……わざわざ呼び出しに応じてトリニティに来てあげたのに、何故こんな思いをしなければならないのか
「身体に穴を空けられるのが怖いの?散々私達に弾丸を撃ち込まれておいて………今更じゃない?」
それとこれとは別問題っすよ……人生で一度もピアス穴空けたことないんですよ、俺
「……じゃあ、これが初めてなんだ」
戒野さんはそのままピアッサーを俺に────やっぱ待って!一旦タイム!
「……また?いい加減覚悟決めなよ」
いや、だって……怖いもんは怖いですし……
「……戦闘中はそんな素振り見せないのに」
戦闘中にうっかり被弾するのと自分から穴を空けにいくのとじゃ話が違うのだ
前世でもピアスつけてる人を見掛ける度に〝あれ痛くねえのかな……?〟って思ってたし
………てか、本当に安全なんですか?
「何が?」
ほら、この棒みたいなの……これって本当に耳に刺さるんですか?
「棒って……これもピアスの一種だよ」
どう見てもただの棒でしょ………すっげー痛そうなんですけど、それ
普通のピアッサーでいけるんですか?それ
「……さあ?自分のは無理矢理つけただけだし、正しい付け方なんて分からないよ」
ああ、自分で無理矢理ね………は?
おい待て、この人とんでもないこと言わなかったか?
「何その反応………当然のことでしょ、アリウス自治区みたいな環境で都合よくピアス専門の道具を拾える訳ないじゃん」
…………あの、やっぱ止めません?
「大丈夫だって、穴の空け方とか少しぐらいは勉強してきたからさ………ほら、ニードルとか色々と準備してあるから」
少し?少しだけ?めちゃくちゃ不安なんですが?
「暴れると危ないよ」
いや、ちょっ………こ、今度!また今度、二人でちゃんと勉強してから────
「えい」
─────あっ
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────あっ……空崎さん、この前の温泉開発部の起こした騒動についてなんですけど……
「……え?う、うん……」
……空崎さん?どうかしましたか?
「………その……」
執務室で仕事をこなす風紀委員達、しかしその視線は目の前の書類ではなく酒泉の右耳に集まる
普段は何も付いていない、極普通の鈍感耳
だが、今日は何故かピアスが付けられていた
「……酒泉、その右耳はどうしたんですか?」
え?ああ……これは戒野さんに貰ったんですよ
「……戒野?アリウスの戒野ミサキですか?」
その場の全員を代表するかのようにアコが尋ねると、返ってきたのはかつての敵の名前だった
「えっと……どうして酒泉君がミサキさんのピアスを?」
ん?まあ……色々話しづらい事情がありましてね……
「……なんか……違和感が凄いな」
奇妙な物を見るような目でチナツとイオリに見つめられる酒泉
本人も似合ってないことは自覚しているのか、気恥ずかしそうに目を逸らす
「……酒泉」
はい、なんでしょうか
「それ、今すぐ外して」
……え?もしかしてウチってピアス禁止でした?天雨さんの服装が許されてるから別に良いのかなって思ってたんですけど……
「はぁ!?それはどういう意味ですか!?」
「禁止ではないけど………酒泉に似合ってないから」
うぐっ……や、やっぱりそうですよね……まあ、似合ってないのは分かりきってたことですけど……
でも、折角の貰い物ですしもうちょっとだけ……
「……………駄目」
この日、ヒナは事ある毎にピアスを外させようとした………が、酒泉本人がミサキの為を思ってか中々外そうとせず……
かといって無理矢理外すと怪我をさせてしまう為、結局一日中ピアスを付けっぱなしにしていた
「………アコ、この仕事お願いできる?」
「え?別に構いませんけど……何か用事でも?」
「うん、ちょっと買い物に」
「………?」
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────で、これから先のことなんですけど………まずはアトラハシースのリソース問題を………調月さん?
「………貴方、ピアスなんて付けていたかしら?」
え?ああ……最近付け始めたんですよ、折角の貰い物ですしね
「貰い物?……それは……女性からの?」
はい、ちょっと知り合いから……ね
「………似合ってないわ」
う゛っ!?ま、またダメージが……!
