『………』
あれはゲヘナ学園に入学して少し経った後の話だったか
糖分を愛し、糖分に愛された男であるベスト・オブ・糖分であるこの俺………折川酒泉は今日も今日とてトリニティにお買い物しにきていた
ターゲットは苺タルト、これがまた絶品なんだとか
………まあ、買えなかったんだけどね
それもこれも全部温泉開発部が悪い、アイツらが余計に暴れたせいで放課後の仕事が増えたんだから
そんなこんなで気を落としながらトボトボと歩いていると、偶然通りかかった公園のベンチに俺以上に気を落としている人がいた
その子は後に俺の大親友となる少女────宇沢レイサだった
『………はぁ』
深刻そうに溜め息を吐く宇沢さん、俺はそんな彼女に声を────かけなかった
そりゃ当然だろ、初対面………それも他校の生徒相手に対して突然〝どしたん?はなしきこか?〟する訳にはいかないだろ
俺は落ち込む宇沢さんをチラッと一瞬だけ気にかけながらも、結局何をする訳でもなくそのまま帰宅した
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────────
──────
『………はぁ』
別の日
また見つけた、公園のベンチで落ち込む宇沢さんを
この日、俺がトリニティに来てたのは前回のリベンジ………要するに今度こそ苺タルトを買おうと意気込んでいたのだ
ちなみに結果は完勝、なんと二つも買えました
そのままウッキウキで帰ろうとした俺だったが………
『駄目……なんでしょうか……』
前回以上に深く落ち込んでいる宇沢さんが視界に入って─────またスルーした
まあ、二回連続で見かけたとしても知り合いって訳じゃないしな………
とりあえずさっさと帰って苺タルトを冷蔵庫にぶちこむ事にした
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──────
またまた発見、公園のベンチにアイスクリームみたいな髪色した少女
『………………はぁ』
しかも前回より溜め息が深くなっている
……あっ、ちなみにこの日は別のもん買いにトリニティに来てました
お目当てであるカボチャプリンを買えてルンルンと買い物袋を振り回さない程度にスキップしていた俺は、その日もいつも通りスルーしようと────しなかった
流石に三回連続で見て見ぬフリするのも……ねえ?
『どしたん?はなしきこか?』
『………え?』
後ろから宇沢さんに声をかけると、彼女は少々驚いて目を丸くした
赤の他人に話しかけられたのだ、それも当然だろう
『えっと……貴方は確か、最近この辺りでよく見かける……』
………どうやら相手側も俺のことを覚えていたらしい
『ここを通る度に落ち込み具合が酷くなっていったからさ………深刻な悩みでも抱えているんじゃないかと思ってな』
『い、いえ!お気になさらず!私の個人的な悩みにすぎないので………ご心配お掛けしました』
『いや、気にするなって言われても………』
ここまで同じ人物を同じ場所で何度も視界に入れていると嫌でも意識してしまうだろう………別に本当に嫌という訳ではないけど
しかも日に日に負のオーラが濃くなっているのだ、そりゃ声くらい掛けるだろう
『本当に大丈夫です、人間関係の事で少し悩んでいただけですから……』
『少しどころじゃないだろ………鞄、地面に落ちてるぞ』
『えっ?……あっ、本当です……』
視線を下に向けると、宇沢さんが指先でぶらぶらと揺らしていた鞄がいつの間にか地面に落ちていた
咄嗟に拾い上げて土汚れを払い、ベンチに鞄を置く
『あ、ありがとうございます……』
『………自分でも気づいていないくらい深く思い悩んでるんじゃね?』
『ははは………かもしれません』
力なく笑い掛ける宇沢さん、その光景は少し痛々しかった
『………解決策は見つからないかもしれないけど、とりあえず抱えてるもん吐き出してみないか?そうすればちょっとは楽になるかもしれないだろ?』
『……あの、どうしてそんなに親身になってくれるんですか?私達って顔を合わせて話したのすら今日が初めてですよね……?』
宇沢さんは当然の疑問を口にする
どうして、か………さっき述べた〝三回も見て見ぬ振りするのは気分が悪いから〟以上の理由なんてないんだけどな……
『………まあ、ただの気まぐれだ。宇沢さんがこの辺りをよく通る俺のことを覚えていたように、俺もよくここで落ち込んでる宇沢さんのことが気になっただけだよ』
『………あれ?私、名前を教えたことありましたっけ?』
