「……マダムからの許可が下りた、時が来たら此方から生徒を一人送ろう」
「本当!?よかった~!断られたらどうしようかと思ってたよぉ……」
「……聖園ミカ、一つ聞かせてくれ」
「ん?なに?」
「この程度のことで本当にアリウスとトリニティが和解できると思っているのか?」
「うん、思ってるよ」
「……即答か」
「だって……私達も貴女達も同じ人間なんだもん、分かり合えないことなんて無いよ」
「……同じではないだろう」
「同じだよ、喜びもするし悲しみもする。痛みを感じるし血だって通ってる」
「………」
「ほら!同じでしょ?」
「……簡単に言うな、私達とお前では住む世界が違いすぎる」
「うん、だからこそ貴女達アリウスにも私達と同じ〝世界〟で暮らしてほしいんだ」
「…………話は終わった、先に帰らせてもらう」
「あっ……もう、そんなに私と会話したくないのかなぁ……」
「……で?さっきからそこでコソコソと隠れている貴女は私とお喋りしてくれるのかな?」
「サオリは気づかなかったみたいだけど、私はそう簡単に見逃さないよ?………まあ、あの子も何故かイライラしてたみたいだし、それで気配に気づけなかったんだろうけど」
「………」
「やっと出て来て───あれ?その格好……貴女もアリウス分校の生徒?」
「……うん」
「それなら隠れる必要は無いと思うんだけど……もしかしてサオリには聞かれたくない話でもあるの?」
「その前に一つだけ伝えておくことがある………今回の件でアリウスからトリニティに送られる生徒は私なんだ」
「……!それじゃあ貴女が私達の〝和解の象徴〟になってくれる子!?直接会いに来てくれたんだ!」
「……その話だけど、多分私なんかじゃ和解の象徴にはなれない」
「うぅ……二人してそんなに否定しなくても……」
「別に貴女の思想を否定してる訳じゃない、でも……」
「でも?」
「………アリウスは貴女のことを〝トリニティの情報を得る為の道具〟として利用しようとしている」
「……え?それってどういうこと?それになんで貴女はその事を教えてくれたの?」
「……あまり長居はできない、詳しくはこの手紙を読んで」
「えっ?そんないきなり────」
「……もう、あの子もサオリも人の話を聞いてくれないんだから……まあいっか!これから時間を掛けて少しずつ仲良くなればいいんだもんね☆」
「さて、と……じゃあ、この手紙はトリニティに戻ってからゆっくりと読もうかな」
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アリウス自治区の端の方、そこではサオリ達が瓦礫の間や地面等に侵入者撃退用の爆弾を埋め込んでいた
ただでさえ存在を認知されていないアリウスでは使う機会など殆ど無いが、それでも用心するに越したことはないと定期的に罠を仕掛けるようにしていた
しかし移動距離も考慮すると全員で一ヶ所ずつ埋めていくよりも二手に別れた方が効率が良いと判断した為、サオリ・ミサキ・ヒヨリのチームと酒泉・アズサ・アツコのチームで別々に行動していた
「や……やっと終わりが見えてきました……」
「ヒヨリ、その瓦礫の下爆弾置いてあるよ」
「ヒイッ!?」
ひたすら繰り返される単調な作業に根を上げそうになったヒヨリが瓦礫に腰かけるが、ミサキの注意を聞いた瞬間にすぐに飛び退く
呆れたような視線をミサキに向けられるものの、そんなことなどお構い無しにべそをかく
「どうしてこんな所にこんな物があるんですかぁ!?」
「さっき酒泉が〝ヨシッ!〟って言いながら置いてたよ」
「何がヨシなんですか!?報連相くらいやってくださいよぉ!?」
「ちゃんとしてたよ」
「え?」
「ヒヨリが〝うわああん!このまま一生雑用係として使い潰されるんですぅぅぅ!〟って泣いてた時に全員にちゃんと注意喚起してたよ」
「……………えへへ」
「誤魔化した……」
