〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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いーとみー

 

 

 

『さあ!共に行きますわよフウカさん!我らが美食の道へ!』

 

 

ああ、またか

 

それが私の感想だった

 

 

『むぅ~!むむぅ~!』

 

 

ジュリがガムテープで封じられた口で涙目になりながら必死に何かを訴えるも、そんな事などお構い無しにハルナは私達を連れ去った

 

さて、今回は何に巻き込まれるのだろうか

 

巨大鮫との激闘に巻き込まれ、挙げ句〝これを調理してください〟と頼まれるのだろうか

 

それとも取り扱った事のない食材を調理しろとか無茶振りされるのだろうか

 

……まあ、どちらにしても風紀委員長が来ないと助かりそうにないし、その風紀委員長も別件で忙しいみたいだから暫くの間は動けなさそうだ

 

勿論、他の風紀委員の人達も戦えるのだろうけど……でも、美食研究会全員を纏めて相手できる生徒なんて限られてるしやっぱり諦めて────

 

 

『待てやテロリストどもぉ!!!』

 

『……おや?』

 

 

────なんて考えてた私の前に一人の少年の声が飛び込んできた

 

 

 

『……男子生徒?随分と珍しいわね』

 

『あっ!そういえば最近廊下で〝男の子が入学してきた〟って噂聞いたよ!』

 

『ふーん……じゃあ彼がその噂の人物って事ですね☆』

 

『ええ……それで?そんな貴方が私達に何用でしょうか?』

 

『……俺の格好見りゃわかんだろ』

 

 

彼の格好は普通の生徒の制服とは違う、風紀委員の纏うそれと同じだった

 

という事は彼は美食研究会を捕らえに来たのだろうか?それはありがたい……けど、正直彼がハルナ達に勝てるとは思えない

 

彼女達の実力は(不本意ながら)近くで何度も見てきたからよく知っているつもりだ、言い方は悪いかもしれないけど一般風紀委員程の実力では到底歯が立たないだろう

 

 

『おや、もしかして貴方一人で私達に挑むつもりなのですか?』

 

『仕方ねえだろ、一番最初に着いちまったんだから』

 

『……仲間を待つという手は?』

 

『そんなことしてたらアンタら愛清さんと牛牧さん連れ去っちまうだろうが』

 

 

この回答にはちょっと驚いた、まさか私達の身を案じてたった一人で立ち向かってくれるとは

 

……いや、もしかしたらあの男の子は私達が知らないだけで相当な実力者なのかもしれない。だからあんな自信満々にハルナ達の前に立って……

 

 

『ね、ねぇ……そういえば私、他の噂も思い出したんだけど……あの男の子、キヴォトスの外の人と同じくらい身体が弱いんだって……』

『……まさか、そんな身体で私達と戦うおつもりで?』

 

『当たり前だろ……つーか俺が弱いんじゃねえ!俺以外の生徒が頑丈すぎるだけだ!』

 

『そうでしょうか?これが平均だと思いますけど……』

 

『……そりゃそうか……キヴォトス人にとっちゃそれが普通だもんな……』

 

 

たった今、一つの希望が潰えた

 

嘘でしょ?それってつまり、銃弾一発でアウトってこと?それじゃどう足掻いてもハルナ達には勝てな────

 

 

『だがまあ、そうやって油断したきゃ存分に油断してるといいさ……俺には俺だけの〝武器〟があるんだから───なっ!』

 

『────っ!』

 

 

 

そういってハルナに飛び掛かる男の子、ハルナは風紀委員を相手にしている時の様にいつも通り迎撃しようと引き金を引き────その後に〝しまった〟と小声で呟いた

 

彼の肉体が脆い事はついさっき知った、それでもいつもの癖で反撃してしまった

 

そして彼の身体は不幸にも貫かれる────事はなく、首を傾けるだけで弾丸を回避した

 

 

『なっ────』

 

『驚いてる暇はないぜ……っと!』

 

 