『あー……アンタ、トリニティでもちょっとした有名人なんだよ、自警団に所属している元気いっぱいのスーパースター様だってさ』
『そう、ですか……』
一言だけそう呟くと、宇沢さんは目を伏せて項垂れる
しかし次の瞬間、突然ガバッ!と頭を上げて自身の両頬を勢いよく叩いた
『………そうですね!いつまでもウジウジと悩んでいるなんて、スーパースターらしくありませんね!このまま悩み続けて活動に支障を来してしまうくらいなら、いっそここで全て吐き出してしまいましょうか!』
前世で画面越しに見たような元気さを取り戻した宇沢さんは俺の顔を見て少しずつ語り始めた
彼女の言ってた人間関係の悩みとは……
〝クラスの人に話しかけられた時の対応の仕方が分からない〟
〝なんて返事をしようか悩みすぎて、そのせいで返事ができなかった〟
〝大袈裟に反応しすぎて相手を困らせてしまった〟
と、そんな悩みだった
………まあ、〝人間関係〟って言われた時点で大体予想はできていた、前世の絆ストーリーで確認済みだったしな
『話してくれてありがとう………つまり宇沢さんは自身のコミュニケーション能力の低さを改善したい、と』
『け、結構ハッキリ言うんですね……』
『それなら一番手っ取り早い方法があるぞ』
『……えっ?』
『特訓あるのみだ』
俺の言葉にキョトンとする宇沢さん
特に難しいことを言ったつもりはないんだが………
『特訓……ですか?一体何の……』
『何って、そりゃあ………人付き合いのだろ?人と話す機会が増えれば、その内勝手に慣れていくだろ?』
『で、ですが……それって相手が必要なのでは……?』
『ああ、そこで提案なんだけど………宇沢さん、俺と友達になってくれないか?』
『わ、私が……ですか?』
『もし宇沢さんが友達になってくれたら、俺はトリニティを案内してもらってもっと多くのスイーツ店を知る事ができる。宇沢さんも人付き合いの特訓ができるし、他の友達と遊びに行く時の為の予行練習にもなる』
『よ、予行練習………な、なんだか打算的な感じがして………』
『それで良いんだよ………最初は打算込みだろうと心の底から〝楽しい〟とどこかで思えたなら、その時点で俺達は本当の友達になれたってことなんだから』
〝本当の友達〟
その言葉を聞いた宇沢さんはピタリと動きが止まり、顎に手を当てて悩み始める
しかし意を決したのか、宇沢さんはベンチから立ち上がって俺に片手を差し伸べた
『……分かりました!殆ど初対面の私なんかの為に話を聞いてくれたんです!私だってそれに応えましょう!えっと……』
『折川酒泉だ』
『酒泉さん!今日からよろしくお願いします!』
その日から俺と宇沢さんの特訓が始まった
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『特訓その一!まずは一緒に居ることに自然と慣れること!』
『自然……ですか?』
『ほら、友達の友達と二人きりで居ると気まずくなったりするだろ?だからその空間に慣れる為にも、まずは俺と適当に会話を……』
『えっと、すみません。そもそも友達と一緒に遊ぶ機会自体があまりないので………』
『………すまん』
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『悪い、待たせたな』
『いえ!気にしないでください!それよりも………今日は何を!?』
『今日はだな………特訓その二!遊び場をある程度記憶しておくこと!』
『遊び場……ゲームセンターとか遊園地とかですか?』
『ああ……〝明日暇だから遊ばねー?〟的な感じで何処に行くか特に決めていた訳でもないのになんとなく遊ぶことになった時の為に引き出しを増やしておけ!』
『帰りになんとなく何処かに寄って買い食いする………みたいな感じでしょうか?』
『その通り!分かっているじゃないか!』
『え、えへへ……』
『……という訳で、今日はゲームセンターに向かうぞ!』
『お、おおー!』
『…………で、こっから一番近いゲーセンってどこだ?』
『あ、そうですよね、ゲヘナから来てる方ですもんね………で、では!ここは私が案内しましょう!』
(まあ、本当は知ってるんだけどね………自主性自主性)
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『特訓その三!自分の意思を持つこと!』
『自分の意思……?』
『確かに友達付き合いは大事だ……だけど、相手に気を遣うあまり自分の意思を圧し殺してイエスマンに徹したとしても、そんな関係は長続きしないぞ』
『えっと……つまり?』
『無理なら無理とハッキリと断れ!』
