「酒泉が……ですか?彼がおかしいのはいつもの事だと思いますが……」
この場に酒泉が居たら〝お前にだけは言われたくない〟と返してきそうな言葉を吐くアコ
だが、そんなことは気にせずヒナは話を続ける
「私が話しかけてもどこか余所余所しいし、近づく度にビクッとするし………放課後も風紀委員会の活動が終わるとすぐどっか行っちゃうし」
「……ああー……それは────」
────はよーござーっす
「……あっ、酒泉」
「……来ましたね」
話題の人物が早速登場し、2人の視線が集まる
酒泉はそれを気にせずテーブルの上にスクールバッグを置いて椅子に座る
「酒泉、おはよう」
────……お、おはようございます
「……アコも挨拶してみて」
「え?……コホン……酒泉さん、おはようございます」
────ざーっす
「やっぱりおかしい、アコに対してだけ親しく挨拶を返してる」
「いや、どう聞いても舐めたような挨拶してましたよね?」
どういうつもりかと睨むアコ、そんな彼女に対して酒泉はヘラヘラ笑いながら口を開く
────冗談っすよー冗談、ちょっとテンション上がってただけなんで……おはようございます、天雨さん
「……機嫌良さそうだね、酒泉」
────あっ……やばっ……そ、そうですかね?は、ははは……
「……やっぱり余所余所しい」
酒泉は何かを隠している
その可能性を考えたヒナは椅子から立ち上がって酒泉に詰め寄る
「……ねえ、酒泉。今日の放課後は空いてる?」
────えっ?い、いや……
「ここ最近、ずっと放課後忙しそうにしているけど……まさか今日も予定がある訳じゃないよね?」
────………すいません。そのまさかです
「……誰と?」
────え?
「誰と会うの?」
────……い、言えません
「じゃあ、何処に行くの?」
────………ト、トリニティ
「何をする為に?」
────……す、すいません
「……そっか。ごめんね、無理に聞いちゃって」
酒泉には見えないように表情を曇らせ、自分の席に戻るヒナ
それを見たアコは憤怒の表情で酒泉に近づいていった
「酒泉!何をしているんですか!誤魔化すにしてももっと上手く────」
────だ、だってもうすぐ〝あの日〟だと思うとつい……気持ちが昂っちゃって───
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なんて事があったのは昨日の話
(……酒泉、今度は何を隠しているんだろう)
風紀委員室に向かいながら昨日の出来事を思い返す
酒泉が私を避けるなんて……あんな事は今まで一度も無かったのに
(やっぱり……避けられるような事をしちゃったのかな)
働かせすぎたのか、命令しすぎたのか
何が原因で嫌われてしまったのか
「み、みつけた……委員長っ!!」
「っ!?」
そんな思考は見慣れた人の叫び声と共にかき消された
「よ、よかった……会えた……!」
「……イオリ?どうしたの?そんなに慌てて……」
汗をかき、銀髪を揺らしながら走り寄ってくるイオリ
何か焦っているかのように視線を泳がせ、言葉もしどろもどろになっている
「ふ……風紀委員室で……事件が……!」
「……どんな?」
「えっと……その……!な、なんていうか……!」
「イオリ、情報は〝正確に〟〝落ち着いて〟」
私達風紀委員は事件の早期解決が求められる、その為には情報の1つ1つが重要になってくる
敵の数、武装、位置、それらを把握し、速攻で終わらせなければならない
……というよりも、それぐらいしないと他の事件に間に合わない
ゲヘナとはそれ程までに争い事と縁のある学園なのだから
「お、落ち着いてって言われても……あ、あんなのどう説明すれば……!」
「そんなに複雑な状況なの?」
「と、とにかく早く来て!このままだと酒泉が……酒泉がぁ……!」
「っ!?酒泉に何か───きゃっ……!」
イオリに問うよりも早く腕を引っ張られる
最初は私も抵抗しようとしたが、今のイオリに状況を説明してもらうよりも直接自分の目で確かめた方が早いと判断して途中から自分で走り出す
(酒泉の身に何が………!そもそも風紀委員室に直接襲撃を仕掛けるなんて余程の命知らずしか……!)
また彼が狙われたのか、敵の目的はなんだ
そんな事を考えながら全速力で酒泉の元へ向かう
風紀委員室の前に着くとイオリが扉に手を掛けて突入の合図を開始する
私もデストロイヤーを構え、いつでも弾を放てるようにする
3
2
1
「「「ハッピーバースデー!ヒナ委員長!」」」
────ハッピーバースデー!素晴らしいっ!
