「すぅ……すぅ……」
「んっ……」
今、俺の目の前にはとても美しきケミストリーが広がっている
なんと小鳥遊さんが空崎さんの肩に頭を乗せて寝ているではないか!百合園さん、俺は確かに楽園の存在を証明したぞ……!
まさか小鳥遊さんを止めた対価としてこんなご褒美が用意されてるとは……!あ、ちなみに俺は扉の隙間から二人の様子を覗き込んでいる形です
完全に不審者です本当にありがとうございました……いやちゃうねん、空崎さんに〝そろそろ行きます?〟って声かけにいったら偶然この光景を目撃してしまっただけなんです信じてください
「……彼、近づいてこないね」
「おかしいわね……酒泉は確かこういうのが好きだって聞いたはずなんだけど……」
ああ……やはり百合……百合は全てを解決する……そうだ、俺は美少女同士のイチャイチャをこの目に焼き付ける為に今までずっと戦ってきたんだ!
その為にパヴァーヌもエデン条約も最終編も!俺が個人的に関われる範囲のものは全て解決するまで介入し続けてきたんだ!
風紀委員会!対策委員会!補習授業部!ゲーム開発部!ティーパーティー!アリウススクワッド!リオヒマ!アコヒナチナイオエトセトラエトセトラ!!!
「うへぇ……どうする?もうちょっとくっつく?」
「そうね……もっと大きく餌を撒く必要がありそうね」
この尊さを持った百合は世界を救う、それを分かるんだよアムロ!もうさ、この世界って俺の為に生まれたと思うんだよね(突然の暴論)
だってさ、生徒どころか先生すら女性なんだぜ?そんなんもう俺にイチャイチャを見せつける為みたいなもんじゃん(暴論)
多分前世の俺は自分でも気づかぬ内に相当な数の善行を積み重ねていたのかもしれない、でないとこんな幸せになれるはずがない
……とまあ、ここまで散々独白してきたけどかといって本能のまま目の前の餌に飛びつくのはナンセンスだ
真の百合好きというのはどれ程美しい光景が広がっていようとジロジロと邪な視線で観察し続けるような真似はせず、ちょっと楽しんだらすぐその場を立ち去るのさ
って事で折川酒泉はクールに去るぜ……
「……うへ?風紀委員長ちゃん、彼帰っちゃったよ?」
「……そういえば……酒泉は女の子同士の絡みに自分が混ざるのを極端に嫌がっていたような……」
「えぇ……そこ気にする……?おじさん達は別に構わないのになぁ……むしろばっちこいっていうか……」
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────って事で二人はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ……めでたしめでたし
「キモッ……実在の人物同士で勝手に妄想してるの本当に気持ち悪いよ酒泉君」
────やっぱゴリラに人間の話は難しかったか……
「折るよ?」
ファミリーレストランの隅っこの席で百合の素晴らしさを語っていたら自らを人間だと思い込んでいるミソノ・ミソノ・ミソノに腕を掴まれた
まったく……そんなんだからゴリラさんは聖園って呼ばれるんだぞ、これからは聖園って呼ばれないように気を付けろよゴリラさん
「十、九、八、七────」
────分かった俺が悪かった土下座でも何でもするだからそのカウントダウンを止めてくれ聖園さん
「はぁ……相変わらず失礼だね酒泉君は、私がナギちゃんやセイアちゃんと話してる時は……び、美少女とか言って褒めてくれるのに……」
そりゃ当然だ、桐藤さんや百合園さんとかと絡んでる時は間違いなく百合の花の一つなのだから
ムッフッフ、ただの美少女聖園ミカは他の女性と絡んでる時まで。俺の前だとゴリラに変身するの
「……ていうか、そんなに百合?ってのが見たいならもっとその子達の近くに寄ればいいんじゃん、酒泉君ならちょっと声をかけるだけで許してもらえるだろうし……」
────は?折川酒泉とかいう汗臭いクソカスゴミ虫野郎が百合の間に挟まっていいわけないんだが??????????
「何コイツめっちゃ面倒じゃん」
そんな事になったら俺は一瞬で己の首を横に真っ二つに裂くが?
