「はーいそこーハロウィンだからってあんま暴れんなよーしっかり前見て歩けー」
「うっせークソボケ!」
「くたばれクソボケ!」
「朝から頑張ってんなクソボケ!」
「よーしお前ら全員顔覚えたからなーそれと最後の人はありがとなー」
ゾンビの仮装をした不良達がちょっと危ないはしゃぎかたをしてたので注意すると全員からクソボケコールが飛んできた、解せぬ
「あっ!酒っちおはよー!」
「酒っち?……まあ、おはようございまーす」
「おはよー……こんな日にも巡回?大変だねー」
「おはようございます……まあ、一応夕方のピークさえ越えたら仕事も終わるっぽいんで」
周りの生徒達に声をかけていると偶々会った帰宅部……改めキラキラ部の二人、夜桜さんと旗見さんが挨拶してきた
しかし二人ともいつもの制服姿ではなく夜桜さんは狼の耳と手を装着したファッション、旗見さんはミニスカポリスらしきへそ出しファッションをしていた
そう、今日はハロウィン当日。普段から荒れているゲヘナの生徒達が更に荒れやすい日でもある
「そういえば酒泉はコスプレしてないんだね、他の風紀委員達はコスプレしてたけど……」
「いやー……なんつーかしっくり来るのが見つからなくて……結局ハロウィンの準備もできずに当日を迎えちゃいまして」
「へー?ハロウィンの準備ができなかったってことは……つまり酒っちは何も持ってきてないんだー?」
夜桜さんはニヤニヤ笑いながら両手の爪を立てて近づいてきた、恐らく狼の真似でもしているのだろう
そのまま俺に飛び掛かる……フリをしてから夜桜さんは大きく口を開いた
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子かイタズラか……って言っても選択肢は一つしかないけどね?」
更には旗見さんまで夜桜さんに乗っかったのか、人差し指で玩具の手錠をぐるんぐるんと回しながら近寄ってきた
……成る程?確かに俺はハロウィンの準備をしていないと言った……だが残念!お菓子を持ってきていない訳ではない!
「ふっふっふ……残念でしたね!俺は常に鞄の中に甘味を入れてるんですよ!ほら!ミルクキャンディ────あれ?ない?」
近くに置いてある鞄の中を漁る……が、何も入っていない
ポケットも漁ってみるがスマホと財布だけ……何故だ?俺は確かにミルクキャンディを持ってきて……あ、そういえば休憩中に全部食ってたわ
「お菓子がないなら……」
「イタズラしか……ね?」
「あの……」
「なにー?」
「栄養バーじゃ……駄目、ですかね……?」
「かかれー!」
「やめっ…………うひいいいい!?くすぐっ……あははははははっ!?はひぃ!?」
「空崎さん!巡回完了しました!異常はありませんでした!」
「そう、こっちも終わっt……どうしてそんなに制服が乱れてるの?」
「狼と警察に襲われてました」
「?」
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「今日は思ってたより荒れてませんね」
「そうね……でも油断しちゃ駄目、本番は夕方からだから」
巡回終了、休憩中
空崎さんは要注意リストと書かれた紙を見ながら銃のメンテナンスを進めている
それにしても……まあ、似合ってるなぁ……
「……?どうしたの?」
「……いえ、なんでも」
流石にジロジロ見すぎたのか、空崎さんが首を傾げながら俺に尋ねてくる……吸血鬼のような格好で
黒いマントに赤いコンタクト、角は赤色の装飾で覆われている
……正直意外だった、確かに〝浮かれすぎない程度には楽しんでいい〟と言ってコスプレの許可を出したのは空崎さんだけど、まさか本人まで着てくるなんて
「……似合ってなかった?」
黙り込んだせいで変に誤解されたのか、空崎さんが落ち込みながら肩を落としている
当然そんなことはない、むしろ似合いすぎてるくらいだ
「ち、違います!見惚れてただけです!ただちょっと驚いてただけで……」
「……そっか、見惚れちゃったんだ」
褒められて嬉しかったのか空崎さんはふふっと笑いながら羽をパタパタさせた、きゃわわ
……ん?よく見たら羽にも装飾が施されているな?若干端の部分が赤黒く塗られていた
「結構気合い入れてコスプレしてきたんですね?」
「……アコが……」
「……天雨さんが?」
「アコが〝酒泉に見せたら喜びますよ〟って」
あの人……さては自分が空崎さんのコスプレを見たいからって俺を出しにしやがったな?ナイスだよくやった
眼福眼福、まさか推しのコスプレ姿を生で見られるなんて……前世の俺に教えたら血涙流しながら羨むだろうな
しかし俺なんかの為に見せにきてくれるなんて……空崎さんは部下思いだなぁ
「だから仕方なく受け入れたら目とか歯とか細かいところまでコスプレさせられちゃって……」
「……歯?」
目はカラコンしてるから分かるけど歯にも何かしてるのか?