「………え?」
扉を開けた瞬間、パンッ!とクラッカーが鳴った
私の顔に紙吹雪が散り、皆が笑顔を向けてくる
「……誕生日?誰の?」
「え?だって今日は委員長のお誕生日ですよね?」
ポカンとしながら呟くと全員が驚いたような顔をする
すると、私の後ろからイオリがアコに話しかけた
「アコちゃん……もしかして別の日だったんじゃ……」
「そ、そんなはずはありません!私が委員長のお誕生日を間違えるなど………!」
────俺もこの日だったと思うんですけど……
「ほら!酒泉だってこう言ってるじゃないですか!」
皆が慌てている中、私の頭が働き出す
……やっと状況を理解できた
そっか、酒泉の事を考えてて忘れていたけど……
「……そういえば今日は私の誕生日だったね」
「ええ!?自分で忘れてたの!?」
「来る日も来る日も問題児の相手をしていますからね、それも無理はないでしょう………ですが!今日、この瞬間だけはその必要はありません!」
「他の風紀委員の方達が全員で協力してゲヘナ中をパトロールしていますからね」
風紀委員全員が……私の誕生日の為に……?
「そう、なんだ─────ありがとう、皆」
「ぐぅああああああああ!!?」
「ア、アコ!?」
アコが叫びながら後ろに吹き飛んだ
明らかになんらかの質量をぶつけられた様な吹き飛び方してたけど………私は何も投げてない
「うあああ!?アコちゃんが委員長の笑顔を見て吹き飛んだああああ!?」
「鼻と目と口と耳から血が……!い、今すぐ治療しないと!」
「酒泉!今すぐ治療道具は────うわぁ!?酒泉の口からも血が!?」
────ふ゛ぅ゛ー……ふ゛ぅ゛ー……赤らめた頬にちょっと照れが混じったような満面の笑み……!危なかった……咄嗟にベアトリーチェの面を思い浮かべていなければあまりの可愛さに俺も気絶していた……!
「そんな大袈裟な……」
アコも酒泉も似たような反応をしている
……いや、そんなことはどうでもいい、それよりもベアトリーチェなんかの顔を思い浮かべるぐらいなら私をもっと見てほしかった
「ほら!アコちゃん起きて!委員長にプレゼント渡すんでしょ!」
「……はっ!?そ、そうでした!私としたことが……!」
「プレゼント?」
「今日の為に皆で用意していたんですよ?」
「早速開けてみてよ」
リボンに包まれた細長い四角の箱をチナツとイオリが差し出してくる
2人に言われるがままにリボンをほどいて箱を開けてみる
チナツから渡された方には全体が黒く輝き、口金の部分が金色に覆われているペン
イオリから渡された方には先端が星型になっている紫色のヘアピンが入っていた
「最初は万年筆にしようとしたのですが、折角なら仕事でも使っていただきやすい物をと思いまして……」
「私はシンプルに委員長のイメージカラーに合いそうなのを選んだよ、気に入ってもらえるかは分からないけど……」
「……ううん、嬉しいわ。最高のプレゼントをありがとう」
モジモジとしながら頬をかくチナツとイオリ、そんな2人の間をアコが通り抜けてくる
「委員長、私からはこれを」
アコが私に渡したのはオシャレな柄の紙袋に入れられた洋服だった
「私が見たっ……ではなく、委員長に合いそうな服を何週間も掛けて選んできました!名付けて〝アコセレクション〟です!」
「アコちゃん今〝私が見たい〟って言おうとしてなかった?」
「気のせいでは?」
ピンク色の子供服にヒラヒラの白いワンピース
灰色のセーターにメイド服、うさみみパジャマ
まともな服や日常では使わない服、どう考えても高校生が対象年齢ではない服まで色んな種類が入っていた
「幾つか変なのが混じってるけど……でも、アコもありがとね」
皆からプレゼントを受け取り終えると、酒泉が一歩前に踏み出して咳払いをする
────えー……コホン、ではパーティー開始の挨拶は祝いの鬼であるこの俺、折川酒泉が……
「……祝いの鬼?」
────祝えっ!風紀を支配し、学園に君臨するゲヘナの王者!その名も空崎ヒナ!彼女の歴史にまた新たな1ページが刻まれ────
「くどい!委員長を待たせてないで早く持ってきなさい!」
────そ、そんな……家で練習してきたのに……
とぼとぼ歩きながら部屋の椅子に置いてある白い箱を持ってくる酒泉
箱を上から開けた瞬間、チラッと保冷剤が見えた
その保冷剤を退かし、アコがいつの間にか準備していた大きめの紙皿をテーブルに置く
そして酒泉はその紙皿の上に何かを置いた
「これは……ロールケーキ?」
黄色い生地に白いクリームがたっぷり入っており、更にその中にもイチゴやキウイ、バナナなど様々なフルーツが入っていた
上にも粉砂糖が掛けられており、ロールケーキに立て掛けるようにチョコプレートが置いてある
メッセージは〝お誕生日おめでとう〟と書いてあった
「おお……!美味しそう……!」
「形も整ってますね!」
「まさかこれ程までに上達するとは……やるじゃないですか、酒泉」
……え?