ハルナに接近した男の子が勢いをつけて蹴りを放つ、ハルナはそれを片腕で防ぐが、それと同時に男の子がスナイパーライフルを取り出してハルナの額に一発当てる

 

 

『……っ、流石に油断しすぎましたわね』

 

『俺としちゃ油断してくれたままの方が有難いけどな』

 

 

強い、それがこの一瞬のやり取りでの感想だった

 

ハルナ以外のメンバーもそう思ったのか、全員が銃を構えて男の子を睨んでいる

 

 

『……名前をお伺いしても?』

 

『折川酒泉、今日から空崎さんの代わりにテメーらを豚箱にぶちこむ男の名前だ……よーく覚えとけ』

 

 

そんな強気な宣言と共に男の子は駆け出し、ハルナ達も同時に向かっていく

 

私とジュリはゴクリと生唾を飲みながらそれを見守る事しかできない……それか、男の子の勝利を祈るぐらいしか

 

そうして何者の介入も許されない戦いの結末は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ!行きますわよー!』

 

『ちくしょおおおおおおお!!!俺を殺せえええええええええ!!!』

 

 

 

〝肉体のスペック差+数の暴力〟という覆しようの無い現実によってアッサリと決着がついた

 

人質一名、追加で

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『んむむぅ!むぅー!』

 

『むっ……』

 

『おや?貴方はあの時の……』

 

『よぉ……借りを返しにきたぜ、テロリスト』

 

 

次にあの少年の……酒泉君の姿を見たのはまた私がハルナに捕まった時だった

 

と言ってもこの日は別に拉致られた訳でなく、ただ身動きを封じられて勝手に冷蔵庫の中身を漁られただけだった

 

……お高い魚が手に入ったなんて噂、何処で嗅ぎ付けたのやら

 

 

『さて、先ずは交渉からだ……とりあえず愛清さんと牛牧さんを解放してもらおうか』

 

『ふふっ……断ると言ったら?』

 

『今日がお前の命日だ』

 

 

……彼は何故ここまで強気なのだろうか

 

確かに今日はハルナ一人しかこの場にはいない、それならば一対一で戦えるだろう

 

しかし肉体のスペックを考えればそれは対等でもなんでもなく、十の差が九になった程度の変化でしかない

 

そんな私の心配を余所に彼はハルナに襲い掛かった

 

ハルナも流石に人間を撃ち抜くつもりはないのか、撃つ場所も殴る力もかなり手加減して戦っている……それでも、開始から十数分後には酒泉君の方が追い詰められていた

 

 

『……もういい加減諦めては?これ以上続けても結果は……』

 

『くっ……ふふっ……ははは!諦めるだぁ?アンタまさか、俺が何の策も無しにここまで来たとでも?』

 

『……何が言いたいのですか?』

 

『俺は所詮時間稼ぎでしかねえよ……けどな、こんだけドンパチやってりゃそろそろ到着するだろうよ!』

 

『まさか、最初から他の風紀委員が到着するまでの足止めのつもりで……』

 

『そういう事よ───っと、早速足音が聞こえてきたなぁ!?』

 

 

コツコツと何者かが走り寄ってくる音が聞こえる

 

どうやら彼の目論見通り応援が到着したらしい────あれ?でもなんか足音少なくない?

 

 

『待ってましたよ!先輩方────』

 

『えー?私ですかー?』

 

 

ニヤリと笑いながら振り向いた彼の視線の先には、より満面の笑みで応えるアカリの姿が

 

そしてその後ろにはジュンコとイズミも立っていた

 

次の瞬間、大量の冷や汗が酒泉君の額から流れる

 

 

『え……?あ、あの……先輩方は……?』

 

『倒しちゃいました☆』

 

『イオリもチナツも居なかったよー?』

 

『なんか温泉開発部の方を追っかけてるらしいわよ』

 

 

 

ワナワナと震え始める酒泉君、その感情は怒りか恐怖か────

 

 

 

 

 

 

『これが最後の祭りだああああああああ!!!』

 

 

 

否、答えはヤケクソである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

それからと酒泉君は何度も何度も美食研究会に挑み続けた

 

