────外にも出たくないでござる
なんとなーく呟いたこの声に答える人間はいない、だってこの家俺しかいないし
ふと部屋中に散らばったレジ袋を見渡す、大体のレジ袋にコンビニ弁当やらスナック菓子の袋やらが詰められている
外に出るのが嫌すぎてゴミ捨てすら三週間も放置してるけど、流石にそろそろ捨てないとアカンな……と言っておきながら来週も放置してそうだけど
それ程までに俺は外に出たくないのだ……だってさ、仕方ないじゃん
このキヴォトスって前世と違って外で平然と弾丸が飛び交う世界だし、前世まで一般ピーポーだった俺にとっては恐ろしすぎる世界だった
それはもう目の前に弾丸が通った瞬間に小便チビったくらいには怖くて怖くて……いやマジでチビったからな?冗談じゃないからな?
とにかく、そんな事を中学生時代にいきなり経験したもんで最初は〝ゲヘナに入学して推しの顔でも見ようかなー〟とか〝この世界の先生って性別どっちなんだろうなー〟とか好奇心に駆られていた俺の考えは一瞬で〝外に出たくねえ〟に書き換えられた
────前世でトラックに轢き殺されるのも今世で流れ弾に撃ち殺されるのも大して変わらんよな
同じ死に方をするなんて御免だ、俺は安全に出世……できなくてもいいからとにかく生き残りたいんだ
だから俺は極力外へ出ない、外の世界で原作が始まってようが俺には関係ないからな
興味ないね……(厨二感)
────暇だしなんか適当にスレでも漁るか……ん?
パソコンで〝キヴォトスちゃんねる〟というサイトを開いて適当にスクロールバーを動かしてみると、ふと気になるスレが立てられていた
スレ名は〝トリニティ生のエチチな制服がこちらwwwww〟とかいうやつだった
────……ほーん?
ほんの好奇心(性欲9割)に駆られてスレを開いてみる
すると初手で〝ここは腹筋スレです、IDに書かれた数字の分だけ腹筋しましょう〟というレスを食らった
────……やっぱりな
騙されてるのは分かっていても、それでも開いてしまうのが男の佐賀……じゃなくて性
俺のIDには6と4と9の数字が含まれていた、この場合は649回腹筋すればいいのだろうか
────いーち……にーい……さーん……ぜぇ……はぁ……
駄目だ、なんとなく本当に腹筋してみたけど三回が限界だった、これでは俺に体力を求めるなど絶望的だ!
大人しくスレを閉じて立ち上がってみれば腹からぐぅ~っと音が鳴る、時刻はいつの間にか十二時になっていた
台所に向かって冷蔵庫を漁ってみれば、買い置きしていたコンビニ飯はとっくに失くなっており、代わりに残っていたのはパックのご飯だけだった
────私、折川酒泉!好きなものはご飯&ご飯!……何やってんだろ俺
あまりにも悲惨な冷蔵庫の中身に絶望し、なんとなく歌って戦う女の子の真似をしてみる
野郎がやっても気持ち悪いって事が判明した
────……はぁ……しゃーない、外にはあんま出たくないけど……
リビングのタンスからモモチューブのチャンネルで得た収入を財布にしまって出掛ける準備をする
本当は出前とかにしたいけど、本当は家から一歩も出たくないけど、こんな俺でも月に一度くらいは外の空気を吸わないとなーって思う程度の危機感はあるのだ
────……まあ、それでも人に関わりたいとは思わないけどな
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「お弁当は温めますかー?」
────あ、あ……ぇあ……あの……あ、あたたたた……
「……えっと……温めるということでよろしいですか?」
────アッハイ……
「では一分程お時間頂きますねー」
本当は〝温めなくていいです〟と答えようとしたのに、緊張のあまり吃りまくって勘違いされてしまった
勘違いされないように言っておくが俺はコミュ障ではない、人と関わるのが苦手なだけだ