『はい!分かりました!』
『…………それはそうと話は変わるんだけどさ、実は俺、借金しちゃったんだよね』
『……ええっ!?と、唐突ですね……!?』
『明日までに百万円用意しないと臓器を全て抜かれてしまうんだ………頼む宇沢さん!俺の代わりに借金を肩代わりしてくれ!』
『で、でもぉ……』
『お願いだ!俺達友達だろ!?大親友!ベストフレンド!』
『う、うぅ……わ、分かりました……な、なんとかしてみます……』
『嘘だろ……こんな簡単に引っ掛かるの……?』
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『酒泉さん!今日はどんな特訓をやるんですか!?』
『ふっふっふ………特訓その四!自分から一歩前に進む!』
『じ、自分から!?それは今の私にとっては少々レベルが高いと言いますか………』
『……なあ、宇沢さん。宇沢さんって話によると普通に声をかけられることもあるんだろ?』
『は、はい………ですが、あまり予定が合わずに断ってしまうことが度々……』
『これは俺の予想でしかないんだけど、宇沢さんって別にぼっちって訳じゃないと思うぞ?少なくとも誰かに遊びに誘ってもらってる時点でクラスでも普通に仲の良い人くらいの位置には居るんじゃないか?』
『そう……でしょうか……?』
『多分だけど宇沢さんって自分から距離を取ってると思うんだ。そんな宇沢さんが自ら誰かに話しかけたとしたら、予定が合わなかったとかの理由がない限り邪険にされることはないと思うからさ』
『……も、もしそれで断られたら?』
『そん時は………一緒に泣こう』
『リカバリー案なしですか!?』
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『……や、やりましたよ酒泉さん!ついにやり遂げました!』
『ん?何がだ?』
『以前、私を遊びに誘ってくれた方達を今度は私から誘ってみたんです!そしたら………なななんと!OKを頂きました!』
『お……おお!?マジか!?なんて成長速度……!』
『これも酒泉さんのアドバイスのお陰です!勇気を出して踏み込んでみるものですね……!』
『……よし!それなら今日の特訓はこれだ!特訓その五!これまでの俺の教えを全部忘れること!』
『はい!…………ええっ!?』
『これまで友達の作り方ってのを教えてきたが………それらは所詮人為的なもの、何の意味も持たない!』
『い、今更それを言ってしまうんですか……?』
『だって俺、今居る友達の中で仲良くなった理由を具体的に覚えている人なんて殆どいないもん』
『そ、そうなんですか……?』
『一緒に過ごしていく内にいつの間にか仲良くなっていった感じだし、多分だけど友達ってのはそういうもんだと思うんだ…………結局、大切なのは経験や積み重ねって訳だ』
『積み重ね………』
『どれだけ長い時間付き合いがあったとしても、大して干渉し合ったりしなければ他人のまま。どれだけ短い時間しか付き合いがなかったとしても、その一瞬の時間が濃ければ一気に距離が縮まったりする………持論だけどな』
『………』
『……という訳で、宇沢さん!ここからはアンタの自由にやってみるんだ!俺の言葉なんて気にせず、友達と好き勝手に遊んでこい!』
『………はい!』
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「────それでですね!この前友達と食べに行ったこのスイーツがとても大きくて……」
スマホの写真を見せながら嬉しそうに笑う宇沢さん
写真の中の三人は旧友の様に肩を組んで笑いあっている
この人達は………前世のゲーム内のモモトークに写ってた二人か
そうか、宇沢さん……お前にも……友人ができた……
「見てください!このバケツサイズのプリンを!これを食べるのに三人掛かりでやっと……」
次々とスライドしていく写真、新しく出来た思い出達
そのいずれも友達と楽しそうにしているものばかりだ
………うん、ここまで成長すれば十分だろう
「食べ終える頃には全員無言になってましたけど、でも店を出た後でまた笑いあって………」
宇沢さん
「はい?なんでしょうか?………あっ!?もしかして私、喋りすぎてしまいましたかね!?ごめんなさ────」
特訓はこれで終わりだ
「────い?」
ピタッと身体が止まる宇沢さん
次に彼女は困惑したかの様にオドオドと問いかけてくる
「えっと……ど、どうしてですか?何か気に入らないことでも……?」
違う違う、ほら……本来の目的、忘れてないか?
