────おい、トリカス共………これは何のつもりだ?
「ひっ………あ、貴方がいきなり飛び出してくるのがいけないんでしょう!?」
「そ、そうよ!」
ミカの目の前で酒泉がずぶ濡れの状態でトリニティ生達に殺気をぶつけている
一体何が起きたのか、それは数分前に遡る
いつも通りの暇潰し(ミカ曰く他意はない)で酒泉を呼び出したミカは、待ち合わせ場所の近くで適当にブラブラしていた………流石に二時間前は早すぎだが
立ち疲れ、ベンチに腰掛けたところでミカは背後から気配を感じ取った
クスクスと聞こえる笑い声、敵意というよりも見下すような視線
〝またか〟
あの事件以来、聖園ミカにぶつけられる憎悪はなかなか絶えることがない
勿論、最初の方よりはマシになっているが………それでも後ろの生徒達のように未だに突っかかってくる者達もいる
だが、ミカはそれが自業自得だと理解しているからこそ抵抗する事はない
そして今回も適当にやり過ごそうと思い────直後、バシャッ!という音と共に二人の少女の驚愕の声が聞こえた
何事かと思い振り向いてみると………そこには空になったバケツを持つ少女と水で濡れている折川酒泉の姿があった
「な、なんでその魔女を……!」
一人の少女がミカを指差し、震えながらそう呟く
「貴方にはその女を庇う理由なんかないはずでしょう!?」
─────は?庇うわけないだろ、こんなゴリラ
「は?折るよ?」
俺はその女に呼び出されたから話しかけようとして………テメーらクソ女共に水をぶっかけられただけだ
「ひっ……!」
ギロッと睨み付けられ、一歩後退る少女達
酒泉に〝用がないならさっさと帰れ〟と言われて急ぎ足で去っていく
呆れたような視線でその背中を見送る酒泉にミカが話しかける
「………で?本当はどうなの?庇ってくれたの?」
────んな訳ねーだろ……さっき言ったのが全てだ
「……あっそ」
結局、この日は二人は服が乾くまでコッソリミカの寮で過ごした
ずっと気まずい空気が流れていた
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別の日、トリニティに糖分補充………もとい買い物にきていた酒泉は偶然ミカに出会った
本人的には〝出会ってしまった〟という感じなのだが、そんな事などお構い無しにいつも通りの煽り合いに発展する
そしてそこから更に何故か模擬戦にまで発展し………まあ、相変わらず酒泉が負けた
いつも通り笑われ、いつも通り罰ゲームを与えられ、いつも通りどっかしらの店でケーキを奢ることになった(ただし、ロールケーキ以外)
いつもと違うところといえば………周囲からの視線が鬱陶しかったぐらいか
聖園ミカを恨む者は多いが、最悪な事にその中でも特に過激派な者達が偶々その場に居合わせてしまった
嘲笑するような声、聞こえてくるのは〝魔女〟や〝裏切り者〟といったワード………だが、それだけなら別にどうでもよかった。ミカにとっては言われ慣れている言葉ばかりだからだ
……だが、運の悪い事にこの日は酒泉にまで矛先が向けられた
自分のせいで大切な人がボロクソに言われてるのに、それで黙っていられる程の冷徹さまではミカは持ち合わせていなかった
注文した品が届く前に店を出ようと酒泉の腕を掴んだが、本人は〝なんだなんだ〟と言わんばかりにポカンとしている
「……酒泉君だってあまり気分良くないでしょ?」
この時ばかりは素直に思いを口にしたが、一方で酒泉は何も気にしていない様子だった
──────今、俺が話していて俺が見ているのはアンタだけだ、他人の目を気にする理由なんて一つも無いだろ
「…………あっそ」
他の人間など眼中にないかのようにミカの目を真っ直ぐ見つめる酒泉
ミカは少々むず痒さを感じながらも、自身も見つめ返そうとして─────
「お待たせしましたー!こちら〝ミックスベリーチーズケーキ〟でーす!」
おっ!?きたきた!
