〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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先輩川酒泉

 

 

 

『なあ、空崎……〝力〟ってなんだと思う?』

 

 

そこら中で気絶している数十人のゲヘナの不良生徒達、そんな彼女達の中央に座りながら酒泉先輩が突拍子もない質問をしてきた

 

 

『……単純な強さ……だと思います』

 

『だよな、俺もそう思ってた』

 

『……思ってた?』

 

 

酒泉先輩は自身の頬に付着した返り血を拭き取りながら、気だるげにそう呟いた

 

 

『俺は力さえあれば大抵の事は出来ると思っていた。自分の身を守る事もそれなりの地位に就く事も、そして………ゲヘナを力で支配する事も』

 

『……今みたいに、ですか?』

 

『ああ……いや、正しくは〝支配できたと思い込んでいた〟だな』

 

『……思い込んでいた?』

 

 

先輩はゆっくりと立ち上がると、未だに目を覚まさない不良生徒達を冷めた目で見下ろしながらふらふらと辺りを適当に歩く

 

 

『この3年間、俺はひたすら問題児共を〝力〟で捩じ伏せてきた。相手が昔から幅を利かせてた先輩だろうと新たなる脅威として入学してきた後輩だろうと、とにかく片っ端から……な』

 

『………実際にそのお陰で大人しくなった生徒もいますし、酒泉先輩がゲヘナを支配していたのに代わりはないのでは』

 

『無理だよ』

 

『……はい?』

 

『〝力〟で人を完全に支配するなんて最初から不可能だったんだ』

 

 

 

先輩は自嘲するように笑うと、自分の手を閉じたり開いたりしながら────自分のナイフでその手を貫いた

 

 

 

『っ!?先輩、何を───』

 

『どれだけ痛みを与えても、どれだけ恐怖を植え付けたとしても、俺が卒業してから数ヶ月経てばきっとすぐに問題児共が再び暴れ出すだろうよ』

 

『そんなこと言ってる場合じゃ……っ、まずは手当てを……!』

 

『無意味だ』

 

『……は?』

 

『何度人を撃つ?何度傷を治す?それを繰り返す意味は?いつまでこんな事を続けるつもりだ?』

 

 

 

止血しようとハンカチを探す私の腕を無傷な方の手で止めてくる

 

先輩はそのまま私と目線を合わせると、その力強い瞳で真っ直ぐ射抜いてきた

 

 

『この学園は……ゲヘナは変わらない、これから先どれだけの時間を掛けようと一生治安の悪さは改善されない。つまり、俺達風紀委員は卒業するまで一生戦い続ける事になるだろうな』

 

『先輩は……私に何を伝えたいんですか……』

 

『お前さ、風紀委員辞めろよ』

 

 

 

先輩の言葉の意味が理解できなかった

どうしてそんな事を、私は必要無いのか

 

色々と考えながらも身体は立ち尽くしていた

 

 

 

『……空崎、お前は本来そこそこの面倒くさがりだったろ?寝るのが趣味で本当は問題児の相手だってサボりたがるような』

 

『………はい』

 

『なら今すぐ風紀委員なんて辞めろ、俺の予想だと来年の風紀委員長はお前が勤める事になるぞ?……2年の中では戦闘面でも仕事面でもお前が最も優秀だからな』

 

『……じゃあ、尚更私が辞める訳には……』

 

『それが駄目なんだよ……このまま風紀委員として戦い続けるなら卒業まで一生休めなくなるかもしれないんだぞ?大好きな睡眠だって、日によってはちょっとした小休止すら挟めなくなるかもしれない』

 

 

その時、漸く先輩の言いたい事が理解できた

 

要するにこの人は私のことを心配しているんだ

 

 

『そうやって自分を殺してしまうくらいなら最初から変な責任感なんて放り捨ててしまえ、別に逃げる事は何も恥ずかしくない………むしろ、途中で風紀委員長という肩書きを投げ出すよりはよっぽどマシだ』

『………』

『ただ、それでも風紀委員を続けるというのなら……1人で戦おうとするな、そんなんじゃ身も心も持たなくなるぞ』

 

 

先輩はさっきまで私の腕を掴んでいたその手を私の頭の上に移動させる

 

 