……別にいいし、外の世界に出なくてもこのまま自分のチャンネルの登録者を増やして稼いでいけばいいだけだし
俺がモモチューブでの実況を始めたのはなんとなく……本当にそれだけだった
家に籠る時間が増えてくると当然自宅内で暇潰しに興じる時間も増えてくる訳で、その頃の俺はただ何も生産せず食っちゃ寝てゲームして食っちゃ寝てゲームしてを繰り返す人生に危機感を覚える程度にはまだニート適正がなかった
そこで考えたのがゲームのプレイ動画を投稿する事……つまりは前世のチューバー的なアレを目指したって訳だ
上手く軌道に乗ればゲームで遊んでいるだけで稼げるし、それが無理でも最低限生活できる程度の金が稼げればいいかなーなんてお気楽な考えだった
幸いにも一人で喋る分には緊張も何もしないタイプだった俺はそのまま実況活動に手を出した……が、当然の様にいきなり躓いた
そもそもの話無名の人間がいきなり有名実況者になれるはずもなく、最初に投稿した動画は視聴回数7回でチャンネル登録者が0だった時期もそれなりに続いた
それでも元々ゲームの腕がそこらのプロゲーマーよりはあったお陰か、諦めずに根気よく続ければチャンネル登録者数も750人くらいにはなった
その頃には自分の実況スタイルを確立し、ネットのフリーゲームやストーリー性のあるRPGよりも自分の腕を存分に活かせる対戦ゲームが中心になっていった
更に対戦ゲームが上手いという事はオンライン対戦でのレートやランク等も必然的に上の方になる訳で、そうなると有名プレイヤーと野良でマッチする機会も増えてきた
そこから更に有名に、更に登録者が増える、またまた有名に、それを繰り返していると気づけば登録者数は9700人に
それからも慢心する事なく勇気を出して生配信に手を出し、ちょっとしたオンライン大会にも出場し、時にはアケに手を出す為に配信設備付きのゲーセンにも行くようになった
23000、45000、72000とどこぞの摩訶不思議アドベンチャーの戦闘力の様に上昇していく登録者数を見て更にモチベーションが上がり、動画作成に力を入れていく
これを三年程続けていく内に俺のチャンネルは大きく成長していき、そして現在────登録者数は48万人になっていた
もうすぐ50万人突破配信する予定です、はい
「……あ、あの……」
────うぇ?な、ななななんだすか?
「……だすか?」
そんな自分語りを心の中でしていると、目の前の女性店員さんが突然話しかけてきた
咄嗟に返事をしようとしたせいで思わず噛んでしまった……うるせえ!リアルで対面して話すのはまだ苦手なんだよ!
「も、もしかして貴方……鮭泉さんですか!?」
────あっあっあぁっ
「やっぱりそうですよね!?私、毎日実況見てるので絶対に聞き間違えたりしませんもん!」
────ああっ、あ、あ
店員さんの声量が急に上がってつい驚いてしまった
なんか心臓はバクバクしてきたし変な汗出てくるしクソみたいな喋り方しちゃうしヤバいなんかもう緊張してきたモニターの前だとこうはならないのにちくしょう
「あのっ、この前の配信見ました!凄く面白かったです!」
────え、あ、あああり、ありがととととと……
「もうすぐチャンネル登録者数が50万人突破するけど、何か企画とか考えているんですか!?」
────あ、え、あ、はい、い、いち……一応……
「頑張ってください!私、シフト空けて待機してますので!」
お釣りを受け取ろうとする俺の手を両手で包み、にっこにこの笑顔で応援してくれる店員さん
俺はそんな彼女に陰の者の様なおどおどした小声で〝アッドウモ〟と返事をし、逃げ出すように店を出た
金はちゃんと払ってるのに、何も後ろめたいことはしていないのに、まるで万引き犯の如く必死に走った
────くそっ……あんな急に迫らないでくれ……嬉しいけど!リスナーさんに応援されるのは嬉しいけど!