そんな風に疑問に思っているとそれに気づいたのか、空崎さんはあーんと口を小さく開けて歯を見せてきた
「ほら、ここ」
空崎さんの指差した先、前歯の両隣辺りが吸血鬼らしく鋭く尖っていた
成る程……ここまで拘るとは本格的なコスプレだな、けどそんな事よりも────
「……っ」
「……酒泉?」
なんか……その……尖ってる歯の部分も相まって口を開けてる空崎さんがやけに妖艶に感じる
ずっと直視してると妙な罪悪感を覚え、咄嗟に視線を逸らしてしまう……と、空崎さんがまた落ち込んでしまう
「……やっぱり似合ってないんだ」
「い、いや!そんな事はないです!ないです……けど……」
「……何?」
「…………その、思ってたより吸血鬼っぽかったのでちょっと怖くなっちゃって」
それっぽい理由をでっち上げて咄嗟に誤魔化す、馬鹿正直に答えたら空崎さんに軽蔑されるかもしれないし
天雨さん、もっと控えめなコスプレを選んでもよかったと思いますよ……貴女が空崎さんを魅力的にしすぎたせいで変な事考えちゃったじゃないですか
「こんな事で……酒泉って意外と怖がり?」
「俺が怖がりなんじゃなくて天雨さんが完璧に仕上げすぎただけです!それと空崎さんの雰囲気とかもなんとなく吸血鬼っぽいですし……」
「吸血鬼っぽいって……どんな風に?」
「え?えっと……」
我ながら苦しい言い訳だ、どうする?今からでも〝空崎さんの事を少しだけいやらしい目で見てました〟って正直に言うか?普通にアウトだろ
頭を必死に回転させながらどうするか考えるも全く良い案が思い浮かばない、そもそもそんな目で空崎さんを見たことなんて一度も……一度もない?本当か?いや抱きつかれた時にドキドキした事はあったかもしれないけど邪な気持ちはなかったよな?
「酒泉の言う〝吸血鬼っぽい〟って例えば────」
そもそも推しに対してそういう感情を向けると罪悪感の方が勝るからなるべくそういうのは考えないようにしてたし、なんならこっちの世界に来てからはそんな目で見るのは失礼だとより強く思うようになってたし
いやでも男として生まれたからにはどうしてもそういう考えが横切ってしまうのは仕方ないのだろうけど、でもそれを言い訳にお世話になってる上司にそんな感情を持つのは果たして正しいことなのか
「────こういうこと?」
空崎さんは純粋に甘えたいじゃれ合いたいって思ってるだけであって俺がそこに邪な感情を持ち込んでしまえばそれは俺を信じてくれている空崎さんを裏切るも同然────はぇ?
「んっ……」
長々と独り言を心の中で呟き続けてると突如首元にカプッと何かに噛まれる
視線を横にずらせばそこには空崎さんの顔が……恐らく彼女の歯が俺の首元に立てられたのだろう
ちう、と小さく音がなる……え?吸った?今この人俺の血を吸おうとした?
「……なんちゃって」
あまりの急展開に脳がフリーズしていると、空崎さんは俺の首元から離れて恥ずかしそうに笑った
「……あっ!?な、なんだ悪戯かー!それならそうと早く言ってくださいよもー!」
「ごめんなさい……ちょっと驚かしてみたくて」
びっくりした、多分人生で一番緊張した
今のは空崎さんなりの悪戯だったのだろう、そしてそれを俺にしたという事は空崎さんの中で俺はそれなりに気安く接する事のできる存在だという事でもある
正直それは嬉しい、嬉しい……けど……流石に今の行為は気安すぎないだろうか?異性にそんなことをすると勘違いする人が出てきちゃいますよ?
「さて、休憩時間も終わりだし……そろそろまた巡回に戻ろっか」
「は、はい……」
なんとなく気まずくて空崎さんの一歩後ろを歩く、多分まだ顔は合わせられない
途中コンビニでも寄ってこの熱くて赤い顔が冷えるまで水で洗ってこようか、あとついでにバクバク煩いこの心臓もなんとかしてほしい
(やりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎた)