突然だが俺には師匠がいる
しかもその師匠ってのが〝ブルーアーカイブ〟には登場しない筈の先生以外の人間の男ってんだから驚いたもんだ
師匠との出会いは俺が孤児院から抜け出したその日の内だった、親も友達もいなく幼い身体一つで何かから逃げる様に必死に走り続ける俺を偶然見掛けて気になった師匠が〝何かあったのか?〟と声を掛けてくれて、更に事情を説明すると〝なら俺と来るか?〟と衣食住の提供を提案してきてくれた
俺は当然その提案に飛びついた!……なんて事はなく、最初は断った
いきなり見ず知らずの他人に優しく接されてもすぐに信用できる訳もなく、恐る恐る距離を取ろうとする俺に対し師匠は自分の家の住所が書かれたメモを渡して〝困ったらいつでも来い……まあ、最低限の仕事はしてもらうけどな〟と言い残してそのまま去っていった
……まあ、最初は断ったって言い方の時点で察してると思うが、俺は結局後から師匠を頼る事にした
やっぱ住む場所が無いってのは厳しいし、なんだかんだ精神がガキの状態で止まったままの俺にとっては前世の常識が通用しない世界でひとりぼっちってのは寂しかったのだろう
交番の人や通行人達に道を尋ねながら師匠に渡されたメモに書かれている住所まで向かい、俺はそこに立てられていた一軒家のインターホンを鳴らした
『やっぱな、お前なら必ず来ると思っていたぞ』
次の瞬間、師匠はいつの間にか俺の後ろに立っていた
ジッと俺を見下ろすその姿……というよりもその〝目〟にどこか妙なものを感じながらも、上から掛けられる圧に思わず後退りしてしまう
……が、師匠はそんな俺の横を何も気にせず通りすぎ、そのまま玄関の扉を開けた
『入れ、まずは飯だ……ここでの暮らし方や仕事についてはそれからじっくり説明してやる』
『え……あ、いや……俺は……』
『どうした?ここに住みたくてここまで来たんだろ?早くしろ、飯が冷める』
『えっ!?も、もう作ってるんですか!?』
『さっきも言ったろ、お前なら必ず来ると思ってたって』
さっきから意味深な発言が多すぎる、それに何故俺の行動を予測できていたのか
あまりにも不審な点が多すぎると警戒心を露にした俺の眼差しに気づいたのか、師匠は俺の顔を軽くチラ見してからボソリと口を開いた
『……俺も捨て子だ』
『……え?』
『俺もお前と同じで子供の頃に居場所を失った人間なんだよ、だからお前の気持ちは理解できるし……その後の行動もある程度予想できたってだけの話だ』
俺と同じ、その言葉だけを聞いただけでほんの少しだけ警戒心が和らいでしまった俺は単純な人間なのだろうか
あまり語りたくないであろう過去を語らせてしまった事に罪悪感を覚えつつ、〝話は終わりだ〟と言って家の中に入っていく師匠の後を俺は追いかけた
『……あ』
『ん?どうした?』
『あの……そういえば名前まだ聞いてないなって……』
『……お前の名前は?』
『え?えっと……折川酒泉……ですけど……』
『そうか、なら俺は今日から〝折川真水だ』
『え!?折川!?しかも今日からってどういう意味ですか!?』
『一緒に暮らすんなら名字も同じ方がいいだろ』
『いやいやいや!俺は貴方の名前が聞きたいだけなんですけど!?なのに急に自分の名前を変えられても……!』
『気にすんな、俺も折川って名字の響きは好きだ』
『んな単純な理由で自分の名字変えるのかよ!?しかもそんなホイホイ変えられる訳が────』
────あいだあぁ!?
「起きろ馬鹿弟子、特訓の時間だ」
ハリセンの一撃で、懐かしい夢が割れた
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────くっそ……くっそ……!なんで一撃も当てられないんだよ……!
「お前の〝眼〟の使い方が甘いからだ」
木製のナイフを使った近接戦闘訓練、これで何度目の敗北か
倒れ伏す俺の頬をハリセンで叩きながら〝早く立て〟と命じてくる師匠、息を整えながらなんとか立ち上がる俺と違って師匠は余裕そうに口笛を吹いている
〝特訓〟……という名の拷問、これを受けるというのが俺が師匠の家に住む際に言い渡された条件の一つだった
まあ、キヴォトスで生きていくには最低限自衛できる力は必要だしその時は喜んで首を縦に振ったけど……次の日にはその事を後悔していた
〝少なくとも銃を二丁持って走れる程度の筋力とスタミナは付けておけ〟という子供に要求するべきではないスペックを要求され、更には課せられた特訓メニューを全て終えるまで帰宅禁止という虐待同様の扱きをされた
他にも〝お前は俺と同じで視力がいいからみたいだからそれを武器にするぞ〟って言われ、ピッチングマシーンから投げられるボールに書かれた数字を読み上げるって特訓もやらされた
……なんか、前世ではまってた特撮作品にも似たような特訓があったな……サンッ!