「本来の………あっ!?」
そう、これは元々宇沢さんが友達を作る為の特訓だ
こうして目的を達成できた以上、特訓を続ける意味もないだろう
「そ、そうでしたね……普通に楽しんでいたせいで特訓だという事を忘れてました……」
ああ、だから特訓は今日で終わりだ……お前に教える事はもうない……
「………」
ちょっとした師匠キャラの気分になりながらそう伝えてみる
まあ、実際にこれ以上教えることはないしな………宇沢さんの人柄ならすぐにでも他の人とも仲良くなれるだろう
「………です」
そんな事を考えていたら、宇沢さんがポツリと何かを呟いた
〝です〟……DEATH!?俺に死ねと!?
「嫌です……」
あっ……〝嫌です〟って言ったのね……え?何が?
「これでお別れなんて嫌です!」
「わ、私……まだまだ酒泉さんと一緒に遊びたいです!」
「まだ遊んでないゲームだってありますし、まだ行ってないスイーツ店だってありますし……!」
声を震わせながら捨てられた子犬のような瞳で見つめられる
「そ、それに……バッティングセンターでのリベンジだってまだできてませんし……今度ゲヘナを案内してくれるっていう約束も……」
……ん?ちょい待ち?なんか勘違いしてない?
「まだ私の家にも招いていませんし酒泉さんの家にも………え?勘違い?」
俺は〝特訓は終わり〟って言っただけで、一生会えないなんて言ってないぞ……?
「………あっ」
宇沢さんも気づいたのか、先程までの焦っていたような態度から一瞬で気まずそうな表情に変わる
「えへへ……そうでした……私ってば、つい早とちりしすぎてしまいました……」
これからも暇な時とか全然呼んでくれても構わないからな
……そうだ、なんなら俺から誘ったりもしていいか?
「も、ももも勿論です!」
宇沢さんは俺の手を取ってぶんぶんと勢いよく縦に振る、すっごく痛い
「この宇沢レイサ!これからも酒泉さんを楽しませる為に様々な場所を案内しましょう!」
いつも通りの大きな声で胸を張りながら宣言する
至近距離で聞かされたせいで耳がキーンと鳴るが……まあ、元気になってくれたのならば良かった
「……酒泉さん!」
ん?
「これからもよろしくお願いします!」
はいよー
──────────
────────
──────
……とまあ、こんな感じで特訓が終わった後も俺達は普通に遊び続けた
『全力でいきますよ!酒泉さん!』
『ちょっ……キヴォトス人の本気の力でコーヒーカップ回すと────あばばばばばばばば』
また二人だけで遊園地に行ったり
『さ、さっきの恋愛映画、ちょっと過激でしたね……』
『だ、だな………ネタバレ踏まないようにネット断ちしていたとはいえ、まさかあんなシーンがあるなんて………』
『恋人というのは皆あんな事をやっているのでしょうか………私には精々手を繋ぐ程度のことしか………』
『同じく……』
二人で映画を観に行ってちょっと気まずくなったり
『ええい!待たれい!トリニティのスーパースターにして自警団のエースにして皆のアイドルの宇沢レイサと………』
『ゲヘナのナイフにして風紀委員会の期待の新星にして皆の憧れの折川酒泉!』
『『ここに参上!』』
『な、なんだコイツら!?』
二人で市民に迷惑を掛けるスケバン共をぶっ飛ばしたり
『見てください酒泉さん!いかにも治安の悪そうな場所を見つけましたよ!早速パトロールに向かいましょう!』
『おっ?確かに嫌な空気が流れ……て……え?あそこに居るのアリウス生じゃね?もしかしてここカタコンベ付近?』
二人で色んな場所をパトロールしたり
『こ、これがゲヘナ学園ですか……正門を通った瞬間、校舎が爆発しましたね……』
『………悪い、ちょっと仕事を片付けてくるから待っててくれ』
約束通り、今度は俺がゲヘナを案内したり
『さあさあ!どうぞどうぞ!』
『お、お邪魔しま~す………どうしよう、女の子の家に泊まりにいった事が一度もないせいで妙に緊張するな』
『さあ!此方の部屋へ!この日の為にお菓子も遊び道具も沢山用意しておきましたよ!』
『おっ?準備万端だな!?そして俺も……ほい!協力プレイ用のゲームをいっぱい持ってきたぞ!』
