〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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酒泉君がトリカスに頭を下げたらとんでもない事になった話

 

 

 

 

「うへぇー……動いたせいで疲れたよー……」

 

 

若干制服がボロボロの少年────折川酒泉がスイーツ店に一人入店していた

 

ボロボロといっても土汚れや埃まみれといった訳ではなく、ただ所々制服に破損した箇所が見かけられるだけの為、それによって店内を汚すことはない

 

……のだが、それでも酒泉は多少の視線を周囲から集めてしまっている

 

何故ならここはトリニティの店、そんな場所に〝ゲヘナ〟の〝男子生徒〟が居れば誰か一人くらいは確実に視線が引かれるのだから

 

 

「すいません、あの新商品ください。あの……えっと……マンゴーの……」

 

「レモンケーキのマンゴークリーム乗せですか?」

 

「そう!それです!それ一つお願いします」

 

 

しかしそんな視線に慣れ切っている酒泉は気にすることなく商品を注文し、店員側も特に反応することなく厨房側にオーダーを通す

 

 

(はぁー……本当はもっと早くトリニティに行く予定だったのになー)

 

 

案内された席で適当にスマホを弄りながら心の中で愚痴る酒泉

 

この日、彼の風紀委員としての仕事は午前中に終わる筈だった……そう、〝筈だった〟という事はつまりその予定が崩れ去ったということだ

 

理由の大半はやはりゲヘナの問題児達の仕業だろう

 

今日も相変わらずピーチ姫されてるフウカを救う為にクッパ軍と化した美食研究会を倒したり、温泉の気配を感じ取って酒泉の通う教室に穴を開けようとした温泉開発部を止めたり

 

風紀委員に目をつけられる様な依頼を受けた便利屋を止めたり、そんな彼女達を連行してる途中で便利屋の社長さんが〝仕方ないでしょう!?お金が無さすぎてもう三日も白米とのりたまふりかけしか食べてないのよ!?そのふりかけももう尽きそうだし!〟と泣き出したり、呆れつつも仕方なく酒泉が牛丼を奢って五人一列に並んで食べたりと、多くの時間を問題を起こす連中に奪われていた

 

 

「金が無いなら大人しく表の世界に戻って普通のバイトでもすりゃいいのに……」

 

 

アウトロー、ハードボイルド、酒泉はそれらの魅力が分からない訳ではない

 

常識から外れた行動や悪の中に垣間見る正義、それらに惹かれる人間が少なからず存在することも

 

しかし酒泉個人の価値観としては〝普通に日頃からルールを守ってる人間の方がカッコいいだろ〟だった

 

不良が一度だけ良いことをするよりも真面目な人間が日頃からボランティアしてる方がカッコいいに決まっている、その考え方は前世から変わっていない

 

 

(……まあ、風紀委員出動案件にさえしなければ好きにしていいけど)

 

 

しかしその価値観を無理やり他人に押し付けるほど酒泉は傲慢ではないし、それを聞かれてもいないのに本人に伝えるほど性格が悪い訳でもない

 

むしろ酒泉自身も特撮の中のダークヒーローを〝カッコいい〟と思う事だってあるし、アニメに出てくるゲスキャラだって好く事がある

 

フィクションはフィクション、ノンフィクションはノンフィクション、ただそう区別しているだけである

 

世界征服を企んでいる悪のカリスマだってアニメでは人気でも現実ではただの犯罪者の一人、それだけの話だ

 

……とはいえ、どんな悪が許容範囲でどんな悪が許せないかは人によるだろう

 

 

「でさぁ!その時なんて───」

「マジで!?やっぱアイツって───」

「だよねー!私もずっと────」

 

 

 

(……なんか騒がしいな)

 

 

 

例えば、今酒泉がチラッと一瞬だけ見つめた少し離れた席で騒がしく会話しているトリニティ生達

 

彼女達の会話を聞いてみれば〝靴を隠した〟だの〝慌てた顔が面白かった〟だのと陰湿な内容だった

 

日頃から流れ作業のようにゲヘナの問題児の相手をしている折川酒泉という少年がその会話に嫌悪を抱いたのは、それは〝悪〟の方向性がいつも相手にしている生徒達とは別のベクトルだったからだろう

 