戦って、負けて、ボロボロになって、その後も他の問題児を追って、また戦ってボロボロになって

 

中には風紀委員長が助けにきたり最初から大勢で挑んだ戦いもあったけど、それでも酒泉君は毎度の事のようにずっと傷ついていた

 

 

『くっそ……また駄目だった……!』

 

 

その日、酒泉君は私と一緒に給食部の台所の奥でぐるぐる巻きにされていた

 

お察しの通りハルナ達に負けた後だった

 

 

『あー……酒泉君?』

 

『ん?なんすか愛清さん?』

 

『その、非常に言いにくい事なんだけど……もう無理して私のこと助けに来なくてもいいわよ?ほら、そんなに傷ついてまで助けられるのは……なんだか申し訳ないし……』

 

 

それは彼を気遣っての言葉だった

 

私達の為にボロボロになっていくのを見続けるのは流石に辛いし、彼だって何度も負けて何度も痛い思いをしてうんざりしている筈だ

 

 

『それにほら、私達が拉致られたり拘束されたりするのなんてもう慣れた事だし今更そんな気にしなくても────』

 

『それがおかしいんですよ!愛清さん!』

 

 

でも、彼は私の提案に頷くどころか怒りを露にした

 

 

『自分達の欲望を優先して他者に迷惑を掛けるのも!それに慣れさせてしまうほど同じ事を繰り返すのも!全部悪いことなんですよ!なのにアイツら、何度も何度も愛清さんと牛牧さんを……!』

 

『えっと……酒泉君?落ち着いて────』

 

『だからお願いです、愛清さん!今のこの状況を……自分達だけに負荷を掛けられる状況を〝当たり前〟なんて言わないでください!いつか絶対にあの馬鹿共を止めてみせますから!』

 

 

……彼の言葉で思い出した、最初は本当に嫌がっていたことを

 

でも同じ不幸を被る度に少しずつ〝諦めれば楽になる〟と思ってしまっていた事を

 

 

『……ねえ、酒泉君』

 

『くそっ……この縄硬っ……ん?まだ何か?』

 

『酒泉君はどうしてそこまで私達を助けようとしてくれるの?』

 

 

それは何となく気になった疑問、私達の事をここまで必死に助けようとしてくれた人は今まで殆どいなかった

 

風紀委員長のように美食研究会を圧倒できる力を持っている訳じゃない、私達だけに構っていられるほど暇な訳でもない

 

だというのに、どうして彼はここまで────

 

 

 

『……これ、空崎さんに関しても思ってる事なんですけど……学生が学生らしい生活を送れない世界っておかしいと思いません?』

 

『……学生らしい?』

 

『普通に休んだり、普通に遊んだり、普通に駄弁ってたり……でも、この学園って一部の人達はそういう事すら許してもらえないほど仕事を押し付けられたり事件に巻き込まれたりするじゃないですか』

 

『……え?それだけ?』

 

『……?ええ、そうですけど?』

 

『……酒泉君に得は?』

 

『無いですけど……あ、いや、推しに楽させてあげられるとか?』

 

『推し?……よく分からないけど、自分の為にはなってないでしょそれ』

 

『そう……っすかね……?』

 

 

 

ああ、なるほど、よく分かった

 

この子はただ、優しいだけだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッッッシャオラアアアアアアア!!!』

 

『嘘……本当に勝っちゃった……』

 

 

そんな事があってから数週間後、またまたぐるぐる巻きにされている私の前にはハルナが気絶しているという衝撃的な光景が広げられていた

 

しかも、その光景を生み出したのが血塗れでボロボロの状態の酒泉君だというのだから更に信じられなかった

 

勿論、ただの正面衝突で勝った訳ではなかった

 

ハルナの行動パターンを予測し、一人きりの日を狙い、事前に罠を仕掛け、防護服や煙幕等全て万全の状態で奇襲を仕掛け、それでもギリギリだったから捨て身覚悟の攻撃を仕掛け、それで漸く得た勝利だった