『おお!?流石は酒泉さん!抜かりないですね!』
『では、これより………お泊まり会を開始する!』
『おおー!』
宇沢さんの家に泊まりに行ったり
『こ、ここが酒泉さんのお家ですか………確かに酒泉さんの言ってた通り、泊まる側だと緊張しますね………』
『だろ?でもまあ、別にそこまで気にしなくてもいいからさ………我が家の様にくつろいでくれ』
『で、では……お邪魔しまーす……』
『じゃあ、お菓子とか持ってくるからちょっと待っててくれ』
『は、はい!ありがとうございます!』
逆に宇沢さんを泊めたり
『………酒泉さん』
『ん?』
『私、毎日が楽しいです。トリニティ内もトリニティ外でも心優しい素敵な友達に恵まれて………』
『良い事じゃないか』
『でも、時々不安になってしまうんです………実はこれが私にとって都合の良い夢で、現実に戻ると酒泉さんもあの二人も皆居なくなってしまってるんじゃないかって………』
『……大丈夫だ、俺は絶対に居なくなったりしない。ずっと宇沢さんと一緒だ』
『……えへへ、ありがとうございます』
そんな風に俺と宇沢さんは時間が合う度に遊んだ、それはもう遊びまくった
遊び以外でも勉強会だって開いたし、二人で使われなくなった演習場を借りてペイント弾での模擬戦だってやった
自宅でもちょっとした出来事をモモトークで送ったりもしたし、寝る前に通話を繋いでお喋りだってした
………友達作りの特訓からここまで個人的な関係になるとは思ってもいなかった
が、別に不満なんて全く無い
むしろ毎日が充実して楽しいぐらいだった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
────とまあ、こんな感じですね
「ほうほう?それがお二人の馴れ初め……と」
────馴れ初めって……
「あー……気にしないで、ナツっていつもこんな感じだから」
目を輝かせながらメモを取る柚鳥さん、そんな彼女に呆れた視線を向ける杏山さん
どうしてこの二人に俺と〝レイサ〟の出会いを話したんだっけ
確かいつも通りレイサと遊んでたら、そこに怪しげな顔をした柚鳥さんが近づいてきて……
「いやぁ、デート中に突然お邪魔しちゃって申し訳ないねぇ……実はカズサが〝そういえばアイツ、ここ数ヶ月の間全く絡んでこなかったな………〟って心配しちゃってさぁ……」
「はぁ!?話を盛らないでくれる!?ちょっと〝最近見かけないなぁ〟くらいの感覚で呟いただけでしょ!?」
ああ、そういうこと………なんだかんだで気にかけていたのか
「……まあ、とにかくそれだけだから。あまり気にしないで」
「暫く会っていない気になるあの子がいつの間にか見知らぬ男に寝取られていた………」
「アンタ本当に黙っててくれない?」
両手で顔を挟まれて強制的に黙らされる柚鳥さん
……てか、その言い方だと俺にも被害が来るから止めてほしい
「宇沢もコイツの言うことは何も信じなくていいから………」
「むぐむぐむぐ………んえ?なんれふか?」
「……いや、聞いてなかったんならそれでいいよ」
通常サイズより少し大きめのクレープを頬張りながらキョトンとするレイサ
どうやら口の中に入れるのに必死であまり話に集中できていなかったようだ
「むっ……そんな事ありません!ちゃんと聞いてましたよ!確か私と酒泉さんが〝寝た〟とかそんな話を……」
「いやそっちかい」
「その通りです!私と酒泉さんは一緒に〝寝た〟ことがありますから!」
「……はい?」
「……おや?」
レイサはドヤッ!と口にクリームをつけながら堂々と宣言する
────ああ、確かに正しい意味では一緒に寝たな……
「正しい意味……なんだ、そういうこと────待って?だとしても男女が一緒に寝る状況っておかしくない?」
────確かレイサの家に泊まりに行った時、ベッドのスペースが一人分しかないことに気づいて……
「そこから譲り合いになったんですよね」
────で、その結果……
「一緒に寝ました!」
「そうはならないでしょ」
そう……だろうか?
これならレイサも俺も寒い思いをせずに済むんだけど……
「いや、そもそも男女二人きりでお泊まり会すること自体が……」
「?」
────?
