次はレイサネタ辺りだと思います
『あははははっ!大丈夫だって!私が野蛮なゲヘナの生徒になんか負けるはずがないじゃんね☆』
当時一年生の聖園ミカは自信満々に、そしてあえてゲヘナ側に聞こえるようにそう宣言した
彼女にとっては初の戦術対抗戦、当時のゲヘナ側の風紀委員長と当時のティーパーティーが手を取り合ってなんとか実現させた合同訓練
そんな事など知らんと言わんばかりにゲヘナを挑発する聖園ミカ
まるで自分の勝利を確信しているかのような態度と発言だが、実際に彼女は一年生の時から既に〝強者側〟だった
『あっははははは!ゲヘナの三年ってこんなに弱いの~?』
並大抵の実力者では彼女を止めることは叶わず、更に好き勝手に暴れるミカ
大嫌いなゲヘナを蹂躙できた事で調子に乗り切った彼女の煽りは益々ヒートアップしていく
『なーんだ、あんまり強くないね……その頭の角は見た目だけなのかな?』
欠伸をしながら適当に言い放った言葉、それを聞いて静かにピクリと反応した者が居た
それは、ミカが煽った相手と同じく〝角〟を生やしている少女を妹に持つ空崎酒泉という男
彼の妹が直接愚弄された訳ではないが、間接的に馬鹿にされたことで彼の沸点は限界突破寸前だった
更には風紀委員の仲間が目の前で馬鹿にされたこともあり、いよいよ空崎酒泉の怒りが爆発してしまった
『おい』
『んー?』
『デュエルしろよ』
そんな訳の分からない言葉と共に聖園ミカの前に立ち塞がる空崎酒泉、当時三年生
『あれれー?さっきまで私一人にいい様にされてたのをもう忘れちゃったの?』
彼女の煽りを聞いても無言で近付く酒泉、ミカは面倒そうに溜め息を吐いて銃を構えた
『……まあいいや、とりあえず十分に暴れてスッキリしたし………貴方のことはサクッと折るね☆』
そう言って聖園ミカは駆け出し、そして─────
『よっっっっっわ!!!』
『っ……くっ!』
────空崎酒泉に完敗した
『えっ?この程度の実力で調子に乗ってたの?井の中の蛙どころじゃなくない?オタマジャクシからやり直した方が………いや、オタマジャクシの方が賢そうだしそれは失礼だな………』
倒れ伏すミカを見下しながら煽る男、空崎酒泉
『ぐ、偶然上手くいったくらいで……調子に乗らないで!』
ミカは即座に起き上がって反撃する
……が、近接戦を仕掛けても軽くいなされ、中距離戦に入っても行動を封じるかのように酒泉が先読みで攻撃を仕掛けてくる
再びアッサリと地に伏すミカ
『もちも~ち?起きてまちゅか~?』
『うるっ……さい!』
………大人げなく、その間にも酒泉はミカを煽り続けた
再び立ち上がってまた突っ込んでも、酒泉はそれをいなしながら再度煽り始める
『言っとくけど、そっちがチャレンジャーだから』
『勝てんぜ、お前は……』『ほら聖園!心の強さでもう一丁!』
『頑張れ頑張れ!』『お前の痴態がよく見えるぞ』
『やめてよね、本気で喧嘩したらトリニティがゲヘナにかなうはずないだろ』
『ドンマイ!』『駄目だコイツ……早くなんとかしないと……!』
『なんで自分なんかの為に必死になれるんですか(笑)』
『キヴォトス中が君のレベルに落ちたらこの世の終わりだぞ!』
『おっと会話が成り立たないアホが一人登場~』『少なめの脳ミソでよく考えたな』
『レディース!エーン!ジェントルメーン!(勝ち確煽り)』
『救世主なんだよ、僕は』『リボーンズガンダm……リボーンズキャn……』『リボリボリボリボリボリボ……(ガチャガチャガチャガチャ!)』
『貴女はゴリラですか?』『お前、さては……馬鹿だな?』
『その顔が見たかった………俺に負けたことを悔しがるその顔が!ハハハハハッ!』
『だって君……弱いもん(笑)』『じゃあな最強、俺が居ない学園に入学しただけの凡夫』