「………」
─────彼の視線はアッサリと目の前の少女からスイーツへ移った
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──────
またまた別の日、ミカは少女が住んでいるとは思えないようなボロい屋根裏部屋でモモトークの履歴を見ていた
内容を見てみると、どれもこれも自分から酒泉を呼び出した時のものばかり
それ以外も自分から適当に雑談を吹っ掛けている内容ばかりだ
メッセージを送った時間帯は放課後の15時やお昼休みの12時だったり、酷い時には登校前の7時とかにも………いや、もっと酷い時は深夜の2時辺りに送っている時もある
しかも日に日に頻度が増えてきている
「………やっぱり多い……よね……」
流石のミカ自身も連絡しすぎだと自覚していた
……自覚していたが、それでも抑えられなかったのだ
「………まあ、別に?向こうが断ってこないって事はどうせ暇だって事だろうし?むしろ遊びに誘ってあげてるだけ感謝してほしいよね?」
誰に言ってるのかも分からない言い訳をするも、すぐにスマホの画面に目を戻して溜め息を吐いてしまう
「……本当に大丈夫なのかな……今更だけど迷惑に思われてたり……」
何度突っかかっても呆れたような表情をしながら付き合ってくれる酒泉の姿を思い浮かべる
こうして夜な夜な思い悩んではいるが、ファーストコンタクト時の対応を引きずってしまっているせいでミカは未だに素直になることができなかった
「………せめて突き放してくれたらこんな思いもしなくて済んだのに」
そう言って視線をタンスに向けてみると、そこには前に酒泉が買ってくれた水着が大事に保管されていた
「……やっぱり甘えすぎだよね」
ミカはモモトークを閉じ、スマホの電源を落とす
そのまま少し離れた所にスマホを置き、ベッドの上で毛布に包まれた
「このまま〝自分に依存してる〟なんて彼に思われるのも気に入らないし………ちょっとは一人立ちの努力をしないと」
酒泉のムカつく煽り顔を思い浮かべながら少女は静かに目を閉じる
結局、この日も深夜の1時頃にモモトークを掛けてしまった
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俺は聖園ミカという人間が大嫌い………って程ではないけど、そこそこ気に食わなかった
すぐに煽ってくるし俺より強いし自分勝手だし俺より強いし性格も悪いし俺より強いし………あと俺より強いし
え?〝模擬戦で負けたのを悔しがってるだけじゃねーか〟だって?…………うるせぇ!!!
とーにーかーくー!聖園さんが俺に対してハッキリ〝大嫌い〟って言ってくるのと同じように、俺だってあんな人好きでもなんでもないっつーの!
……ただまあ、そんな相性の悪いような相手でも無抵抗に虐げられているところを見捨てるのは流石に胸糞悪いだろ?
だから……まあ……俺も多少は─────いや、ほんの少しは優しくしてやってもいいかな……なんて考えたりした
あくまで俺が不快な思いをしない為に!聖園さんの為とかじゃなく!全部自分自身の為に!(ここ重要)
………話を戻そう、どう優しくしたのか具体的に言うと………まあ、なるべく要求を呑んだりとかそんな感じだ
呼び出しされたら文句を言いつつも会いに行ったり、深夜にモモトークが掛かってくれば適当に話し相手になったりと………そんな些細な事を繰り返していた
別に感謝とかはされなくても構わなかった、所詮は俺の自己満足だしな
そもそも聖園さんが俺に感謝するとも思えないし、今までの態度がいきなり変化するとも考えにくかった
だから、これからも互いに憎まれ口を叩き合いながらも適当に接していくのだろうと思っていた
思って……いた……のに……
「酒泉君は……騙されたんだよ……」
目の前には目を細めながら微笑む少女
その姿は窓から差し込む月明かりによって照らされ、頬を染めているのが確認できた
…………時計は22時を示している、この寮の門限をとっくに越えている
何故だ、いつの間にこんな時間に………いや、そもそも俺はいつ寝たんだ?