良くも悪くも正面から堂々と気に入らない奴を叩き潰しにいくゲヘナスタイル、気に入らない奴の私物を燃やしたり陰からコソコソと傷つけるような真似をするトリニティスタイル

 

折川酒泉という少年はどちらかと言えば後者の方が嫌いだった……勿論、どちらのスタイルも悪い事に替わりないが

 

 

「お待たせしましたー!レモンケーキでーす!」

 

「……ありがとうございます」

 

 

スマホを弄りながら暫く待機していた酒泉のテーブルに注文した品が届く

 

ロボットの店員は皿を置いた後、騒がしく会話をしていた生徒達に一瞬だけ視線を向ける……が、特に注意する事もなく去っていく

 

それは他の客達の不快そうな表情を見ても尚だった

 

 

(……まあ、関わりたくない気持ちは分かるけどさ)

 

 

雑音をシャットアウトする為、普段は食事中はあまり付ける事のないイヤホンを装着してスマホで音楽を流す

 

胸糞悪い話は聞かず、ただスイーツの味だけを堪能する為に酒泉はスプーンを持った

 

 

(……おお、美味いな)

 

期待以上の味に酒泉は微かに頬を緩ませる

 

店内の雰囲気は少々悪かったが、それと味の評価はまた別だ

 

先程までうんざりしていた気分はすっかり明るくなり、そのスプーンを持つ手が動くスピードも上がっていく

 

 

(どうしよう……一個じゃ足りないかもな)

 

 

気づけば残り数口で完食してしまう量まで減っていたレモンケーキを見つめる酒泉

 

もう一個追加しようかとイヤホンを外して店員に声を掛けようとしたところで────レモンケーキを届けたロボットの店員とは別の女性店員が先程騒いでいた三人のトリニティ生に絡まれている場面を目撃する

 

 

(……ん?なんだ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからー、なんで出せないのー?」

「で、ですから!そのレモンケーキはもう売り切れでして……」

 

「あっちのゲヘナの生徒には出してたじゃん」

 

「なんでゲヘナの分は用意してるのに私達の分は用意してくれないのー?」

 

「トリニティの店なのにゲヘナだけ贔屓するんだー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……うわぁ)

 

 

それを見た酒泉の中に様々な感情が浮かび上がってくる

 

店員への哀れみ、申し訳なさ、そして────

 

 

(最後の一個、間に合ってよかったぁ……)

 

 

折川酒泉は誰に対しても親身に接する訳ではない、赤の他人の不幸を目撃したとしても当然他人事としか思えない

 

彼は聖人ではない、正義のヒーローでもない

 

 

「……あの、店員さーん?ちょっと追加で注文したいものがー……」

 

「……あ、はーい!今行きまーす!」

 

 

……が、かといって目の前で起きた出来事を簡単に見過ごせる様な男でもない

 

そもそもそんな人間だったら今頃大勢の面倒な女性達に執着されていない筈である

 

 

「この抹茶オレとカラフルマカロンってやつを一つずつお願いします」

 

「かしこまりましたー!……あ、あの」

 

「はい?」

 

「ありがとうございます……」

 

酒泉な意図を察知したのか、耳元で小声で礼を囁く女性店員

 

酒泉は〝いえ〟とだけ呟いて頷くと、女性店員は注文された品を作る為に厨房へと戻っていった

 

 

(……これぐらいなら問題無いだろ)

 

 

酒泉が直接トリニティ生達を注意せず間接的に女性店員を助けたのは面倒事を避ける為

 

エデン条約が締結されたとはいえゲヘナとトリニティの関係が急に改善された訳ではない、ならば未だに嫌い合っているゲヘナ生やトリニティ生も当然存在する

 

そんなトリニティ生にゲヘナ生である酒泉が直接注意すればそこから口論に発展してしまう可能性がある、酒泉の行動はそれを危惧しての行動だった

 

 

「───ねえちょっと、なにカッコつけてんの?」

 

「……ん?」

 

 

が、それでも沸点の低い人間が相手の場合は意味を成さないらしい

 

再びイヤホンを耳につけようとした酒泉を見下ろす三人の少女、気づけば先程のトリニティ生達がいつの間にか酒泉のテーブルの前まで来ていた

 

 

「アタシ、あの店員と話してたんだけど?何邪魔してくれてんの?」

 

