〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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原作知識無し直線型折川酒泉(アリウス育ち)

 

 

 

 

 

折川酒泉はアリウスの生徒である

 

赤子の頃にマダムに拾われた彼はその〝眼〟の特異性を買われ、彼女の私兵として鍛え上げられた

 

ヘイローを持たないというキヴォトスにおいて致命的すぎる弱点を抱えていながらも尚、酒泉は圧倒的な戦闘能力を誇っていた

 

さらにマダムの長年の〝教育〟によって大人との力の差を理解させられた彼は裏切りの心配もなく、その信頼は〝姫〟の護衛やアリウススクワッドとしての任務を任される程に大きかった

 

 

 

『うぅ……今日もこんな貧しい食事を……いつになったらお腹が膨れる日が来るのでしょうか……』

 

『……槌永ヒヨリ、これ食いきれないから全部処理しとけ』

 

『えっ?……うぇええ!?いいんですかぁ!?』

 

 

 

何より、彼は仲間には優しかった

言い方こそ冷たいものの、その行動は明らかに仲間を気遣った様な行動だった

 

 

 

『勝手に自傷するな、戦闘能力を落とすような真似をされるのは困る』

 

『……は?この本?……別に?暇だったから手話の勉強でもしていただけだが?』

 

『別に庇ってる訳じゃない、コイツからはゲリラ戦の才能を感じられるからな………この才を捨てるのは惜しい、白洲アズサの〝教育〟は俺に任せてもらおうか』

『マダムへの報告なら俺がとっくに済ませた、だからアンタはさっさと帰って少しでも役立つように部下を鍛えてろ────あ?この傷?……さっき転んだ』

 

 

 

マダムはその優しさを利用する事にした

 

仲間を見捨てられないなら酒泉はアリウスから離れられないだろうし、逆にマダムのやり方に不満を持つ者が現れても酒泉がマダムに従っている以上はその者達も反乱を起こす事はないだろう

 

酒泉の優しさで他のアリウス生を縛り、他のアリウス生を酒泉の重りとして利用する

 

 

 

 

結論から言うとマダムのその作戦は失敗した

 

確かに〝重り〟は機能したし、酒泉を慕うアリウス生達もその酒泉が従うマダムに従順だった

 

だが、たった1つのマダムが言い渡した任務がそれらの仕組みを一撃で破壊してしまった

 

 

 

 

折川酒泉には〝人を絆す才能がある〟と気づいたマダムは、それを利用しようとゲヘナにスパイとして送り込む事を選んだ

 

その人誑しの才でゲヘナの中枢まで潜り込ませ、調印式の日まで情報を送り続ける……それが酒泉に与えられた任務だった

 

無事に新人風紀委員として潜入する事に成功し、そこから更に幹部級まで成り上がろうと意気込む酒泉

 

彼は明日から始まる風紀委員生活に備えてゆっくり休もうと足早に帰宅しようとする────が、そうして廊下を歩いていると真っ白な何かが視界の端に映った

 

何となくその〝白〟が気になって視線をずらすと、そこには真っ白な長髪の少女が青髪の少女と共に歩いていた

 

力強い紫の瞳、凛々しい立ち姿、そして一目見ただけで分かる〝強者〟の風格

 

それらをジーっと見続ける酒泉に気づいたのか、その少女は────空崎ヒナは唖然と立ち尽くす新人風紀委員の少年に声を掛けた

 

だが、酒泉は何も返事をせず俯くばかり

 

それが気になったヒナは酒泉の顔を覗き込もうと身体を屈ませようとして────突如、酒泉に手を握られた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アリウス分校からスパイとしてやってきた折川酒泉です、早速ですが結婚を前提にお付き合いしてください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マダムの誤算、それは折川酒泉は恋愛面において一直線すぎたという事だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空崎さん!こっちの資料も片付け終わりました!」

 

「そう、ありがとう」

 

「はい!」

 

 

アリウス時代からは想像もつかない様な満面の笑み

 

アリウス時代からは想像もつかない様な素直な態度

彼を知る者がこの場に居れば〝誰だコイツ〟と即答してもおかしくない程のテンションでヒナに接する少年

 

彼こそが自称〝空崎さんへの愛に生きる戦士〟である折川酒泉である

 

 

「ところで空崎さん!」

 

「……なに?」

 

「好きです!!!」

 

 

突然告白してきた少年に対し溜め息を吐きながら額を抑えるヒナ

 

〝また……?〟と呟いている辺り、一度や二度の事ではないのだろう

 

 

「……酒泉、その告白……これで何回目?」

 

「453回目ですね!」

 

「それで?私は今までなんて答えてきたのか覚えてる?」

 

「〝気持ちは嬉しいけど、貴方の事はあまり知らないし先ずはお友達から〟ですね!」

 

ニコニコしながら平然と答える酒泉だが、そんな彼に突如背後からアームロックを仕掛ける少女の姿が

 

 