「知り合いからのプレゼントとはいえ、無理して付ける必要はないんじゃないかしら」
ま、まあ……でも、本人に悪いですし……
「……そうね、貴方はそういう人だったわね」
いやぁ……どうしても断れないんですよねぇ……
「………外すのが嫌なら上書きすればいいだけよ」
上書き?
「……今日の会議はここまでにしましょう」
え?早くないですか?
「ごめんなさい、少し用事を思い出したの」
用事……ですか?
「ええ、ちょっと買い物に………」
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「やっほー!またトリニティに来たの?やっぱりやる事無いんじゃん☆」
出たな、パンチングコング聖園………俺は忙しいんだ、バナナ買ってやるから大人しく動物園に帰んな!
「はぁ?唯一の長所だった目の良さすら消えちゃったのかな?目の前にいるのはどう見てもか弱い女の子でしょ?」
か弱い……?
「………何?言いたい事があるならハッキリ言えば?」
別にー?なんでもないですけどー?
「………まあ、いいや。それで?今日はなんでトリニティに来たの?」
そりゃあ、限定スイーツを買いに来たんですよ
そういった系はトリニティの方が種類が多いですからね……
「ふーん……?だったらトリニティに転校……すれ…ば……」
……聖園さん?
「……待って?そのピアスはなに?なんか見覚えがあるような……ないような……」
ん?……ああ、そりゃそうでしょ。だってこれ、戒野さんに貰った物ですから
「……あの女に?」
聖園さんってあの人と仲悪いからな……そりゃあ、憎い相手の顔は忘れないでしょうよ
「………ねえ、酒泉君」
はい?
「それ、似合ってないよ。今すぐ外せば?」
うぐっ……そんなの分かってるって……でも、貰い物をすぐに外すのも申し訳ないからさ……
「……えい」
いっっったぁ!!?引っ張んじゃねえよこのゴリラ!!?
「……そんなに外したくないの?」
いててて………当たり前でしょう、半ば強制とはいえ、それでもあの戒野さんからのプレゼントですし……
「あっそ……………じゃあ、私もう帰るね」
ん?あ、はい……さよなら
「………また近いうちに会いに行くから」
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────あっ、いたいた……
「………」
最後にミサキと酒泉が会ってから二週間後、酒泉はミサキに呼び出されてトリニティまで来ていた
理由はちゃんと耳に〝証〟をつけているかどうかを確かめる為だ
そして、ミサキの要望通り酒泉はちゃんとピアスをつけていた
………そう、逆につけすぎなくらいに
「……それなに?」
右の耳たぶにはミサキからのピアスの他に紫色のシンプルなピアスが
左耳には少々センスのないドクロのマークが中央にあるインダストリアルピアスが、左耳たぶ辺りには男にはあまり似合わないピンク色のハート型のピアス
「なんでピアスの数が増えてるの?説明してよ」
いや、戒野さんにピアス貰ったって話をしたら他の人達にもプレゼントされまして……
どれか一つ外そうとすると、それを渡してきた人がめちゃくちゃ悲しそうな顔をするんで……
「……だからって全部つける?普通……」
酒泉の両耳を見て苛立たしげに舌打ちするミサキ
暫く不機嫌そうに足を揺すってから、何か閃いたかのように〝あっ〟と声を漏らす
「……酒泉、立って」
え?なんで?
「いいから早く」
は、はい………これでいいでs───ひんっ!!?
「うるさい」
ミサキの有無を言わさぬ様子を恐れ、酒泉は大人しく立ち上がる
しかし、次の瞬間にミサキは酒泉の服をめくって腹に手を当てる
─────いきなり何するんです!?男なのにめっちゃキモい声出しちゃったじゃないですか!?
「……次は舌を見せて」
は、はあ?なんでそんな事を────
「早く!」
わ、分かりましたよ、もう………
「………」
どこか居心地悪そうにベーっと舌を見せる酒泉
それを少しの間眺めた後、ミサキは何かを決意したかのように一人で頷いた
「ヘソと舌はフリー……か」
あ、あの……?もういいれふか─────
「うん、これならあと二つはいけそうだね」