これでも対人関係は多少は改善されている、改善された上でこのレベルなのだ
しかし人には得意不得意がある、これも多様性という事で受け入れてくれ
「え、あ────っ!きゃあ!?」
────うぇあ!?あ、あ、ご、ごめ……ごめん、な、ささささい!
「……え?あ、貴方は────っ、あ!?ま、待ってくださ……!」
途中でぶつかってしまった紫色の髪の女性にも謝罪を入れて再び駆け出す
本当はもっとしっかり謝りたいけど、今の俺にはそんな余裕なんてない
まさかよく通うコンビニの店員さんが俺のリスナーさんだったとは……あの人との会話にも慣れないとこれからあのコンビニを利用する機会が減ってしまうかもしれない
ああ、こんな事になるんなら今日は外に出るんじゃなかった
いや、今日だけじゃない……〝あの日〟から俺の心は磨り減るばかりだ、もう一生引きこもっていたい
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『あ、あのっ!』
『……何?つーか誰?』
『知り合い?』
『知らね、てかこんな陰キャくせえ奴が知り合いなわけないじゃん』
『それ!〝いかにも〟って感じだよねぇー!』
それは中学一年の頃の話
キャハハと笑いながら一人の少女を取り囲むいじめっ子集団に無謀にも話しかけにいった事があった
俺は前世から人付き合いが得意な方ではなかったが、この時にはまだギリギリで困っている人を助けようと思える程度の良心は残っていた
いつもクラスの端で寝たフリをして休み時間を過ごしていた俺が初めて勇気を出して自分から声をかけた瞬間だった
『あの……その子、なんで濡れてるんですか……?』
『あ?なんでって……アタシらが水ぶっかけたからだけど?』
『見りゃわかんだろ?』
そう答えたいじめっ子達の視線の先には植木鉢を抱えている紫髪の少女が全身びしょ濡れの状態でビクビクと怯えていた
その瞳は怯えを滲ませながらも、何かを期待しているかの様に俺を見上げていた
『じ、じゃあ……どうして水をかけたんですか?』
『だってコイツ臭いし』
『綺麗にしてあげたんだよねー!』
『そ、そうっすかね……?俺は特に臭いとかは感じませんけど……』
いじめっ子達の言葉は明らかに有りもしない適当な理由だった
臭いだのキモいだのウザイだの、そういった具体性に欠ける理由を奴等は好んで使う
『あの……貴方達のやってる事って〝いじめ〟……ですよね……?』
『……はあ?』
『……だったら何?つーかお前なんなの?』
『いきなり話しかけてきたかと思えばヒーロー気取り?はいはいカッコイイカッコイイ(笑)』
そいつらは開き直ったかの様に笑うと、ぐっと屈んで紫髪の少女の顔を覗き込んだ
その表情には満面の笑みが浮かべられていたが、それは明らかに悪意溢れるものだった
『ほーら、カッコイイ正義のヒーローが助けにきてくれたわよー?』
『あれれー?泣いちゃってるのかなー?私、貴女の喜んでる顔がみたいんだけどなー』
『きっと嬉し泣きしてるんでしょ!』
『それだ!ねえねえ!ちょっと顔見せてよ!』
『……ぅ』
『……見せろって言ってんでしょ!?』
紫の子の髪を掴み、無理矢理立ち上がらせるいじめっ子A
すると紫の髪の子は瞳に涙を滲ませ、ふいっと視線を下げてしまった
『あはははっ!見てよこの子!本当に泣いてる!』
『そんなに嬉しかったんだー!』
紫の子の背中をバンバンと叩きながら大声で笑ういじめっ子達、しかしそいつらは直後にある事に気づく
それは紫の子が身体を揺らされる度に植木鉢を大事そうに抱えている事、なんなら自分の身体より大事そうに守っていた
『……ねえ、アンタさ……それ何入ってんの?』
『……ぁ』
その植木鉢を雑に奪い取り、中の土に植えられている植物をまじまじと見つめる
そこに入っていたのは雑草……そう、そこら辺の道端に生えているあの〝雑草〟だった
『……っ……ぷっ……くくっ……あはははははは!なにこれっ!?雑草!?』
『嘘でしょ!?アンタこんなもん育ててんの!?』