『お前ごときが空崎酒泉に勝てると思うな!』
『これだから人間は面白い!』『お前の弱さに俺が泣いた!』
『(^U^)どうした?起き上がらないのか?』
『聖園ミカァ!何故君が煽られているのか!何故地を這いずっているのか何故勝てないのかぁ!その答えはただ一つ………聖園ミカァ!君が単純に俺より弱いからだぁ!ヴェエエエエハハハハハッ!』
それはそれは本当に酷い光景だった
必死に食らいつこうとする二年下の後輩を煽りながら、実力差を分からせる他校の三年
思わず一部のゲヘナ生ですらミカに哀れみの目を向けてしまうほどのワンサイドゲームだった
自分より格上の絶対強者から向けられる嘲笑、先程までとは真逆に一方的に蹂躙される
あえて行動不能にはせずギリギリでミカが折れない範囲でおちょくる酒泉
その事をミカも理解しているのだが、だとしても抵抗のしようがない
そしてついに、ミカは─────
『神秘も持たねぇ俺みたいな猿に負けたってこと、長生きしたきゃ忘れんな』
『……ぅ……』
『───あん?何言ってんだ?聞こえないぞ?』
『うわああああああああああん!!!』
『!?』
────聖園ミカ、全力で号泣
ゲヘナとトリニティ、両生が見ている中で恥も外聞もなく涙を流す
『うわああああああん!うああああああん!』
『しゅ、酒泉さん……流石に煽りすぎたのでは……?』
『あれはちょっと……私達でもドン引きですよ……』
『…………』
先程まで叩きのめされていた風紀委員達ですら苦言を申す始末
酒泉は泣きじゃくる聖園ミカに近づき、そして─────
『ぴーすぴーす』
────ゲヘナ側の観客席(の妹)に向かって〝ぶいっ!〟とダブルピースをかました
それはもう荒れに荒れた、反省するどころか泣いている女の子の前で堂々と勝利宣言したのだから
何よりも最悪なのが、この試合が公衆の面前だったこと
互いに望まぬ形で有名人となってしまった……なんなら交流戦ということもあって動画も残っている
「………と、これが現ティーパーティーの一人である聖園ミカがゲヘナを憎んでいる理由の一つですね」
「あの人なにやってんのっ!!?」
執務室でアコから話を聞いたイオリがつい大声で叫んでしまう
「そ、そんな事があったんですね………逆によくこの日までETOを維持できましたね……」
仲がより険悪になってもおかしくない、そんな話をイオリと共に聞いていたチナツが苦笑する
「……まあ、それは当時の三年……ティーパーティーと酒泉さんがとても〝仲良し〟だったからでしょうね」
「仲良し……ですか?」
「分かりやすいようにハッキリと言いましょうか?堕ちてるんですよ」
「あっ(察し)」
チナツとイオリの脳裏に浮かぶのはいつも通りのクソボケムーブをかます酒泉の姿
自分達が入学する頃には酒泉は既に卒業した後だが、その後もちょくちょく顔を見せに来る為、彼の人となりはある程度知れ渡っている
「……ところで、イオリは何故突然酒泉さんの話を聞きたいと?」
「えっ!?そ、それは……ほら!私ってよく酒泉さんにスナイパーライフルを使った近接戦を教えてもらってるでしょ?だから勉強の為に当時のあの人の戦い方を知っておきたいなーって……」
「……イオリも堕とされた後でしたか」
「違うからね!?本当にそういうのじゃないからね!?」
遅かったか、と手を額に当てて首を横に振るアコ
あたふたしながら言い訳を考えているイオリを落ち着かせようとすると、その後ろの人影を見て即座に立ち上がる
「────委員長、お疲れ様です」
「うん、お疲れ」
「い、委員長!?いつの間に!?」
「今戻ってきたばかりだけど………ところで、お兄ちゃんの話してた?」
「えっ?それは……」
「委員長、落ち着いてください。私達は二年前の戦術対抗戦の話をしてただけです」
