私の名前は………まあ、そこらのチンピラAとでも思ってくれればいい
いきなり話は変わるが、私は昔っから喧嘩が強かった
具体的に言うとヘルメット団の派閥争いに巻き込まれて両方ぶっ潰して帰るぐらいには強かった
故に、私は自分の力を存分に〝楽しむ〟ことにした
強い奴が自分の力を利用して気持ちよくなるのは当然の権利だろ?そんな考えを持ちながら私は暴れまわった
だが、その快感は長くは続かなかった
負け無し、勝つのは当たり前、そんな毎日を過ごしている内に少しずつ〝退屈〟が私の心を埋めていった
ずっと戦ってばかりだった私は他の事に〝楽しさ〟を見出だすことができず、結局すぐに終わるような戦闘を繰り返していた
そんな私に転機が訪れたのは中学三年の時だった
〝ゲヘナ学園は野蛮だ〟
どこからかそんな噂を聞いた私は歓喜した、もしかしたらゲヘナでなら楽しめるかもしれないと………ここなら私の心を満たしてくれるかもしれないと
早速私は常に荒れていることで有名なゲヘナに進路を決めた、その日から入学初日までずっと興奮が収まることはなかった
………そして入学式を終えた私は早速暴れまわることにした
初めてのホームルームをすっぽかし、校内を駆け回り、強そうな二年三年に片っ端から喧嘩をふっかけた
最初は〝所詮は一年〟と舐めていた先輩方(笑)も私の実力を見るとすぐに本気で潰しにきた………まあ、当然逆に潰してやったが
そうして暴れているとこの学園の風紀委員とやらがやって来た………が、誰一人相手にならない
唯一、風紀委員の三年生達だけはかなりの連携で追い詰めてきたが………まあ、所詮は群れなければ戦えないような連中だ。そこそこ楽しんだ後で全員ぶっ飛ばした
この学園の武装組織もこの程度か………そう落胆しかけた瞬間─────ソイツはやって来た
「………ん?アンタ、ヘイローは?」
そいつはキヴォトスでは珍しい人間の男子生徒
頭にはヘイローがなく、顔はごく普通………強者特有の気配も何も感じられない
その男は私の方を向くと、呆れた様な視線をぶつけてきた
「………なんだ?」
────いや……入学初日から暴れすぎだろって思ってな……
「……だったらどうする?力ずくで言うことを聞かせてみるか?」
指をクイッと動かし、〝かかってこい〟と挑発してみる
溜め息を吐きながらのんびりと歩いてくる目の前の男
〝警戒心も無いのか〟と呆れながらも、私はソイツに襲い掛かった
そして、手も足も出せずに完敗した
此方の行動を全て見透かしているかのような眼、人体の弱点を的確に突いてくる攻撃、そして何より………出鱈目すぎる身体の動き
こんなにボロ負けしたのは人生で初めてだった、悔しさとかよりも先に困惑の方が頭の中を埋め尽くした
そうして暫く呆けている内に目の前の男が何かを問いかけてきた
─────その力、合法的に振り回したくないか?
「………は?」
キョトンとしながら男の目を見つめていると、ソイツは私に手を伸ばしてきた
「………何のつもりだ?敗者に対する情けか?」
─────ゲヘナの治安は他校に比べて悪すぎる、そのせいで風紀委員会は常に人手不足だ
「………そういうことか」
風紀委員になれ……そう言いたいのだろう
私としてはゲヘナの治安なんてどうでもよかった………が、目の前の男の強さには興味があった
どれほどの研鑽を積めばそんな強くなれるのか、どれほどの強敵と戦えばここまで研ぎ澄まされるのか、どれほどの経験を重ねればその領域に至れるのか
……そして、私はそれらの考えを無意識に口にしてしまっていた
するとその男は困ったような顔でこう答えた
──────スッゲームカつく赤いババアと戦ったり各学園最強クラスの人達にボコされたりキヴォトスを滅ぼそうとする存在に立ち向かったりすれば同じぐらいにはなれるんじゃね?
「……なんだそれ?」
言ってる意味はよく分からなかったが、とりあえずこの男はかなりの修羅場を風紀委員としてくぐり抜けてきたであろうことだけは理解できた
「私は敗者だ、勝者に逆らうつもりはない………が、その代わり条件がある」
条件を伝える前にその男の手を取る、何故か〝コイツは断らないだろう〟という確信が頭にあった
「定期的に私と戦ってもらう………それが条件だ」
────ああ、それなら全然問題ない
「……即答だな、脅威にはならないだろうってか?」
此方から挑発するような態度をとってみるが、男は何も反応する事なく背中を向ける
〝放課後、風紀委員室に来てくれ〟とだけ言い残すと、そのまま去っていった………私のことなど眼中にないかのように
「………絶対に振り向かせてやる────」
「その前に手当てしましょうね?」
「────っ!?」
そう決意した瞬間、背後から声をかけられる
眼鏡をかけた茶髪の女………ソイツは私に気配を悟らせることなく接近していた
「……お前、何者だ?」
「私ですか?私は……ただの救護担当ですよ」
「………嘘つけ、絶対強いだろ」
そこそこですけどね、と苦笑しながら答える眼鏡女
彼女は男の出ていった扉に視線を向け、感心したかのように私に話しかけてきた
「貴女の噂、一瞬で校内に広がってましたよ………随分と暴れたらしいですね?」
「………その後は逆に一瞬で制圧されたけどな」
「それは……まあ、仕方無いことですよ。だって彼─────」
「歴代の風紀委員長の中でも〝最強〟って言われているんですから」