「もしかして、これ……酒泉が作ったの?」
────はい!……って言いたいところですけど、俺1人の力ではないですね。こんな本格的なお菓子作りは流石に経験した事がないので、その筋の人にみっちりと鍛えてもらいました
「……ねえ、最近酒泉が忙しそうにしてたのってもしかして……」
────その、出来るだけ空崎さんには秘密にしたくて………色々断っちゃってすいませんでした
「……よかった」
嫌われた訳ではないことを知り、安堵の声が口から勝手に出てきてしまった
「でも、このお誕生日用のは1人で作ったんですよね?」
────まあ、そうですね。自分で言うのもなんですけど今までで一番の自信作です
「そうなんだ………皆、本当にありがとう。こんなに色々貰っちゃうなんて……」
「気にしないでください、むしろ日頃のお礼としてはまだ渡し足りないくらいですから!」
「アコちゃん……これ以上変な服を渡すつもりなの?」
「変な服とはなんですか!変な服とは!」
「だって明らかにおかしいの混ざってるじゃん!メイド服とかシスター服とか!」
「別にいいでしょう!?これらは全て委員長の魅力を最大限に引き出す為の物であって────」
イオリの言葉にムッとして言葉に圧を含めるアコ、苦笑いしながら2人の言い争いを止めようとするチナツ
そんな彼女達から少し離れ、酒泉が落ち込んだ様子で話しかけてきた
────あの、空崎さん……実はこのロールケーキ作りにばかり時間を掛けていたせいで……その……空崎さんのプレゼントがまだ用意できてないんですよ
「え?これがプレゼントじゃないの?」
────これとは別に用意するつもりだったんですよ、でもそれが出来なかったので………今度、2人でプレゼント選びに行きません?
「……いいの?」
────はい、なんでも……とは行きませんが、大体の物は買えますよ
……まだ私に与えようとしているのか、彼は
胸が高鳴る感覚と共に頬が熱くなってきた、ここが人前じゃなければきっと私はだらしない顔をしていただろう
「……それなら、私は酒泉の時間を貰おっかな」
────……俺の時間?そんなんでいいんですか?
「うん、お休みの日に2人でお出かけしたり、どちらかの家でのんびり過ごしたり………プレゼントならそれが良いな」
────………分かりました、そういうことでしたらお任せください!この折川酒泉、全力で空崎さんをもてなしますよ!
「ありがとう……あっ、それとその日は泊まるから」
────はい!………………え?
「〝ちょっと〟と言わず沢山お時間頂くからね………酒泉」
唖然とする酒泉を置いて紙皿のロールケーキを小さい別の紙皿に移す
この日食べたロールケーキは人生で一番美味しかった
……折角だしパジャマはアコがくれたうさみみのやつを使おう
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「ん………ふふっ、とても美味ですね。どうやらまた腕を上げたようで……」
「ナギちゃんってばまたロールケーキ食べてるの?飽きないよねぇ……」
「……ミカさん、何が言いたいんですか?」
「いや、確かにナギちゃんの作るロールケーキは絶品だよ?だけど、そんなにロールケーキばっか作ってると……その……ロールケーキジャンキーに見えてくるっていうかさ?」
「………では、ミカさんはこれを食べられなくてもいいと?」
「獄中生活で散々食べたしなぁ……食べるにしても時々作ってほしいかな☆」
「なんと我儘な……分かりました、残りはセイアさんと2人だけで頂くとしましょう」
「ごめんごめん!冗談だから怒らないでよー!」
「これは酒泉さんが〝特訓のお礼に〟と私に贈ってくださった手作りのロールケーキだったのですが………」
「……えっ?」
「ミカさんに食べていただけなくて残念です」
「………えぇ!?なんでナギちゃんが酒泉君からプレゼントを!?しかも手作り!?それに特訓ってどういうこと!?なんの話!?」
「セイアさんを呼んできますね」
「ちょっ……ま、待ってよー!?謝るからー!?」