それが可笑しかったのか、いじめっ子達の嘲笑は益々酷くなる
いじめっ子達と違って別に馬鹿にしたりはしないが俺ですら珍しいと思ってしまったのだから、いじめっ子達がそれを見過ごす筈もなく当然それをネタに嘲笑い続けた
『ぁ…あのっ!』
『……ん?』
『か……かえ、して……くだ……さ…………』
最初だけ大きく、しかし後半になるにつれて小さくなる声で〝返せ〟と訴える紫の子
しかしその子が反撃したという事はそれだけその植木鉢が大切なのだと主張する様なものだ
『……ふーん?返してほしいんだぁ?』
『……』
無言で頷く紫の子に対して再び笑みを浮かべるいじめっ子
その雰囲気に何か嫌な予感を覚えて小さく拳を握っていると、案の定そいつは最悪な言葉を吐いた
『いいよ?返してあげる……じゃあ今から落とすからちゃんと受け取ってね?』
『……っ!?』
『はーい、暴れないでねー』
『うえっ、めっちゃ濡れてるんだけど……こっちの服までびしょびしょになっちゃうじゃん』
『ごー、よーん、さーん』
恐らくリーダー格であろう少女は植木鉢を両手で持ってカウントダウンを開始し、それと同時に紫の子の両腕をそれぞれ別の少女が掴む
『やっ……はな……して……くださ、い……!』
小さな声でそう悲願する少女、俺はその光景を眺めているだけだった
いじめっ子達は俺の事などすっかり忘れており、雑草で遊ぶのに夢中になっている
『にーい、いーち……はい!ぜろー!』
そっとこの場を離れれば彼女達はなんとなくそれをスルーして再び紫の子を虐めるのに勤しむだろう、つまりは逃げ出す絶好のチャンス
『……は?』
『ぇ……?』
だというのに俺の両手は落ちる寸前の植木鉢を両手でキャッチしていた
小さい頃に憧れていた仮面のヒーローの特撮番組の影響で子供の様な正義心が残っていたのか、それとも一度気に掛けた相手を見捨てるのは後味が悪いという義務感でしがなかったのか
どちらかは分からないが、それでも俺は彼女を助ける事を選んでしまっていた
『セ、セーフか?どこか割れたり……は……してない、よな?』
幸いにも植木鉢は無事、中の土も殆ど溢れていない
それに安堵してほっとしながら立ち上がると、その直後に俺の額にコツンと何かを当てられる
『……あのさ、なんでそこでアンタが出てくるわけ?』
『さいっあく……萎えたんだけど』
『空気読めよ……』
銃口を向け、呆れたように溜め息を吐きながら引き金に指を掛けるリーダー格
そいつの怒りは紫の子ではなく俺に向けられていた
『い、いや……だって……人の物を勝手に壊すのは悪い事ですし……』
『……マジでKYかよコイツ』
『ハッキリ言うけどさ、アタシ達そういう正論は求めてないワケ!わかる!?』
『さっきまではただ〝陰キャが声かけてきたなー〟程度にしか思ってなかったけどさ、あんまりにもしつこいようなら……アンタをターゲットにしちゃうよ?』
カチャリ、と引き金に指を掛けるリーダー格
最初は〝本当に撃つつもりなどないだろう〟と思っていた、しかしその考えが変わったのは数秒後だった
『っ!?馬鹿!やめろっ!?』
いじめっ子の一人がリーダー格の少女の腕を逸らすと同時にバンッ!と発砲音が鳴る
すると俺の頬を一発の弾丸が掠め、頬から血が流れた
そして俺は唖然とし、何故か撃った側の少女も俺の血を見て唖然としていた
『おいおい、忘れたのか?コイツ、アタシらと違って肉体脆いんだって』
『……あ、そういえばそうだった』
『もう!しっかりしてよー!』
『あっぶな……こんなしょうもない奴殺して殺人犯になるところだった……』
その言葉を聞けば目の前の生徒は本気で俺を撃つつもりだったと理解できた
そして、それは殺す為ではなく痛め付けて脅す為の行動だという事も
だが、俺は肉体は普通の……いや、キヴォトスの生徒基準で考えれば〝異常〟な肉体の生徒だ
どうやら彼女は目の前にいる男が鉛弾一発で死ぬ程度の存在であるという事を忘れていたようだ
(……俺は、撃たれた、のか?)