「はぁ……でも俺だって店員さんに注文したかったですし……」

 

「他の店員呼べばよかったじゃん」

 

「見たところ他の人達全員厨房側っぽいですし……」

 

 

威圧する様に問うトリニティ生に面倒そうに答える酒泉

 

その様子が気に入らなかったのか、トリニティ生達は更に圧を掛けるように一歩前に踏み込む

 

 

「てかさ、私達アンタのせいでそのケーキ食べられなかったんだけど?」

 

「そこは早い者勝ちでしょう……てかそっちが先に店に居たんですからさっさと頼めば良かったじゃないですか」

 

「はあ?最後のお楽しみとして残しておいただけだし!」

 

「じゃあ注文だけしてテーブルに置いときゃいいでしょ……」

 

「出来立てのが欲しかったんだもんねー」

 

 

ねー、と白々しく顔を合わせる生徒達を見て溜め息を吐く酒泉

 

彼女達は恐らくどう答えてもいちゃもんをつけてくるつもりだったのだろう

 

 

「あー……じゃあ俺のレモンケーキ食べます?三口分くらいは残ってますけど」

 

「はあ?何それ?馬鹿にしてんの?」

 

「だったらどうしろってんですか……」

 

「どうしろって……そんなの決まってるでしょ?」

 

「悪いことをしたらごめんなさいでしょ?ゲヘナの生徒はそんな事も分からないの?」

 

「はぁ……すんません」

 

 

酒泉はテーブルに座ったまま軽く頭を下げ、謝罪の言葉を口にする

 

しかしそれだけでは彼女達の気が収まる筈もなく、一人のトリニティ生が酒泉の肩を掴んで無理矢理立ち上がらせる

 

 

「座ったまま謝罪なんて舐めてるの?謝るならちゃんとそれに相応しい格好があるでしょ?」

 

 

恐らくリーダー格であろう茶髪の生徒の後ろで金髪の生徒と銀髪の生徒がニヤニヤ笑う

 

別に彼女達の要求を無視するのは簡単だったし、もし酒泉が風紀委員の腕章を着けている状態だったら組織の体裁の為に間違いなく断っていただろう

 

しかし今は仕事が終わって完全にフリーな状態、更にこの日は普段と比べても圧倒的な数の戦闘をゲヘナでこなした後だった為、酒泉は極力体力を使いたくなかった

 

更に言えばゲヘナの生徒がトリニティで問題を起こすと色々と大事になってしまう可能性も考え、酒泉はこの場をスムーズに収めることを選んだ

 

 

「……すいませんでした」

 

 

背筋を伸ばしてから深々と頭を下げる酒泉

 

それを見下すトリニティ生達のニヤけ笑いが更に深くなる

 

 

「うわっ……本当にやった……」

 

「マジ?こいつプライドとかないわけ?」

 

「マジでダサすぎでしょ!」

 

 

頭を下げている酒泉に嘲笑が降り注ぎ、生徒達の笑い声が大きくなる

 

パシャリと数回シャッターが鳴るような音が聞こえるが、それでも酒泉は頭を下げ続けている

 

それは、悔しさで俯いているから────ではない

 

 

(あー、抹茶オレの隣にあった黒糖ミルクオレってのも気になってきたな……)

 

 

そもそも、彼は自身が頭を下げているという状況を苦にも悔しくも思っていなかった

 

何故なら彼女達は〝頭を下げても何とも思わない相手〟だからだ

 

例えば、勝負事等で負けたくない相手────これが聖園ミカや普段から戦っているゲヘナの問題児達相手であれば絶対に頭を下げなかっただろう

 

例えば、嫌悪や憎悪を抱いている相手────これがベアトリーチェ相手であっても絶対に頭を下げなかっただろう

 

しかし彼女達は違う、酒泉は目の前のトリニティ生達の事は聖園ミカやゲヘナの問題達のような喧嘩相手とは思っていないし、ベアトリーチェのような本気で憎むべき敵とも思っていない

 

〝どうでもいい〟……ただそれだけだった

 

どうでもいいから言う事を聞く、どうでもいいから素直に謝罪する、どうでもいいから────嘲笑われようと何も感じない

 

要するにそのトリニティの生徒達は相手にすらされていなかった

 

 