気が緩むような会話をする二人を注意しようと近くで作業していたサオリが口を開こうとする
「うぅ………でも、こんな危険な作業を日常的にしないといけないアリウス自治区も悪いと思うんですよ……」
「……っ」
……が、ヒヨリの放った言葉に身体がピタッと止まる
「なにその意味不明な言い訳………」
「だ、だって……酒泉さんも言ってましたし……」
「……酒泉が?」
「〝そもそもこんな任務や訓練を強制される事自体がおかしいんだ〟って………」
ヒヨリの口から〝酒泉〟という名を聞いた瞬間、サオリの眉間にしわが寄る
無意識のうちに拳を強く握りしめ、口からはギリッと強く歯を鳴らした音が聞こえる
「やっぱり他の学生さん達は皆こんなことしてないで普通に遊んでるんでしょうか……」
「まあ……そうなんじゃない?アリウス自治区外の事を知っている酒泉がそう言ったならさ」
「うぅ……羨ましいですねぇ……私もいつか、酒泉さんが言うように本当に夢が叶う日が────」
「止めろ!奴の話はするな!」
次の瞬間、サオリが突如怒りを撒き散らすように叫ぶ
しかし静まり返る二人を見て、サオリはすぐにハッとしてから冷静に次の言葉を出す
「……あまりあの男の思想に感化されるな、後悔することになるぞ」
「す、すみません……」
「……別に願望を語ることぐらい良いんじゃない?どうせ叶わないんだしさ」
「………だとしてもだ」
「……ねえリーダー……いや、サオリ姉さん。少し聞きたいことがあるんだけど」
「……何だ、あまり長くは話せないぞ」
「サオリ姉さんってさ……何がしたいの?」
サオリの眼を真っ直ぐ見つめてくるミサキ
いつもなら何も感じない、見慣れた眼のはずだが……この時は何故かサオリの心に恐怖を感じさせていた
「昔、私が聞いたこと覚えてる?〝なんで、こんな意味の無い苦痛の中で生き続けなきゃいけないの?〟って………」
「……ああ、よく覚えている」
「その時は何も答えてくれなかったけどさ、それって要するに〝苦しみながらでも私に生きていてほしかった〟ってことで合ってる?」
「………その通りだ」
「じゃあさ……どうしてヒヨリの言葉を否定したの?」
「………なんだと?」
「だってさ……苦しみながら生きていくよりは少しでも希望を持って生きていく方がマシでしょ?それならヒヨリの願いをあそこまで強く否定しなくてもよかったじゃん」
「それは……」
「まあ、私は簡単に死なせてもらえないからなんとなく生きているだけだし、別にこの件に関してはどうでもいいけどさ………」
「………」
「でも、これだけは聞いておくね……サオリ姉さんは皆と一緒に居たいの?それとも────」
「────皆を縛り付けておきたいの?」
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「だーかーらー!なんで二人とも分かってくれないの!?」
ミカがテーブルをバンッ!と叩くと、カップの中に入っている紅茶が勢いよく溢れる
しかしミカはそれでも大声で喋り続ける
「アリウスの子達がトリニティに強い憎しみを持っているのは〝マダム〟って呼ばれてる悪い大人に洗脳されてるからだよ!?」
「落ち着くんだ、ミカ。君の力でこれ以上テーブルを叩くと粉々になってしまう」
「は?本当に粉々にしてあげよっか?」
「もう……少しは仲良くできないのですか?」
一人騒ぎ立てるミカを宥めるように視線を向けるナギサ、一方でミカの勢いは留まらずにヒートアップしていく
「その悪い大人からアリウス生達を解放してあげれば、きっと仲良くなれるって!大体、セイアちゃんは予知夢があるのにどうして信じてくれないの!?」
「申し訳ないが私の予知夢というのは好きなタイミングで好きな場所を視れるという便利な能力ではないんだ、その〝マダム〟という者についての予知夢はまだ視たことがない」
「うぅ~……!ナギちゃんは!?」
「私は信じていますよ、ミカさんのこと」