『仲間を集めろ、仲間を育てろ、仲間を頼れ。強く聡い、支え合えるようなそんな仲間を……いや、仲間だけじゃない。お前が素直に甘えられるような、そんな〝大人〟を探すのもいい』

 

『心配するな、お前は俺の自慢の後輩だからな………きっとすぐにでもお前を大切にしてくれる〝大人〟が現れるさ』

 

『………俺は失敗した、ゲヘナの治安を改善するという馬鹿げた夢を見て……そんな途方も無い戦いに他人を巻き込みたくなくて1人で戦う事を選んでしまった』

 

『1人で出来る事には当然限界があった、俺に出来る事なんてさっきも言ったように暴力で人を押さえ付ける事だけだった』

 

『……もっと早く気づくべきだったんだ……〝誰かに頼ってもいい〟のだと』

 

 

そう言って、先輩は乱暴に私の頭を撫でた

 

 

『……そろそろ他の風紀委員達が到着する、後処理は皆に任せよう』

 

 

さっきまでの真剣な表情が一瞬でいつもの面倒そうな顔に変わり、少しだけ安心感を覚える

 

……けど、どうにもその背中が小さく、そして遠く見えてしまった

 

 

『……あの、先輩は卒業した後はどうするつもりですか?』

 

 

このままだと本当に居なくなってしまう、何故かそんな危機感を覚えて咄嗟に今後の動向を尋ねてしまった

 

 

『実はヴァルキューレの方で戦闘訓練の教官として働く事が決まっているんだ、ゲヘナでの俺の噂を聞いた上層部の1人に直接声を掛けられてな』

 

『……ヴァルキューレで?』

 

『なにやら生徒の実力面のレベルを向上させたいらしくてな……まあ、要するに〝これ以上犯罪者達に舐められないように〟って事だろうな』

 

『……じゃあ、ゲヘナから離れるんですか?』

 

 

思わず寂しげに呟いてしまい、咄嗟に自分の口を塞ぐ

 

だが、酒泉先輩はポケットからメモ帳を取り出し、そこに何かを書き記してから紙を切り取って私に手渡してきた

 

 

『……これは?』

 

『俺の引っ越し先、何か困った事があればいつでも相談しに来い』

 

『……困った事がある時しか……駄目なの?』

 

『………間違えた、いつでも遊びに来い』

 

 

手をひらひらと振りながら背中を向けて再び歩き出す酒泉先輩

 

そんな彼に置いていかれないように、貰った紙を大事にしまいながら私も小走りで追いかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土曜日、休日の朝

 

目覚めた瞬間、ジュージューと何かを焼く音が聞こえてきた

 

〝またか〟と思いつつ、ボヤける視界を直すべく目をゴシゴシと擦る

 

欠伸をしながら寝室を出てダイニングに向かうと、その奥の台所で白い長髪の少女が料理をしていた

 

 

「……あ、起きた」

 

────……また来たのか?空崎

 

「うん、来ちゃった」

 

 

呆れた目を向けても俺の後輩───空崎ヒナは微笑みながら返事をしてくる

 

 

 

「今日はお味噌汁と卵焼きと白身魚と……」

 

────……なあ、ちょっといいか?

 

「なに?……あ、卵焼きは甘いのにしてあるから」

 

────いや、それが聞きたいんじゃなくてな?

 

「それと夕飯はビーフシチューにするから」

 

────え?夜まで居んの?

 

「歯ブラシとパジャマも持ってきてるわ」

 

 

泊まる気満々じゃねえか

 

……これで何回目だよ

 

 

────なあ、空崎

 

「?」

 

────その……風紀委員とは仲は良いのか?

 

「うん、アコにはいつも仕事を手伝ってもらってるしイオリとも一緒に戦ってるし……今年入ったチナツっていう子には戦闘後の皆の手当てをお願いしているわ」

 

────前に〝頼れる仲間や甘えられる大人を探せ〟って言ったのは覚えているか?

 

「うん」

 

────………最近話題のシャーレの先生とは……

 

「何度か会っているわ」

 

 

 

おかしい、それなら何故毎週俺の家に通っているのか

 

普通に友達と遊んだり先生とイチャついたりすればいいだろうに……どうしてこんな力しか取り柄の無い男なんかと……

 

 

 

「酒泉先輩は昔からカップ麺で済まそうとしてばっかだから………こうして時々様子を見に行ってあげないと」

 

────毎週は時々なのか?