「あー、笑った笑った……」

 

「ゲヘナにしては面白い芸持ってんじゃん!」

 

「ねえ見てみて!この写真とかめちゃくちゃ綺麗に写ってない?」

 

 

ゲヘナの生徒に頭を下げさせたという事実に優越感を覚えながら去っていくトリニティの生徒達

 

他の客達が気の毒そうに酒泉を見つめたり不快そうにトリニティの生徒達を睨む中、酒泉だけが何事も無かったかのように席に戻って再びスマホを弄り始める

 

折川酒泉にとってこの程度の出来事は日常茶飯事……という訳ではないが、そもそも風紀委員という立場上厄介な連中に絡まれる機会など幾らでも訪れる

 

それらの対処で慣れ切っている故か、酒泉は今回の件を帰った後引きずるようなことはなかった

 

それほど折川酒泉は何も気にしていなかったのだから……そう、折川酒泉〝は〟気にしていない

 

ならば他の者が今回の件を耳にした場合、何を思うか

 

 

 

「お待たせしました!こちら抹茶オレとカラフルマカロンです!」

 

「ありがとうございま────ん?なんか……量多くないっすか?」

 

「ご、ごゆっくりどうぞー!」

 

 

そんなことを予想もせず、女性店員が助けてくれたお礼にと多めに更に盛り付けてくれた品を口に運びながら酒泉は頬を緩ませた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐藤ナギサは苦労人である

 

それは抜けたティーパーティーの穴の分まで頑張っているからだったり、そのティーパーティーの他二人の言い争いを宥めているからだったりと様々な理由がある

 

だからこそ無駄な時間を過ごす訳にはいかない……の……だが……

 

 

「ねーねーセイアちゃーん、セイアちゃんのCVはいつ実装されるのー?」

 

「そうだね、君が動物園に戻る頃には実装されているんじゃないかな?」

 

「……はぁ」

 

 

飽きもせず口喧嘩をする二人を置いて仕事を進めるナギサ

 

一度注意しようかと思ったが、喋るのすら面倒になったナギサは皿に乗った間食用のロールケーキを軽くちらつかせる事によって二人を黙らせた

 

〝これ以上無駄口を叩くならロールケーキを口に突っ込むぞ〟……これはそういう意味である

 

 

「むぅ……セイアちゃんのせいで怒られちゃったじゃん」

 

「君の自業自得だろう……そもそもどうしてミカがここに来ている?私とナギサの仕事でも手伝いに来てくれたのかい?」

 

「んー?……まあ、差し入れ?」

 

 

そう言ってミカがとあるスイーツ店のロゴが描かれた紙袋から箱を取り出すと、その中に入っていたのはオレンジ色のクリームが乗った黄色いケーキだった

 

 

「これねー?最近トリニティで話題のマンゴークリームのレモンケーキ乗せなんだってー!」

 

「それを言うなら逆だろう、クリームにケーキを乗せてどうするんだ」

 

「もう、セイアちゃんはまた細かいこと気にする……いいもん!文句があるなら私とナギちゃんだけで食べるから!」

 

「そうか、なら私は酒泉が贈ってくれたバタークッキーを一人で食べるとしよう」

 

「……え?酒泉君からの贈り物?」

 

「この前シマエナガと散歩させてもらったお礼だとさ」

 

「……ね、ねえセイアちゃん!もしよかったら私のレモンケーキと「交換しないぞ」…………」

 

「交換しないぞ」

 

「……二回も言うなんて、セイアちゃんってば食い意地張ってるね☆」

 

「少なくとも君よりは痩せているがな」

 

「は?」

 

「は?」

 

「いい加減にしてください!喧嘩をしに来たのならお二人とも………っ?」

 

 

口論が激しくなる前に沈めようとするナギサだったが、その直前でナギサのスマホが振動する

 

画面に表示されていたのはナギサが事務仕事等で世話になる側近の少女だった

 

ナギサは口元に指を当てて〝しーっ〟と静かにするようにセイアとミカに伝えると、そのまま通話ボタンをタップして通話を繋げた

 

 

「もしもし?何か御用で『ナ、ナナナギサ様!!!大変です!!!』───っ!?」

 

 

突如耳元に襲い掛かる大声量

 