「……その話ならいいよ」
一言だけ返すと、自身の席に戻っていくヒナ
その様子を見たイオリとチナツが疑問を口にする
「……あの、どうして委員長は酒泉さんの話を耳にすると何かを警戒したかのように見つめてくるのでしょうか……?」
「あっ、それ私もずっと気になってた」
「そんなの決まっているじゃないですか、酒泉さんの………自らの兄のカッコイイところは自分だけが知っていたいんですよ」
(そんな理由なんだ……)
(微笑ましいですね……)
「アコ、聞こえてるから」
小声で話していた三人を咎めるヒナ
彼女は万魔殿から送られてきたであろう書類を眺めながら己の考えを口にする
「……私はこれ以上お兄ちゃんの被害者を出したくないから情報統制してるだけ、それ以外の理由なんてないから」
「ですが、今後の為にも風紀委員の歴史を言い伝えていくのはとても大事な事だと思いますよ?さっきの話を聞かせたら少なくとも戦術対抗戦で再び荒れるような状況に陥ることは避けられるかと」
「……だとしても、私が自分で判断して話すから」
アコが〝そうですか〟と返すと、ヒナはこれ以上何かを言うことなく仕事に取り掛かる
………かと思えば、アコが突然何かを思い出したかのように手を叩く
「そういえば………今日の放課後、酒泉さんが此方に顔を出しにいくそうですよ」
「……はっ?待って……私、何も聞いてないけど?」
「私の方に連絡が来ましたからね」
「……なんでアコに?」
「委員長が仕事で無理していないか確認する為ですよ、ちょっと目を離すとすぐに残業しようとするんですから……」
自身の身を案じてだという事を理解した瞬間、何も言えなくなるヒナ
酒泉自身は一度も風紀委員長になったことがないものの、当時の風紀委員長を誰よりも近くで支え続けてきた経験からその仕事量は生半可ではないことを知っていた
「お義兄様には委員長の事を任されていますので、無茶をさせる訳にはいかないんですよ」
「………待って、今お兄ちゃんの呼び方おかしくなかった?」
「……?お義兄様の呼び方……ですか?」
「やっぱりおかしいって」
明らかに〝空崎ヒナの兄〟以外の意味を込めた呼び方にヒナが引っ掛かる
横乳を晒している変態少女は己がヒナと結ばれると本気で信じているのか、自分の発言になんの疑問も感じていない
「……アコちゃん、その呼び方そろそろ止めたら?」
「今更止められませんよ!一体何年続けてきたと思ってるんですか!」
「きっしょ、なんで止めないんだよ」
「全てはお義兄様に気に入ってもらうため!その為にお義兄様好みの味付けを覚え、お義兄様好みのおしゃれをして、お義兄様のご趣味を私も学び………」
「……ん?ねえアコちゃん、それって………いや、気のせいかな………」
「そしてついにこの間、お義兄様と二人きりでお買い物するほどの仲にまで発展しました!」
「アコ?」
「ひっ……い、委員長!?どうしてそんなに殺気をぶつけてくるのですか!?」
「えっ?アコちゃん本当に無自覚なの?」
「ミイラ取り……でしょうかね?」
もはや途中から〝どちら〟が本命なのか分からなくなっているアコ
そんな彼女にヒナは冷たい眼差しを向ける
「お兄ちゃんと一緒にお買い物ってどういうこと?そんな話、聞いてないんだけど?」
「そ、それはですね………」
────俺から頼んだんだよ、お一人様一つまでの卵パックが欲しくてな
「だったら私を呼んでくれたら────」
「えっ?お兄ちゃん!?」
突然ヒナの真上から聞こえてくる男の声
ポスッとヒナの頭に手を乗せると執務室の全員にもう片方の手で〝よっ!〟と気軽に挨拶してくる
「な、なんでここに……」
────あれ?アコから〝俺が来る〟って話聞いてなかったのか?