運が良かった、次に頭に浮かんだのはもしあのまま頭を撃ち抜かれていた場合の光景だった
(頬から……血が……)
もしもっと早く撃たれていたら、もしいじめっ子グループの一人が俺の肉体が脆いことに気づいていなかったら、もし当たり処が悪かったら
(……血……が……)
この世界が危険な世界である事は前世の知識で知っていた。だが、それを身を持って体感したのは初めてだった
俺は簡単に死ぬ、目の前の《xbig》生徒達は……この世界は簡単に俺を殺す事ができるのだと思い知った
『ひっ』
弱々しく声が溢れた
『……ったく、やり辛いわね……』
『もう行こうぜ?相手にすんのもめんどくせえ』
『さんせーい、カラオケいこー?』
満足したのか、それとも俺が弱すぎて相手にするのが面倒になったのか、その場を立ち去るいじめっ子達
その背中を見送りながらも俺は自身の脚の震えが次第に強くなっていくのを感じる
……更に情けない話、股の部分が微かに濡れる感覚も覚えた
『ぁ……あ、の……』
そんな俺に紫の髪の少女がオズオズと話しかけてくる
そう、ヘイローを浮かべる少女が、アイツらと同じでその気になれば簡単に俺を殺せる少女が────
『……あ……あぁあ……』
『あ、あ……ありが────』
『────うああああああああああああっ!?』
『!?』
気づけば俺は植木鉢をその少女に押し付け、全力でその場から走り去っていた
そして、その日から俺の引きこもり生活が始まった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
────……んがっ
ゲーミングチェアの上で眠っていた俺が最悪な過去の夢から目を覚ます、ぼんやりする視界のままスマホの画面を開くと時刻は21時26分と表示されていた
確かあの後、俺は現実逃避するかの様に実況の撮り貯めをしていたはず
それでついでに編集もして……なんか腹減ったから飯食って……また実況して……また編集して……なんか今日ゲームしてばっかだな
……いや、いつもなんだけどさ
────……いつまでこんな生活続けんだろうな、俺
なんとなく呟いた独り言、それは俺の弱音だった
モモチューブのチャンネル登録者は増え続けているし再生回数も順調に増えている、このまま行けばゲームしてるだけで安定した生活を送れるようになるかもしれない
その可能性が現実味を帯びてきたというのに俺の心は何故か不安に支配されていた
────人との関わりを極力避けて、画面の前でばかり堂々と口を開いて……このままで良いのだろうか
何年も何年もずっと考えていた事があった
もし、俺が前世の頃からもっと努力して明るい性格になっていたら……今頃友達も増えて色んな人達に囲まれていたのだろうか
そんな〝たられば〟は死ぬ前も死んだ後もずっと俺の心にへばりついてくる
────……まあ、今更しょうがないか
割り切れていないのに完全に割り切ったフリをし、自分の心に〝仕方ない仕方ない〟と言い聞かせながら玄関へ向かう
別に外に散歩しに行くわけじゃない、近所の自販機でジュースを買いに行くだけだ
歩いて十数メートル程度の場所にある自販機だし、別にこの程度の距離なら出歩くことにも何も思わない
そもそもそんな短い間に事件に巻き込まれる可能性なんて流石のキヴォトスでも絶対に無いだろうからな、そんな安心感を抱きながら靴を履いた俺は玄関の扉を開け────
「……ぁ」
玄関の前で紫色の髪の少女が座り込んでいるのを発見し、即座に扉を閉めた
────……?