確か……今日は聖園さんから連絡が来て……珍しいお菓子が手に入ったからって寮まで呼ばれて……
それでお茶会してたら………なんか眠くなってきて………駄目だ、まだボンヤリする、思考が纏まらない
「こんな簡単に人に気を許しちゃだめだよ?じゃないと………また私みたいな悪い魔女に騙されることになっちゃうからね?」
聖園さんが何か言っているが………正直、何かを考えるのすら面倒になってきた
今すぐ二度寝したい………
「うーん……ちょっと効き目が強すぎたかな?まさかお話すらできなくなっちゃうなんて………まあ、合法の睡眠薬だし別にいいよね?」
なにを……いっているのやら……
「ごめんね?酒泉君の善意を裏切るような真似をしちゃって………でも、寝てる間に変な事はしないから………今日だけ一緒に居てくれるだけでいいから………」
ああ……ああ?いっしょにいるだけなら……べつに……
「………ありがとう、酒泉君」
からだがあたたかい……だきつかれてるきがするけど……もう……いいや………
駄目だった
結局、また迷惑を掛けてしまった
「……酒泉君が悪いんだからね」
彼は私のことを〝魔女〟としてではなく〝聖園ミカ〟として見てくれる
彼は周りの目など気にせずに私と対等に接してくれる
彼は口では文句を言いつつも私なんかにも優しくしてくれる
「………貴方はまた怒るだろうけど………でも、これでまた私のことを見てくれるよね」
ちょっと煽ってみれば期待通りに反応してくれる
その時だけは私以外のことを考えず、私に対してだけ意識を向けてくれる
………我ながらなんて面倒な女なんだろう
「……でも、酒泉君にも原因の一端はあるんだからね?」
相手の求めることを無意識にやってのけ、相手の欲しい言葉を無意識に発する
まるで面倒な女を集める為だけに生まれたような存在
だから、こうして私みたいなのに絡まれる
「………でも、酒泉君にとって私は〝助けるべき人〟の一人に過ぎないんだよね」
今のままでも十分に幸せなのに、これ以上何を望むのか
自分はどれほど欲深い女なのだろうか
……それでも……
「できれば、ずっと私のことを見ててほしいなぁ………」
心が繋がりを求めている
今以上に、もっと強固に、これからも決して離れる事のないような………そんな強い繋がりを
………少し視線をずらせば、気持ち良さそうに眠っている酒泉君がいる
今の私に作れる最大限の〝繋がり〟
そんなの、もう………身体しか─────
「……そこまでやると本気で嫌われちゃうかな?」
彼の身体を両腕で抱きしめ、私も同じように目を閉じる
「ごめんね………明日謝るから………ごめんね………」
罪悪感以上に喜びを感じながらも、白々しく謝罪の言葉を口にする
………なんとなくだが、彼はこの事も許してくれると思う
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「んぅ………しゅせん……くん……」
朝、目が覚めたら真横に聖園さんの顔があった
「んー……」
身体を強く抱きしめられる、ぶっちゃけ骨が折られそうで怖い
………いや、そうじゃないだろ
なんで聖園さんと俺が一緒に寝て………
「やだ……はなれないで……」
そんなことを考えていると、悪夢に魘されるように聖園さんが苦しそうに呟く
………どんな夢見てんだ、一体
だが、いつまでもこうしている訳にはいかない
さっさと起こして事情を聞かなければ─────
「これいじょう………うしないたくないよ………」
─────と思ったけど、よく考えたらまだめっちゃ眠いし三度寝しようかな
うん、これは俺が眠いだけだから、別に誰かの為とかじゃなくて俺自身が睡眠を取りたいだけだから
「ありがとう………しゅせん……くん……」
………寝よっと