「聞いてたけど……でも、もう到着してるなんて……」
────はははっ、悪い悪い………万魔殿の連中に連れてかれちまってさぁ……
「……マコト?」
万魔殿
その組織の名前を聞いた瞬間、ヒナは不機嫌そうに顔をしかめる
「……相変わらず仲良しなんだね」
────仲良し……なのか?俺はただ〝約束〟があるから定期的に会いに行ってるだけなんだけどな
「……あんな約束、気にしなくていいのに」
酒泉が卒業する時、彼は一つの心残りがあった
それは自分の卒業後、羽沼マコトが何か問題を起こさないか
一年の時から既に暴れ馬だったマコト、そんな彼女を日頃から制御していたのは空崎酒泉だった
今後彼女が風紀委員や〝近い将来キヴォトスにやってくるであろう大人〟に迷惑を掛けたりしないかと危惧していた
そんな悩みを解決する為に一つの提案をしたのは………意外な事にマコト自身だった
『キキキッ!そんなにこのマコト様を止めたいのなら貴様自身の手で直接止めに来ればいいだろう!』
『まあ、なんだ……その……茶くらいなら出してやらんこともないぞ……こ、このマコト様直々にな!』
『な、なんだその顔は!?何が言いたい!?』
『〝ちょくちょく様子を見に行く〟……?そ、そうか!来るのか!なら良い!いや、良くないが!』
『……ほ、本当に……来るんだよな……?』
『………キ、キキキキキッ!そうかそうか!………はっ!?笑ってなどいないが!?』
『とにかく言質は取ったからな!?貴様の目が無ければ私はこのゲヘナを滅茶苦茶にするからな!?分かったな!?』
『では、私は今後の悪行について計画しにいくとしようか!……………………………………卒業おめでとうございます』
この日から酒泉は仕事が休みの日にマコトの監視という名目でゲヘナ学園にやってくるようになった
また、彼自身の人柄や実力もあってか風紀委員のメンバーにもすぐに懐かれ、今では戦闘の指導を頼まれるほど仲良くなっていた
「……そもそも、妹である私より先にマコトに会いにいくのはおかしいと思う」
────……ヒナ?もしかして……嫉妬してるのか?
「………別に」
酒泉は苦笑しながら頬を膨らませていじける実の妹の頭を撫でる
────ごめんごめん、この埋め合わせは日曜日にでもするからさ
「………土曜日が良い」
────ああー……悪い、その日は別の人との予定が入ってんだ
「……今度は誰?ユメさん?それともアリウスの人?」
────………れ
「……れ?」
────連邦生徒会長です……
「……またあの人?」
「……ユメさん?アリウス?何の話?」
「ユメさんというのはお義兄様のお知り合いの方で、アリウスというのは、まあ………歴史から存在を消された学園……とでも言っておきましょうかね」
「存在を消された!?」
「お義兄様がよく調べていましたし、当時の風紀委員会では有名な話でしたけどね………逆に言うとお義兄様に教えられるまでは誰も知りませんでしたけど」
最初は単なる噂程度の規模でしかなかった話、それが大事にまで発展したのは酒泉がティーパーティーを連れて風紀委員会にやってきた時だった
〝とある組織が近い将来、ETOを乗っ取るかもしれない〟
そんな話をした酒泉とティーパーティーの面々は、その証拠としてアリウス自治区に繋がるカタコンベの存在を明かした
そして、そのカタコンベの居場所を教えたのは………なんと、錠前サオリという実在したアリウス生だった
ティーパーティーの力を借りてカタコンベ付近を必死に調査し、何かしらの任務で外に出てきた錠前サオリを奇跡的に捕らえた酒泉
酒泉は自身の持ちうる知識と記憶を利用して錠前サオリを説得し、アリウスの〝支配者〟の元まで風紀委員会と正義実現委員会を案内させた
『ベア殺しいきまぁす!!』
『空崎兄妹ぃぃいい………ファイヤー!!!』
その時の暴れっぷりは当時の後輩達の目に未だに焼き付いている
自身のダメージを全て無視し、アリウスの支配者が未知の怪物の姿に変化してもなお突撃する
血を流しながら敵の肉を削る姿はまるで鬼神の如し
