────謝れよ!今すぐユメ先輩に謝れえええぇ!
「うるさいっ!離せ!」
「ひぃん……二人とも喧嘩はやめてよぉ……」
一人の少年が自分より背の低い少女に掴みかかる……が、その少女は少年より年上で実力的にも圧倒的に上の立場だった
そして、ユメと呼ばれた少女はそんな二人の喧嘩をアタフタしながらも止めようとしていた
「私は正しい事を言っただけでしょ!?奇跡なんか起きる筈がないって!そんな存在するかも分からない曖昧な現象に縋るくらいならもっと現実的な解決策を提示しろって!」
────だからってポスター破くことはねえだろ!?ユメ先輩はずっとアビドスの為に戦い続けてきた!それなのにアビドスの明るい未来を語ることすら許されねえのかよ!?
「お、お願いだからぁ……!」
より顔を怒りで染めて近づく二人、しかし掴みかかられている少女────小鳥遊ホシノが目の前の少年の手を振りほどいて突き飛ばす
そして突き飛ばされた少年────折川酒泉はホシノの顔を下から睨み付ける
「……これは前から言おうと思ってた事だけど、ユメ先輩も酒泉も希望的観測に縋りすぎ。ああなればいいのにこうなればいいのにって、何の根拠もなく口にするだけで……!」
────……分かった、それは認めるよ。だからポスターを破った事に関してだけはユメ先輩にちゃんと謝ってくれ
「……何で私が」
────っ!待てよ!ここで謝らないと後悔するのは小鳥遊さんだぞ!?それでもいいのか!?
「……後悔するわけないじゃん」
逃げるように部屋を出ていくホシノ、その背中には最後まで酒泉の怒りが込められた目が突き刺さっていた
バタンッ!と大きな音を立てながら雑に閉められる扉、その様子からもホシノが怒っているであろう事が窺えた
────くそっ……よくもユメ先輩のポスターを……!
「あ、あの……酒泉君?私の為に怒ってくれたのは嬉しいけど……でも、私は本当に気にしてないからね?だから落ち着こ?」
────……あ……す、すいません!
ユメのことも忘れて目の前で喧嘩していた事に今更罪悪感を覚えた酒泉はすぐに頭を下げ、それからしゃがみこんでポスターの切れ端を拾っているユメを手伝う
ビリビリに破かれたポスターを一枚一枚パズルのピースの様に合わせ、それをセロハンテープでくっつけると〝アビドス砂祭り〟という文字が見えてきた
「……よし!修復完了!ありがとね、酒泉君!」
────いえ……それよりもユメ先輩の気持ちも考えずに喧嘩しちゃってすいませんでした……
「もう!本当よ!私の言葉も聞かず2人だけで盛り上がっちゃって……私、怒っちゃったんだから!」
ツーンと口で言いながらわざとらしく頬を膨らませるユメ、そんな子供の様な態度にも胸を痛めている酒泉は逆らうことができない
ただひたすら申し訳なさそうに俯くのみだった
「……許してほしい?」
────…………はい
「どうしよっかなー、私とっても傷ついちゃったからなー」
────うぐぅ……
「……でーもっ!酒泉君が私のお願いを1つ聞いてくれたら許してあげてもいっかなー」
────……わ、分かりましたよ!ユメ先輩の頼みならなんだって聞きますよ!もう!