想像以上にスマホの音量を上げてしまっていたのか、ナギサは音量ボタンでそれを調整してから再び耳にスマホを当てる

 

 

「失礼、少々音量調整をしていました。ところで御用件は……ええ……はい……はい?モモッターの裏アカ……ですか?一体どなたの……一般生徒の?」

 

 

電話越しから伝わる焦り声はナギサの耳以外には届かない

 

しかしナギサが呟いている言葉から今回の連絡の内容は〝モモッター〟というSNSが関係しているであろう事が窺える

 

他にも〝裏アカ〟という言葉が出てきた辺り、それは間違いないだろう

 

 

「ええ、写真を此方に……はい……お願いします」

 

 

そして〝ぴろん!〟という音と共にナギサのスマホに一枚の写真が送られてくる

 

会話を聞こうとしていたミカはその写真がなんとなく気になったのか、ナギサの座っている椅子の隣に移動してそれを確認しようとする

 

「ねえねえナギちゃん、どんな写真が送られてきたの?」

 

「ミカ、勝手にナギサの写真を見ようとするんじゃない。これがティーパーティーの仕事絡みの内容だったらどうするつもりだい?」

 

「別にいいでしょ?私だって元ティーパーティーなんだからさー」

 

「元だから駄目なんだろう……ナギサ、君からも何か────」

 

 

ミカに釘を刺してもらう為にセイアがナギサの方を向いて声を掛ける─────その時、視界に映ったのは顔を青ざめさせたナギサの姿だった

 

一体何事か、先程の写真が原因なのか

 

そう思ったセイアとミカは眉間に皺を寄せながらもゆっくりとナギサの後ろに立つ

 

ナギサが手に持つスマホに表示されていたのは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝生意気なゲヘナの生徒がいたから謝らせてやった(笑)〟

 

〝ゲヘナ生なんかがトリニティに足を踏み入れるなんて不愉快だよね(笑)〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────とある生徒のモモッターの裏アカに呟かれた言葉と、折川酒泉が頭を深々と下げている写真だった

 

……しかも、少々制服が傷ついてる状態で

 

 

 

「……は?」

 

「……なにこれ」

 

 

 

一瞬で表情が険しくなるセイアとミカ、そして次の瞬間にはナギサのスマホから今度は周囲の人達が聞き取れるくらい大きな声で新たな情報が吐き出された

 

 

 

『た、大変ですナギサ様!ここに来て新しい報告が……!』

 

「……はっ!?な、なんですか!?」

 

『例の裏アカの生徒がミレニアムの生徒に特定されました!』

 

「……はい!?特定!?い、一体誰が……」

 

『そ、それが……見間違いじゃなければ苦情を入れてきた人の名前のところにミレニアムのセミナーの元会長のお名前が……』

 

「……調月リオさんですか!?」

 

『それと無関係だとは思うのですが一応……調月様から連絡が入った時と同じタイミングでミレニアムに光の柱が立ったとか……』

 

「光の柱!?」

『あ、それとETOの任務から帰還中のアリウススクワッドについても情報が……現在、少々帰還ルートを外れて移動しておりますが、これに関しては誤差の範囲だと思いますので────』

 

「今すぐ通常のルートに戻してください、特にその裏アカの持ち主と鉢合うようなルートだけは絶対に避けさせてください」

『え?ですが、本当に誤差の範囲ですし……』

 

「とにかく!絶対です!」

 

『は、はぁ……分かりまし────っ!?ナ、ナギサ様!また新しい報告です!』

 

「こ、今度は何を……!」

 

『トリニティの区域内で便利屋を名乗る集団が暴れているとの情報が……えっ!?美食研究会も暴れてる!?しかも二本角の少女が車で爆走してる!?』

 

「あ、ああ……ああ……」

 

『トリニティのデパートに温泉を掘ろうとしてる変人集団がいる!?何よこの情報!?』

 

「ああああ……あぁあ……あ……」

 

『……えっ!?ゲヘナの風紀委員達がトリニティのホテルに〝お泊まり〟しにくるって!?何故か武装して!?』

 

「あぅあ……ぁぁあぁあ……!」

 

『そ、そんな一辺に来られても……まだ受け入れ準備も何も……っ!今度は何よ!?……はぁ!?厄災の狐がトリニティに出現したぁ!?』

 