「……いや、何でもない」
「おお……熱々ですなぁ」
杏山さんは何かを言いかけたが、途中で言葉を止めてしまった
「………それよりも、さっきから気になってることがあるんだけど」
「気になってること………ですか?」
「宇沢、アンタさ────」
「────どうしてさっきからその人の膝の上に座ってんの?」
「……?これが気になること……ですか?」
「いやいやいや何その反応、明らかにおかしいって」
杏山さんが首を横に振りながら否定するが………これ、そんなに変なことか?
俺もレイサもいつもこれくらいの距離感で接してるけど……
「そんなことを言われましても……私も酒泉さんもいつもこんな感じですし……」
俺の考えていた事と同じような言葉を吐くレイサ
どうやら思考回路まで似ている仕組みらしい
「……いつも?いつもこんなベッタリしてんの?」
────そんなベッタリって程では………あっ、そういえばレイサ、さっきからずっと頬にクリームついてるぞ
「え?本当ですか?…………んー」
レイサは無言で頬を俺に近づけてくる、俺もレイサのしてほしい事を察して無言で頬のクリームをハンカチで拭き取る
────ほい、取れたぞ
「ありがとうございます!」
「いややっぱおかしいって」
「……?」
────?
「極上のスイーツを作る為には〝熱〟の調整も必要………熱しすぎて焦がしてしまうのか冷やしすぎて冷めきってしまうのか、彼女達の関係は果たして───」
「話がややこしくなるから黙ってて」
「テヘペロ」
この二人仲が良いなーなんて思いながら眺めていると、突然俺のポケットが振動する
中ではスマホの通話画面が開かれており、連絡先の名前には〝銀鏡さん〟と表示されている
レイサに〝悪い〟と軽く一言入れてからゆっくりと膝から下ろし、そのままスマホを取り出して通話ボタンをタップする
────はいもしもーし、酒泉でーす
『酒泉か!?今どこに居る!?またトリニティか!?』
────はい、そうですけど………それが何か?
『美食研の奴らがまた飲食店を爆破した!現在車で追跡中だけど、このままだとトリニティに入り込む可能性がある!』
────分かりました、トリニティに侵入する前にこっちから挟み撃ちにするってことですね?
『話が早くて助かる!今から待機地点の情報をそっちに送るから、そこで待っててくれ!私達でなんとかそこまで追い詰める!』
ピッと通話を切り、鞄を肩に掛けて立ち上がる
レイサはオドオドと困惑している
「あ、あの……何かあったんですか?」
────悪い、レイサ………またゲヘナの問題児が暴れだした、事が大きくなる前に戻らないといけなくなった
「でしたら私もお手伝いしましょうか?この宇沢レイサ、酒泉さんの為ならばどこまでもお供します!」
────いや、ゲヘナの問題にレイサを巻き込む訳にはいかない………俺達風紀委員でなんとかするよ
「そうですか……」
────本当にごめん………この埋め合わせは今度させてくれ!別の空いている日とかで!
「空いている日………あっ!それなら明日とかはどうでしょうか!」
────あー……すまん、明日は別の友達と約束が……
「べ、別の友達?」
レイサとそんな会話をしていると再びスマホが振動する
画面を開くと〝ここでたいき〟というメッセージと共に地図の画像が銀鏡さんから送られてきた、ひらがなで送られてきた事から余裕の無さが窺える
────………っ、レイサ!今日の夜モモトーク送ってもいいか!?全部終わってからゆっくり予定を合わせよう!
「別の……友達……」
────レイサ!?
「えっ!?あ、はい!大丈夫です!」
────ありがとう!それじゃ行ってくる!
レイサに返事を貰うと同時に勢いよく駆け出す
未だにワチャワチャと取っ組み合っている杏山さんと柚鳥さんにも軽く手を振って〝それじゃ〟と挨拶しておく
くそっ………おのれ美食研究会め!ついでに覚悟しておけよ陸八魔アル!
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酒泉さんが去った跡をぼんやりと眺める
頭の片隅には未だにさっきの言葉が引っ掛かっている
「別の……友達……」
当たり前の事だと分かってはいた
酒泉さんには私以外にも友達や仲間が居るなんて、そんなの別に驚くべきことでもない
私がクラス内でお友達になってくれたあの二人と遊ぶように、酒泉さんも私以外の人と遊ぶなんて当然の話です
………それなのに
「……なんなのでしょうか、この変なモヤモヤは」
この世界線での名前呼びイベントはヒナちゃよりもモモイよりも誰よりも早くレイサちゃんがかっさらっていきました