「本当?じゃあ……ちゃんとホシノちゃんと仲直りすること!」
それはお願いというよりも先輩としての心遣いだった、酒泉はポカンと口を開けているがそれと同時に〝ユメ先輩らしいな〟とも思っていた
……が、流石にあんな言い合いをした後にすぐ謝りに行くのは酒泉も気まずく感じ、ユメのお願いに素直に頷くことができなかった
「別に今すぐとまでは言わないけど、心の整理が終わったらできるだけ早く仲直りしてあげて?ホシノちゃん、ああ見えて本当は酒泉君のこと大好きだし傷ついてると思うから」
────……うっそだぁ、絶対俺のこと嫌いですよあの人
「好きの反対は無関心って言うでしょ?」
ユメは笑顔で説得するものの、酒泉は自分がホシノに好かれているとは到底思えなかった
何故ならホシノの酒泉に対する態度は日頃からツンケンしているし、実際に会話する時もユメの時より若干強めに当たるからだ
故に渋々、本当に渋々といった感じで酒泉は頷いた
────……分かりました、それならなるべく早めに仲直りしますよ……向こうにその気があるのかは分かりませんけど
「本当?約束よ?」
────本当ですよ、ちゃんと仲直り……っ……おぇ……
「……しゅ、酒泉君?大丈夫?もしかしてさっきホシノちゃんに突き飛ばされた時どこかぶつけちゃった?」
────……いえ、大丈夫です。今日はちょっと朝飯食い過ぎただけなんで
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その日、私は気分が悪かった………って言ってもただイライラしてただけだけど
その理由は止む気配のないアビドスの砂漠化や襲来する砂嵐だったり、アビドスを救おうともしない無気力な人々や自分の利益しか考えない大人達への不満だったりと様々だ
それらの怒りが……日頃から〝きっと〟だの〝いつかは〟だの言いながらアビドスに明るい未来が訪れるのを夢見てる能天気な2人のせいで沸き上がってしまった
そして、私はその怒りを感情のままにユメ先輩と酒泉にぶつけてしまった……分かってる、あそこまで強く当たる必要は無かったってことぐらい
非は私にあるって事も、それを理由に八つ当たりするのは間違ってる事も、全部全部理解している
……それでも私は謝らずに部屋を出てしまった、だって私は素直じゃないから
だけど、一度帰宅して静かな部屋の中で過ごしていれば嫌でも考え込んでしまう
本当にアレで良かったのかなって、このまま喧嘩別れしたままでいいのかなって
そうして2人の顔を思い浮かべれば、そこから更に2人との想い出まで自然と想起してしまう
「……ああもう!」
再び八つ当たりする様に枕を壁に投げつける、大した音はならない
当然その程度の事でこの胸のモヤモヤが晴れることはなく、結局私は再び制服に着替えてアビドスに向かって走り出した
〝これは仕方なく〟とか〝今後の学園生活の為〟とか言い訳を必死に頭の中で考えながら走り続け、そうこうしてる内にいつの間にか生徒会室の前に到着していた
なんて謝ろう、2人とも怒ってるかな
そんな不安を抱えながらも何とも無かったように装いながら部屋の中に入る
「……先輩、戻ってきましたよ────あれ?」
生徒会室には誰もいなかった…………でもそれも当然だろう、だって私が帰ってから5時間は疾うに経っているのだから
……むしろよくこの時間まで残っていると思ってたものだ、いや実際にいつもなら残ってる時間なんだけど
「……じゃあ、また明日でいっか」
不安が無くなり、緊張も解け、肩を落とす
モモトークでも普通のメールでも謝る方法は幾らでもある筈なのに〝2人がいないなら仕方ない〟とまたもや言い訳を考えながら私は生徒会室を後にする
明日会って、さっさと謝って、それで元通り
だけど、明日も明後日も明々後日も、それ以降も2人は姿を現さなかった
「…………今日も来てないじゃないですか、先輩」
スマホのカレンダーに書かれた〝会議日〟の文字、だけどユメ先輩は生徒会室に居ない
「酒泉だって散々〝高校はアビドスに通う〟だの言ってた癖に……薄情な……」
酒泉が薄情な人間ではない事ぐらい分かっている、それでもこうして愚痴が出てきてしまう
……もしかしたら私は自分が思っている以上に寂しがっているのかもしれない
「…………嫌われたのかな」
昔の私なら考えられないような弱音が出てきてしまう
独りぼっちになるのは苦とも思ってなかった筈なのに、こんなに弱くなったのはきっとあの能天気コンビのせいだ
2人に文句を言わないと、だから早く帰ってきてよ
「────っ!」
ピリリリリリッと無機質な着信音が鳴る、それに反応して一瞬でスマホの画面をタップしたのはきっと期待を込めてか
「……もしもし」
だけど、電話を掛けてきたのは────
「……は?病院?」
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「もうっ!何をやってるんですか御二人は!?」
病院内だというのに叫び声が聞こえる
それはベッドで横になっているユメとその隣の椅子に座ってリンゴの皮を剥いている酒泉に対しての叫びだった
「ユメ先輩が砂漠で遭難してっ!それを探しに行った酒泉も一緒に遭難しかけて!」
「ご、ごめんなさぁい……」
────……俺悪くねーし
「酒泉君!?」
────ちゃんと水筒も食料もコンパスも地図も全部持ってから砂漠に向かいましたし、それでも砂嵐のせいで死にかけたんだから悪いのは砂嵐でs……あ痛ぁ!?
