〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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投稿し直しただけなので特に変更した点はございません、読み直さなくても全然問題ありません


「楽園の存在証明?」

 

 

 

「ああ……酒泉、君ならどうする?」

 

「さあ……俺って普通レベルの知能しかないんでそんな難しいこと聞かれても……」

 

「まあまあ、君なりの答えで構わないから是非聞かせてくれ」

 

 

とある和食店の個室にて

 

肩の上で羽をパタつかせる鳥の頭を撫でながらティーパーティーの少女────百合園セイアが尋ねる

 

 

「ええー……急にそんなこと聞かれても……まあ、一番確実なのは自分で楽園を作るとかじゃないですか?」

 

「しかしその方法は楽園の存在を事前に認知していなければ不可能だろう?楽園を知らぬ者が楽園を意図して作れる筈がない」

 

「確かに……じゃあ自分で楽園を見つけるとか?」

 

「見つけた土地が〝楽園〟だとどう証明する?」

 

「……ギブアップで」

 

「心配するな、最初から正解なんてない」

 

 

 

自分がからかわれていると思ったのか、セイアの目の前の少年────折川酒泉はジト目でセイアを睨み続けるも、セイアは一言〝すまない〟と笑いながら軽く済ました

 

 

「私はこれを他者の心に置き換えても同じ事だと思っていてね、どこまで歩こうと永遠に楽園の存在を証明できないように、どれほど相手の心に歩み寄っても触れたそれが本心だとは証明できないだろう?」

 

「無理っすね」

 

「結局のところ、私達はその問題を〝相手を信じる〟などという不安定で脆い祈りを捧げる事でしか解決できない」

 

「随分綱渡りですね……まあ、俺もそれぐらいしか方法はないと思いますけど」

 

「その通り、これはかなり危うい方法だ。実際に私がミカに裏切られたように、ミカがアリウスに騙されたように、アリウスがベアトリーチェに利用されていたように、たった一つの悪意や疑念がどこかに挟まるだけで簡単に崩れ去ってしまう危険なギャンブルだ」

 

 

セイアの話を聞く酒泉の脳裏にはかつてのアリウスとの戦いの記憶が想起されているのか、複雑そうに眉間に皺を寄せながら頷いた

 

しかし何故今更エデン条約の話を、そんな思いと共に酒泉は首を傾げる

 

 

「……君はエデン条約についてどう思う?」

 

「えっと……どう、というのは?」

 

「この条約に意味があるのか、この条約はこれから先も長く続いていくのか……それを聞きたい」

 

「…………いや~無理でしょ」

 

 

先程までの真剣な空気から一転、酒泉は全力で首を横に降りながら手で仰ぐ

 

 

「俺達子供なんて感情の制御ができない弱い生き物ですからね……その内どっかのタイミングで〝トリニティ嫌い!〟〝ゲヘナ嫌い!〟みたいな人達が現れてまた台無しになるんじゃないですか?」

 

「おや、君らしくない後ろ向きな答えだな」

 

「現にうちの馬鹿タヌキとおたくのゴリラがそんな感じだったでしょ?」

 

 

頭の片隅に自身の通う学園のトップが〝なんだとぉ!?〟と叫ぶ姿を思い浮かべながら平然と答える酒泉

 

一方でセイアもそういえばそうだったとトップの座を下ろされた友人の姿を思い浮かべた

 

 

「しかし長い年月を掛けて条約を守っていく内に心の底から和解できた!……という少年漫画的な友情大勝利パターンもあるかもしれないだろう?」

 

「いやぁ……だって特に理由もないのに何となく相手の学園が嫌いになるレベルまで染み付いた嫌悪感でしょ?何となく角が生えてるから嫌いだーとか、何となく羽が生えてるから嫌いだーとか、特に大した理由もなく嫌われちゃ改善のしようなんてありませんよ」

 

「……理由のない悪意というのは中々に厄介だな」

 

「勿論すぐに条約を破られるとは思ってませんよ?少なくとも先生が先生としてキヴォトスに身を置いてる間は大丈夫だと思いますけど……でも、そういう纏め役を買ってくれる大人がいなくなったら子供達は好き勝手暴れまわると思うんですよね」

 

ゲヘナでそういう生徒の相手をする機会が多いからか、酒泉にとっての子供に対する価値観は若干厳しめに寄っている

勿論全ての生徒が自分勝手な子供だとは思っていないが、それでも良くも悪くも自分の目的の為なら他者の事など考えない生徒が多数存在するのも事実

 

 

「ほら、先生が来る前は子供同士で争いが起きてもそれを止めてくれる大人なんてあんまいなかったでしょう?主に正義実現委員会や風紀委員会みたいな組織が制圧にあたってましたけど、子供が子供を叱ったところであまり効果はありませんでしたし……」

 

「つまり明確に生徒より〝上〟の立場の人間がいれば多少は落ち着くと?」

 

「まあ、先生は上だの下だの考えてないでしょうけど……少なくとも俺はそう思ってます。現に先生がキヴォトスに来てくれたお陰で解決できた事件も多数ありますし」

 

「外部の人間の力を借りなければエデン条約の締結も不可能だったと考えると少々複雑な気分になるがな……」

 

「その先生に叱られてすら全く反省する気配のない連中もいますけどね、便利屋も美食研も温泉狂も相変わらず暴れてますし……まあ、そんな感じで子供って俺も含めて自分の価値観を曲げたくない意地っ張りが多いんでエデン条約ももしかしたらどっかのタイミングで破綻するんじゃないですか?」

 

 

何十年何百年先かは分からないですけど、と言い残してから背を後ろに倒す酒泉

 