最終的にアリウスの支配者とその部下達は逃がしてしまったものの、それでも〝アリウススクワッド〟と呼ばれる支配者にとって重要な存在を保護することはできた
こうして、ゲヘナとトリニティは未然に数年後の大規模テロを防ぐことに成功した
……これは余談だが、彼女達に保護されたアリウススクワッドも今ではトリニティの一生徒として青春を謳歌している
錠前サオリなんて授業が終わる度にトリニティのどっかのお姫様にスイーツ店まで拉致られ、空崎酒泉の愚痴を(強制的に)聞かされているのだとか
「私達の入学前にそんな事件が起きていたなんて……」
「なんか……酒泉さんの周りっていっつも大変な事が起きてるよな……」
「でも、それらを解決してきたからこそ今の酒泉さんが………多くの人に好かれている〝皆のお兄ちゃん〟が存在しているのではないでしょうか」
ヒナに頭を下げて必死に謝る酒泉、そんな彼にチナツは暖かい視線を向ける
『前線で戦う人間は後ろにサポートが居るのが分かっているからこそ前に突っ込むことができるんだ』
『特に救護班が居てくれるとありがたい、一通り戦場を荒らしてきた後すぐに治療を受けられるからな』
『チナツは間違いなく風紀委員達の力になってるよ、だから………そんな顔で自分のことを〝力不足〟だなんて言わないでくれ』
『大丈夫だ、お前は強い………先輩である俺のお墨付きだぞ?』
思い起こすのは些細な表情の変化でも自身の悩みに気づいてくれた心優しい先輩の言葉
誰にも言えなかった自分の弱音を引き出してくれた酒泉の姿
「……ふふっ」
────ん?どうしたんだ、チナツ?
「いえ………こうして卒業した後も私達のことを気に掛けてくれる酒泉さんって、なんだか風紀委員全体にとっての〝お兄ちゃん〟みたいな感じがしまして────」
「駄目っ!お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなのっ!」
「………」
「………あっ」
「……ふふ、そうですね……委員長の大好きなお兄ちゃんですもんね?」
「委員長マジ天使」
「アコちゃーん、キャラ崩れてるよー」
────俺の妹マジ天使
「……お兄ちゃんまで変なこと言い出さないで」
言葉では突き放しているものの、実際には満更でもなさそうに酒泉から目を逸らすヒナ
そんな彼女を見てイオリは一つの疑問を思い浮かべる
「……ねえ、チナツ。そういえばずっと気になってたことがあるんだけどさ……」
「はぁ……なんでしょうか……」
「委員長が酒泉さんに向けてる感情って………本当に兄妹愛だけだと思う?」
「………さ、さあ?」
「……あまり考えない方が良さそうだね」
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私には自慢の兄がいる
『おはよう、ヒナ』
『大丈夫か?学校の勉強で困っている事とかないか?』
『〝怖い夢を見たから一緒に寝てほしい〟?仕方ないな………ほら、こっちにおいで』
『しっしっ!さっさと帰れ野良犬!………ほら、もう大丈夫だぞヒナ』
『今日のお弁当はヒナの好きなものばっかだぞー?』
とても強くて、とても優しい
いつも私を気遣ってくれる、誰よりも私を大切にしてくれる………そんな兄が
『……ん?ああ、この怪我?』
……でも、そんな兄にも欠点はある
それは……すぐに怪我を負って帰ってくることだ
『気にすんな、ちょっと転んだだけだからさ』
『あ゛ー……しんど……』
『いつつつ……カイザーの量、そこそこ多かったな………今度またアビドスの様子見に行くか』
『よしっ!これでエデン条約編は終わりだぁ!』
誰かの為に戦ったであろうことは分かってる、でも………私はそれすら嫌だった
兄妹なのに何故か私と違ってヘイローを持たないお兄ちゃん、そんな脆い身体のお兄ちゃんが戦えば戦うほど遠くに行ってしまうような気がして
「……お兄ちゃん、起きてる?」
お兄ちゃんの自室のドアを開け、静かに部屋に踏み入れる
部屋の中にはベッドの上でスヤスヤと眠っているお兄ちゃんの姿
「……よいしょっと」