 

 

『やりましたよ、愛清さん!約束通り止めましたよ!』

 

『え……う、うん』

 

 

酒泉君が嬉しそうに私に駆け寄り、そのまま私を縛る縄を解いてくれた……この時の私は間の抜けた顔をしていたと思う

 

成長スピードに驚いてるのもあるけど、それ以上にあそこまで本気になって有言実行してくれるとは思っていなかったからだ

 

────そして、それが同時に恐ろしくもあった

 

別に酒泉君の事が怖くなった訳じゃない、私が怖いのは……その自己犠牲の精神

 

もしこの場に他の美食研究会のメンバーが居たら、彼はその身をもっとボロボロにしてでも私を助けようとしたかもしれない

 

じゃあ、その更に上の危機が誰かに迫ったら?それこそ自分の身体どころか自分の命すらをも────

 

 

『あっ……』

 

 

そんな思考が〝ぐぅ~〟という音と共に中断される

 

鳴ったのは腹の虫、飼い主はボロボロの酒泉君

 

 

『は、ははっ……実は飯食うのも忘れるくらい対策考えてまして……すいません、これじゃカッコつかないっすよね』

 

 

照れ臭そうに笑う彼、初めて一人で得た勝利だからかその笑顔は今までで一番眩しかった

 

 

『何言ってるの……かっこよかったわよ、酒泉君』

 

『うぇ?』

 

『ちょっとそこに座って待っててくれる?今何か作ってあげるから』

 

『えっ?いいんですか?もうとっくに夕方ですけど……なんか申し訳ないですし────』

 

『変な気を遣わなくていいの!むしろここまでお世話になっておきながら何もお礼をしない方が申し訳ないんだから!』

 

『じ、じゃあ……お言葉に甘えて……』

 

 

たはーっと机の上に両腕を伸ばして項垂れる酒泉君、その表情はどこか清々しさを感じた

 

……他人の為に傷ついてる、それでも彼は人助けをやめない

 

それはきっと〝風紀委員だから〟とかそんな義務感だけじゃない、彼自身がそういう優しさを持っているから

 

……でも、時にその優しさが酒泉君自身を追い詰めてしまう。今のボロボロな彼を見てるとそう思わずにはいられない

 

だから、酒泉君が酒泉君を助けられないのなら私が酒泉君を助けてあげよう

 

今まで助けてもらったお礼として、私なりのやり方で

 

 

『フウカさんの……てりょう……り……ガクッ』

 

『あ、風紀委員に通報すんの忘れてた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらー、全員さっさとお縄につけー」

 

「くっ……またしても阻みますか、折川酒泉……!」

 

 

 

なんて時期もあったのになー……なんて黄昏ながら連行される美食研究会を眺める

 

何度も修羅場に揉まれた酒泉君の成長スピードは尋常ではなく、今では一人で美食研究会と渡り合えるほどに強くなっている

 

その実力はゲヘナ中に広まり、名を聞いただけで恐れる生徒もいる程に有名になっていた

 

別に私が育てた訳じゃないけど何故か誇らしく思う……のは流石に厚かましいだろうか

 

 

 

〝ぐぅ~〟

 

 

「……ん?」

 

 

あの日の事を思い起こしていると、丁度タイミングよく腹の虫の音が聞こえた、飼い主もあの時と同じで酒泉君

 

 

「……お腹空いてるの?」

 

「いやー……実は急に応援要請が来たもんで……飯食い損ねたんすよね」

 

 

照れ臭そうな笑顔まであの時と一緒だ、そしてその身体の奥に宿っている優しさもきっと変わっていないのだろう

 

 

「……ふふっ」

「あっ!?今俺の腹の音笑いましたね!?」

 

「別にそんなじゃないわよ……それよりも酒泉君、今から食堂来る?何か作ってあげるけど」

 

「えっ?でももう夕方ですよ?」

 

「いいのよ、今日も助けてもらっちゃったし……それに────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が好きで作ってるだけだから!」

 

 

 

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