 

「時々よ」

 

────……週3で通う時もあったが?

 

「………時々よ」

 

 

少し間を空けてから此方の問いに答える空崎

 

そのままお皿をテーブルに運ぼうとしていたから俺もそれを手伝う

 

 

────まあ、世話になってるのは事実だし礼は言っておく……ありがとな、空崎

 

「……気にしないで、私が好きでやってる事だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

2人で皿洗いを終えた後、手を拭いてからソファに座りに行く

 

テレビのリモコンを取って電源を入れ、適当にチャンネルを切り替えていく

 

 

「何か面白そうなのやってる?」

 

────特に何も………おい待て

 

「……?」

 

 

 

首を傾げながら振り向く空崎………そんな素振りをしても誤魔化せんぞ

 

 

 

────空崎、お前……どうして俺の膝に座った?

 

「空いてたからだけど?」

 

────……隣も空いてるだろ

 

「両方空いてるならどっちを選ぶかは私の自由でしょう?」

 

────……俺の許可は?

 

「……甘えられる人を探せって言ってたわよね、酒泉先輩」

 

 

 

あれはそういう意味じゃない────そう伝えようとしたが、その無に近い表情の中に僅かな不安が混じっているのが見えて口を閉じる

 

まあ……原作以上に誰かに甘えられるようになったのなら……それは良いことか

 

 

────……好きにしろ

 

「そう、ありがとう………それにしても本当に何もやってないわね、面白そうな番組」

 

────早朝なんてニュースか子供向け番組ばかりだからな……どうする?映画でも観るか?DVDあるぞ?

 

「そうね、それもいいけど……折角だし私は酒泉先輩の面白い話が聞きたいかな」

 

────……悪いけど話の種になりそうな事は何も起きてないぞ?

 

「じゃあ、ヴァルキューレでの仕事の話とかは?」

 

 

職場の話かぁ……

 

射撃音痴の生徒に頼まれて付きっきりで鍛えたり、ドーナツ狂いのサボり魔を見張ったり、時々局長の愚痴に付き合ったりしてるくらいか……

 

……うん、特に盛り上がりそうな内容の話ではないな

 

 

 

────……こっちは特にないな、逆に空崎の方は何かないのか?

 

「私も特に……エデン条約絡みの話しかないかな」

 

 

 

……そっか、時々ニュースでも流れてきてたけど……もうそんな時期か

 

 

 

「……あ、そうだ。そのエデン条約の件で酒泉先輩に話したい事があるんだった」

 

────俺に?

 

「うん……あのね、酒泉先輩には調印式を見に来てほしいの」

 

────それはまた……どうしてだ?

 

「その、子供っぽい理由かもしれないけど………酒泉先輩にその目で見届けてほしくて。風紀委員長として相応しくなった私の姿を……そして、酒泉先輩の言ってた通り皆に頼れるようになった私の姿を」

 

 

空崎は俺の膝の上でモジモジと恥ずかしそうに伝えてくる

 

さっきまであんなにグイグイ来ていたのに、どうしてこういうところで照れが出てくるのか……

 

………調印式、か

 

 

 

 

────別に構わないぞ

 

「っ、本当!?」

 

────ああ、その日は〝偶然〟有給を取っていたからな………そうだ、折角だしエデン条約締結祝いで帰りになんか食ってくか?なんでも奢るぞ?

 

「うんっ……あ、でも……私はそれよりも……」

 

────ん?

 

「……酒泉先輩の家で、その……一緒に……料理がしたい……かな」

 

────……じゃあ、そうするか

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

………本当によくこんな甘えられるようになったな

 

 

 

 

 

 

────……あ、そういえば調印式の日に頼みがあるんだけどよ

 

「頼み?」

 

────少しの時間だけでいいから羽沼に会わせてほしいんだ

 

「……マコトと何を話すの?」

 

────なーに……ちょっとした〝ご挨拶〟をね

 

 

 




ちょくちょく感想欄でリクがあった先輩酒泉君です、お兄ちゃん酒泉と一緒にならないように性格を変えてみました
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