「この大馬鹿っ!!!」
ホシノは酒泉の頭を勢いよくひっぱたくと、そのまま両肩を掴んでグワングワンと揺さぶる
最初は必死に抵抗していた酒泉だったが、少しずつ自身の膝に水滴が垂れてきて事に気づくと咄嗟に顔を上げてホシノの顔を見る
揺れる視界で必死に確認すると、ホシノの目から涙が零れていた
「私がどれほど心配したのか知らないくせに!私がどれほど後悔したのか知らないくせに!」
「ホシノちゃん……?」
「もう二度と会えないんじゃないかって……もう謝る事もできないんじゃないかって……本当に怖くて……!」
ホシノの弱音を聞いたユメと酒泉は揃って口を閉じてしまう
それは〝珍しいから〟だとか〝あのホシノが〟といった感情が理由ではない────大切な者を泣かせてしまった事への罪悪感からだった
「……ごめんね、ホシノちゃん……もう二度と黙ってホシノちゃんの前から居なくならないから」
────俺も……その……すいませんでした。いくら喧嘩したばかりだったとはいえ、ちゃんと小鳥遊さんに連絡してからユメ先輩を探しに行くべきでした
「……それなら許します、それと……あの時は私も2人に酷いことを言ってしまってすいませんでした」
涙を拭いながら呟くホシノだったが、直後にモジモジと顔を赤らめながら謝罪の言葉を口にした
顔が赤い理由は泣いた後だからというのもあるだろうが、他にも心配させられた事への怒りや改めて謝罪しようとした事への照れなども混じっているのだろう
三者それぞれが思うところがある気まずい空気の中、ユメはその空気をなんとかする為に話題を変える
「そ、そういえば酒泉君!よく私を見つけることができたね!結構広い所に行っちゃったし目印も何も無かったと思うんだけど……」
────砂漠に付いたユメ先輩の足跡を辿ったんですよ
「……足跡なんてすぐに砂で埋もれそうなもんだけど」
────ええ、実際に砂で埋もれかけてましたよ……ですから微かに残った足跡を辿ってユメ先輩の元まで向かいました
「……嘘でしょ?砂漠の中から足跡が付いていたであろう部分を見極めたの?」
────ほんの少しでも凹みが残っていて、更にその凹みが連続で続いていたら〝あ、多分この上通ったんだろうな〟って分かったんで……
「流石は酒泉君!目の良さに関しては叶う者無しね!」
「……なんか……ストーカーみたいな……」
────は、はぁ!?人聞きの悪いこと言わないでくれますぅ!?
「もう!折角仲直りしたのにどうしてまた喧嘩の火種になるようなこと言っちゃうの!?ホシノちゃん!」
「いや、だって……」
────ストーカー……頑張って捜索したのにストーカー……
「……ご、ごめん……流石に言い過ぎた」
「ほら!ホシノちゃんも謝ってるし酒泉君も元気だして?ね?」
────でも……俺ストーカーって……
「……そ、それに!私、酒泉君にストーカーされるなら大歓迎だから!」
────いや、その慰め方はちょっとズレてます
「元凶の私が言うのもなんですがそれはフォローになってないです」
「ひぃん……」
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「………」
「……んっ……ふぁあ~……」
「うへー……今は……6時?まだ眠いなー」
「…………」
「……うへ……」
「……なーんだ、ただの夢かぁ」
存在しない記憶ルートでホシノが見た夢、つまりifアビドスの話的なアレです