「やった!流石ナギちゃん!話が───」
「ですが、私個人の感情を優先して証拠も何も無い事件の解決の為だけに組織そのものを動かす訳にはいきませんから………組織の長として」
「そんな……」
「……そもそも、ミカはどこで〝マダム〟とやらの情報を手に入れたんだい?」
「えっ!?そ、それは……」
セイアに尋ねられた瞬間、ミカは冷や汗を流しながら口を閉ざしてしまった
それも当然だろう、セイアの質問に〝二人に内緒でアリウス生を迎え入れようとした結果、偶然情報を手に入れました☆〟なんて答える訳にはいかないのだから
「それは?」
「い、いや~……何ていうか……その……」
「……まさか、私達には教えられないような方法で?」
「そんなことはない……よ?」
「……私達に話す前に既にアリウスと接触していたのかい?」
「………ソ、ソンナコトナイヨー?」
何とか誤魔化してみたが絶対にバレている、ミカ自身が誰よりもそれを自覚している
「……もういいもん!二人の分からず屋!」
打つ手の無くなったミカは逆ギレ気味に大袈裟に怒った演技をしてその場から離脱しようとする
「ミカ、分かっているとは思うが……今回の件は君一人で解決できるような問題じゃない」
「……分かってるって」
……その前に釘を刺されてしまう
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────────
──────
「はぁ……やっぱり駄目かぁ……」
トボトボと歩きながら肩を落とすミカ
彼女自身あまり期待してはいなかったが、ここまでハッキリ断られるとは思っていなかったのだろう
「……ううん、まだ諦めちゃいけないよね」
しかし彼女は挫けない
「他の人達の手を借りることができないなら……」
何故なら〝この時の〟聖園ミカは────
「私一人で直接助けに行っちゃえばいいよね☆」
────本気でアリウスを救おうとしているからだ
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……手紙を渡せたんですね、ありがとうございます
「この後はどうするの?」
計画を実行に移す具体的な日が決まればまた聖園さんに手紙を渡してきてほしいんですけど……
「それは構わないけど……酒泉は大丈夫なの?」
ん?何がです?
「私が聖園ミカに会いに行く度にマダムの気を引くために酒泉が暴れるなんて………やっぱり危険だと思う」
俺が言い出した計画なんですから俺が身体を張らないと………白洲さんの方こそよかったんですか?
「……何が?」
その……俺なんかに協力しちゃって……
「………うん、自分で考えた結果だから」
そう、ですか……
「私は……私を救ってくれたアリウススクワッドの皆に幸せになってほしい、その為にもまずはサオリを止めないと」
……白洲さんにとっては命の恩人ですもんね
「うん、だからこれは私なりの恩返し」
………でも、あの人の考え方はもう───
「……酒泉?」
───あっ、いや……気にしないでください
「………そういえば私からも聞きたいことがある」
ん?なんですか?
「その〝腕輪〟……どうするの?それがある限りマダムには逆らえないけど……」
ああ、これですか……
「下手に外そうとすれば内側から針を刺されて毒を入れられるんでしょ?」
……まあ、腕輪そのものを無理に外そうとしなければ大丈夫ですよ
「……腕輪に触れずにどうやって外すの?」
別に腕輪を外さなくても針を出す部分に何か硬い物を挟めばいいだけですよ
「それも不可能だと思うけど……腕にピッタリくっついちゃってる以上、隙間なんてないし……」
……白洲さん、作戦当日に俺の顔に涙痕が残ってても気にしないでくださいね
「……?うん、分かった」
あと………めちゃくちゃ絶叫しても触れないでください、涙とかでぐちゃぐちゃになった顔見られるの恥ずかしいんで
「……本当に何をするつもりなの?」