「もう駄目です……おしまいです……!」

 

『……?砂狼シロコに酷似した人物がボロボロのタブレットを持って無理やりトリニティの校内に入ろうとしている……ですか?一体何の為に……まあ、とりあえずは無視していいでしょう。それよりも今はトリニティで暴れている生徒達の対処ですよ!』

 

「逃げるんです……勝てるわけがありません……!」

 

『……え?シャーレの先生がトリニティに向かってるって!?よ、よかった……ナギサ様!朗報です!この騒動を収める為に先生が出向いてくれるみたいですよ!満面の笑みで!』

 

「……満面の笑みで?」

 

『はい!満面の笑みで!』

 

「────っ、」

 

『……えっ!?それ本当!?た、大変ですナギサ様!トリニティ内からも噂を聞き付けた人物が抗議活動を!話によると正義実現委員会の一般生に自警団の宇沢レイサが……………あれ?もしもし?ナギサ様?ナギサ様ー?』

 

 

 

突如通話が切れ、電話の向こうで困惑している側近の生徒

 

ナギサはガクリと項垂れると同時に拳を床に打ち付けて勢いよく叫ぶ

 

 

 

「先生……ぜっっっっっっっっっっったいにぶちギレてるじゃないですか!!?」

 

 

 

恐らく騒動を収める為に来るというのは本当なのだろうし、生徒に対して手荒な手段を使う事もないだろう

 

しかし、本気でキレた彼との〝O☆HA☆NA☆SHI〟を正面から食らって耐えられる生徒が一体キヴォトスに何人存在するのだろうか

 

これからたっっっっっっぷりお叱りを受ける裏アカの持ち主に念仏を唱えつつ、ナギサはもっと重大な事を思い出して即座に顔を上げる

 

 

「……はっ!?そ、そうです!ミカさんは!?」

 

「ミカならもう走り去っていったよ……その裏アカの生徒の場所まで」

 

「手遅れでした……!!!」

 

南無三……いや、運が良ければ見つからず逃げ切れるかもしれない

 

そんな希望を抱いた瞬間、セイアはニッコリと微笑みながらナギサの肩をポンと叩いた

 

 

「安心してくれ、その裏アカの持ち主の居場所なら私の〝勘〟が告げている。なんならミカにもその場所は伝えてあるぞ」

「あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……んっ……ん────っ、はあ……」

 

 

おもいっきり腕を伸ばしてから息を吐き出す

 

時刻は6時5分、もう朝だ

 

 

「さて、登校の準備でもしますかね……っと、その前に……」

 

 

シロコさんの寝室に向かって扉をノックし、〝入るぞー〟と声を掛けて少々間を空けてから部屋に入る

 

 

「朝ごはん作るから顔洗って……あれ?シロコさん?」

 

いつもはモゾモゾと動いている筈の毛布が今日は大人しい

 

なんなら部屋から全く人の気配を感じない

 

 

「あれー?どこ行ったー?……プラナに聞いてみるか」

 

枕元に置いておいたシッテムの箱を起動させる為に再び自室に戻る……が

 

 

「……プラナもいないじゃん」

 

 

プラナに関してはそもそも端末ごと無くなっていた

 

 

「なんだなんだ?シロコさんが持ってたのかー?」

 

 

早朝のランニングでもしているのか、それとも散歩か

 

どちらにせよ自宅内からは全く気配を感じられず、少々心配になってしまう

 

 

「……散歩か?」

 

 

次に向かったのは玄関、理由は勿論靴を確認する為

 

 

「……靴もないやん」

 

 

本格的に散歩説が強くなってくる

 

まあ、シロコさんの実力なら別に心配しなくても大丈夫だろうが、それでも書き置きの一つくらいは……

 

 

「……ん?」

 

 

しかし寝起きの身体に活を入れて集中してみれば、何やら玄関前から人の気配が

 

シロコさんでも帰って来たのかと思いドアを空けて声を掛けてみる

 

 

「シロコさん?帰って来たのかー?朝食はパンとご飯のどっちが────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「大変申し訳ございませんでしたああああああああああああああああああ!!!」」」

 

 

 

そうして何も警戒せずドアを開けた俺の目に飛び込んできたのは、カクッと美しく九十度頭を下げている三人のトリニティ生でした

 

 

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