起こさないようにゆっくりとベッドの上にあがり、自分の部屋から持ってきた枕をお兄ちゃんの頭の横に置く
「………相変わらずあったかいね」
こうして手を背中にくっつけるだけでも〝兄は近くに居るんだ〟という安心感に包まれる
絶対に私を置いていくことはないと、必ず私の元に帰ってきてくれると再確認できる
「………そうだよね、お兄ちゃん」
当然返事はこない
……これで何度目だろうか、勝手にお兄ちゃんの隣で眠るのは
朝起きた時に私が隣で寝ていた事に驚いていたお兄ちゃんも、同じことを繰り返す内に何も言わず苦笑いで受け入れてくれるようになった
「………おやすみなさい、お兄ちゃん」
きっと今回も同じように受け入れてくれる、そしていつもの様に頭を撫でてくれるだろう
朝一の楽しみに心踊らせながら、私は静かに目を閉じた
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俺には自慢の妹がいる
それはそれは可愛い妹だ、どれくらい可愛いかと言うと〝可愛い〟という言葉では物足りないレベルの可愛さだ
そんな妹の頼みなら可能な限りは何でも聞いてきた………小学校高学年になっても一緒に風呂に入ろうとしてきた時は流石に止めたけど
とにかく、俺にとっては最愛で最高な妹………それがヒナという女の子なのだ
俺はそんな妹に幸せな人生を送ってほしくて、この世界に………キヴォトスに訪れる災いと戦ってきた
エデン条約をもっと早い段階で進められるように風紀委員として全力で走り回り、アリウス自治区を見つけ出してベアトリーチェをぶっ飛ばし、ミレニアムに事情を説明して〝王女〟を起動させに行ったりした
勿論、これらは俺一人の力だけではない
前世の話を除いてそれ以外の事情を全て説明したら、皆は俺のことを信じて力を貸してくれた
当時の風紀委員長やティーパーティー、当時のセミナー会長
皆との絆によって色彩襲来を未然に防ぐことができ、他のバッドエンドに繋がりそうな事件も手の出せる範囲では解決できた
そして俺はなんの心置きもなくゲヘナを卒業─────した後も、キヴォトスを護る為に戦うことを決意した
俺達が解決できたのはあくまで原作知識の範囲内の事件、これからは範囲外の災いだって当然キヴォトスに振りかかるだろう
さて、どうやってその〝原作知識外の災い〟を調べるか
そんな俺に声を掛けてきたのがミレニアムのとある生徒だった
その子は当時一年生でありながら俺の為に危険な戦いに身を投じて様々な事を調べあげてくれた子だった………〝王女〟関連でも大変お世話になった
その子曰く、〝特異現象に対抗する為の組織を作るからそこで働いてほしい〟……とか
俺は喜んで首を縦に振った、就職できてキヴォトスを護る為の活動もできるなんて一石二鳥ではないか
………そして、その日から俺の職場が決まった
俺は今日もミレニアムに向かう、全てはキヴォトスの平和を護る為に、そして………平和なキヴォトスで妹に幸せになってもらう為に
さーて!お仕事頑張るぞい!
「……リオ?酒泉さんは私と話していたのですよ?邪魔をしないでくれますか?」
「あの人を雇ったのは私よ………まず最初に私とミーティングを始めるべきだわ、ヒマリ」
「来て早々に貴女のドブ臭い口臭を浴びせられるなんて酒泉さんが可哀想でしょう?」
「あら、貴女の下らないジョークや無駄に遠回りな小難しい話を聞かせられるよりはマシだと思うけど………そもそも私はその辺のケアは毎日しっかりと行っているわ、その〝ドブ臭い口臭〟というのは貴女の臭いでは?」
「……話になりませんね……酒泉さん、あの女は置いていきましょう。今回の特異現象に関しては私が説明して差し上げますので」
「その人の腕を離しなさい、酒泉さんは私の部下よ」
「………」
「………」
……まあ、仕事はあのギスギスオーラが消えてからでいっか
トキー、エイミー、トランプやろうぜー
「いいでしょう、私はカードを二枚伏せてターンエンドです」
おう、ルールが違うな
「それなら私はハートの10でシールドをWブレイクするね」
おう、ゲームが違うな