「ま・た・あ・な・た・は!!性懲りもなく!!ヒナ委員長に迷惑を掛けて!!」

 

「おはようございます!天雨さん!苦しいので離してください!!」

 

「貴方がヒナ委員長への告白を止めると宣言するまで離しませんよ!!」

 

「嫌です!それと好きです空崎さん!!愛してます!!」

 

「……これで454回目ね」

 

 

ギャーギャーとアコと争いながらも愛を伝えるのを忘れない酒泉

 

そんな彼に呆れた様な視線と微笑ましいものを見るような視線が集まる

 

 

「また酒泉とアコちゃんが喧嘩してるよ……」

 

「お二人とも委員長の事が大好きですからね」

 

「……矢印が一方的な気がするけどね」

 

 

イオリは内心でヒナに同情するが、一方のチナツは何か含みを込めた笑みを浮かべる

 

 

「そうでしょうか?行政官はともかく、彼からの告白に関しては委員長も満更ではなさそうに見えますが……」

 

「えー?そう?」

 

「始めの方こそ鬱陶しそうにしていたものの、彼が委員長の為にあっちこっち駆け回る様になってからは明らかに態度が変わったと思いませんか?」

 

〝ほら〟とチナツが指差す方をイオリも向く

 

すると、アコと酒泉の喧嘩を眺めているヒナが頬を微かに赤くしながら恥ずかしそうに視線を逸らしていた

 

 

「……嘘……」

 

「きっと彼の諦めない不屈の闘志が委員長の心を動かしたのでしょうね……」

 

 

今まで一緒に働いてきて一度も見たことのない委員長の姿を見て驚愕するイオリ

 

最早誰も仕事が手についていないこの空間で、アコと酒泉の喧嘩は更にヒートアップする

 

 

「ほら!何度もフラれてるんですからそろそろ諦めなさい!」

 

「嫌です!俺の空崎さんへの愛はフラれた程度じゃ止まりません!」

 

「まーだ分かってないんですか!?貴方なんて主人公の前でヒロインに告白して最終的にフラれる噛ませ役Aに過ぎないんですよ!!」

 

「うるさい!俺はこのキヴォトスで初めて〝幸せになりたい〟と思えたんだ!それも空崎さんと!だから邪魔をするな!物語の結末は俺が決める!」

 

「いいえ!私が決めます!」

 

「俺はマダムをぶっ倒してアリウスを解放する!!そして皆に空崎さんを恋人として紹介するんだあああああああ!!」

 

「ぐっ!?ち、力……強っ……!?」

 

「うおおおおおおお!!!空崎さん、好きだああああああああ!!!」

 

「……455回目」

 

 

告白された回数を呟くと、ヒナは席を立ってアコのアームロックから解放された酒泉に近づく

 

そして顔を下からずいっと近づけて口を開く

 

 

「……ねえ、そんなに私のことが好きならまずは名前から呼んでみたら?」

 

「そ、それは……は、恥ずかしいので……お付き合いしてからという事に……」

 

「告白はできるのにどうして名前呼びは恥ずかしがるのよ……」

 

若干ずれた恋愛の価値観を口にする酒泉に呆れるヒナ

 

しかし、ヒナの表情はどこか機嫌が悪そうだった

 

 

「名前を呼ぶことすらできないのに好きとか言わないで……本気だと思えないから」

 

「そ、そんな……!」

 

 

すべてを失った様な表情で絶望する酒泉

 

そんな彼の後ろからアコが口元を押さえながら笑う

 

 

「ぷぷーっ!またフラれてしまいましたねぇ!?女性の名前を呼ぶこともできないチキンハートで告白なんてするからそうなるんですよ!」

 

「は、はぁ!?呼べますけどー!?」

 

「だったら試しに私の名前を呼んでみてくださいよ!」

 

「アコ!!」

 

「酒泉、私は?」

 

「イオリ!」

 

「では私は?」

 

「チナツ!」

 

「……私は?」

 

「……そ、空崎……さん……」

 

「……だからどうしてそうなるのよ……」

 

「ほら!やっぱりチキンハートじゃないですか!」

 

「くそぉ……くそぉ……!」

 

 

床をダンダン!と叩きながら悔しそうに涙を流す酒泉

 

この光景も風紀委員達にとってはすっかり見慣れたものである

 

 

「俺は……俺は諦めませんよ……!いつか必ず空崎さんの名前を呼んで告白するんだ!それで付き合えたら……」

 

「……付き合えたら?」

 

「……て、ててててて手とか繋いだり……い、一緒に写真なんかも……」

 

「……はい」

 

「ぴいいいいいいいい!!?」

 

 

ヒナが項垂れる酒泉の手を握った瞬間、謎の奇声をあげながら飛び上がった

 

そして華麗に着地して一言

 

 

「空崎さん!!!やっぱり好きだあああああああああ!!!」

 

「これで456回目……名前呼びじゃないから駄目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、チナツ」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「告白された回数を数えてる委員長も大概だよね」

 

「……確かに」







没ネタです
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