もう一度玄関を開ける
「ぁ……あのっ」
また閉める
……気のせいか?今、俺の家の前に女の子が立っていたような気がするが……夜の九時なのに
しかも、その女の子が前世でやってたゲームに出てくるキャラ〝伊草ハルカ〟に似ていたような……
最後の確認とばかりに思いっきり扉を全開にする
「あっ……あっ……!」
やっぱり伊草ハルカだった、見間違いじゃない
どうしてこの子がこんな所に?俺は〝ブルアカ〟では推し以外あんま追わないタイプのプレイヤーだったからこの子の事は詳しくは知らないけど……それでも便利屋の社長にベッタリなキャラだったって事は覚えている
そんな彼女がどうしてこんな陰キャ引きこもりの前にやって来たんだ?特に接点は無いはずだよな?……とりあえず今日一日の行動を振り替えってみるか
起きて、自分のチャンネル開いて、登録者増えてんの見てニヤニヤして、それでゲームして
そっから適当なスレ開いて、飯無かったからコンビニに買いに行って、店員さんがリスナーって事が判明して
で、逃げるように帰宅して、実況だの編集だのして、寝落ちして……うん、特に関わりはないな
……やっぱ分からん、なんで俺の家の前に?
今まで会った事なんてないのにこんな突然────ん?待てよ?そういえばさっきコンビニから帰る時に紫の髪の女の子と肩がぶつかったような……
あの時はちゃんと全体像を見る余裕が無かったけど今思えば……この子に……似ている……よう、な……
……え?まさかさっきぶつかったのってこの子?原作キャラと激突したの?俺
じゃあ、この子が来たのってもしかして……俺に仕返しする為に!?兄貴の好きなケジメをつけさせて漢を魅せる為に!?
「……あ……ぅ……そ、その───っ!?」
その考えに至った瞬間、俺の手は即座に扉を閉めていた
だが、伊草ハルカはとっさに玄関に足を挟み込み、玄関を閉じさせまいと力を入れる
「あ、あああああの!わ、わた、わたたた私……!」
────……ん……さい……
「……え?」
────ごめんなざいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!
次の瞬間、俺の口からは謝罪の言葉が飛び出した
近所迷惑だとかそんな事は一切考えず……というよりも考える余裕すらなく、ひたすら謝罪しながら扉を閉めようとする
────ごべんなざいごべんなざいごべんなざいいいいいい!!!あやまるがごろざないでええええええ!!!家を爆破じないでえ゛え゛え゛え゛え゛!!!
「えっ!?あ、ち、ちが……わ、わたし……」
─────勘弁しでぐだざいいいいいい!!!
恐怖心
俺の心に
恐怖心
怯えた顔のままひたすら謝罪を続けていると、扉の向こうで伊草ハルカが顔を伏せてブツブツと呟きだした
「そう、ですよね……私なんかが足を踏み入れるなんて不愉快になられてしまうだけですよね……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
─────ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
「し、死をもって償うしかありませんよね……えへへ……ま、待っててください。今すぐ首を差し出しますので……」
────い、今すぐ指を全て詰めますので……命だけは……命だけはぁ……!
「あ、でも私の首が腐ってしまったら家中に臭いが広がってしまいますよね……気が利かなくて申し訳ありません……今すぐコンクリートの中に入って死んできます……!」
────そ、そうだ!指が腐らないようにホルマリン漬けにした方がいいですよね!ちょっと待っててください!今すぐ用意してきますので!
「……はっ!こうして喋っているだけでも酸素を無駄遣いしているというのに……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!今すぐ喉をかっさばいて酸素を取り出しますから……!」
────喋ってごめんなさい息吸ってごめんなさい存在してごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい────
この後めちゃくちゃ近所の人に通報された
エ駄死、昨日更新しました