面倒そうに天井を見上げている辺りつい最近彼女達の相手をする機会があったのだろう

 

 

「そもそも遊び感覚でドンパチが発生するキヴォトスと〝とりま仲良くしようぜ!〟ってエデン条約の相性が絶望的に噛み合ってない気もしますけどね」

 

「……そうかい?別にそれは関係ない気がするが……」

 

「いやいやいや、だって引き金の軽いキヴォトスで友好条約なんて言われても恐ろしいだけじゃ────あー……すんません何でもないです、今の忘れてください」

 

「……?」

 

 

即座に意見を取り下げる酒泉を見て困惑するセイア

 

それもその筈、そもそも酒泉にとっての〝引き金を引く事への価値観〟はキヴォトスの生徒のそれとは全く異なるのだから

 

未だに前世の価値観が身体に染み付いている酒泉にとってエデン条約とは互いに武器を片手に持ちながらもう片方の手で握手しているようなもの

 

互いに銃を持ったまま敵と握手するなど前世では考えられない、しかしキヴォトスではそれを平然と行う事ができる

 

何故なら仮に裏切られて撃たれたとしても〝痛い〟だけで済むのだから

 

 

「もしやキヴォトスの治安が悪いのって生徒の身体が頑丈すぎて誰も銃に対する危機感が無いからなんじゃ……だから全員平気でクーデターだの争い事だの起こして……」

 

 

流石は自販機で弾薬補充ができる街、キヴォトス

 

改めてその異常さを思い知った酒泉は自身の銃を持ち上げてその重さを確かめた

 

 

「……やっぱエデン条約無理ですって、相手が嫌いって理由だけで平気な顔で銃を撃ってくる世界で結び続けるには無理がありますって」

 

「そうか……因みにだが、君は調印式が始まる前からエデン条約には否定的だったのかい?」

 

「調印式より前?……いや、その時は普通に賛成派でしたけど……」

 

 

折川酒泉という少年は別に平和が嫌いな訳ではない

 

誰も傷つかない世界が作れるならそれで良し、争い事を避けられるのならそれに越した事はない

 

そんな彼が嘗ては心の底から望んでいたエデン条約の長続きを自ら否定してしまっている

 

それはキヴォトスをその足で駆け回り、様々な人達と傷つけ合い、話し合い、否定し合い、分かり合ってきたからか────

 

(……これが大人に近づくって事なのか?先生……)

 

 

理想を語っていた口は簡単には開かなくなり、頭の中にはいつの間にか現実的な考えが詰め込まれていく

 

大人に成り損ね、再び子供の道を歩まされた少年の中途半端に止まっていた時間はまた進み出す

 

 

「お待たせしましたー!こちら海老天、イカ天、豚肉天でーす!」

 

「待ってましたぁ!!!」

 

 

 

が、それはそれとして大人だろうと子供だろうと美味しいものを食べると幸せな気分になるのは変わらないのだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「そういえば百合園さん、なんで急にエデン条約の話なんて始めたんですか?」

 

「……酒泉、君はエデン条約に関する噂を聞いた事があるかい?」

 

「噂?」

 

「〝エデン条約は雷帝の為に連邦生徒会長が用意した奇策だ〟……なんて噂だ、あまり有名ではないが……」

 

「今初めて知りましたね……あ、でも雷帝って言葉は聞いた事がある気が……」

 

「もしその噂が正しくて、エデン条約がその為だけに結ばれた仮初めの和平なのだとしたら……と考えたら少々不安になってしまってね、雷帝絡みの事件が解決したらエデン条約と共に私達の関係もあっさりと切られてしまうのじゃないかと思って……」

 

「いやいやいや、そもそもそんな事件起きてすらいませんよ?未来視が残ってる訳でもないのに……」

 

「……」

 

「……百合園さん?」

 

「…………すまない、全て嘘だ」

 

「……はい?」

 

「本当は話の種がなかったから適当に振ってみただけだ」

 

「ええ~……そのオチ、あり?」

 

「ありだ……さて、今日は付き合ってくれてありがとう、感謝するよ」

 

「いえ、前に慰労会の約束してましたしね。此方こそ誘ってくれてありがとうございました……あ、トリニティまで送った方がいいですか?」

 

「いや、ここからそう遠くはないし……その気持ちだけで十分だ」

 

「そすか……んじゃ、暇があればまたどっかで」

 

「ああ、また……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(………)

 

(……次回のエデン条約絡みの会議に備えて資料を準備していただけだというのに……何故、あんな噂話を思い出してしまったのか)

 

(それに、何故慰労会という場での雑談であんな重い話を選んでしまったのか……いや、〝この話をするべきだ〟と思ってしまったのか……私の勘、か?)

 

(……全く、未来視といい勘といい良い事ばかりじゃないな)

 

(……)

 

(……雷帝、か)

 

(………頼むから、何も起きてくれるなよ?)

 

 

 

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(雷帝……雷帝……どっかで……あ、そういえば昔空崎さんに集めるように言われてた資料にちょくちょくそんな文字があった気が……)

 

(確か……シェ……シェ……シェムハ?……違うな……シェなんとかって名前の……電車?列車?かなんかの構造の資料だっけ?特に興味無かったし中身はあんまガッツリ読んではないけど)

 

(……空崎さんは雷帝の何を調べてたんだろう、後から来たあの馬鹿タヌキもなんか珍しく真面目に話を聞いてたし)

 

(なんだろう……もしかしてゲヘナに新しい路線でも繋がるとか?儲けとか金絡みの話になるからゲヘナクソバカアホマヌケタヌキも真面目になったとか……?)

 

(……まっ、したっぱの考える事じゃねーか)

 

 

 

 

 

 

 

 

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