「どうした?もう限界なのか?」
────ちょっ……回想シーンを流す猶予もくれないんですか……
「当たり前だ、お前がこうしてのんびりお寝んねしていた間にも時間は進み続けているんだからな」
俺の師匠は俺にだけ厳しい、他の人と接する時は普通なのに俺に対してだけ扱いが雑すぎる
……つっても、俺の本当に困ってる時やヤバい状況の時は助けてくれたりするんだけどな
『錠前サオリ、ここは退いてもらうぞ……こいつを見殺す訳にも、お前の手を汚す訳にもいかないからな』
『聖園ミカ、お前の選択肢は二つだ。ここで魔女として俺に処されるか……普通の生徒に戻り、再び友と青春の道を歩むかだ』
『酒泉!アビ・エシュフが完璧だとしてもパイロットは完璧ではない!勝機を見逃すな!』
『いやアンタが押してるんだから普通にそのまま倒してくれねえかなぁ!?』
『甘えるな!!』
『理不尽っ!?』
調印式でアリウススクワッドにトドメを刺されそうになった時も、アリウス自治区で聖園さんに襲撃された時も、アビ・エシュフの強大な力に追い詰められた時も、いつもその背中が俺の事を守ってくれていた
……正直、全部師匠が倒せばいいんじゃないかなって思った事もあるけど……それでも師匠は必ず俺自身に戦わせようとする
「……いつまで休憩してるつもりだ?さっさとナイフを拾え、そしてかかってこい」
────ちょっ……あと数分だけ……
「でないと空崎ヒナを支える事など到底不可能だぞ」
空崎さんの名前が出てきた瞬間、ピタリと身体が固まる
空崎、空崎ヒナ、俺が支えたい少女、俺が支えると約束した少女
俺が風紀委員で戦ってる理由は当然のように師匠にバレている……その際〝つまり空崎ヒナに惚れてるって事だろ?〟とめちゃくちゃ雑な纏められ方したのは不服だが
俺は別に空崎さんにそんな感情持っちゃいねえ!そう否定しても〝今は自分の心に気づいていないだけだ、だからさっさと告白してこい〟と適当にあしらわれた、解せぬ
「愛する者の支えになりたいんなら今のお前の実力じゃ無理だ、その程度で空崎さ……空崎ヒナの隣に立てるはずがない」
────だ、だから……愛とかそういうんじゃなくて!俺と空崎さんはただの上司と部下で……!
「別に空崎ヒナだけに限った話じゃない、それ以外にもお前と親しい風紀委員の仲間やシャーレの先生を守る事だってできなくなるぞ」
突如、師匠の雰囲気が切り替わる
周囲の空気はピリピリし、いつも以上に真剣なものに変わる
「確かにお前が行動する理由にはいつも空崎ヒナの存在が置かれているのかもしれない……だが、今は違うだろ?空崎ヒナだけじゃない、仲良くなった人間全員を守りたいと思っているはずだ」
────……おう
「なら誰かを守らないといけない場面でもそうして休憩しているつもりか?誰かが死にそうな時も駆けつけずに足を休ませるつもりか?仲間が敵に立ち向かってる時も銃を構えず手を休ませるつもりか?」
鋭く細められた視線が俺の瞳を貫く……が、即座に睨み返す
誰かのピンチにのんびり休む?答えは当然NOだ、俺は仲間を見捨てるつもりはない
動きたい時に動けるように、戦いたい時に戦えるように、守りたい時に守れるように
色彩関連の事件はまだ残っている、それが終わってもここがキヴォトスである以上事件はまだまだ起きる。ならばこんな所で寝ている暇はない、俺は今よりもっともっと強くなる必要がある
「……やっとナイフを拾ったか」
────ったりめーだろ……悪いけど俺はアンタごときに躓いてる暇なんざねえんだよ!
「流石は俺…………の、弟子だ」
一瞬言葉を詰まらせてからニヤリと笑う師匠と再び対峙する
実力差はまだまだある……当然だ、師匠は俺が今まで出会ってきたどの生徒よりも強いのだから
だとしても、俺は師匠に一発食らわせなければならない
俺をここまで育ててくれた師匠に……俺に発破を掛けて何度も立ち上がらせてくれた師匠に〝アンタのお陰でこんなに強くなったぞ〟と知らしめてやる為に
「よし、なら先ずは……バルバラ三体を倒しても息切れしない程度には強くなってもらうぞ」
だから少しだけ手加減してほしい、うん
師匠っていったい何者なんやろなぁ……(すっとぼけ)