百合の間に挟まるのは俺自身であっても許さない、もしそんな事態に陥りそうになったら俺はこのキヴォトスから出ていく事すら考えるだろう
────女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うんですよね……
「とんでもないこと言い出した……でもその理屈でいくと男の人は男の人同士で恋愛すべきってなっちゃうけど酒泉君はそれでいいの?」
────別に良いんじゃないすか?自分、そっちもいけますし
「えっ」
────薔薇もいいよね……
「もうなんでもありじゃんね……」
折川酒泉は百合好きと腐男子両方の性質を持つ♣️
どうも、努力値をその二つに特化させすぎたガチ両刀ACぶっぱ型酒泉(耐久面・特性無しヌケニン)です
んんwww百合にも薔薇にも役割を持てない酒泉を混ぜるのはあり得ないwwwこれではボ泉ですぞwwwww
「……そこまで女の子同士の絡みが好きすぎると、その子達に彼氏ができたら凄く荒れそうだね」
────いや、別に彼氏作ったくらいで荒れたりはしませんよ
「あれ?意外に冷静?」
────そもそも百合なんて女の子同士のイチャイチャを俺が勝手に観察してるだけであって、それを無理矢理他人に強いるような真似はしませんよ……まあ、本人達が選んだ相手が彼氏になるなら別にいいんじゃないですか?
「さっき〝女の子は女の子同士で恋愛すべき〟って言ってたくせに?」
────ちょっとした冗談っすよ、俺はその辺ちゃんと線引きできるタイプの百合厨なんで
「わーお、百合が見たいって理由だけでアリウススクワッドを助けた人の言葉とは思えないね☆」
────は?これ以上俺を疑うならあらゆる手を使って聖園さんを補習授業部にぶち込んだ後下江さんとイチャイチャさせますよ?
「それは脅しなの……?」
ミカコハっていいよね、勿論ハナコハもうん!大好きさ!あ、でも最近は下江さん総受けの補習授業部攻めにもはまってんだよなぁ……俺の脳内で勝手にだけど
きっとこの世界の誰かしらは〝その気持ち、理解するぞ〟とか言って共感してくれるに違いない
「……ねえ、少し気になった事があるんだけど聞いていい?」
────ん?なんすか?
「酒泉君って女の子自体には興味あるの?」
────そりゃあ、百合が好きなんですからそうに決まって……
「そうじゃなくて……その、酒泉君自身は好きな人とかいないの?」
────……俺、自身?
「例えばだよ?私が酒泉君に告白……い、いや!別にこの例えは私じゃなくてもいいんだけどね!?もし誰かが酒泉君に告白したとして、その時酒泉君はちょっとでもドキッとしたりするのかなーって……」
何気ない聖園さんからの質問、それは俺の頭を大いに悩ませた
俺が告白されたら?……うーん、その時はドキッとするというより困惑するかもしれん
もしその子が他の女の子と一緒に俺にイチャイチャを見せつけにきただけだったら滅茶苦茶ドキドキしまくってただろうけど……俺単体が告白された場合かぁ……んー……
「えっと……そんなに悩まなくてもいいんだよ?ふと気になっただけだし……」
────……いや、俺にとっちゃ割と重大な問題かもしれませんよ
「……え?」
────仮に将来俺が誰かと結婚したとして、その時俺が妻を〝愛する女性〟としてではなく〝百合を引き寄せる女性〟としてしか見る事ができなかったら……その相手の人に失礼ですからね
「んーと……つまり酒泉君は奥さんを〝最高のシチュエーションを用意してくれる都合の良い女〟として見ちゃうかもしれないのが怖いってこと?」
────そんな感じっすね
そういえば真剣に恋愛事について悩んだのは前世も含めて人生で初な気がする
小学生の頃に偶然ネットで出会ってしまったこのジャンルは俺の価値観をあっさりと変えてしまった、故に昔から特定の女子を好きになった事なんで一度もなかった
「……まあ、私から聞いといてなんだけどそんな先の事なんてすぐに解決しようとする必要はないんじゃない?人生まだまだ先は長いんだしさ……それに酒泉君に告白しようとする物好きなんて私以外いないだろうし☆」
────随分と失礼だな、老人みたいなことを言うばあさんや
「本当のこと言っただけでしょ?じいさん☆」
何故だろうか、聖園さんがしわくちゃの婆さんになってもずっと性格が変わらずにムカつく言葉を吐き続けてる姿が容易に想像できる
ご近所で有名になってるめちゃくちゃ元気な婆さん的なポジションの……ん?
────なあ、聖園さん……さっき何か変な事を言ってたような……
「気のせいじゃない?それとも本当に耳がじいさんになってボケちゃったの?」
うん、やっぱムカつくわこのババア
────はぁ……このまま煽り合っても時間の無駄だし、とりあえず話題を変えてさっきの礼だけ言っておきますよ
「さっきの?」
────そ、さっきの質問のお陰で少しだけ自分を見つめ直す事ができましたからね……とりあえずあまり百合だけに夢中になりすぎず〝女性〟そのものを理解できるように少しずつ自分の中の価値観と向き合っていきますよ
「ふーん……ところでこの後ナギちゃんとセイアちゃんを誘ってお出かけする予定なんだけど一緒に来る?」
────邪魔にならないように数十メートル離れた場所から観察させていただきます
「早速百合の誘惑に負けてるじゃんね」